「全員が絶唱……?」
「逃げろカリオストロ!下手に攻撃すればろくなことにならない!」
プレラーティが、カリオストロに対して警告を促す。絶唱とは、ただの歌ではない。所謂一撃で敵をまとめて葬るための技のようなもの。
だが、それが常時強化として働いている状態。言ってしまえば、処理のされていない不発弾のようなもの。
下手に刺激を与えればドカン……そしてその刺激で他のジーンノイズ達も絶唱のエネルギーが暴発しかねない、ということが容易に考えられるのだ。
「そうね……ファウストローブが完成しているなら兎も角、こんな劣化品じゃあ……!」
「あの女……流石にこちらが好き勝手するのを許す気は無い、というわけだ!!」
切歌を放り出して、プレラーティはカリオストロと共に引く。持って帰る必要性も無いし、音女が無力化してくれるなら問題ないからだ。
それが、音女と完全に信頼しきった協力関係になる理由になる訳もないので、信頼なんて初めからないが。
「……調、そのギアは…」
「マリ━━━」
『情報共有は禁止。それ破ったら…私も好き勝手にやらせてもらう。』
無慈悲な音声が調の耳に届く。調は通信機をつけた覚えはなかったが、何かしらの方法で通信しているようだった。
そして音女に、自身とこの場にいる者達の殺生権を握られている以上、調は彼女の言うことを聞くしかなかった。
「……切ちゃん、助けに来たよ。」
「ひ、いあぁ……!」
微笑みかける調。だがその声は聞こえてないのか、切歌は喘ぎ続けるばかりだった。
悔しそうに唇を噛む調だったが、すぐにいつもの表情に戻ると、切歌を抱き上げる。
「待ちなさい調!」
そのまま帰ろうとする調。しかし、その前にマリアが立ちはだかる。敵としてでなく、この場を去ろうとする調を止める為に。
悲しそうな顔をしてしまう調だったが……突如、纏っていたノイズに異変が訪れる。
「っ!?ノイズが、膨らんで━━━」
「調!?調ェェェェ!!」
『━━━あー、テステス。聞こえてますかー、マリア・カデンツァヴナ・イブさーん。』
突如、体にまとっていたノイズが膨張したノイズ。そのまま飲まれてしまい、調はノイズの体の中へと取り込まれてしまった。
そして、取り込まれてしまった調……否、ノイズから別の人物の声が聞こえてくる。
音女である。
「……お前が、調に絶唱を歌わせたのか!?」
『えぇ、まぁそうです。普通に歌わせてもろくに強くなりそうもないですからね。一時的な強化としては無難なものですよ。
まぁこれからは一体一体に、さっき記憶させた絶唱を再現させるだけですけど。』
「許さない……今すぐお前の元に行って、調が行かなくても済むようにして━━」
『別にいいですよ?こっちに来ても。それだったら私は今すぐそのジーンノイズを爆破させるだけです。
絶唱ですからね、間違いなく調ちゃんも、抱かれてる切歌ちゃんも吹き飛ぶんでしょうね。』
「っ!?」
淡々と言い放たれる言葉。余裕ぶった声でもなく、焦ったような言葉でもなく、ただ事実を述べただけのような声。
『あ、別に脅しとかじゃないですよ。貴方がこっちに来たら、その2人が変わりに死ぬってだけです。
逆にこの二人を助けようとしてもいいですよ?残ったジーンノイズのエネルギーを暴発させるだけですから。まぁ後者を行っても、数の余波でその辺一体がぶっ飛びますけどね。』
「……2人を解放しろ、代わりに私が捕まってあげるから……」
今ここで、どちらを取っても調と切歌は助けられない。その事実を告げられたマリアは、苦渋の選択をした。
それに対して、しばらく何も喋らなかった音女だったが、何事も無かったかのように喋り始める。
『……貴方が捕まる代わりに、調ちゃんと切歌ちゃんの身の安全を守れって事でいいですか?』
「……それで、いい。」
『まぁ、メリットは出来ましたしいいでしょう。但し、貴方がここに来るまで調ちゃんは閉じ込めておきます。
ギアの解除も、入口前でやらせます。異論はありませんね?』
「ない……2人の安全さえ、守ってくれるなら。」
苦しい決断だったが、2人を救えるなら……と、どんなことをされても屈しない覚悟を、マリアは抱えるのであった。
「う、うぅん……?こ、ここは……」
「起きた?調ちゃん。あ、ここ君が捕まってた場所だから。」
「っ!!そうだ切ちゃん!!」
