※この作品はR-18です。

Monster Survivor   作:てんぞー

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1年目 夏季~秋季

 ランポスの爪を右手で握る。巻かれた布越しに鋭く磨かれたその根元が僅かに肌に食い込む感じを得ながらも、痛みを無視して、木の上から短く、息を吐いて呼吸を整える。静かに、静かに心を整えて、何時でも自分の唯一の武器を振り下ろせるようにする。チャンスは一度しかない。その一度で確実に決めるしかないのだ。それを自覚し、意識し、自分を追い込んで行く。この逆境の中で自分を一つ上のステージに押し上げなきゃいけないのだ。

 

 そうしなければ、生き残れない。

 

 それがこの4か月で学んだことだった。

 

 まだ紅葉が始まり、色が変わり始めたばかりの木は葉が落ちてはいなく、隠れるのであればぎりぎり使える、という程度には利用できる。だからこの状態で隠れている事がバレない事を祈りつつ、近くをゆっくりと警戒する事もなく歩いている、ステゴサウルスを思わせるようなフォルムをしている草食()の存在を確認した。

 

「気づくなよ……気づくなよ……」

 

 肉が食べられるかもしれない。今までは虫とトマトと玉ねぎだけを食って生きて来た生活だった。だがそれから脱却する可能性が出て来たのだ。興奮しない訳がなかった。だからこの過酷なサバイバル生活の中で、漸く自分の力で狩猟できるかもしれない、そう思えるだけの準備と力を込めて来た。

 

 左手には蔦と妙に粘着質な草……《ツタの葉》と《ネンチャク草》を使って作ったネットを握っている。チャンスは一度きりだ。既に数か月前に一度、狩猟に失敗している。あの頃は純粋に自然と、その生命力を舐めていたのが原因だ。いや、この世界という現実そのものを舐めていたのが事実だ。食べ物を求めてキノコを食べてみて、数時間は吐き続けていた頃が懐かしい。

 

 アプトノスの様な草食竜たちが食べた果物以外はもう、口につけない様に気を付けている。

 

 だがそんな生活も、ここでアプトノスの狩猟に成功すれば話は変わってくる。秋の内に蓄えられるだけ、蓄えなきゃいけない。冬の間、まともに食料が手に入るかどうかが不明なのだから。

 

 アプトノスなら、草食竜なら狩猟できる。

 

 その実績と自信が必要だった。

 

 冬も狩猟して生きられるんだ、という確かさが必要だった。

 

 だから狙いを定める。

 

 アプトノスの群れが見える。スニーカーの中の足が少しずつ汗ばんできているのが解る。呼吸を止め、アプトノスの群れが木の横を歩き去って行くのを見る。まだだ、まだ動いてはならない。脅威になりえるという事を悟られてはならない。まだ潜み、呼吸を止め、そして大きなアプトノスの姿を見送って行き―――見定める。

 

 群れの中に存在する若く、そしてまだ小さい子竜の存在を。

 

 その姿を見て、狙いを決める。左手で握るネットをしっかりとつかみ、何時でも投げられる様に調整しながら、アプトノスの子竜が近づいてくるのを見た。少しずつ、少しずつ、近づいてくる姿を見て、そしてそれが木の横を通ろうとした瞬間ネットを投擲した。

 

「!?」

 

 粘着質を兼ね備えたネットは子竜に降り注ぐと同時に引っ付き、その動きを絡めとりながら鈍らせる。その瞬間をチャンスに、一気に木の上から両手でランポスの爪を握り、全力で振り下ろす様に飛び降りる。

 

 狙う所は一か所。

 

 首のみ。

 

 相手がどんな存在であろうと、急所を深くえぐれば殺せるのは生物である以上、不変のルールだった。殺す時は首筋に食らいつく。それはランポスの狩猟を盗み見て学習した事だった。必要なのは躊躇のなさだ。相手がまだ子供だから、とか考えてはならない。冬に備えて、自分が狩猟できるという自信を作る必要があった。狩猟が出来るという前提が必要だった。狩猟が出来るという実績が必要だった。

