※この作品はR-18です。

ベイビーからアダルトへステップアップしました   作:右野向左衛門

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第一章 丸尾栄一郎の告白
#1「再会」


「じゃあ来年の夏、アトランタで会いたいな・・・・」

なっちゃんがアトランタに行くとき、僕にそう話してくれた。

あれから1年が経った。

 

下部大会で着実にポイントをゲットし、世界ランキングで300位を切ったことで、ATP250への参加資格を得た。自分は予選から出場することになったけど、本当は本戦から出たかったけど、世界は甘くない。なっちゃんも、こんな環境で世界を目指しているんだろうか。

さすがはATP250だ。これまでとは何もかも違う。下位ツアーはホテルの手配から交通機関の確保まで、何から何まで自分だけでやらなければならなかった。だがATPの参加資格を得れば、そんな生活ともおさらばできる。ホテルは主催者が用意してくれるし、空港からホテルまで来るまで送迎してくれる。選手にとって、雑務から解放されるメリットは計り知れない。

それにしても、なんと立派なホテルなんだろう!部屋も広いし、キッチンつきのコンドミニアム(分譲マンション形式)の部屋。これだったら、長期滞在も快適そのものだ。

ほっとしたら、一気に睡魔が襲ってきた。飛行機の中では、緊張で十分に眠れなかったからな。時計の針は午後4時をさしている。試合は3日後だ。勝つためには、時差ボケ対策も重要になってくる。いま寝ちゃダメだ!と必死になって首を振り、眠気を振り払っていたら、電話が鳴った。ひょっとしたら、なっちゃんからかも知れない。

 

「もしもし、なっちゃん!?」

「エーちゃん、着いた?」

「うん、着いたよ。今、どこにいるの?」

「家だよ。でもまだ、準備しているから、7時頃ウチに来れる?住所で家はわかるよね?」

「うん、大丈夫だと思う・・・・。じゅんび?」

「じゃあ後でね」

「うん後で」

 

準備?

なっちゃんは、何の準備をしてくれているのかな?

ホームステイ先の家族に、僕を紹介してくれるのかな?ひょっとして、家族と一緒にホームパーティーをすることになり、その準備をしてくれているのかな。

約束の時間まではまだ余裕がある。それまではコートで汗を流そう。

 

予選会場は、立体駐車場の下にあるテニスコートだ。3日後はここで試合なのか。その前になっちゃんに会うのか。これから起こるであろう事を考えているからか、ボールコントロールが定まらない。集中できていないんだな。こんなときに無理してもダメだ。一汗かけたことだし、今日はこのくらいで切り上げよう。

 

ついに、なっちゃんがホームステイしている家の前に来た。

地図を片手に探し回っていたけど、無事に約束の時間に着くことができてよかった。

1年ぶりに会える。

やっと彼女に会える。その喜びをかみしめながら、彼女の家のドアをノックする。

玄関のドアが開くと、喜色満面の表情でなっちゃんが立っていた。

「なっちゃん久しぶり!会いたかったよ」

「うん。私もだよ」

彼女はそういうなり、僕を力一杯抱きしめてきた。僕も負けじと、なっちゃんを力一杯抱きしめる。

「あははははー 本物だー!」

「うんうん なんか感動・・・・」

こちらとしては、もうちょっと感動に浸っていたかったのだが、彼女はかまわず

「ねぇ早く入って ご飯作っておいたから!」

といいながら、左手を僕の右肩にかけ、家の中に引っ張り込もうとする。外国で、なっちゃんの手料理が食べられる!僕はそのことだけで胸が一杯になった。

「え!わざわざ作ってくれたの?ありがとう!」

玄関のドアを閉めながら

「うわぁ・・うれしいな! 準備しているってそういうことだったのかー」

というと、彼女は顔を赤らめながら

「あとは心の準備とかね」

と、ぼそりとつぶやいた。僕はびっくりして、思わず

「えっ!!」

と大声を出してしまった。しまった!今の声、ホームステイ先の家族の人にきかれたら、ちょっと恥ずかしいなと思いながら、僕は玄関のドアを閉めた。

 

さすがはアメリカだな、となっちゃんが住んでいる家を見て思った。一つ一つの部屋が、日本のそれとは比べものにならないくらい広い。ホームステイ先の家族に挨拶したいというと、彼女は

「今、外出しているんだよ。エーちゃんが来るといったら、ご主人が『じゃあ彼が滞在中は、ボクたちは外に出ているよ。二人きりの素敵な時間を過ごしなさい』っていってくれたの」

といった。顔はまだ赤いままだ。

二人っきりの素敵な時間、かあ・・・。これから、どんなことが起こるんだろうか。

 

なっちゃんの案内でリビングに入ると、広いテーブルには料理が沢山並んでいた。

カレー、ピザ、サラダ、そしてお米に味噌汁。海外でお米と味噌汁が食べられることほど、嬉しいことはない。

飲み物として緑茶、デザートとしてブルーベリーパイとコーヒーセットが用意されている。

「こんなに沢山のご馳走、なっちゃんが作ってくれたの?ありがとう!」

「私はご飯を炊いて、味噌汁を作ってサラダにドレッシングをかけただけで、他の料理はホームステイしている家族が作ってくれたんだ。カレーに入っている野菜の一部は私が切ったんだけど、普段包丁なんかほどんど使わないから、なかなかうまくいかなくて」

皿に盛られたカレーの野菜は、しかし食べやすく切られている。普段から自分のことを「超感覚派」と呼ぶ、彼女のイメージとは正反対だ。本気で料理の基本技術を学んだら、いい奥さんになるに違いない。

「でもまあ、話したいことは沢山あるから、さっさと食べようよ」

「そうだね。料理があっつあつのうちに食べるね」

キンキンに冷やされたグラスにペットボトルの緑茶を注ぎ

「じゃあ、2人の再会を祝して、乾杯!」

「乾杯!」

2人ともグラスの緑茶を一気に飲み干した。きっとそれだけ喉が渇いていたのだろう。

 

普通だったら緑茶の代わりにビールなのだろうが、僕たちは年齢制限のためにアルコールは飲めない。

現地で「緑茶」はほとんど砂糖入りなのだが、食卓にあった緑茶は砂糖なしの商品。家族の心遣いが嬉しかった。

 

食事をしながら、ボクたちはこれまでのことを語りあった。

運動不足解消のためにテニスを始めたこと。

その後の急速なランク上昇に、自分でもびっくりしたこと。

プロに転向することなんか、最初は思ってもいなかったこと。

ジュニア時代のこと。

ライバルとの対戦の思い出。

テニスの道具、戦術、その他諸々。

高校時代のたわいのない話の数々。

 

話に夢中になって、ふと壁に掛かっている時計を見ると、針は10時15分前を指していた。

「準備はなっちゃんがしたから、後片付けは僕がやるね」

僕はテーブルの食器をキッチンのシンクに入れ、軽く洗剤で汚れを落としてから、すぐそばにある食器洗浄機に食器をセットする。しかし残念ながら、僕は洗浄機の使い方を知らない。なっちゃんに教えてもらおうと視線を横に向けたが、傍らにいるはずのなっちゃんがいない。あれっと思って後ろを振り返ると、何やら思い詰めていた表情をしていた。思わず顔を正面に向けると、彼女は静かに自分の身体を、僕の背中に押しつけた。

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