ジーンノイズから、ジーンノイズのコアが生まれることは無い。
元となる液体を出す事はあるが、それはジーンノイズのコアではない。所謂精子の役割を果たすその液体は、卵子と結合してコアを生み出す。その為に、ジーンノイズには
「んぶ、んん……」
だが、それも『通常の生物なら』としての話だ。ジーンノイズが、幾ら人間の精子と卵子を元にして作られた存在とはいえ、その性質そのものとして有性生殖ではなく、無性生殖の生物である。
だが、ノイズの中でも異質な存在となっている以上、ただの無性生殖では無いことも確定である。
まず、劣性遺伝も優性遺伝も存在しない。産まれたジーンノイズ達は、最初は皆0なのだ。そこから成長の違いで、まるで人間のように可能性が枝分かれしていく。そして、砕いたジーンノイズのコアや有機物では無いものを取り込んでいく性質を利用して、今まで成長をさせていた。
「んぶ、じゅる……」
音女が、ジーンノイズに犯されていた。否、自分を犯すように命令させていた。いつもの苗床達と同じように、無茶苦茶に。
「じゅるる、ずぞ……」
触手達が出す液体を、3穴全てを使って注がせていく音女。しかし、己の体力のなさをここで痛感し始める。
「……お姉様の力を受け継いだジーンノイズの量産、それが出来てしまったことにより……本格的に量産し始めましたね。」
「あぁ……異常なノイズと、異常なノイズの力を受け継いださらに異常なノイズもどきとの交配、ってお姉様も言ってたけど……実際、あれなんで錬金術防げてたんだ?」
「さぁ……お姉様にも、今はわからないって言ってたけど……ただ、所謂『アダムより強いということは無いけど、アダムキラー』って言ってたのが妙に気になるというか……」
クリスと調の話を聞きながら、音女は自分の体の異常性を改めて認知していた。そして、頭で考えていることをひたすらに打ち消したり統合したりと忙しくしながら、犯されていた。
「……あと、一応生物型のジーンノイズも持ってきたけれど……」
「一体こいつをどうするつもりなんだろうな……『試したいことがある』とか言ってたけど……」
クリスと調は、犯されている音女を見ながら心配そうにつぶやく。確かに、生物型のジーンノイズは従来のジーンノイズよりも強いが、量産が未だ難しい代物である。
「……そういや、名前つけられてたよなこいつ。」
「お姉様が直々につけてましたよ、ゲネって名前です。」
「……なんだその名前?」
「ジーンノイズのジーンを、英語で書いてGENEと書いて……ローマ字読み、らしいです。」
少し呆れながらも、クリスは再び音女に視線を向ける。音女は既に幾度かの出産を迎えており、それを即座に孵化させてアダムのところへと向かわせていた。
「……本当に勝てるのか?アダムは……本当に強いんだが。」
「人間じゃない、かと言って動物でもない……まともな生物じゃないなら、ジーンノイズなら吸収できると言っていましたが……」
「あくまでも、非有機物がジーンノイズの捕食対象……オートスコアラーであるティキなら分かるけど……」
「どう見てもアダムは人間、ですもんね……」
音女に対して、半信半疑になっている2人。しかし、あくまでも音女に対しての信頼感やその他諸々の感情は一切揺らいでいない。
あくまでも揺らいでいるのは、
「……まぁ、ダメで元々。せめて私達でお姉様を守らないといけません。」
「あぁ……あたし達の1番は、あの人しかいねぇんだから……」
その1番は、作られたものという事は2人は認識している。だが、それが頭でわかっていても依存は薄まらない。
言うならば、服用した後に『麻薬は吸ってはいけない』と理解していても、その中毒症状を抑えられないようなものである。時すでに遅し、である。
「……苗床とか、どうします?」
「また一から集めりゃあいいだろ。あたし達にとっては、お姉様以外の女は全員、苗床になっても問題ないやつばっかりなんだしよ。」
「そうですね、少しだけ惜しい気もしますけど……」
調は、クリスの言葉の裏に刺があることは重々承知の上だった。なにせ、
「……とりあえず、アダムの様子を見ておきましょう。」
「だな。」
遠隔操作で、iPa〇から監視カメラの映像を覗き込む。気づいていないのか、はたまた無視しているだけなのかはわからないが壊されないままアダムはジーンノイズと戦っていた。
「くっ……!?」
どれだけ攻撃しようとも、ジーンノイズには傷一つつかない。だが、しばらくすればジーンノイズ自体は勝手に自壊し始めていた。
「押し切るつもりか、物量で!」
どれだけ錬金術を使おうとも、片っ端から無効化され始める。アダムはそんな現状にイライラを隠せないでいた。
「しかし、なってないな兵器として!成り立たないんだよ、勝手に消えていくのはね!!」
その言葉も、ただの強がりではない。事実、数を減らさないように常時送られ続けているが、その数が増えることは決してなかった。
当然である、一定時間経てば勝手に灰となり潰れていくのだから。
「はぁ、はぁ……!」
アダムの体力が持つか、この物量が勝るか。まさに耐久戦である。アダムはそれが分かっているからこそ、冷静さを失わないでいれたのだ。
「だ、だが……」
アダムは一つだけ、懸念していることがあった。襲ってくるジーンノイズは、時間が経てば勝手に灰となり消えていくが、
「くっ……!」
しかし、アダムは負けたくなかった。完全であるが故に、成長性が望めないと自分で理解している彼だからこそ、不完全で未知数という不安定の塊である今の音女に、負けたくなかったのだ。
「くそ、くそっ!!」
