「……長いね。」
音女は一人部屋で独り言を言う。その言葉は誰に届くわけでもなく、届けたいわけでもなく……並行世界を繋げる聖遺物『ギャラルホルン』からやってきた5人の少女達。
その少女達は、ジーンノイズとなっている音女の色々な情報を得るためにまずパヴァリア光明結社へと向かっていったのだ。
そして、向かってから約1ヶ月程が経過していた。このまま何事もなく終わるのならば楽でいいのだが、そんなことが起こるわけもないというのは音女が1番理解していた。
「でもさすがに1ヶ月は長いよほんと……でもまぁ、パヴァリア光明結社が私の情報を喋らないわけないし……そろそろ帰ってくる頃だと思うけど。」
カレンダーを見ながら、音女はそんなことを呟く。本来ならば、この季節は既に夏。
水着を着た少女達がこぞって海に遊びに行く季節である。だからといって、それがなんだという話なのだが。
「……ん?」
音女の耳に、小さなアラームの音が聞こえてくる。この音は、ジーンノイズが音女が対象として見張れと言われた人物達が現れたアラームである。要するに、出かけていた並行世界の装者達が戻ってきたのだ。
「まさか、見つけたら見つけたであそこまで話がわかる連中だったとはな。」
「華雑音女にあそこまで敵対しているとは思ってもみなかった。」
「……ま、ある程度対策は練れてると思う。」
「ジーンノイズに対する対策は、見つからなかったけどな。」
日本に帰ってきて、各々思ったことを言う一同。華雑音女という女性に対しての情報は、パヴァリア光明結社はこれでもかという程に分け与えてくれたが、ジーンノイズに関してはまったく実りがなかった。
どうにも、音女がジーンノイズに対しての情報をトップにしか明かしていなかったらしいのだ。
しかも、トップ自身もろくに語っていなかったせいで情報が少ないのだという。
「よほどの問題児だった、ということか。」
「……けれど、倒さないといけません。」
「ふん、そんなこと誰もが分かっている。やつの過去に同情する余地も何も無いのだからな。」
キャロルが、セレナの言葉を鼻で笑う。既に倒すことは前提事項であり、それを確認するのはキャロルにとってはそのくらいの愚行に思えたようだった。
「……けど、どうする?全くの無駄だって思わない訳でもないけど、対策を立てられるほど情報がある訳でもないし。」
「やっぱり正面突破しかないんじゃないの?」
「……やれない事は無いはずだ。」
フィーネは、なにか思いついたのか顎に手を置いて考え始める。それに対して、キャロルは冷めた目で見据える。
「今更思いついたところでなんになる?正面突破というあからさまなものなぞより、ましな作戦なんて誰にでも思いつける。」
「……いや、ソロモンの杖を使う。」
「……ほう?」
キャロルが少し興味を持ったように目の色を変える。他の者も気になるのか、フィーネに視線をを向けていた。
「ソロモンの杖は、纏う以外でもそのままノイズを生み出すことも可能だ。とは言っても、この世界のバビロニアの宝物庫があれば、の話だが。」
「多少なりとも、生きているだろう。で、あれば呼び出すことも可能なはずだ。
それで?呼び出したあとはどうするつもりなんだ?」
「華雑音女に向けて、一体でもたどり着けるようにする。」
「……奴は、人工的に作られたとはいえノイズの体になっているんだぞ?炭化しないのは分かりきっている話だと思っていたが。」
「待て、もう少し詳しく話そう。」
そう言って、フィーネはソロモンの杖を見せながら、話を続けていく。キャロルも、いまだ興味は失っていなかった。
「いいか、確かにジーンノイズの体を奴は手にしてはいるが、元は人間の体だ。その全てが、ジーンノイズになったとは考えにくい。」
「人間の部分が残っていると?」
「そもそも、完全にジーンノイズになったというのであれば、なぜ人間の体を保ったままでいられる。
『そういうもの』だったとしても、ならば人間である部分はその見た目以外にも残っているのではないか?と思っている。」
「……脳か?」
「まぁ、恐らくそうだろう。脳がなくては、命令された動くだけのアルカノイズと変わらない存在になってしまうだろうからな。」
フィーネの推理に、キャロルが相槌を打つかのように説明を入れていく。頭がいい二人の会話は、ある程度残りのメンバーは着いてこれているようだった。
「しかし、仮に脳だとしてもどうする気だ?まさか相手の頭を引きずり出すということをするのか?」
「それを行えるのなら、そのまま脳みそを潰して終わりだ。だが、行えると思うのか?」
「不可能だと思っているに決まってるだろう。何故わざわざ引きずり出したものを、ノイズで潰さねばならない。
それ以前に、そこまで行えるくらいなら俺達以外の誰かがそれをなしとげている筈だ。」
「その通りだ。そもそもそこまで回りくどい手を使わなくてもいい。」
フィーネの言った事を理解できたのか、キャロルが納得のいったような顔をしていた。しかし、納得はいくが少し不安そうな顔も浮かべていた。
「……ただ、ノイズをぶつけるだけでいい。」
「……正気か?確かに、人間である部分が残っているのならノイズの炭化能力は働くかもしれない。
だが、あくまで可能性だ。効かない可能性だってある。」
「なら、それ以外に方法があるか?ノイズが出てくるのなら、この手は最優先で使うべき手だ。
それ以外でよさげな作戦があるならば、それを提案して貰えると助かる。」
「……」
フィーネの言葉に、キャロルが黙る。少なくとも、彼女達の行える作戦の中では可能性が最も高いと言う結論が出たらしい。