 

 今食べている野菜などは冬になれば育たないかもしれない。

 

 だけどアプトノスは年中存在する。寒冷期にも出没するのはフロンティア時代に学習している。だから、ここでアプトノスを狩れるという事実が欲しかった。この先、自分が生きて行く為にも。

 

 故に一切の迷いも躊躇もなく、飛び降りて爪をアプトノスの首に突き刺した。驚くほどに簡単にランポスの爪はアプトノスの皮を引き裂いて突き刺さった。ネット越しにアプトノスが暴れ出すのが解る。子竜ではあるが、根本的に()()()とは子供の時点で別次元のスペックを有している。だが動けば動くほど絡みつくネットと、そして首に深く突き刺さったランポスの爪が容赦なく動きを捉え、命を奪って行く。必死に助けを求めて鳴き声を上げ、もがく様に川へと向かって走り出す。だが動けば動くほどその動きが緩んで行くのが解り、周りにいるアプトノスも最初の一撃で死を悟ったのか、子を置いて行く様に逃げ出し始めていた。

 

 非情に思えるかもしれない。

 

 だが適者生存、弱肉強食の自然世界での中では死ぬと解った瞬間、見捨てるのが最適解だった。

 

 アプトノスたちは悟ったのだ、どう足掻いても子を救えないと。だから逃げ出した。

 

 押し込む爪を横へと引き裂きながら、血を掻き出すように傷口を広げる。最後の力を振り絞って川の中へと子アプトノスが踏み込むが、それが限界だったのか、横へと倒れて行く。そのまま、アプトノスの背から降りながら顔を足で押さえつける様に水の中へと押し込み、傷口を更に広げる様にアプトノスを失血させながら溺死させる。

 

「はぁ……はぁ……喜んでる暇もねぇ」

 

 だけど川まで死体を運ぶ必要がなくなったのは良かった。動きがなくなったアプトノスの首から爪を引き抜きつつ、川の中の斜面、首が下の方になる様に尻尾を掴んで、体を回す。確か血抜きをしないととても食べられたもんじゃない、という話は聞いている。首を大きく斬ったし、川の水に流されて血がこれで出て行く事を祈る。

 

 季節は秋だ。暖房器具の概念がなく、温暖化現象の無い世界では既に寒さを感じている季節だった。冬で凍死しない為の準備もしなきゃいけない……だがブルファンゴを狩るなんて不可能だ。冬になるまでに、殺せるだけアプトノスを殺して、その皮を集めなきゃならない。それを毛皮代わりにするのだ。

 

「干し肉……干し肉を作るには薄く切った肉を水分を飛ばして乾燥させなきゃダメ……だったっけ? くそ、知識が曖昧すぎる。こっち側にはランポスが来ないのが救いだな」

 

 呟きながらも、口元は笑みに歪んでいる。自分が、漸く、数か月という修練と鍛錬の、準備を経て、漸くアプトノスという一種の竜を狩る事に成功した事実に、興奮と感動は隠せなかった。目元から流れ始める涙をネットをアプトノスの体から外しながらの手の甲で拭い、流れ出す鼻水を啜りながら黙って、アプトノスから血を抜いて行く。この後、肉を確保する為に何をすればいいのか、それを考えつつ、思い出す。

 

―――なぜ、こうなってしまったのかを。

 

 

 

 

 モンスターハンター、というゲームのシリーズが存在する。

 

 そのゲームの世界はファンタジー世界で、不思議な力が存在する。だが良くあるファンタジー系統のゲームよりも文明は更に後退した、中世よりも前の、もっと未発達な文明で、大自然が手つかずのまま残された時代がベースとなったゲームである。プレイヤーはアバターを作成し、《ハンター》として大自然の中に居る《竜》や《龍》を狩る事で素材を獲得し、それを材料に武具を作成し、更に強い相手へと挑んで行く。そうやって繰り返し強くなって頂点を目指すゲームだ。

