「もう一度言う、それがお前の父親だというのなら……私はお前の頭を正常に戻してやらねばならん。」
「黙れ黙れ黙れ!!お前もパパを殺そうとするのなら、俺が許さない!!」
杖を掲げるフィーネ。弦を引っ張って攻撃態勢に移行するキャロル。キャロルの目には父親が、フィーネにはそれがジーンノイズに見えていた。
どちらが正しいのかはともかく、2人の緊張は高まっていた。
「許さない許さない許さい!パパを殺そうとするやつは皆殺しだ!!」
「明らかに正常ではないな……だが、一体何をされた…?」
フィーネは冷静に思考する。この場、いるのは自分とキャロルの2人だけである。
だが、それでもおかしいのは明らかにキャロルの方だ。そもそもキャロルの出自を知らない訳では無い、故にそれがおかしいと断言出来る。
キャロルも、父親が生きていないことに気づかないはずがない……が、どうにもそれを信用しきっているようだった。
「……まぁいい、少し頭を冷やしてもらうだけだからな。」
「頭を冷やすのは、お前だァ!!」
振るわれる弦を、フィーネは紙一重でかわしていく。わざとギリギリでかわしているのだ。最低限の消耗に抑えていけるだけの冷静さと、その冷静さを失っているキャロルがいるからこそなせる技だが。
「━━━」
歌詞を唱えながら、キャロルは弦をふるっていく。だが、この程度の攻撃が避けられると分からないほど、冷静さを失っているわけがないとフィーネは冷静に警戒を続けていた。
「ちょこまか……動くなっ!!」
背中の羽のようなパーツに備えてあるいくつかの弦。琴を模しているかのような形のそれに着いている弦が、震え始める。
そして、そこから轟音が響き渡る。弦同士が震えてでる音を利用した、音のバズーカである。
「ぐぅ……!?」
完全聖遺物ありきとはいえ、鼓膜はどうしようもないのかはたまたそれすらも突破できるほどの攻撃力があるのか……どちらかは不明だが、少なくともフィーネは轟音で耳と皮膚が震えていた。
「音による振動を重ね続ければ、簡単にものは壊れる!それは人とて同じこと!!
ファウストローブから発せられる特殊な音は完全聖遺物であっても…通じる!!」
「確かに、そのようだな……!」
耳を抑えながら、試しにフィーネはソロモンの杖からノイズを手当り次第に召喚する。
召喚自体は可能だと判明したために、そのまま攻撃を続行し続けるつもりだった。だが、直後にノイズ達の体は灰となって消えてしまう。
「ハハハッ!!今更ノイズ程度が役に立つと思っているのか!!」
「……お前の気をそらすことくらいはな。」
「何っ━━━」
高笑いした時を狙い、フィーネはどこからともなく取り出した蛇腹剣を奮って、ダウルダブラの弦を一瞬の内に全て切り倒した。
ほぼ同時に、凄まじい音を発していた弦は切れた瞬間になっていた音よりも大きな音を立てながら蛇腹剣とキャロルの体を引き裂いていく。
「ぐ、ぐううう!?」
「手足が落ちていなければ……動けるだろ。健が切れたわけでもあるまい。」
切り傷を負ったが、血が出ていると言ってもキャロルのキズはそこまで深くはなかった。
これで冷静になってくれれば……とフィーネはそう感じたが、キャロルはさらにヒートアップする。
「この……しつこい!!」
「まだ動く気か……!」
「ダウルダブラの武器は弦だ!音だ!振動だ!!たかが今の攻撃を破った程度で図に乗るな!!」
キャロル手に、2対の剣が握られる。それは、刀身から柄に至るまで全てが弦で出来たダウルダブラが作れる武器である。
「たとえ背中のこれが切られたとしても……俺にはまだこっちがある。チェーンソーよりも硬く!鋭い切れ味!!完全聖遺物であっても切り裂けることを証明してやる!!」
「遠近両用……器用なものだ!!」
新たな蛇腹剣を出しながら、攻められる前に…とフィーネは先手必勝を狙って動いていく。
だが、キャロルの剣はフィーネの蛇腹剣を簡単に砕けさせる。
「さっきの振動をそのまま剣にしたんだぞ!?並の武器では止められん!!」
「それは確かに、な……!」
完全聖遺物ですら、並の武器の扱いを受けるほどの攻撃力。見れば、壊されただけでなく接地面だった所が砂のように粒子化していた。
ここまで来れば、破壊なんて生易しい言葉では収まらないものがある。
「触れたものは全て粒子に変える!!だから、お前の武器も通じない!!」
「……」
糸を一旦分解してから、形を変えて再度収束させるキャロル。その形は剣ではなく、槍のような形だった。
「ははは!!どうした!?避けてばかりだと勝てないぞ!?」
「避けてばかり、か……お前は本当に冷静さを失っているな。」
「は?」
フィーネの表情、そしてその言葉につい間の抜けたような声を出してしまうキャロル。
彼女は気づいていなかったのだ、ダウルダブラのパーツに小さな傷が大量に着いていることを。
「ファウストローブ、と言ったな……確かにその力は凄まじい物があるが、完全聖遺物たるこの鎧に深い傷がつけられるとでも思ってるのか?」
「ネフシュタンの鎧か……!だが、たかが完全聖遺物がふたつな所で!!」
「……たかが完全聖遺物、か。言っておくが…少なくとも、私はお前よりは強い。冷静さを失ったお前よりは、な。」
「だからさっきから何を言って……ガっ!?」
キャロルの体から、謎の破片が飛び出してくる。ダウルダブラの中から現れたように見えるそれは、キャロルの体を行動不可能になるまでにとどめていた。
