響が作戦を初めて、3日が経過していた。一日二日程度で終わらせられるものでは無いと、セレナ、奏、エルフナインは理解はしていたが、それは頭だけの話であり、心はそうは感じていなかった。
どうしても、心配はしてしまうものだ。
「……響さん、まだでしょうか。」
「信用するしかないよ。私達には、今はそれ以外何も出来ないんだから。」
「期限は10日……それを過ぎれば、今度は僕達が向かう番です。」
「何かしら、作戦を立てないといけないんですね……」
エルフナインの言葉に、セレナが落ち込んだ様子で返す。自分達が作戦を立てるということは、響を信用していないということになる。
しかし、いざとなった時に直ぐにでも助けに行けなければ終わりなのだ。
「……一つだけ、気になることがあるんです。」
ふと、話題を変えるかのようにエルフナインが話を切り出す。一体なんの話なのか、2人はエルフナインに視線を向ける。
「向こうは、あぁやってジーンノイズを空に巡回させています。しかし、あれは一体誰の為に…なんの為に飛ばせているのかが気になるんです。」
「そりゃあ……監視するためじゃないのか?」
「監視するためだとしても……まばらというか、いくらでも隙を突けるという穴がある監視というのが気になるんです。ジーンノイズは数を作れるのが一番の利点のはずなのに。」
「……確かに、変ですね。本気で監視したいなら…あんなまばらにしないし……」
エルフナインの疑問に、セレナかハッとしたような顔で気づいた。矛盾と言えるほどのものでもないが、しかし疑問に思う点ではあるのだ。
「……ただのミス、って訳じゃないよな。」
「はい……世界中に撒いているわけじゃないはずなんですが…」
「……何か、理由があってやっているってことですか……」
しかし、考えても答えは出ない。どれだけ考えても、何故こんなことをしているのかが理解できないのだ。
「……囮、とかですか?」
「それだったら、空中にばら撒くなんてことはしないと思います…わざわざ気にするように仕向けているようにしか……」
「うーん……」
考えが未だ足りていないのか、それとも深く考えすぎているのか。それすらも疑問点に思えてきてしまい、全員が頭を悩ませていた。
「…ただ、仮にセレナさんの言う通り空にいるジーンノイズが囮なんだとしたら……本命は別にいる、ということになります。」
「空中に飛んでいるのが囮、ねぇ……」
空中に飛んでいるのが監視ではないとすれば、また別の要因で監視しているのか、それとも初めから監視しているのか。
「……ジーンノイズってさ、無機物を吸収するんだよね?」
「正確には、非有機物ですね…確かに吸収はしますが、それがどうかしましたか?」
「こういった建物とかの壁とかさ……ジーンノイズなのかなって。」
「……完全に思考外でしたね。ですが、仮にそうだとしたら━━━」
「『全ての会話が筒抜け』って答えまでたどり着いちゃったか。」
それらの会話を聴きながら、音女は呟いた。その表情にも、感情にも焦りや憤りなど感じてはいない。
寧ろ、たどり着いて当たり前だと言わんばかりである。
「ま、これに関してはどうしようもないけれどね……非有機物がないところに向かうのは、不可能だし。
せいぜい、許されるのはアスファルトで塗装されていなくて、かつ周りにもアスファルトやビル群が存在しない、石も砂も存在しない場所になるけど……海とか湖になるねこれ。」
珈琲を啜りながら、おかしなことを言っていると自嘲地味た笑みを浮かべる音女。
そして、その後視線を後ろに向ける。
「ねぇ、何か思いつける?……ま、答えられたらの話だけど。」
「ふぐ、ふぐうぅぅぅぅぅ……!」
そこには、ガクガクと腰を動かしながら潮を噴き続ける響がいた。両脇からジーンノイズに抑えられて、ずっと電マを当て続けられていたのだ。しかも、目隠しと猿轡、さらに耳栓を付けられて快感以外の一切の情報の発信と受信を許されなかった。
「……すっかりびっしょびっしょだねぇ。」
「んぐおお!!」
音女は、響の痣だらけのその体を見ながら、珈琲をすする。恐らく、この世界の立花響よりも過酷な生活を強いられていたのだろう。
下手をすれば、生きるためにその体を捧げていた可能性だってある。考えれば、わかりやすい話ではあるのだが。
「ま、どういう生活をしていたのかなんて聞かなくてもいいよね。君へのいじめが止まないのなら……当然グレてるだろうし、そういう『裏』の事情も知ってるだろうし。」
「ふぐ、ふぐぅぅぅぅ!!」
「にしても、すごい震えてるよねほんと。まだ準備段階済ませてないからね……本番までもう少し理性保っててね。」
ガクガクと腰を震わせながら、響は妙に冷静になった頭で今までのことを思い出していた。
生きるためならなんだってした。自分の体付きや、顔が一般的なそれよりも上なのは理解していた。需要があるならば、使わせるべきである。
母親も、祖母も心労で完全に擦れ切っていた。父親は蒸発し、結局行方しれず。
頼れるのは、自分だけ。使えるのは、自分だけ。
「おぐ、おぐうううう!」
体に残る痣は、今までの黒歴史の証である。あの世界の小日向未来にも、自分の世界の小日向未来にも見せていない1部分。
それは、自分だけの胸の内に秘めておくべきこと。男の浅ましい欲望の捌け口にされて、どんなことでも受け入れてきた自分の凌辱の過去。
今まで、満足させられるためにどんなことも受け入れてきた。故に、こういうことの耐性は強い。
どれだけ激しいプレイをさせられても、滅多な事では屈服することは無い。
「……いやけど、ほんとに耐えるねぇ。何日連続でぶっ続けだと思ってるの?」
「おぐ、おごおおおお!」
