平行世界から
ある日、音女は外へと出ていた。
なんてことは無い、ふと外に出たくなったのとコンビニで軽く食事を取ろうと思った迄である。
ジーンノイズとなった体に、本来ならば栄養はいらない。だが、趣味として楽しまないと心が荒んでしまうかもしれないという気がしていたからだ。
心の余裕は保っておきたい、と考えているからだ。
「……何これ。」
だが、そんなつもりで外に出ていたのだが、見慣れないものを音女は発見した。
大きな貝殻のような物体が、宙に浮かんでいたのだ。無論、この道が頻繁に通る道である以上、ここを見逃すほど油断をしているつもりは音女にはなかった。
「……光ってるし、浮いてるし……どう考えても聖遺物。」
触れてはいないものの、それがただの人工物でないことは一目瞭然である。しかし、どんな力を持つ聖遺物なのかハッキリしていないのだ。
「……うーん。」
音女は考える。この聖遺物が音女を殺すため、または無力化するためのものならばもう既に使われてもいい頃だろう。
それがないという事は、これは音女を始末するものが向けたものでは無いということである。
「だとして……なら他に何だって話になるよね。」
自然発生、それとも何かと共鳴して本日ここに来日した、実はあったけど目立ってなかっただけ。
色々な理由を思いつくが、どれも推測の域を出ない。確定的な事実があれば、おそらくそれが真実だろうという所までは、考えられている音女だった。
「………ま、しばらく放置して本当に問題が起こりそうなら調ちゃんとクリスちゃんの2人をさし向ければいっか。」
そう言って、音女は身を翻して戻っていく。一応、監視用のドローンを指し向ければいつでも見ることが出来るのだから。
だが、そうやって身を翻した直後に異変は起こった。聖遺物だと思われるものが、起動し始めたのだ。
「っ!?」
流石の音女も、このタイミングでの発動は予想外でつい驚いてしまっていた。
「やばっ……」
何が起こるかわかったものではなく、音女はその場から勢いよく退散していく。
そして、近くの大きなもの陰に隠れて様子を伺い始める。
「何、なんなのほんと……」
そして、しばらくして光が恐ろしく強くなったかと思えば、すぐさまその光は収まり、その後には一人の女性だけが立っていた。
但し、つけ加えておくならばその女性は服装が普通の服ではなく、シンフォギアをまとっているというのが共通しているが
「あれ……なんでこんな所にギャラルホルンがあるんだ?いつもなら本部の地下にあるはずなんだけどな……」
「……あの顔、それにシンフォギアの見た目……どこかで…」
「もしかして、別の平行世界に来ちまったとか!?うわー、そりゃあ大変なことになっちまったなぁ……」
「ブラッドオレンジの様な朱色の髪……でかい胸、高身長で若干の男勝り……それでいてシンフォギア装者………」
現れた女性の見た目と言動から、記憶を探る音女。どこかで見た記憶はあったのだ。
しかし、すぐに思い出さないところを考えると、あまり重要度が高くない人物だったのがしれない。
「……思い出した、天羽奏…けど彼女は数年前に無くなってるはず……?」
そう、天羽奏。元々風鳴翼とデュエットを組んで、ツヴァイウィングというユニットでアイドル活動をしていたが、とあるノイズの襲撃事件で命を落としていた。
だが、そんな命を落としたはずの彼女が何故か目の前にいるのだ。本来ならば、死者蘇生ということを考えるかもしれないが、答えは別にあることを既に目の前の女性は語ってくれていた。
「平行世界……それに、ギャラルホルン。」
ギャラルホルンというのは、恐らくあの聖遺物の名前だろう。そして、その効果は平行世界の移動。
つまり、あのギャラルホルンという聖遺物を見つけた平行世界の特機部二の本部に、さらに別の平行世界の天羽奏が向かっていた、ということになる。
「……なら、捕まえるしかないかな。」
彼女もまた、装者である。マリアよりも、響よりも前のガングニールの装者が天羽奏である。
そして、平行世界からの住人ということは、今の彼女も持っている可能性が高い。というか確定である。
「けどどうやって捕まえよう…… 」
天羽奏は、装者であってもその身にはlinkerの存在が必要不可欠のレベルである。言ってみれば、調や切歌、そしてマリアのように普通に変身することが出来ないのだ。
だが、それはあくまでこの世界の天羽奏の話である。目の前にいる天羽奏がlinkerが必要不可欠とは限らない。
「しゃあない、戻るとするか……あれ?戻れない!?なんで!?」
「……戻れ、ない?」
「うーん……しゃあね、この世界の翼達がいたら探してみるとしようかな。
とりあえず、財布は持ってきてるし最悪宿暮らしだなー」
そう言って、ギアを解除してからどこかへと歩き始める奏。彼女がいなくなるのを確認してから、音女は再びギャラルホルンへと近づいていく。
「平行世界……行ってみる価値はある、かも?けど行くための条件がわからない……」
わざわざギアを纏っていることに、意味はあるのだろうか?本部に出る、というのが分かっていながら来ているのにギアをまとう必要は恐らくないだろう。
その平行世界に、特機部二がいてシンフォギア装者が全く誰もいない……ということも、なさそうである。
つまり、シンフォギアを纏っているのは条件の1つだろう。しかし、それだけではないようでもある。