 

 初代モンスターハンターは結構人気があった。オンライン機能はまだ時代に考えて少し早かったかもしれない、という部分はあったが。たぶん、明確に人気に火を付けたのはポータブルシリーズが出てからだろう。どこでも好きな時に知っている仲間とドラゴンを狩りに行ける。会話して遊ぶ事が出来るというのは結構、楽しい経験になるのだ。そしてそれもシリーズになる程度には人気が出た。据え置き機から何度かハードを変えつつ、大型の据え置き機に、オンラインにも対応し、大人数で遊べるようにしながら新要素を盛り込み、何時までも新鮮に楽しめる様に、進化を続ける良いシリーズだった。

 

 そんな自分も無論、数多いプレイヤーの一人だった。

 

 画面の中で武器を振るいながら飛竜と戦うハンターは雄々しく、そして格好良かった。現実がこんな風になれば間違いなく楽しくなるのに。プレイヤーであれば一度はそう思うだろう。狩猟して得た素材を販売すれば食うのに困らない。ギルド、お前ちょっとぼったくりすぎじゃね? とか誰だって考えるだろう。

 

 だけど違う。

 

 現実は違うのだ。

 

 アレがリアルとか、ただのクソゲーでしかない。

 

 それを誰よりも、ある日唐突に森林の中で目覚めた自分が理解してしまった。

 

 1か月目は地獄の言葉に相応しい時期だった。

 

 まずなんでいきなり森林に目覚めたのかが解らない。持ち込みの道具はスマートフォンとガチャ予定の3万円分のプリペイドカードが全財産。森の中、サバイバル経験も知識もなし、スポーツは水泳が得意な程度。それで生きてみろ、という考えが出来る奴の方がおかしい。アプトノスを見てうおー! モンハーン! ヒャッハー! 俺もハンターだぜー! と、夢を見るのは簡単だった。

 

 狩猟してみようとアプトノスに挑んで、相手にすらされず、尻尾で追い払うように振り抜かれただけで吹き飛ばされた事は、今でも苦々しい記憶となっていた。食べ物を探す為にキノコを食べてみて下痢になる。モスの肉を目当てにモスを狩ろうとしてタックルを食らって川に突き落とされる。ランゴスタを倒すのに死闘を繰り広げる。カンタロスの動きが予想より早くて切り傷が出来る。釣りをしてみてバクレツアロワナを吊り上げて怪我をしかける。

 

 まぁ、だが運は良かったと言える。まだ夏ぐらいの頃だったからだ。拠点としている場所の付近に、天然の果樹園があったのだ。おかげで飢える事はなかった。最初はお腹を下してしまう事もあったが、それもなんとか乗り越えて、自分の寝床を作ったりもした。それが最初の1、2か月の行動だった。

 

 それからランポスの死体を見つけたのは僥倖だった。

 

 ランポスには爪と牙がある―――それまで使っていた石器製の道具と比べれば、一気に効率が段違いとなった。おかげで今回、漸く、アプトノスを狩猟するという事が可能となった。

 

 転移、或いはトリップ4か月目の出来事だった。

 

 季節は秋―――紅葉が進んでいる。

 

「流石に1回で全部運ぶのは無理か、やっぱ……こっち、ランポスが来ないって解ってても怖いんだよなぁ……」

 

 秋が終われば冬が来る。それに備えて、今はこのサバイバル生活の準備の真っただ中だった。チートなんてものはない。ご都合主義のように整えられた生存術なんてものはない。曖昧な知識を総動員して、解体したアプトノスから肉を薄くスライスし、皮を剥ぎ、そしてゲームで言われる竜骨を何とか取得した。それを木製のソリの上に乗せて運んできた場所は、

 

