「エルフナイン……何故貴様がここにいる?」
「……僕、貴方の知っているエルフナインでは━━━」
「そんなことは分かりきっている。お前が俺の知っているエルフナインじゃないことも、ここが俺のいた世界と違うこともな。」
キャロルと邂逅を果たしたエルフナイン達。エルフナインは、平行世界のキャロルに説明をしようとするが、彼女は説明が不要だと首を横に振ってエルフナイン達を見下ろしていた。
「な、ならなんで……」
「いいか?お前が俺の知っているエルフナインだろうが、そうでなかろうが……『なぜここにいる』という質問に変わりはない。
俺の知っているエルフナインであっても、知らないエルフナインであっても……わざわざ俺に会いに来るほどの理由があるとは思えない。故に、聞いているのだ。」
「……なら、単刀直入にいいます。僕達を手伝ってください。」
「断る。」
エルフナインの頼みを一蹴するキャロル。それを予測していたのか、エルフナインは眉ひとつ動かすことなく、そのまま言葉を続けていく。
「お願いです。この世界を助けると思って、僕達を助けて下さい。」
「ここから帰る手段が無い、この世界から帰れる明確で確実な手段を提供できなければ、俺は協力する気は起きない。
もしくは、それ以外の……俺の興味をひかせるようなものを提供できれば話は別だが?」
エルフナインは、やはりキャロルであってキャロルでない人物だと…平行世界のキャロルだと再認識した。
エルフナインの知っているキャロルは、『興味をひかせるようなものを提供できれば』という言葉を発するわけが無いからだ。
あるのは、父親から託された命題。世界の理を知るために、世界を分解しようとするのがエルフナインの知っているキャロル…キャロル・マールス・ディーンハイムという少女なのだから。
「……あなたも、見たと思います。空を飛ぶノイズを。」
「……それで俺を釣ろうというわけか?だが弱いな、あれは確かに強い力を秘めているが、今の俺はあれに対してそれ以上の興味はない。」
「あのノイズは、生物以外の全てを吸収します。今、この街を支配している女が作りだしたノイズ……ジーンノイズと呼ばれるそれは、この世界の装者達のギアを全て吸収して、更に同じように吸収したジーンノイズ達のコアを吸収して、限りなく強くなっていっています。」
「ほう?」
「この世界では、あなたとは違う錬金術師…パヴァリア光明結社から派遣された3人の錬金術師達が作り出した賢者の石も吸収して、呪いの力であるイグナイトと、賢者の石の浄化作用を同時に使っています。」
エルフナインの話す言葉に、徐々に、耳を傾けていくキャロル。それもそのはず、ただ強いとだけ思っていたジーンノイズが、彼女の興味を刺激してきていたからだ。
「呪いと浄化の両立……よくできたなそんなこと。」
「それほどまでに、恐ろしいんです。ジーンノイズは……アルカノイズは、コアを地面に投げつけてコアから転送させてくる仕組みでした。
しかしジーンノイズは、コアは卵のようなもので地面に叩きつけると孵化して、現れます。
その際、コアは体の中央に入りますが、このコアさえ生きていれば、ジーンノイズはいくらでも孵化し直すことがどきます。しかも、同じ攻撃は二度と通用しない。」
「なるほど、経験値も吸収できるというわけだ。」
すぐさま理解したのか、相槌を打ちながらキャロルはエルフナインの話に乗っていく。
「あなたが協力してくれるなら、そのジーンノイズのコアにもう1つ面白いものを挙げます。」
「ほう?」
「先程、ジーンノイズは生物以外の全てを吸収すると言いましたが、その例外中の例外…生物をジーンノイズ化させた存在がいます。
確認できているのは2つですが、あなたにはその2つを持って帰るなりなんなりしても構いません。」
「……そのジーンノイズ化した生物というのは?」
「ひとつは、烏です。烏がジーンノイズのコアを飲み込んだことによりジーンノイズ化したものです。
もうひとつは、そのジーンノイズを作りだした生みの親……華雑音女もまたジーンノイズ化した人間です。」
キャロルは顎に指を当ててしばらく考え込む。エルフナインがやけに、こちらの意見を通していることを感じたためである。
やけに聞き分けがいいと、本当に協力するべきなのかはたまた自分を騙そうとしているのかと答えが二極化し始める。
そうしてしばらく考える内に、キャロルはとある答えにたどり着く。
「……エルフナイン、お前俺を囮にしようとしてるな?」
「……」
キャロルの言葉に、エルフナインは答えない。だが、その沈黙がキャロルのその言葉を是と認めていた。
「やはりな……ダウルダブラの力ならば、俺が囮になるに適していると思っているんだろうな。
言い訳程度の拒否すらしない、ということは…本当にその気なんだな。」
「……そうですね、貴方ほどの強さがあるなら1人で戦わせても問題ないと思っています。
けれど、問題がないだけで負けないとは思っていない。寧ろ、どれだけ強くてもジーンノイズは誰にも勝てないと思っています。」
「……なんだと?」
エルフナインの言葉に、キャロルは眉を寄せる。安い挑発だ、しかしその言葉をそのままにしておけば自分のプライドに関わると、キャロルは乗ってしまう。
「それだけ強いんです、ジーンノイズは。量産性も、その能力も…両立しないものを両立させてしまった。
最早、あれに勝てるのは神にも等しい人物だけでしょう。」
「……貴様、俺があの程度の雑魚に負けると思っているのか?」
「えぇ、負けると思っています。あのジーンノイズが何で増えるか知っていますか?女性の体です。