「……調ちゃん達とも、話してみよう。3人いればなんとやら……」
そう言って、音女も一旦アジトへと向かいながら今後のことについて考えていくのであった。
ギャラルホルンが、奏の帰還を拒絶したのには理由があった。単純に、起動していなかったと言うだけである。
しかし、それだけでは理由が足りない。そう、もう1つ主な理由があったのだ。それは、音女の思考……願いが理由である。
音女は、ある時ふと考えてしまったのだ。死んでしまった装者達などが、自分のものになればいい……と。
正確には、響達のことを知るために渡された資料で読んだ時に、何かしらの過程で死んでしまった少女達のことを、自分のものにしたいと考えたことがあった。
それが、この世界にいる全ての装者を自分のものとした事で、無意識下で肥大化していっていたのだ。それが、呼び出された装者達を返さないという役割で、ギャラルホルンが反応した……というわけである。
故に、音女がそう願ったである少女達が全員来るまでは……永遠に帰らされることは無いだろう。
この世界は、少女達にとっての牢獄となっているのだ。
「……にしても、やけに人が少ないなー…まさか、人類がノイズに絶滅させられたって世界じゃないだろうなー……シャレになんないぞー、それ。」
そんなこととはつゆ知らず、奏は町中を闊歩していく。自分の見知った町と同じなはずなのに、今は人がいないような時間帯でもないはずなのに、全く人の気配を感じていないのだ。
「…コンビニには、ちゃんと人はいるもんな。店員1人だけだけど。」
じっくりと観察していきながら、奏は徐々に真剣な顔になっていく。幾らなんでも、この静けさは妙である。
本気で街が潰れてしまったのではないか?とさえ思えるこの人気のなさは、彼女の思考に幾つかの最悪を思い浮かばせる。
「ノイズに装者が負けた世界、それとも他になにか理由があってこの少なさ……ほかの街が、普通にしているのならこの街がおかしいってことになる。
人気のなさと、街の発展の仕方が異様なズレ方をしてるみたいだ……」
奏は、警戒心を高めていく。ひとまず、彼女はとある目的地を定めてそこに歩き始めていく。
彼女がもっとも安心できる場所であり、恐らく情報も集めやすいであろう場所に……リディアンへと向かい始める。
「一人しかいないかもしんないけど……よし、やってやるか。」
その頃、再びギャラルホルンが光を灯していた。奏の時と同じように、また誰かをここに落とそうとしているのだ。
そうして、連続するようにギャラルホルンから光が飛んでいく。奏の時とは違い、まるで弾き出されるかのように光がいくつか散らばっていく。
それぞれが光を発して、周辺の土地へと落下していく。
「くっ……急にギャラルホルンに巻き込まれたかと思えば……一体何が起こったと……」
1人は、金色の鎧……完全聖遺物を身にまとった女性であった。その雰囲気や、物腰から只者でないことだけは分かる。
「うぅ……姉さんに会いに来たのに…ここ、姉さんのいる所じゃない……?どこ…?」
1人は、純白のシンフォギアを纏った少女だった。その純情そうな姿は、毒牙に掛かりやすい姿だろう。
「クソっ!なんだ今のは……どうして俺がこんな所にいる……!」
1人は、紫のファウストローブを纏った金髪の女性であった。しかし、そのファウストローブを解除した姿は、子供同然のそれになっていた。
「……ここは、私達の街……?いや、多分違う…あの子の、向こう側の未来の街……?」
1人は、オレンジの髪に鋭い目付きをした少女だった。その容姿は、まるで立花響と瓜二つの姿だった。
「……もしかして、また面倒なことが起こってない…?」
そして、それらの人物達の気配を何となく感じていた音女は、至極面倒くさそうな顔をしながらため息をついた。
事実、ギャラルホルンから現れたのが奏だけではないと理解してしまっているからだ。
そして、もう1人━━━
「この波長は……ネフュシュタン、ダウルダブラ、アガートラーム、ガングニールが2つ…!?」
現れた少女達に、反応するものが1人だけいた。どこぞとしれない街で、1人路地裏で何やら機械をいじっていながら。
「……神がいるんだとしたら、僕に味方してくれてるのでしょうか。だとしたら、この機会を逃すわけには行きません……!」
反応した少女は、立ち上がって反応したところへと走っていく。彼女は、自分だけしかいないと感じていた。
何も出来なくなってしまった人達の為に、自分が動いてこの事態を解決させなければならないと感じていた。
完全な収集は不可能だろう。終わらせれば、さらなる地獄が待っている可能性だって否定できない。
しかし、それでも反旗は翻さなければならない。
「待っててください皆さん……僕が、全てを終わらせてみせますから。」
彼女……エルフナインは、走り続ける。今現れた少女達……最初のガングニール装者、天羽奏。次代のガングニール装者、立花響。アガートラーム本来の装者、セレナ・カデンツァヴナ・イブ。ダウルダブラのファウストローブをまといし錬金術師の少女、キャロル。完全聖遺物ネフュシュタンの鎧を纏った女性、フィーネ。
数多ある平行世界からやってきた少女達を、自分の仲間にひきいれるために、身を粉にしてエルフナインは動いていくのであった。
というわけで今回から番外編です。