 この森林の中に位置する、個人的に丁度良い、と思っているサイズの木だった。

 

 その表面にはしっかりと巻きつけられたツタが存在し、ちょっとやそっとの事では剥がれないこのツタは、登るのには丁度良い足場だった。ソリの上にのせてあるものを既に用意しておいた、1メートルサイズの葉で包んで、それを細めのツタで縛って、口で噛みしめる様に持つ。そしてそのまま、

 

 木を登り始める。

 

 木登りなんて子供の時、公園でやって以来の事だった。

 

 だがこのサバイバルでは必要な事だったから、自然と出来るようになった。両手でツタを掴みつつ、体を上へと押し上げる様に体を登らせて行く。右手、左手、交互に動かしながら歯で噛みついているツタを落とさない様に、顎に力を入れて引っ張り上げる。

 

 そのまま、20メートル程の高さまで登る。落下した場合、死ねるだけの高さになる。最初は怖かったが、もしもランポスがここまで近づいて来た場合……等を考えた場合、最低限これだけの高さが欲しかった。何よりも、自分の寝床となる場所を支えるだけの力のある大きな枝や形は、ここが一番だと判断したからだ。

 

 そこは枝などを使って作った、疑似的なツリーハウスになっている。少し前までは枝をたくさん重ねて床をつくっていたのだが、ランポスの死体から爪と牙を入手した事で、木材の加工という概念がついに導入された。そのおかげで数日に1個、というペースだが木の板を作れるようになり、それを今はここに乗せている。天井は木の葉が勝手になっている為、雨水がここまで通る事は考えなくてもいい。

 

 人間、死ぬ気でサバイバルを始めれば案外どうにかなるものだ。

 

「ぺっ、まぁ、モンハン知識が前提としてなければ死んでただろううな……」

 

 床の上に包みを投げ上げたら、再び地上に降りて行く。ハンターの様な強靭な肉体ではない、地球人の体だ。だから普通に降りないと骨折してしまうので、足を滑らせない様に気を付けながら、何度も往復を繰り返して上に荷物を運んで行く。そうやって荷物を上へと全て運び込む頃には、それなりに時間が経過していた。

 

「うーん……やっぱり運ぶ為になんか、作った方が良さそうだよな……」

 

 上から引っ張り上げる為に滑車みたいなのがあればいいのだが……そんな加工技術はない。だから出来る事と言えば枝に引っ掛けて引っ張り上げる程度だが、そうするとツタが傷ついて、途中で千切れる可能性が出て来る。となると枝を何かで保護する必要があるが、その為に使えそうなのは……アプトノスの皮だろう。

 

 自分が先ほど狩猟して手に入れたアプトノスの素材を見る。

 

 薄くスライスした血抜きされたアプトノスの生肉

 

 それなりの大きさの竜骨。

 

 そして最後にアプトノスの皮。

 

 肝等に分類される部分は正直、自分には扱い兼ねるし、消費するならその場で焼いて食べないとならない。その余裕が今の所はない。と言うか肉を焼くなんてことをしたら、臭いが広がり過ぎる。ランポスの縄張りから此方へと来るには、ランポスでは登れない岸壁を登る必要がある。それを考えれば安全かもしれないが……まだ、完全に森林エリアを探索し終わった訳ではないのだ、油断は禁物だ。

 

 油断したからアプトノスやモスに殺されかけたのだ。

 

 臆病でいるぐらいが丁度良い。馬鹿な日本人のままだと、地獄を見るだけなのだから。

 

 とりあえず、まずは干し肉を作る事にする。此方は運よくアニメや漫画知識で軽い真似事が出来るからだ。現状、ドライフルーツの作成には失敗しているけど、肉の方は成功させたい。なので薄くスライスして、水分が抜けやすくした肉を木の板に乗せ、そこで乾かす様に並べる。

 