ダウルダブラをまとえている、ということは今のキャロルの体は少なからず女性のそれになっているはずです。
ジーンノイズは、女性を犯して女性に自分たちのコアを繁殖させるんてす。だから中途半端に強い人をぶつけても意味が無いんです。」
「だから、俺をぶつけると?」
「えぇ、いい囮役になってくれるかと。」
キャロルの表情が段々と怒りに染まっていく。自分が見下していた相手から、こうも一方的に上から見られていると考えると、それだけでキャロルは腹を立てていた。
だが、キャロルはその怒りを飲み込んで怒りを収めていく。
「……いいだろう。だが、エルフナイン……そこまでの口を叩いたからには、お前にも働いてもらうぞ。
自分だけが、敗北した時のリスクから逃れられると思うな。」
「…協力、してくれるんですか?」
「ここで駄々をこねた所で、俺が帰られるわけでもなさそうだからな。
だが、そこまで言ったお前には何か罰を与えないと気が済まない。と考えた。」
指を1本立てて、キャロルはにやりと笑みを浮かべる。協力する代わりに、自分もひとつだけ提案をしようということだろう。しかし、エルフナインはキャロルの言ったことがイマイチ理解できていなかった。
「敗北した時のリスク……ってどういうことですか?」
「お前が未だにちゃんと逃げられているのは、お前が男女の差がないホムンクルスだからだ。
だが、その体を……戦う前までに『女』として改造する。」
「……別に、僕はそれでも構いませんが…本当に、ただ僕にリスクを背負わせるためだけにそれを行う意味はあるんですか?」
エルフナインの言葉に、キャロルは真顔になる。上げていた指を下ろして、自身のポケットから塚のようなものを取り出す。
「これ…なんだと思う?」
「…聖遺物、ですか?」
「流石に理解が早いな、そうだ。完全聖遺物だ。完全聖遺物…魔剣ダインスレイブ。」
エルフナインの表情が、驚きに変わる。平行世界のキャロルは、魔剣ダインスレイブを装者達のパワーアップに使うことなく、未だ完全な形のものを手にしていたのだ。
「…それを、僕にまとえと言うんですか?」
「あぁ、無論ちゃんと使いこなせるように俺が調整してやろう。その際に、体もちゃんと聖遺物を扱えるように女そのものに変えてやる。」
今度はエルフナインが考えこむ。確かに、戦えるメンバーが大いに越したことはないが、仮にあの魔剣を自分が扱うことになるとなると、その呪いは甚大なものになるだろう。
使いこなせるように改造されると言っても、戦ったことの無いエルフナインに果たして本当に使いこなせるのか、という疑問が浮かんでいた。
「……ダインスレイブの力は分かっているだろう。仮に、これをまとえてお前がある程度戦えるようになっていたとしても、負ければ全滅するのは目に見えている。
勝ちたいなら、何がなんでも勝ちにいけ。」
使えるものは、なんでも使っていくスタイルをしていけという事なのだろう。エルフナインは、キャロルの意見に乗ることにした。
実際問題、捕まれば殺されるかまた別のことをされるだけである。それに、仮に支持役を担ったとしても1人でいれば危険度はかなり高くなる。ならば、戦えてなおかつ周りに支持を飛ばせる方が有利なのだ。
「……分かりました。」
「そうか、決まりだな。ならエルフナインを改造し終わったら呼んでやる。仲間を集めるにせよ、敵を作るにせよ……行動するのはそれ以降だと知っておけ。」
そう言って、キャロルはエルフナインを運んで一同の前から姿を消す。その場に残された3人は目を合わせるが、キャロルを信用しなければどちらにせよ意味が無いだろう。
仕方なく、待つことにしたのであった。
「……終わりました。」
「まさか丸一日も費やすとは思ってなかったよ……」
「ふん、その為に途中でお前らに毛布を渡してやっただろうが。」
翌日、ちょうど24時間経過し始めた頃にエルフナインが戻ってくる。見た目自体は何も変わっていないため、話すことに違和感はほとんどないが、しかし本当に成功したのかどうかだけは少し気になっていた。
「……安心しろ、ちゃんと体の生成は完了している。なんだったら……ほら。」
「なっ!?」
キャロルは、エルフナインの履いているパンツを、スカートごと脱がせてその性器を確認させる。
しかし、いきなりの事だったので全員が驚いてしまう。エルフナイン以外は。
「い、いきなり何してるんですか!?」
「…?なんだ、ただ性器を見せただけだろう?それに、女同士なんだから別に見ても問題は……」
「キャロル、いきなり僕の性器を見せてはみんな驚くと思います。」
「確認を急がせたかっただけなんだが……まぁいい、これで女になってるって理解出来たみたいだしな。」
キャロルとエルフナインは、何事も無かったかのような会話を続けていく。エルフナインは、パンツとスカートを履き直したあとに再び話を再開させる。
「……兎も角、これで僕も戦うことができます。ひとまずは次の目標に向かいましょう。」
「そ、そうだな……それで、次は誰のところに向かうんだ?」
「……波長が合っているとするならば、完全聖遺物であるソロモンの杖を持っている女性です。」
完全聖遺物、その言葉を聞いて全員の表情が厳しくなる。その人物が味方になってくれるならば構わないが、敵に回る場合は恐ろしく厄介になってしまうからだ。
「向かうしかない、というわけか。」
「そういうことですね……」
「ひとまず、向かってみなければわかりません。」
エルフナインのその言葉で、全員が向かうことになった。次なる目標は、完全聖遺物であるソロモンの杖を持ちし人物である……