「……」
街中を、ゆっくりと密かに移動する影あり。しかしどこかに隠れるといったことはせず、道の端っこを何事もないかのように歩いているのだ。
当然、歩いている人間達はジーンノイズによって見張られているために、その影も例外なく見張られていた。
「………」
だが、それをわかっていながらも気にしていなかった。ただ歩いている風を装い、目的地まで歩いて向かっていた。
一切の小細工を使わずに、ただ歩いていく。
「…懐かしいような、そうでも無いような……しかし、残っているのは既に私一人……特攻とは言わない迄も、戦力の確保位はしておきたいところだ。」
そう呟いた影は、女だった。見惚れるようなスタイルの良さ、美しい髪の色。そして身に纏うは金の鎧。
フィーネが、リディアンに向かっているのだ。そして、その事は当然今のリディアンの主である音女も理解している事だった。
「…随分と舐めた真似を。」
音女は、軽く舌打ちをしていた。フィーネが舐めた真似をしている事に対しては、全く怒ってはいない。しかし、彼女は最終的に『ただここを責めてくる』という考えに至ってここに来ている。その考えが、気に食わなかったのだ。
「そりゃあ勿論、ジーンノイズを頭にしかけたのは私だけどさ…だからといって思考停止で挑んでくるなんて、具の骨頂だしバカのやることだよ。」
彼女の頭の中にジーンノイズを仕掛けて、思考を読み取ったり幻覚を見せたりと言ったことを、フィーネにすることが出来るようにはなっていた。
その思考は、全部覗いていたかと言われれば否である。ジーンノイズとはいえただずっとその思考経路を見ていくのは面倒だし非効率なものがある。
だが、彼女は見れていると感じたのだ。ずっと。それ故に、音女からしてみればこんな面白くもないことをしているのだ。
「もういい、彼女にはもう興味が無くなった。」
音女はジーンノイズに命令を出して、フィーネを徹底的に潰すように指示を出す。完全聖遺物は確かに厄介な代物である。
シンフォギアの力をいくら吸収した所で、完全聖遺物に勝てない可能性だってあるのだ。いくら数を出しても不安でしょうがなかった。
そうして、窓からジーンノイズとフィーネの戦いを音女は見守っていくのであった。
フィーネの周りに、ジーンノイズが集まり始めていた。学園から飛んでくるものもいれば、ビルと同化していたものまで多数に渡る。それらの光景を見てから、フィーネは口角を上げてふと、一言だけ口にした。
「━━━計画通り。」
たった一言。その一言だけを呟いてから……
まるで突風と言わんばかりに、風を超え音を超えた速度をその一瞬で出すフィーネ。衝撃波…ソニックブームによって街が破壊されて、自分の体も引き裂いているが、ネフシュタンの鎧の力で即座に再生していく。
「邪魔!!」
そして、リディアンの門を吹き飛ばして一気に侵入。音女がいるであろう場所を一気に探り当てる。
なにせ、わざわざ窓から覗いてくれているのだ。見つけやすいにも程がある。そもそも、この予想を立てたのがフィーネだったのだが。
「ふっ……!覚悟っ!!」
その速度のまま、一気に飛び上がって蹴りの体制に入るフィーネ。自分が真っ先に標的になっていると気づいた音女は、窓から急いで離れていく。その姿を確認したフィーネだったが、か構わずにそのまま飛び込んでいく。
そして、フィーネはリディアンへと飛び込んだ。飛び込んだと言うよりは、蹴りこんだ、というのが案外正しいのだが。
「む、無茶苦茶だ!!」
「無茶苦茶してでも、やるべきだと思った迄だ。」
並の人間ならば、簡単にバラバラになっている案件だが、ネフシュタンの鎧の力により即座に回復していく。
音女も、これには焦ったのか腰を引かせて逃げ始めていた。
「待て!!」
「ま、待てと言われて待つやつは、いない!!」
エルフナイン達を倒す時に使ったジーンノイズのギアを纏って、音女は逃げ出した。生身で逃げるよりもはるかにいいと判断したのだろう。
その判断は正解とも言えるが、既にここまで近寄られてしまっている状況では、完全な正解とは言いづらい行動である。
「逃がすか!!」
「逃がせろ!!」
フィーネからの攻撃を、音女がギアで弾く。しかしフィーネからの攻撃は本気なのか、触手を簡単に破壊されてしまう。
直ぐに再生こそするが、その一撃だけでやはり相手がどれだけ強いのかは音女も理解出来た。
やはり、一筋縄ではいかないようだ。
「しつこい…!」
「そう思うのなら…その命を捨てろ!!」
「捨てたくないから生きてんです!!」
「お前に選択権はない!!」
フィーネが攻撃し、音女がそれを弾く。弾かれる度に音女の触手は破壊されるが、その度に復活する。
このままでは埒が明かないと、音女は纏った水晶の一部をもぎ取る。
「これでも…!」
その水晶は、一瞬でその姿を機械的に変形させて形を変えていく。まるで弓のような形になった後、生成された1本の矢を音女はフィーネに向かって射った。
「こんな…!」
射った矢はすぐさまフィーネによって切り裂かれて弾かれる。しかし、その矢は切り裂かれた後に変形をして、
「何っ━━━!?」
直後に起きる大爆発。その爆風を利用して、一気に音女はその場所を走り抜けた。
まともに戦う方法は、既に彼女の中では廃止されていた。
そのまま音女は水晶を2つ取ってからその二つを組み合わせて1つの武器とした。
その水晶は変形して2つの拳型の武器になったあと、音女の手に装備される。
「━━━はぁ!!」