 これでおしまい。腐る前に乾燥する事を祈る。これが夏だったら腐るのが早いだろうが、温暖化現象もない、森の中だ。しかも秋だ。既に寒さすら感じるこの季節の中で、そう簡単に肉が腐る事はないだろう。

 

 とりあえず肉はこれでいい―――問題は冬への備えだ。

 

「アプトノスの皮はまず家の補強に使うだろう……?」

 

 まずはこのオンボロツリーハウスの強化に。水をはじくアプトノスの皮は冬、もし雪が降り始めた場合、横から入り込んでくる雪を弾き、そして風を遮断してくれる。正直冬の前に最低限、アプトノスの皮を重ねて壁を作りたいのが本音だ。まず干し肉と合わせてこれが冬の備えで必須だ。

 

 そして凍死対策もしなければならない。

 

 つまりは毛皮の調達だ。

 

 アプトノスの皮は薄く、触ってみた感じそこまで断熱性が高いわけではない。つまりこいつで風をしのぐ事は出来ても、暖かくなる訳ではない。つまり普通に凍死する可能性がある、という事だ。少なくとも何らかの毛皮を狩る必要がある。

 

 今自分がいる場所を森林中央エリアと呼んでいる。

 

 アプトノスたちがいるのは森林南エリアであり、ここには大きな川が流れている。果樹園が存在し、キノコなども育っており、それを目的に集まるモスが多いのもこのエリアになる。つまり草食竜のパラダイスなのだ。林檎の様な果物を見つけたのもここになっている。

 

 次に森林東エリア。此方は端まで移動すると岩壁が存在するのだ。鉱石が採掘できそうな場所が幾つか存在するが―――加工技術も道具も存在しないから、自然そのままで放置してある。ここを降りる事でランポス達の縄張り、巣へと降り立つ事が出来るのだ。こいつらのリーダー、ドスランポスが大体の場合で居座っている為、自分は未だにこの先へと進んだ事がない。ただ、一度、この岩壁の上から巣の入り口を襲撃するイビルジョーの姿を目撃する事があった。

 

 突然登場したらランポス達を食い殺し、そのまま奥の方へ―――巣の反対側へ、丘の方へと向かった。もう二度と会いたくない、とその姿を安全地帯から眺めながら思った。しかしイビルジョーが生息する丘の方面には絶対行きたくない。

 

 森林西エリアは更に木々が増えた、大森林エリアとなっており、薄暗いこの環境では多くのキノコやモスが見える他、ランゴスタの縄張りになっており、カンタロスと含めて結構な数が存在する。ちなみにランゴスタとカンタロスはタンパク質を補給する為にやむなく食べている為、ちょくちょく侵入しては1匹ずつ釣り出すように引き出し、全力で石を投げつけて、叩き落してから殺して焼いて食べている。ロイヤルハニーが死ぬほど欲しいから巣を探したいが、1回だけ巨大な影を見た事がある。おそらくはクイーンランゴスタなのだと思っている。

 

 ランポスの爪でならたぶん切り裂けるのだろう―――その前に大量のランゴスタに囲まれて刺殺されるのが目に見えているので、西エリアは入り口付近はうろつかない事を決めている。

 

 そして最後、森林北エリア。此方は木々が少なくなり、開けた場所に花畑が見えて来る。そしてそこを縄張りにするケルビやブルファンゴが見えるのだ。その他にも大きめの湖が存在し、そこで釣りをする事も出来るのだが、バクレツアロワナと解らず釣り上げた結果、怪我をしそうになり、釣りはそれ以来封印している。だが竜骨が手に入った今、もうちょっとまともな釣竿を作れそうだし、再び釣りに挑戦するのも悪くはないかもしれない。

 

 まず、毛皮を入手するならこの花畑が狙い目だろう。

 

 ケルビにブルファンゴが存在する。こいつらを相手にすれば毛皮を入手する事が出来るという点がある。

 

 あるのだが……実は色々と怖い。

 