「無事だよ、クリスちゃんも解放した。代替えも手に入ったしね、色々。」
「代替え……?」
気がついた調。そして、音女は変わらない調子で……というわけではなかった。調はまず、音女の変化に違和感を抱いた。
出撃前は、調にすらビクビクしていた音女が、今は何故か流暢に話していること。それがとても不思議だった。
「……なんで、そんな流暢に?」
「あー、うん。今すっごいイライラしてる。それでじゃないの?多分。あの3人が、私のもの使ってるって思えば思うほどイライラしてね。助っ人なのに好き勝手にしてさ、私が思いつかなかったことを教えてくれたのはありがたいけど、それで勝手にジーンノイズを持っていったり勝手に苗床予定の子を連れていくのっておかしいと思うんだよ。
ってそこまで考えるとなんか、文句の一つでも言いたくなってきちゃってるんだよ。」
「……あの、そう言えば代替えって……」
「あー、うん。なんだっけ?君と切歌ちゃんの育ての親みたいなものなんだっけ?マリア・カデンツァヴナ・イブって。」
淡々と喋る音女。その表情には、イライラしてるような気持ちがまるで写ってないが、逆にビクビク恐れているわけでもなかった。
「マリア!?あなたマリアをどうしたの!?」
「苗床にしたに決まってるじゃん。後、そこら辺の女の子数人。あ、なんなら下見てみる?」
音女が、ガラスを指さす。調は寝ていた台から飛び降りて、そのガラスを覗き込む。
下を見れば、確かに彼女も見覚えのあるピンクの髪色がそこでノイズに犯されていた。しかも、その両脇に2人ずつ見知らぬ女性が犯されていた。
「……なんで…何でこんなことを!!」
「っ!……な、何でって…何が?」
「貴方は女の子を辱めたいと言った!それだけでいいと言った!!なのに何故あんな酷いことを!!」
「……そ、そもそもおかしいと思わなかったの?」
「……え?」
調の怒声を目の前で聞いたからか、萎縮してしまう音女。しかし、調の疑問こそ、意味がわからないと言いたげに首を傾げていた。
「わ、私はあなたが囚われるよりも早く……クリスちゃんを苗床にした。何で、それを忘れてるの?」
「だ、だって貴方が……貴方が、女の子は辱めたい…って……」
「わ、私の性癖は……確かに、そう。けど、わ、私の性癖と……ジーンノイズの繁殖は、別。
あ、あぁいう方が……効率がいい、ってだけ……で、でも痛いだろうから、ほぐすくらいはしてあげるけど……」
音女の言っていることが、まったく理解できない調。しかし、混乱している彼女にもやることは一つだけあった。マリアを助ける事である。
「な、ならマリアを助けて!私、私の体なら使っていいから!!」
「……それは、他の2人も巻き込むけど、いいの?」
「え……他の、2人?」
音女の言っていることを、理解したくなかった調。しかし、この場合の他の2人と言うのは……当然、クリスと切歌である。
「あ、当たり前……私が、ジーンノイズを貸してまで、貴方の願いを聞いてあげた。
そ、そもそも私が切歌ちゃんを……欲しがったのは、せ、性欲の対象としてもそうだけど……も、元々は苗床の為、だった。」
調に、言葉を紡いでいく音女。その言葉に、調は段々と言葉をつまらせていく。
「あ、貴方は……私が善意で、助けようと思った、の?め、メリットもデメリットも……確かに、ないよ。
な、苗床も私の相手も……誰でも、よかったから。そ、装者は女の子だし……シンフォギアも持ってるから……捕まえたら、一石二鳥……だもん。」
「い、一石二鳥……そ、それだけ……それだけの、ために?」
調は、体を震わせる。切歌も、クリスも、マリアも……音女からしてみれば、いてもいなくても大して差がないのだ。それを、今目の前で言われたのだ。
「そ、そう…それだけ。」
「あなたは!人を何だと……!」
「なん、とも……思ってない。」
「……え?」
「ち、父親は……私が小さい時に、私を犯した。そ、その後すぐにノイズに殺された。
あ、預けられた先の養父も……私を犯した…!その後、ノイズで死んだ…!そ、その次も…!その次も!!」
段々と震えが大きくなっていき、呼吸も荒くなってくる音女。その目は焦点が合わなくなっていき、体の震えを止めようとしているのか、音女は自身の体を抑えようとしていた。
「はぁ!はぁ!………はぁ……!