「な、なんだこれは……!?」
「先程お前が砕いた剣の1部さ……初めて試した手だが、案外上手くいくものだな。」
「あの剣だと!?さっき砕いた剣が何故また動き始めている!!」
「簡単なことだ……自分の武器をいじれるのは、お前だけではないという話だ。」
「まさか……ネフシュタンの鎧を改造したのか!?」
「正確には、武器に鎧の特性を付与させることに成功した、だがな……おかげで剣にも再生能力が付いたよ。」
フィーネの説明に、キャロルはハッとした顔になる。ネフシュタンの鎧には再生能力がある。その再生能力は凄まじいものがあり、纏っている者の体に侵食する程なのだが、それほどまでの回復能力があれば、ダウルダブラの傷の中に仕込ませた武器の破片が、自己増殖する事により各部位から生えるような形となるのだ。
「突然体に大型犬程のサイズのトゲが生えてくるようなものだ、そんなもの一度に大量に生えてきたら、耐えられるはずがない。」
「くそっ!くそっ!!」
「さて……少しだけお前の体を調べさせて━━━」
キャロルの体にフィーネが手を伸ばそうとした瞬間、それは起こった。
「おごばっ!?」
「何っ!?」
突如、キャロルの口からゲル状の何かが吹き出したのだ。不意に来たためにフィーネは驚いてしまったが、要するにキャロルをおかしくしていたのはこれのせいだとフィーネは確信していた。
「ならばこれを取り除く!!」
『━━━いやいや、取り除けませんよ絶対に。』
不意に聞こえる声。最初こそ、ゲル状の物体から聞こえてきたものかと思っていたが、どうにも四方八方から聞こえてきているような気がしているために、フィーネはキャロルから視線を外さざるを得なかった。
「誰だ!!」
『私は、今現在
「そうか、貴様が華雑音女か!!」
音女の言葉に耳を貸さないまま、フィーネは武器を構える。敵がどこから来るのか、何をどうして襲いかかってくるのかわからない以上当たり前の感覚である。
『取り除けないという話ですが……ま、言葉よりも実際に見てもらった方がいいですよね。』
「何を言って━━━」
ぐにゃり。フィーネの視界がそう歪んだのは、音女に返事仕切るよりも早く来ていた。
その歪みが、疲労感やそれに類するものにより起こされたものでは無いというのはよく理解出来ていた。ならば、この歪みはなんなのか?
『おかしいのは、キャロルちゃんだけだと思いました?貴方もおかしくなってたんですよ。
だって……
「何……っ!?」
フィーネの顔が驚愕に染まる。自分すらも、相手の十中にハマっているというのか、と絶望した表情になっていた。
「馬鹿な!!キャロルのことと言い…貴様いつから我々に攻撃を仕掛けていた!!」
『貴方達にそれを仕掛けたのは、キャロルちゃんが飛び起きる前ですよ。ただ、それよりもずっと前から監視させてもらってましたけど。』
「監視だと…?私達が、気づかなかったとでも…」
『まぁ、監視は気づかれなくて当たり前ですよね。だって非有機物と同化するジーンノイズがこの地域のほとんどの建物と同化させてるんですから。
ただ、あまりにも体積が大きくなっているせいでビルと同化すると言うより、ビルに同化させられた感じになっちゃったけれど。』
音女の言っている言葉に、微妙な違和感を覚えつつもその言葉に下唇を噛むフィーネ。
どうやら、初めから監視されていたということに初めて気づいたようだ。
『それと、キャロルちゃんはジーンノイズに同化したんじゃなくて極小化したジーンノイズに脳みそ乗っ取られてる状態です。
リモコン取られた鉄人2〇号です。私の言うことをなんでも聞きます。』
「くっ……!」
『ま、とりあえず貴方が施した拘束は解かせてもらいますよ。ついでに、キャロルちゃんは連れて帰らせて貰います。
貴方は……まぁ、そのまま解放してあげます。ちょっと…確かめたいこともありますしね。』
そして、一瞬フィーネの意識は暗転する。そして、目が覚めた時には目の前には誰も彼もいなくなってしまっていた。
「何っ……!?」
フィーネは、一瞬でキャロル達が消えていることに驚きを隠せなかったが、自分の頭の中にもキャロルと同じような細工が施されているのだと考えると、不思議と冷静になれた。
「……となると、向こうの子達も既に毒牙にかかっていると見るべきか。
しかし……」
フィーネは辺りを見回す。この辺一帯が、既に相手の陣地だったのだ。アジトなんて、意味が無いも同然だった。
今、この場で見えている景色において…自分が見えている景色の一体何割が間違っているだろう。
五感すらも完全に抑えられたこの状況で、下手をすれば自分はジーンノイズに囲まれている可能性も否定は出来ないのだ。
もしかしたら、腹を刺されているが視覚と感覚を操作されている可能性もあるのだ。
「……連絡を取りたいが、そう簡単に取らせてくれるとも思えん。」
連絡を取ろうとした瞬間に、意識を乗っ取られる可能性もあるのだ。それをされるくらいなら足で探す方がまだ止められづらいだろう。
「……いや、この思考さえも操られている可能性だってあるわけか。しかし、やらなければならないのは全く変わらないことさ。」
そう呟いて、フィーネは空中を身を乗り出す。エルフナイン達を探すために、彼女達に今怒っていることの情報を全て伝えるために、空を飛んでいくのであった。