 まずこの花畑、ちょくちょくランゴスタが湧く。花の蜜を集めているというのは解るのだが、それ以上に高低差が非常に少なく、木が少ないので登って待ち伏せというのもしづらい環境なのだ。その為、花畑に突入し、ブルファンゴとエンカウントすると物凄く面倒な事になるのだ。実際に一度、追いかけられて湖に飛び込んで泳いで逃げた事もあるのだ。死ぬかと思った。

 

 だからブルファンゴやケルビを狩る時は、正面から戦うか、後ろから忍び寄って一気に殺すしかない。気配遮断なんて一般人にできる訳ないだろ! ……という事で、おそらくは正面から狩猟する羽目になるだろう。その上、花畑エリアなのだ。フロンティアでのゲーム知識が正しければ、

 

 花畑にはフォロクルルが出現する可能性がある。

 

 いや、地形とかはデータとかと全く違うのだ。だがフォロクルルという竜は花畑に必ず出現するモンスターなのだ。その存在を知っていると、花畑に近づくのが恐ろしくなってくる。隠れる場所の無い花畑に出現する竜の相手なんてもはや死亡宣告に近いだろうと思う。

 

 裏設定によれば古龍はどうやら高知性を持つ上に、人間の姿を取ってコミュニケーションが出来るから、まだ会話という可能性が残っている。だが通常の竜はそんなファンタジー要素を持たない。いや、ブレスとかしている時点でファンタジーしているのだが。というか花の蜜で変化ってお前の生態おかしいよ。

 

「だけど夏服しか持ってないからなぁ……毛皮がないと間違いなく死ぬんだよなぁ……」

 

 トリップしたときの服装はジーパンにスニーカー、そして半袖のシャツ。その袖にしたって片袖を切り落として、それを長く伸ばして布として使っている。今の所、片手で爪を握る時の為のグリップとして活用している。この恰好で冬を越える? 無理無理、絶対に凍死するに決まっている。

 

「となるとケルビかブルファンゴを……できたらケルビを多く狩る必要があるんだよな……」

 

 ここら辺、前提となるゲーム知識が存在しなければもう死んでたな、と思いながら冷静に判断する。

 

「ゲームと違って急所を穿てば殺せるんだ。必要なのは一撃で確実に殺す事。それだけを考えて動けばいいんだ。確実に、一撃で、迷う事無く仕留める。それが大事なんだ……」

 

 それ以外の考えを削ぎ落とす様に自分に言い聞かせる。余計な恐怖や慢心は必要ない。生き残りたいのなら、必要なレベルまで人間性を全て削ぎ落とすのだ。娯楽や慢心、油断、安心、その全てを心から抜き取って、殺意と生存に必要な考えだけで脳味噌を埋め尽くす。他の事を考えるだけの余裕はないのだから。

 

「とりあえず……やらなきゃいけない事は解っている」

 

 一つ、冬に備えて備蓄を作る事。

 

 二つ、冬に備えて拠点を強化する事。

 

 三つ、冬に備えて毛皮を確保する事。

 

 この三つが最優先だ。冬の厳しさがどんなものかは解らないが、それでもそれが楽に終わるとは全く思えない。だから出来るだけ最悪を想定し、それに対処する様に準備を進めなければならない。

 

 自分が最弱と言われるモスにさえ敗北する程度の雑魚だというのは自覚している。アプトノスを狩猟するのに持てる道具を使ってでもないと勝てないのは理解している。ハンターの様な華々しい活躍をする事は一生不可能であると自覚している。だからこそ、油断する事無く、確実に殺す手段を選ぶのだ。

 

 部屋の隅の資材置きを確認する。

 

 自分の知識を総動員して、使えると思って集めた素材がそこには分別されて並べられている。一番便利に使っている《ツタの葉》は縛ったりするのに良く使う。《ネンチャク草》を触ってみれば一発でこれだ! と解った上に、道具と道具をくっ付けたりするのに非常に便利で重宝している。《ニトロダケ》は見た目でやべー、というのが判断できる上に、かなり熱を持ったキノコなので解りやすく、《はじけクルミ》はアプトノスやケルビが態々食べずに回避しているのを見て、直ぐにあっ、という風に解った。他にも色々と毒キノコ等を集めてある。

