エルフナインは、1人になっていた。特機部二である本部がなくなり、彼女自身も居場所をなくしたのだ。
ここで彼女にとって唯一の不幸であり、かつ不幸中の幸いだったのが、彼女自身がホムンクルスであった事だった。
まず彼女と言っているが、彼女には性別がない。ホムンクルスである彼女に、女であるための機能も男であるための機能も必要が無いからだ。
しかし、彼女の見た目は彼女を作ったキャロルがモデルなために、彼女と呼称している。
そして、彼女は正式に派遣された人物ではないのだ。替えの利きづらいシンフォギア装者とは違い、錬金術やlinkerを作る才能があるとはいえ、政府からしてみれば彼女は存在してはならない、かつ存在してなくてもいい人物なのだ。なにせ、ただ優秀なだけでありlinkerを作れるのが彼女だけではなく他にも1人だけいたせいで、ただの優秀な科学者止まりだったのだ。つまり、抹消しても問題ない存在ということである。
しかし、抹消とは言ったもののその優秀さは殺すには惜しいとも政府は考えたのだ。ならばどうするか?彼女の性別を確認してからでいいと、判断したのだ。
男ならば餌を与え、女ならば尊厳を奪う。男だったとすれば、シンフォギア装者を彼女の甘露として与えて快楽と狂気を与える。
女だったとすれば、秘密裏に隔離して従順になるまで恐怖と快楽を同時に叩き込んでいく。
要するに、奴隷として飼おうと考えていたのだ。ある程度の知識を奪い取ることが出来れば、男ならば殺すか特定の場所への売り込み、女ならばそのまま飼い慣らしていくだけである。
それが、彼女の不幸……の一つである。ホムンクルスであるが故に、存在を奴隷という形で抹消される可能性があったことが不幸だった。
そして、次にくるのがホムンクルスだったことによる幸いなことだった。彼女には前述した通り性別がない、つまり彼女が奴隷になることはありえないということである。それが彼女の不幸中の幸いだったのだ。
そして、不幸がもう一つあったのだ。そう、性別がないということと政府の考えていた奴隷化の計画が噛み合わなかったことが、2つ目の不幸だった。
つまり、男でも女でもないエルフナインは政府にとっては文字通り必要のない存在になっていたのだ。そうなれば、あとは殺すだけの存在になってしまう。
そういうわけで、エルフナインは今現在政府の追っ手から逃げるだけの存在となっていた。彼女には知識しかなく、武力も武器も何もかも持っていない。
特機部二が事実上の解体となり、ほかのメンバーの行方もわからない中、エルフナインは絶望に捕われていた。自分には何も出来ないのか?力がないからこんなことになったのか?と考えてしまっていた。
だが、そんな中一筋の希望を彼女は見つけたのだ。そう、完全聖遺物ギャラルホルンから現れた平行世界からやってきた住人。それが今の彼女にとっての希望の光となっていたのだ。
「はぁ、はぁ……まずは、ガングニールの人に挨拶を……ふ、2つとも同じ位置…?どうして……」
まずエルフナインは、ガングニールの反応のするところへと向かっていた。しかし、現れたガングニールの反応は二つあったのだ。そのことに少しだけ首をかしげながらも、エルフナインは走っていくのであった。
「……誰か来る。」
「敵か?」
「いや、この感じ違う……あれは、子供?」
エルフナインは、走り続けてとある人物2人の目の前まで走ってきていた。
片方の人物は資料で呼んだことがあったのだ。天羽奏、響よりも前のガングニール装者であり、過去linkerを使ったあとの絶唱により体が灰化して死亡。しかし、今目の前にいるのは紛れもなく天羽奏本人のようにも思えた。
「はぁ、はぁ……た、助けてください!お願いします!!」
「……まず、事情を話してくれない?私達がここに呼ばれたのはなにか理由があるはずだから。」
「は、はい実は━━━」
エルフナインは奏ともう1人の人物に向かって状況を説明する。もう1人の方は、灰色のフードが着いている上着を来て、フードを深く被っていたので顔は愚か、表情すらも読み取れなかったが、エルフナインはどういう訳かそのフードの人物が真剣に話を聞いてくれいるような気がしていたのだ。
「━━━という訳なんです。」
「つまり、この世界の装者を助けるためにあたし達に力を貸してほしいってわけだな?」
「は、はい!」
「よし、ならあたしはその助けを聞くよ。多分、そのために呼ばれたのかもしれないしね。」
奏が、エルフナインの頼みたいことを要約する。その後奏は嫌な顔一つせずに、その意見を呑んだのだ。
多少渋られる可能性どころか、完全に拒否される可能性も考えていたのに、簡単に引き受けてくれたことにエルフナインは拍子抜けしてしまった。
「そ、即決なんですね……」
「困ってるやつを目の前で放っておくほど、あたしは性根が腐っちゃあいないんでね。」
「あ、ありがとうございます!」
「それで、あんたはどうするんだい?」
奏は、少し笑みを浮かべながらフードの人物に視線を向ける。それに釣られるようにエルフナインもその人物に視線を向ける。フードの人物は、しばらく黙った後に、そのフードに手をかけてフードを外す。
「……私も、そこまで堕ちてないよ。ただたった2人で挑むには、ちょっと無理があると思っただけだから。
うん、私も君を助けるよ……この世界の未来が困っているんだから。」
「っ!?ひ、響さん!?で、でもなんか感じが……」
「……そうだね、簡単に言うんだったら『平行世界の立花響』ってことになるのかな。」
