エルフナイン達は、リディアンに潜入するために奇策を取った。奏が地面をガングニールのアームドギアで掘って行き、地下深くから直接乗り込むつもりだったのだ。
それに気づいた音女は、ジーンノイズに攻撃させることを提案。しかし、音女が指示する前から攻撃をさせていた調が見た光景は、ジーンノイズがエルフナインの纏うギアによって殲滅させられていっている状況だった。
これを聞いて、音女は地上からとんでもない火力で打ち込むことでエルフナイン達をギアごと消滅させる手に出た。幾ら通常兵装より強いシンフォギアと言えども、あくまで一般的な強さの上から重ね掛けしたもの。圧倒的な火力を、シンフォギアの力を持つジーンノイズで使えば、一溜りもないだろう。良くて肉片が少し残っているかどうか……と、考えるのが普通である。
しかし、爆発する街を見ながら音女は全く別のことを考えていた。防がれた時、これ以上どういう火力を入れるか、である。
「……こんな簡単に終わるくらいなら、苦労はしないけれども…」
こんな火力で倒せるのなら、初めから調1人に任せていてもよかったとさえ思っている。
だが、そうしなかったのは彼女達はまだ終わっていないと直感的に音女は確信していたからだ。
「……さて、やっぱり生きているよね……」
そして、土煙の中に浮かび上がる黒い半球の姿を見ながら、音女はため息混じりにそう呟くのであった。
「……暗っ!?」
奏が発した一言目がそれだった。しかし、それはどこかに反響するでも虚空に響いて消えるでもなく、奏以外の誰にも聞こえない声として認識された。
「あ、あの!?なんにも聞こえないし見えないのですが!!私達死んでしまったのでしょうか!?」
「━━━ふぅ。」
エルフナインが、ため息をつくと同時にその黒い空間は明るく照らされる。
外側から見て存在していた黒い半球は、姿を消していた。
「うぉ……!?」
「い、今のは一体……」
「ダインスレイブの技です。剣から零れる呪いを、膜のように張ることで光、匂い、音などを一切カットするエリアを張ることができます。」
上を見上げるエルフナイン。そして、ジーンノイズ達が次弾装填している事を確認してから、すぐさま指示を飛ばす。
「奏さん!セレナさん!一気に走り抜けますよ!!」
2回目は、恐らく限界なくひたすら打ち込まれることだろう。音も匂いも、振動でさえ飲み込むまさにブラックホール的防御方法なので、あまり多用するべきものでもないのだ。
「あ、あぁ!」
「わ、分かりました!!」
エルフナインの指示の元に、奏達は一気に駆け抜け始める。戦闘は速度が出やすい奏を筆頭に、それに追従する形でセレナが駆け抜けていく。
「さて、最後尾でジーンノイズを屠っていきましょうか。」
そう呟きながら、後ろを警戒しつつエルフナインは2人について行く。このまま侵入して、一気に駆け抜けていく。
響を勝ち取れれば、こちらの勝利も同然……出来れば音女を倒したいが、見つかる前に体力が持つかどうかがわからない。
エルフナインとて、生きている生物なのだ。体力はどれだけあったとしても有限である。
上手く行ければ問題ない……程度であった。そう、あくまで『その程度』なのだ。
リディアンを囲うように、大量のジーンノイズが展開されている。まるで敵に群がる蜂の大軍、死体に群がる蝿のごとく大群であった。
最早それくらいになるまで、リディアンの形がわからなくなるほどに分厚い陣営が仕組まれていた。
「……これだけ投入すれば、エルフナインの無効化は出来るかな。」
作戦に必要なのは、ネガティブ思考である。無論、勝つことを前提にしたネガティブ思考というなんとも矛盾したものだが。
それだけの数のジーンノイズを用意しても、エルフナイン1人が止まる程度にしか考えていなかった。
「最悪、投入することになるかな……」
危機感は感じていない。ジーンノイズを正面から圧倒できる相手も、こうはいない。呪いという力である程度有利に立てているが、それも実力の一つである。
それを念頭に起きながら、音女はポケットからペンダントを取り出す。まるで、シンフォギアのペンダントのようになってしまった、ジーンノイズのコアを、首にかける。
そのまま、一言。
『Gatrandis babel Genenoise tron』
歌を、奏でるのであった。
「てやあああ!!」
声をはりあげながら、エルフナインは後ろにひたすらバリアを張っていた。とは言っても、半球に作り出す例のバリアではなく、それのまがい物と言っても差し支えないほどの粗末なものである。
まるで手にすくった水をぶちまけるかのように、長剣から呪いを飛ばして無効化していく。うしろでは、その影響で大爆発が起こっていた。
「見えてきたぞ!リディアンだ……ってなんじゃありゃあ!?」
戦闘を突っ走る奏が、つい突っ込まずには居られなかった。それもそのはず、大量のジーンノイズの軍団なんてものを見れば、文句を言わざるを得ないのだ。
それだけの大群では、例え奏達がジーンノイズと戦える戦力を持っていたとしても、恐らく衰弱していって負けるであろうと思えるほどだった。
「あ、あんな大群の中を通り抜けるんですか!?」
「前にはジーンノイズの大群!後ろにはミサイル!!ジーンノイズにぶつけたとしてもリディアンの中にいる人質の皆さんの命が危ない!!」