「……では、1つ目の作戦はこれでいこう。2つ目、3つ目……5つは作戦が欲しいところだな。」
「…そんなに出すの?」
「むしろ、5つでも足りないくらいだ。私としては10の作戦は最低限で用意しておきたい。」
「……いえ、それくらいでももしかしたら足りないかもしれません。」
「……それだけ頭の切れる人物ということか?」
フィーネの言った言葉に、エルフナインは首を横に振る。音女は研究を行えるほどの頭があるのは確かだが、それは彼女の中の特徴であって、全人類で何番目に頭がいい……なんていいという程ではないからだ。
「彼女の心に恐ろしいところは、平然と人質を使うことと…平然と人に暴力を振るえるという所です。」
「……それが、俺とフィーネとどう違う?まさか、お前は平然と暴力を振るうことがおかしいと論じたいつもりか?」
「いえ、そうじゃなくて……熱くなることもあるみたいですが、基本彼女は冷めてます。とことん。
ですが、基本的に冷めてるのに対してどこかでトリガーのタイミングを引いてしまえば、まるで癇癪を起こしたかのように振る舞うのも彼女です。」
「……何が言いたい?」
「……僕達が行動している時に、彼女の地雷を踏み抜いた場合、何が起こるかわかりません。」
エルフナインの言葉に、イマイチ理解ができないキャロル。その理解のできないことが少しだけ彼女を苛立たせ始める。
「何が言いたい、と言っているんだ俺は。まさかその何が起こるかわからないことを警戒してるのか?」
「僕の望みは、彼女を倒すこともそうですが…この世界の装者の皆さんを救うことでもあります。
助けに行ったら、殺されてた…なんてことがあったら困るんです。」
「はん、俺が知るか。俺もフィーネも、自分の世界に帰りたいのとジーンノイズや人間がノイズになったその事例を確認して、元の世界に持っていくということがしたいんだ。
人質というのは、ハナから勘定にいれていない。」
キャロルの言葉に、エルフナインは少しだけ眉間にしわを寄せる。並行世界の同一人物だとしても、やはりキャロルはキャロルであると理解した瞬間である。
「……なら、そちらはそちらで動いた方が効率がいいのでは?」
「……なんだと?」
「僕達と、貴方達では目的がまるで違います。攻めるためと守るための戦いが、同一なわけがないんです。
だったら、それぞれの作戦が干渉しあわない程度にバラバラに動けば、それがいい結果を産むのではないですか?」
「……まぁ、一理あるな。そちらは、所謂正義のために動く軍隊だ。こちらは自らの欲望のために動く軍隊だ。
ならば、同一で動いてる方が効率は悪かろう。」
少しむくれているエルフナインの意見に、フィーナが乗っかった。キャロルはフィーネが自分の意思関係なく、自分を動かしていることに少しイラつきを感じたが、事実思っていることではあったので舌打ちだけをしていた。
「……なら、俺達は俺達で好きに動かせてもらう。お互いに妨害しないようにだけすればいいんだからな。」
「……分かりました。くれぐれも気をつけてください。別れて行動するのは、お互いがお互いを囮にして生活しているも同然なのですから。」
「あぁ、分かっている。」
フィーネは、エルフナインの言葉に同意する。それが面白くないのか、キャロルはどうにもイライラしているように周りの人物からは見受けられた。
「ふん、ではな。」
キャロルと、フィーネはそのまま一同と別れる。ただ別れるだけでなく、情報交換も必要なためにある程度の通信器具は渡しているが、これからは本当に別れて行動することになるのである。
「……いや、バカでしょ。」
一人部屋で音女は彼女達に対して呆れを抱いていた。こんな所で二手に別れるなんて、悪手も悪手。自分達から全滅するように仕向けているのは滑稽としかいいようがない。
「……ジーンノイズに気づいてわざとこんな行動してる?」
ふと呟いた言葉が、音女の心の中で反復されていく。ありえない可能性ではない。通信機器越しとはいえ、その画面を見るためにはある程度近づかなければならないし、音声による通話ならばイヤホンなどを使われては聞くことが難しくなってしまう。
「……もうちょっとだけ警戒しておこうかな。ひとまず狙うとしたらどっちかな…」
少しだけ音女は考え始める。仮に、後で会うとしてもしばらく二手に別れて行動することは決まっているであろう話である。
ならば、そのどちらかを狙うかによって答えは変わってくるのだ。
「……フィーネと、キャロルちゃんの二人は数は少ないけどあの二人が相当に強い。ジーンノイズなら数を使えば勝てるだろうけど、逆に言えば数を揃えないと勝てない可能性があるってこと。」
音女の中では、この2人を狙うのはあまり優先度が高くない事案である。狙うとしても後の方なのはわかりきっている話だ。
ならば、必然的にエルフナインのところを狙うのもまたわかりきった答えである。
「……けど、もしわざと今までの会話を聞かせているんだとしたら…」
音女は考える。素直にエルフナインを狙うべきか、2人を狙うべきか。そうして考えて考えて考え抜いた末に……答えにたどり着いた。
「……よし、キャロルちゃん達の方を狙おう。別に問題は無いけれど、仮にエルフナインちゃんのところを狙った場合、逃げられてキャロルちゃん達の方から助けを呼ばれる可能性もあるし。
それに、ソロモンの杖は先に潰しておかないとまずいだろうし……」
答えがここでようやく出た。そして考えを決めた音女は、フィーネとキャロルの方を狙えるように作戦を立て始めるのであった。