 

 アプトノスを狩る時は肉と皮が目当てだったから毒を使えなかったが、ケルビやブルファンゴが相手なら遠慮なく使う事が出来るだろう。

 

「あー……バクレツアロワナとかカクサンデメキン、まともな釣竿で釣れば爆発させずに吊り上げられるのかなぁ、アレ」

 

 ネットを使って無理矢理釣ろうとしたら、それに反応して滅茶苦茶爆裂しやがった魚の姿を思い出し、軽く溜息を吐く。魚を食べる事が出来れば間違いなく楽になるんだけどなぁ、と思う。というか《火薬草》欲しい。あれがあれば爆薬を作る事が出来るのだから。

 

 こう、適当にニトロダケと火薬草を巻き付けて投げつけたら爆発しない?

 

「ネンチャク草でニトロとクルミを巻き付けたら簡易クラッカーぐらいにはなりそうか」

 

 はじけクルミは衝撃を受ければ破裂するが、それ自体にはそこまで破壊力はない。ニトロダケは強い衝撃を受けるとなんか破裂する。これは自分の前髪が焦げる事と引き換えに得た知識だ。ニトロダケを雑に扱ってはならない。絶対だ。

 

「猪肉は焼き肉屋で食った事あるけど硬くて食べづらいんだよなぁー。ケルビは鹿肉に近そうだし、食えそうだからそっちに期待するか……」

 

 はぁ、と溜息を吐きながら狩猟用の道具を作成する為に、資材を幾つか取り出しつつ干し肉の様子を窺う。ここら辺は肉食竜が近づかない場所で本当に良かったと思う。ここら辺にまでランポスが来るようなら今頃死んでいただろう。

 

 不幸中の幸いとでもいうべきか。いや、そもそも状況が不幸すぎて幸いもクソもない。

 

「生きる」

 

 口に出して自分の意思を確認する。弱音は吐けば吐く程心が絶望に蝕まれる気がした。辛い、いやだ、そういう事を考えれば考える程心が弱くなるような気がした。だから生きる為の選択肢を選ぶ事を当然として思考を作り、辛い、苦しいという概念を頭の中から追い出す。

 

 異常な状態だと自覚しているし、これが普通ではないというのも理解している。

 

 神様なんて出会っていないし、特殊な力を受け取った訳でもない。

 

 そしてスーパーパワーに覚醒するような事もなかった。

 

 もう、そんな生活が始まって3カ月、4カ月が経過していた。

 

 人の気配はない。見渡しても人里の姿はなかった。

 

 ハンターが探索しに来たような痕跡はなかった。完全に手つかずの自然だった。

 

 ここには逃げ場がなかった。八方に自分ではどうしようもなく突破できない環境が広がっている。ここから先へと進む事も、日本へと帰る事も出来ない、監獄の様な環境だった。どうしようもなく、自分は詰んでいるのだという事実を自覚させられる。知識も経験も足りていない。それでも、

 

 生きる。

 

 死にたくはない。

 

 だからこの自然の中で、最善を尽くすしかないのだ。ハンターとしてではなく、

 

 サバイバーとして。




 当初の予定では最初の1カ月2か月を描写する予定だった。

 だが書き始めてて余りにも絶望的に内容が酷かったのだ「おぉ、これ書いちゃあかんな……」という絶望感にスキップして、ある程度対応力の出来た秋季スタートから書いた方がいいな、という判断でこんなスタートに。苦しみだけに満ちて楽しい事が一切ない内容だったから仕方がないね。

 頑張れ、サバイバー君。明日は今日よりも苦しいぞ! 冬季的に考えて!
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