簡単に、かつわかりやすくエルフナインは説明する。そして、要約すれば『すごく詰みかけている状況になっている』ということである。前門の虎後門の狼とはよく言ったもので、しかも前門には餌になりかけている人間達がいる、という訳だ。
「どうするんだエルフナイン!!」
「このまま突き進みます!ですが、その為に策を弄します!!奏さん、セレナさん!アームドギアを貸してください!!」
「わ、分かりました!!」
セレナは自身のアームドギアである蛇腹剣を取り出して、エルフナインに投げ渡す、そして咄嗟に奏も同じような行動をとる。
その瞬間、2人のアームドギアが変形を始めた。
奏の槍は大きく巨大化して、人一人が乗れそうな運転席が形成される。蛇腹剣は2本に別れて、セレナのアガートラームとドッキングしてセレナをぶら下げるような形に収める。
そして、その槍の最後尾と最前に二つに分かれたエルフナインの長剣が突き刺さる。
「とりあえずあたしが運転する!!」
「わ、私はここに捕まっています!!」
「座るところはありませんが……僕は、奏さんの後ろに居させてもらいます!!」
それぞれが、自分の定位置へとセットされる。そして、最後尾にセットされた剣が超高速回転を始めて、呪いの力を排気ガスのように噴射して一気に超加速し始める。
「早っ━━━!?」
突き進む姿はまさに曲がることを知らない流星のように、黒い軌跡を描きながら学園へと突き進む。視界は確保出来ているが、どうにもぶつかりそうになったジーンノイズが片っ端から炭化し始めているのを確認したセレナは、薄くダインスレイブのバリアが張られていると予想した。
しかし、そのバリアは今は悪手かもしれないのだ。
ダインスレイブの呪いは、ありとあらゆるものを呪いとする為に、物質を溶かしてしまう。
下手をすれば、このままリディアンを通り抜けて世界一周もしくはマントルに突入なんてことにもなるかもしれないのだ。
しかしそこは加減してくれていたのか、壁に突き刺さったら止まってくれていた。
「あぐぅ!……うっ、痛かったです……」
「早く登ってきてください!」
エルフナインが、セレナに指示を促す。早く指示を出していかないと、すぐさま全滅必死だからだ。
このまま直接校舎に入ることができれば、少なくとも外の大軍は相手にしなくても済むということになるのだ。
「はあああああ!!」
エルフナインが、懇親の力でダインスレイブの力を解放して辺り一面にばらまく。円形の斬撃は周りのシーンノイズたちを一斉に殺していき、そしてその灰を被ったジーンノイズ達をも殺していく。
しかし、この程度は雀の涙程度だろう。1割も削れれば上出来なレベルである。
「このまま乗り込むぞ!!」
「了解!!」
ジーンノイズを避けながら、一同は校舎の中に急いで入っていく。外にいるジーンノイズはこれで入ってこれないが、中にも多少のジーンノイズはいるのだ。
そのまま、響を探して脱出しよう……エルフナインはそう考えながら、率先して走っていく。だが、その前に一人の女性がたちはだかる。
「……っと…貴方が、華雑音女ですか?」
「……うん。」
静かに頷く音女。しかし、奏とセレナは今彼女が座っている場所を見て、歯ぎしりをしていた。
「はぁ、はぁ……」
「あ、ぐ……」
まず、彼女が腰を落ち着かせているのが、四つん這いになった翼とマリアの上だった。
そして更に、足置き場と言わんばかりに尻を突き出すような形で倒れている響…こちらの世界の立花響の尻の上に、その足は置かれていた。
「……随分と、趣味が悪いね……あんたは!!」
「姉さんを離して!!」
「っ!!セ、セレ、ナ……」
セレナの声を聞いた瞬間、椅子となっているマリアが動揺し始める。その顔は、助けが来たという喜びよりもまるで怯えているかのような恐怖の表情になっていた。
「こ、こないで!来ないでぇ!!」
「ね、姉さん…?」
「……ふん!!」
音女はマリアから立ちあがってマリアを少し遠くに投げ飛ばす。そして、ため息混じりのまま、再び翼の上に腰を落ちつける。
しかし、その後にすかさずどこからともなく現れた調が、空いた隙間に入る。
「……ん、ぁ……」
「はむ、じゅるる……」
そして、調に連れてこられた切歌が音女の足を舐め始める。とはいっても生足ではなく、ブーツの上から舐めているだけなのだが。
「くぅ……!」
セレナが、その様子を見て今にも突撃しそうなほどに音女に睨みを効かせる。だが、当の本人である音女はどこ吹く風である。
「……それで、その格好はなんの冗談ですか?」
エルフナインは、音女の格好を見て目を細める。今の彼女の格好は、ハッキリといえば露出狂のそれに近い。
シンフォギアのペンダントをそのまま大きくしたようなものが、縦に繋がって、胸と腰の周りを1周していた。それ以外は、手首と足首に同じようなものがついていて、それとブーツだけしか何も身にまとっていなかった。
「……なんだと、思う?」
「……どちらにしても、僕は…僕達が貴方を切ります。」
「勝てる、なら……勝ってご覧?」
そう言いながら手で挑発をする音女。その挑発に乗らない方が吉なのだが、しかしそんなことで時間を浪費している場合ではないのだ。
エルフナイン達は、簡単なアイコンタクトだけを済ませてそのまま音女に対して正面突破をもちかける。
当の本人である音女は、そのままの体勢のまま笑みを浮かべる。
まるで、既にこの戦いに勝っているかのような表情をしながら、それぞれ向かってくる奏、セレナ、エルフナイン達を眺めていくのであった。