「平行世界の……ということは、つまり…」
「そうだね、あたしも『平行世界の天羽奏』ってことになるのかね?」
「いや、そうとしか言えないでしょ…ただ、仲間が少ないかな。飛んできたのは私達だけじゃあ無いみたいだし、その人達を集めてみない?」
フードの人物…平行世界の立花響は、提案を出す。エルフナインは、いくら並行世界の人物とは言っても、ここまで雰囲気や性格に違いが出ているところを見て、違和感を覚えていた。
「そうだね……その方がいいと思う。聞いてる限り、この世界の装者は全滅してるんだ。戦力は多いに越したことはないと思う。」
「じゃあ……敵に先にやられないようにしないとね。多分、みんな1人っきりだから、先にやられる可能性が高い。」
「こ、こちらの世界にいらっしゃった皆さんの位置なら、把握出来ています!」
「よし、なら行こうか!!」
奏がリーダーであるかのように振る舞いながら、2人はエルフナインと共に進んでいく。
ある程度進んでいるところで、平行世界の立花響は自分の首にかけられたペンダントを見ていた。
「ん?どうしたんだい響。」
「今気づいたけど……何、これ。シンフォギア?」
「ん?当たり前だろ?それがないとあたし達ギアをまとえないんだぞ?」
「……そう言われてみれば、あの時の未来も付けてたような…」
「…恐らく、そちらの響さんは元々ペンダントを持っていなかったのでしょう。
こちらの響さんも、最初はガングニールは体内に埋め込まれた破片で起動させていましたから。」
奏は少し考えて、納得したのか首を縦に振る。エルフナインはそれを見てから、次は響の方へと視線を向ける。
「そのペンダントを付けていると言うだけで、起動はいつもと同じ要領で大丈夫です。」
「そう……それにしても、私にまたこの力が宿るなんて……」
「……もしかして、貴方もシエンショウジンの光を浴びたのですか?」
「未来…の持ってるシンフォギアの光を浴びたよ。その時に、体の中にあったガングニールは全部消えた。
本来なら、そこで私は完全に戦う力を失ってた。」
「え、そうなのか?」
奏が不思議そうな声を上げる。知らなければ、当然の事である。そもそも破片が体に埋め込まれていて、その破片でギアをまとうというケースがレアすぎるのだから。
「シエンショウジンの力は、対聖遺物と言っても過言ではありません。
この世界の響さんは、当時未来さんの纏ったシエンショウジンの光を浴びて、1度はガングニールの力を失いました。」
「……この世界の私は、どうしたの。」
「当時、同じシンフォギアであるガングニールを纏っていたマリアさんがいました。彼女のシンフォギアを、自分のものにすることで、以降はガングニールはペンダント型のを使うようになっていったんです。」
「……そう。」
興味があるのか、それともただ事実が知りたかっただけなのかは分からないが、響はそれだけ返事をして黙り込んでしまう。
そこにどんな思いがあるかは、奏にもエルフナインにもわかることは無い。
「……それで、どんな奴がこちらに来ているのかってのはわかるのかい?」
「はい、ただ全員が味方になるとは限らないかもしれません。」
「ま、平行世界から来たってことらしいからね……全員が味方になる、って事はない可能性もあるだろうし。」
「確かにね。敵対する可能性もあるし……仮にそうなったら、その人は放っておくしかない。」
響の意見に、表向きには2人は同意しなかった。しかし、最悪そのような手段を取らざるを得ないことだけは、理解していた。
「……ともかく急ぎましょう。早めに動かないとまずい可能性もありますから。」
エルフナインの言葉に同意して、3人は急いで動くのであった。
街中の路地裏に、白い何かが一つだけ高速で通り過ぎていく。それを追うかのように、色んな影が複数通り過ぎていく。
「はぁ、はぁ……一体、どれだけいるの……!」
蛇腹剣を振り回しながら、その複数の影に攻撃を加えていく白い何か。しかし、簡単に弾かれてしまう上に速度があまりにも早い為に、ビルを壁伝いに登っていったり、曲がり角を駆使することでなんとか追いつかれない程度の距離を保っていた。
「姉さん……!どこなの……無事なの……!?」
白い何か、それは幼い少女であり名はセレナ・カデンツァヴナ・イブ。マリアの妹であり、この世界では奏同様に死んでいる人物である。要するに、彼女もまた平行世界からやってきた人物である。
「あのノイズ……ただのノイズじゃない…!凄く硬いし、強い…!それに、早い!」
追ってくるノイズは、当然のことながらセレナは知る由もない。この世界にある6つのシンフォギアと、賢者の石を取り込んだジーンノイズは、量産出来る上に成長もする、厄介なノイズなのだから。
「それに、アガートラームの力を持っている…!?姉さんは、どうなったの……!?」
追われながら、セレナは涙目になり始める。自身の姉であるマリアの無事が、不安になってきたからだ。
「このままじゃ、追いつかれ━━━」
「━━━伏せて。」
セレナの耳に、1つの声が届く。そして、その声が聞こえたかと思えば、その直後に周りにあったビルは崩れて、ノイズ達を押しつぶしていく。
「な、何!?」
「……見つかってよかった。さ、行くよ。」
「ひ、響さん…?」
意味がわからないままにセレナは、響にお姫様抱っこをさせられて運ばれていく。
まず1人。助けることが出来たと響は心の中で安堵しながら、その場を離れていくのであった。