何度も何度も潮を吹く響。しかし、その心は未だ折れる気配を見せることは無い。
不幸中の幸いと言うべきか、皮肉と言うべきか。1人で生きるために行ったことが、今は皆を守れることになっているのだ。
「……余程、激しいプレイをさせられたみたいだねぇ…うーん……」
平行世界の立花響の意外な出自に、珍しく音女は本気で困っていた。別に、堕ちないことはそれでもいいのだが、それを久しぶりに楽しいと思い込んでいる自分がいるのだ。
故に、どうしたら彼女を堕とすことが出来るかどうかを真面目に考えてしまっているのだ。
「押してだめなら引いてみろ、か……いやほんと、昔の人はどうしてこう凡庸性に富んだ言葉を作り出せるのやら。」
変なところを感心しながらも、音女はジーンノイズ達に響の拘束を解除するように伝える。
解除された響は、肩で息をしながらも絶頂の余韻を味わっていた。
「…ヨダレ垂らしてるし、目が明後日の方向向いてるし……これでもまだ理性たもててるって言うんだからすごいよね。」
靴を履いたままで、音女は響の頭を軽く踏みつける。ほとんど反応が帰ってこないので、ただの糸の切れた人形も同然なのだが、それでもグリグリと跡を残すかのように踏みつける。
「今完全に意識飛んでるけど……いつか、これも気持ちよくなるくらいにはガッツリハマらせてあげるからね。
あ、それとこれは回収させてもらうね。」
音女はそう言いながら、響の口の中に手を入れる。無理やり拳を突っ込むものではなく、指を何本か入れるような感じだが、それで歯の間に挟まっている紐を取り出して、喉の奥に眠るものをひとつ取り出す。
「うわぁ、ベットベトだ。ないと思うけど、一応調ちゃんに拭いてもらおうかな……って思ったけど、これ吸収させる意味あるのかな。
だって、この世界にもガングニールはあったし…はっきり言って世界が違うとなると、これにイグナイトが入ってるとも思えないし。」
ガングニールは、既に吸収済みである。それに、完全に戦い方が違うのならともかく、彼女はインファイター型だというのは盗み聞きした話の中でわかっていることである。
イグナイトがあるのならば、とっくに使っていてもおかしくはない。つまり、このガングニールにはこの世界で積み込まれた技術が詰まってないのだ。
「……なら、念の為に取っておこっかな。」
かと言って、捨てるのも厄介な話である。万が一という事も考えて、ガングニールはこちらで預かっておくことにしたのだ。
使える人物は限られているために、預かっておくに越したことはない。
天羽奏の使うガングニールは吸収させるつもりである。使い手が違うのならシンフォギアも、相応の違いを見せるであろうからだ。
「さて……まぁ、無効化は出来たわけだし……残り4人、頑張って捕まえていこっかな。」
奪い取ったガングニールを適当なところにしまい込んで、ジーンノイズには響を連れてくるように指示した上で、先に部屋を出る。
押してだめなら引いてみろ、その言葉の通りにここまで無理に攻めたててもダメなのならば、無理に強烈な快楽を与える必要は無いのだ。
「人を堕とすのって、案外無理やりでやるよりもこっちの方がいいのかな……調ちゃんとか、クリスちゃんとかその辺見てて思ったけど。」
そんなことを呟きながら、音女は部屋へと向かうのであった。
「……筒抜け、か。となるとあたし達がこうやって話してる内容も…」
「当然、向こうに届いているでしょう。かと言って、一切そんな所がない場所に向かうのなんて不可能です。
探す時間も移動する時間も馬鹿になりません。」
「……じゃあ、どうするんだよ。」
「……僕たちには、どうしようも無いかもしれません。どこからどこまでが彼女の見聞きできる範囲なのかが、分からないんですから。」
そう言って、エルフナインは歩いて外に向かっていた。ふと、アイコンタクトで何かを伝えようとしているのに気づいた2人は、エルフナインについて行くことにした。
「じゃあ、あたし達はこの世界で暮らせってのか?」
「不自由自体はないと思われます。この世界であなた達は死んでいますが、逆に言えばその死を無かったことにでもすればいいんですし。」
エルフナインは、外に出てから紙とペンを2人に渡して自分の分も確保する。
これで、エルフナインが何をしたいのかなんとなくだが二人は理解できていた。要するに、筆談をしようという話である。しかも、口頭では全く別のことを話すというテクニックを用いながら。
つまり、紙では全く別のことを話しているのだ。時間こそかかるが、携帯のメール機能を使ってもどちらにせよ不自然感は残るので、もはや無視である。作戦がバレなければいいのだ。
『ひとまず暫くはこれでいきましょう。向こうからは怪しまれるのは確実ですが、天井がないこの場所での筆談ならば余程のことがない限りバレないと思われます。』
『空にいる奴らに見られやしないか?』
『なら、直ぐに渡せばいいだけです。情報の伝達速度は遅れますが、見せるよりも見るほうが秘匿性は高くなります。』
紙でのやりとりを繰り返すエルフナイン達。書く速度と、一々紙を渡しながら伝達する事に時間をかけてしまっていた。
『で、どうするんだい?10日まで待つのか?』
『いえ、恐らく響さんの作戦もバレている可能性があります。だから、おそらく既に無効化されたあとだと考えています。』
『今すぐに助けに行くのか?』
『いえ、一週間後……つまり今から四日後まで帰ってこなかった場合に別の作戦を決行します。
僕にも、作戦のひとつくらいは作れます。だから、今は僕に任せていてください。』
頷いて、覚悟の目を見せるエルフナイン。その目を見て、それが凶と出ようが吉と出ようが、2人はエルフナインについて行くことに決めたのだった。