「いや伸びるのそれ!?」
伸びてきたフィーネの武器を、音女はすんでのところで弾く。フィーネは音女が装備した武器を見て、その本質を理解したのか必要以上に踏み込んで来ようとはしてこなかった。
「……」
「……」
音女は、近づいてこないままに攻めてくるフィーネを見て、背中を見せて逃げだした。
それを、フィーネは全速力で追いかける。
「まったく…厄介な武器を…!」
フィーネは、音女の装備した武器に対して見覚えがあった。いや、正確にはあの武器に使用されたシンフォギアの特徴と言うべきだろうか。
手の形をしているのは、この世界かもしくは平行世界から来た立花響のガングニールの特性だろう。
そして、爪の役割を果たしているのはイガリマである。殴られれば、その命を即座にからすことになるこの組み合わせを、音女は作り出していた。
「……だが、私がこれで引いてしまっていることが、相手にとっての情報となってしまったか。」
引いた、ということはつまりフィーネがイガリマの特性を知っているということにほかならない。
それが分からないほどに、相手も馬鹿ではないだろう…そう理解したフィーネは、次に音女がどんな戦法で来るかを警戒しながら彼女を追い続けるのであった。
「どうするどうするどうするどうする…!」
音女は走りながら考えていた。彼女の頭の中にあるジーンノイズを使うことも考えたが、今その隙さえ見つからない。実を言うと、ノーモーションで催眠下に置くことは可能だから、隙をわざわざ突かなくてもいいのだ。
だが、ノーモーションとはいえ意識はそちらに集中させねばならない。一瞬でも目の前で油断をしてしまえば、即座に殺されるだろう。
ならば、何とかしてフィーネを巻くことが音女の勝利条件と言っても過言ではない。
「……全部ちぎるか…?」
ほかのシンフォギアに存在するアンダースーツが存在しないため、水晶をちぎればそこがしばらく丸見えになってしまうノイズギアだが、しかし音女は一切躊躇することなく自分の体をまとっている水晶を、最小限残して全てちぎってくっつける。
そして、それを乱暴に床に投げつけてそのまま逃げ出す。
「━━━」
地面に投げつけられた水晶の塊だったものは、他のものとは違い機械的な変形はすることが無かった。
だが、肉の塊のような色合いになってから形を変えていき、それは生物的な形を取り始める。だが同時に、体のあちこちが無機物的なパーツにもなっており、酷く歪な生物が生まれようとしていた。
足の大きさは人間の何倍もあるが、爪はまるで鎌のような形をしており、アンバランスの極みとなっていた。
ても爪が同様の形をしており、それに加えて手のパーツまでが機械的になっていた。
刃が幾重にも重なったかなような翼も生えており、胸の位置部分は機会のパーツになっており、そこには空洞ができていた。
よく見れば、体中の至る所が金属や機械のそれになっており、尻尾は蛇腹剣のような形に、先に槍が着いたよな形に納まっていた。
「頑張れ私のペットちゃん!!」
「━━━」
ジーンノイズであり、聖遺物の生みだした生物兵器であることはもはや文句のつけようがない事実だろう。
音女は乳首の上に1つずつ、股間部分に1つ計3つの水晶を体にひっつけながらそのまま走っていった。痴女同然の格好だが背に腹はかえられぬということだろう。
「こちらか━━━」
そして、入れ替わりざまにフィーネがその場所へとやってくる。そして、直後に目に入ったその異形の化け物を見て、フィーネは直観的に後ろに下がっていた。
「聖遺物の塊…手足の爪はイガリマ、尻尾はガングニールとアガートラーム……腕のパーツもガングニールか……翼は天羽々斬、胸はイチイバル……と言ったところか。
シュルシャガナが見えないのが気にかかるが……よくもまぁ、このようなものを置いていってくれたな…!」
舌打ちをしながら、フィーネは遠慮なしの全力攻撃を行う。月をも引っ張ってこれるその一撃は、並の人間ならば即座に肉片へと生まれ変わらせるほどの力を持つ。
しかし━━━
「kurrrrrr…!」
「弾いた…!?」
思いのほか俊敏だったその生物の一撃により、フィーネの攻撃は簡単に弾かれてしまう。
つまり、イガリマの特性である怨霊だろうがなんだろうが切り裂けるという特徴以前に、ネフシュタンの鎧の再生能力が追いつかないほどの大ダメージを負わされる可能性が出てきていた。
「……この化け物を倒すためには…肉の部分を狙うしかないか。」
幸い、単純な機械的なロボットの様ではなく肉がある生物となっている。つまりは、頭か心臓に値する器官を潰せば無効化できる可能性があるのだ。
そこを狙っていくのも、一つの手だろう。
「ふんっ!!」
再びムチをしならせて、フィーネは聖遺物生物を倒そうとする。しかし、その攻撃方法を学んだのか聖遺物生物は、突如腹から丸鋸のようなものを射出したのだ。それも、とんでもない速度で。
「くっ!?」
フィーネの長い髪の先が寸断される。足を丸めて回避したので、下半身が使用不可になる…といった自体は回避出来ていた。
だが、見えなかったシュルシャガナの特徴がこんな所で現れたという事実に、フィーネは舌打ちをする。正面から責められないのならば、真横から攻めていけばいいのだが……
「さて、この狭い建物内でどう動くか…!」
早く音女を追わなければ、自分は直ぐにアウトになってしまう。
限りなく少ない時間制限をどうクリアするか……フィーネの課題はそれだけであった。