わ、私は……ノイズに助けられた。け、けど別に同情して欲しいわけじゃない……
た、ただこんなことをさせられ続けたせいで……人の事なんて、なんとも思ってない……皆、一緒だと、思ってる……それだけ。」
「……」
「………そ、それでどうする、の?」
「え……?」
「マリア・カデンツァヴナ・イブと貴方を取るか……暁切歌と雪音クリスを取るか……」
調は、顔を俯かせる。どちらも彼女に取っては大事な人物である。しかし、ここで両方を助けようとした暁には、音女によって無慈悲な罰を下されてしまう。
自分一人、と言うだけならよかった。しかし、その選択肢は許されない。
全員苗床、と言うのはこの状況において最悪の結末である。故に、選ばなければならないのだ……どちらかを。
「えと……えっと……!わ、私、私は……!」
「……ぜ、全員助けられる様に……してあげ、ようか?」
「……え?」
「貴方も……今、選ぼうとしている3人も……ぜ、全員まとめて……助けられる方法……出して、あげようか?」
しかし、まさかの音女からの助け舟がここで来た。予想外からの方向に、調は思わず先程までフルに働かせていた頭を止めてしまう。
「じょ、条件……交換条件を出す。その条件に乗ってくれたら……みんな纏めて、助けてあげる。」
「の、飲みます!それでマリアも切ちゃんも先輩も救えるなら……!」
「わ、わかった……な、なら教える、ね……?」
選択肢など、調には既になかった。焦りに焦って、その言葉を発した瞬間に、音女は笑みを浮かべる。
怯えていた彼女が、笑みを浮かべたのである。
「……立花響、風鳴翼……こ、この二人の友達でも誰でもいいから……この、2人のどちらかと……親しい女の子を、『誰にも悟られずに』連れてくること。」
「親しい……人?」
調の頭の中で、『そんな人物はいたか?』とぐるぐると周り出す。翼は、リディアンにいる時も、特定の友人を作ったことがないと聞いている。共演したアイドルや、そのマネージャーも親しい間柄を築いていたとは考えにくい。
ならば、響の方はどうか。響は、その性格故に学内の友人は少なくない。だが、その全員の細かい情報を知っているわけではなかった。
「━━━あ。」
「……いるん、だね。」
響の友人であり、自分でも住んでいる場所までわかるくらい、親しい人物。
思いついたのは1人だけであった。
小日向未来……中学時代からの響の友人であり、響にとっての陽だまり……彼女ならば、自分が連れてこれる上に、条件にも見合った少女である。
「い、いない……そんなの、いない……!」
「だ、だったら……ぜ、全員に……」
「っ!!」
クリス、切歌、マリアの3人を取るか。それとも未来1人を取るか。いつもならば選ぶことの無い選択肢。
全員を助けると、いつもならば調は答えられるだろう。しかし、今の調にそんな余裕はなかった。
悩んだ、調は悩んだ……悩んだ末に。
「私、は━━━」
補足
・華雑音女
苗床は誰でもいい。自分の性欲を相手してくれる相手も誰でもいい。装者も捕まえたい。しかし、この3つは全く繋がっていない別の項目である。
因みに、彼女がいた家族の滅んだ回数は、両手で事足りるが……途中から親戚ですらない家にも預けられていた。
・マリア・カデンツァヴナ・イブ
ちゃっかり捕まって孕まされる。
・ジーンノイズ
絶唱をいつでも発動できる。不発弾のようなもので、強い刺激を与えてしまうと絶唱で溜め込んだエネルギーが一気に解放されてある意味爆弾と化す。
書いてませんが、ちゃんと響と翼の分も次で書きます。