アダムは、負けたくなかった。未だ計画の1部も達成出来ていないにも関わらず、負けることだけは彼は許せなかった。
「負けてたまるか……あの女に!!」
「性格が崩壊してきてますね、そろそろ勝てそうです。」
「けど、ジーンノイズがあれを負かせられるのか?」
「簡単です……いえ、らしいです。」
「らしい?」
調の言葉に首を傾げるクリス。そして、調は困ったように音女に視線を向ける。未だに彼女は、ジーンノイズに犯されていた。
「……お姉様が言ってたんです、自分から生まれるジーンノイズは、マイナスの塊すぎるから、存在は保てなくなるけれど、その代わりプラスの存在に対してと、マイナスの存在に対しては無類の強さを発揮するって。」
「その存在って?」
「……お姉様曰く、何かの呪いを受けていない存在と呪いを受けた存在だとか何とか。」
「……ていうか、それって全部の生物ってことじゃないのか?」
「……いいえ、ゼロの位置の存在もいるはずだ、とお姉様は言ってました。」
音女を見ながら、調は呟く。クリスは、話の難しさよりもなぜ、音女がそんな思考に陥ったのか気になっていた。
「……あれは、本当にお姉様なのか?」
「お姉様です。誰がなんと言おうとも……あれは、お姉様です。」
『それだけは絶対に変わらないことだ』と言わんばかりに調は言い切る。自分も、信じていないという訳では無いのでクリスもまた音女を信じる事にした。
「……それがわからないなんて、愛が足りないんじゃないんですか?」
「んなこと……」
「もう1回苗床にでも……あっ。」
「っ……」
調が言った一言により、クリスは頭を抱えて蹲っていた。そして、なにかに恐怖するかのように震えていた。
クリスの中にある記憶により、ジーンノイズに犯されていた記憶がトラウマとして掘り出されてしまったようである。
「……はぁ、なんて私と話してる時は普通にできてるのに、ほかの話題とか他の人と話す時は、そうやってビビってしまうんですか。」
「だ、だって……他人怖い……」
「私は?」
「…?普通に知り合いだし、年下だし……」
「おっぱい大きいだけで、本当に年が上かどうかはわかんないですけどね。」
ため息混じりに少しだけ腹を立てながら、調はクリスの頭を掴んで握りしめる。その細腕からは全くと言っていいほど力は出ないが、掴まれているというだけで、クリスの恐怖心を煽るようだった。
「やめ、やめ……!」
「……何、してるの?」
「あ、お姉様!!」
解放された音女が、調達に近づいてきていた。その腹は、既にコアも抜けきっているのかすっきりとしていた。
「もう、作らなくていいんですか?」
「……疲れた。体力的にまだまだ行けそうだけど、精神的に疲れてきた。」
ぐったりした様子で、座り込む音女。どうやら、いつものオドオドした態度が出なくなるほどには疲れているようだった。
「けど、アダムを倒すには数が足りないんじゃあ……」
「……足りてるよ。」
断言する音女。一体、その自身はどこから来るのやらと調は心配になったが……しかし、音女の言うことを疑うようなことはしないと決めたのであった。
「はぁ、はぁ!!」
アダムは、ひたすらにジーンノイズの攻撃を避けていた。ジーンノイズの攻撃が、自分に対して当たれば掠るだけでも危険なことが分かっていたからだ。
「やられることなんて有り得ない……こんなところで!!」
すべての攻撃は無効化される。その理屈をアダムは理解していた。理解しているが故に、危険だと判断し攻撃を避け続けていた。
ジーンノイズとなった音女から産まれたジーンノイズ。その力は、『全てのものを飲み込む力』である。しかし、時間が経てば自壊してしまう上に、その力も継承出来ずにコアごと灰になってしまうので、ほぼ無駄なのだが。
しかし、その力は有機物であろうが神代の力だろうが、神そのものであろうがなんだって飲み込む。マイナスの塊なのだ。
マイナスとマイナスを足してもマイナスだし、プラスに対しては乗算の働きをするのか、食らってもマイナスになるのだ。まるでブラックホールの様である。
「『負』の力…バラルの呪詛によるそれが、『マイナスの力』としてジーンノイズに与えられている!」
負の力、呪いというのがその曖昧な力として発現してしまっていた。だが、そのおかげか何を吸収してもマイナスになってしまうのでいくらでも吸収し続けること、そしてマイナスの塊は存在証明が出来なくなるために、そのまま保てなくなり自壊してしまうこと……これらも同時に発現していた。
「だからこそ、勝てる…!耐えることさえできれば……!」
殺られる前に耐えきり、音女のところに向かう。それがアダムの作戦だった。
しかし、例えアダムであっても集中力は長続きすることは無い。
「なっ━━━」
そう、気がついただけである。タイミングを見計らえば、アダムの頭上に辿り着くと同時に、ジーンノイズがアダムの頭と接触することが出来るのだ。
ただ、音女はそう支持しただけなのだ。
『チェックメイト』
ジーンノイズ特有の数と質のゴリ押し。それをアダムにもしたのだ。ただ、錬金術も体術も銃火器も戦略兵器も剣術もシンフォギアもノイズもまとめて吸収できる、音女から生まれたジーンノイズが特殊すぎただけなのであった。
補足
・音女から産まれたジーンノイズ
ジーンノイズとなった音女から産まれたジーンノイズは、音女という人間の性質を色濃く受け継いでいる。
そのひとつが、バラルの呪詛による呪いから派生したマイナスのエネルギー。音女ジーンノイズは、そのマイナスエネルギーを他で埋めていこうとするので、文字通りどんな存在であっても食らうのだ。
但し、そのエネルギーに体が耐えられなくなり最後には自壊してしまうが。