―――曇ってはいるが、雨は降っていない。
なら問題はない。
「……」
川の中で黒曜石のナイフを片手に、軽く伸びた髪を束ねて切り落とし、それを流して行く。髪が長いと面倒だし、頭が暑いので邪魔にしかならない。なので適度に切る。今のこの環境だと髪型とか気にする相手がいないので悪くない。髭も適度に剃っているのだが、あまりに深剃りした場合、傷口から感染症とかを起こす可能性もあるので、慎重にやる必要があるのが少しだけ面倒だ。だが清潔感は
だから、健康に気を使う様に、清潔感にも気を使っている。これがイケメンの流儀であるのだ―――と、ちょっとだけ冗談めかしながら。
「ま、俺も格好悪いのは嫌だし、オーディエンスがいるのならそれなりに恰好付けないと駄目だしな」
メフィストフェレスの視線を常に感じる。きっと、微睡みの中で眺めているのだと思う。本当に目覚めていれば、今頃火山が噴火してそうな事は……ミラバルカンやミララースと呼べる古龍連中が証明している。だが逆に言えば、アレが目覚めた時が本当の意味での終焉だろうと思う。一度は覚悟した死だが、それでも簡単に死んでやろうとは思わない。今でも心臓を鷲掴みにされたような感覚は続いている。ただそれも数か月も経験してれば、慣れる。ひりつくような死の予感と感覚に。
「まぁ、見ていて楽しいもんを提供してやっから、お前はまだ寝ていてくれ……マジで」
呟き、散髪と髭剃りを終わらせる。
それを終わらせた所で、いつも通り、装備に着替える。インナーを装着し、靴を履き、ポンチョを装備し、ベルトにナイフとクラッカーを装着し、片手剣を紐で縛り、肩からぶら下げる。両手にグローブを装着し、グリップを確かめた所で装備は完了する。
これ以上の装備はない。他にも細かい道具は一応ある。だが武器と呼べるものはこれで全てだった。これが、ドスランポスという最初に挑む中型竜種に使用する装備の全てだった。
「……」
剣を片手で握り、振るう。確かな手応えを感じる。筋力が僅かに疲弊し、そして疲労が蓄積されるのも。それを休める様に片手剣を下ろしながら、最初はこれをまともに振るう事さえ出来なかった事を思い出す。今ではランポスの鱗や肉質をちゃんと見極め、骨をそのまま綺麗に断てるぐらいには剣術の腕前を上げた。だがこの程度ではまだまだ、だと思っている。少なくともハンターには《心眼》によって肉質硬度に関係なく断ち切る技術や、《剣神》によって複合効果を自分に発生させて斬撃を大幅に強化する怪物とかが存在している。
それに比べれば、全然まだまだだ。
だけど、ドスランポスを相手にするには十分だと判断する。客観的に見て、自分の身体機能を100%コントロールすれば、倒せない相手ではないと思っている。無論、完全に自分の実力を発揮できればという前提でもある。
だが発揮させる。
戦闘とは、そういうものだ。
「勝てる。俺は勝てる。絶対に勝てる。今までは勝って来た。そして狩ってきたんだ。今までがそうであったように、これからもそう続ける」
目を閉じて、自分に言い聞かせる様に呟き続ける。自己暗示を行って、自分の意識のスイッチを切り替える。足がすくみそうな恐怖を心の中から追い払い、そして戦える自分を作り出す。そうでもしなければ、心が折れそうな程に恐ろしいからだ。だって、あのランポスでさえ、狙って刺さる場所を選ばなければ、その鱗でナイフを弾くぐらいの事はするのだ。
それよりも更に大きく、硬く、そして強いのがドスランポスだ。ゲームではただの中型竜種。雑魚の中ではちょっとマシな方でしかないドスランポスであっても、ランポス同様、爪の一撃で自分を殺すだけの力を持っている。そんなのを誰の助けもなく、狩猟しなければならないのだ。それが恐ろしくない訳がないに決まっている。本音を言えば逃げ出したい。放置したい。戦わない方向性を選びたい。
「だけどダメだ、逃げちゃ駄目だ」
逃げたら、また逃げてしまう。一度逃げたという結果を作れば、再び逃げても前も逃げたし……という意識を自分の中に生み出してしまう。例外を生み出してはならないのだ。一度目が二度目を生み出し、そしてそれをずるずる引きずってしまうのが人間という生き物であると、自分は理解しているのだから。だから誰よりも、自分自身が自分に対して厳しくならないといけない。
ここに、教えてくれる、叱ってくれる、諭してくれる……そんな人間は一人も存在しないのだから。自分が失敗し、そして逃げ出した所でそれが間違いであると教えてくれるという人物はいないのだ。だったら極限までに自分に厳しくならなくてはならない。万が一にでも自分が道を間違えない様に。自分の好みや趣味で道を選ぶのではない。客観的に見て、生き残る事に最適な道を自分に選ばさせるのだ。
「剣よ、龍を殺す為に打たれた剣よ。お前にもしも、本当に意思があるのなら……俺に少しだけでいい、恐怖を呑み込むだけの勇気を分けてくれ。俺が一歩目を踏み出すだけの勇気を」
背中を押してくれる人はいない。だから剣を額まで持ち上げ、語り掛ける様に剣に映る自分の姿を見て、大分やつれたような、疲れたような、あの地球の日本に居た頃よりも、はるかに目つきが鋭くなった、殺人鬼の様な形相の己を見た。あぁ、なんて酷い顔をしているんだろうか。
だけどこれなら竜を殺せそうだな、とも思えた。
「よし―――狩猟の時だ」
出る前に家畜達の所へと向かい、軽く家畜達の頭を撫で、愛でてから言葉を告げる。一日が経過し、自分が帰ってくるような事が無ければそのまま自由に生きろ、と。自分を決して追いかけて来るな、と告げる。これは義理の様なものだった。自分がここで生活する以上、人間らしい心を保てたのはこの愛らしい家畜達がストレスを和らげる為の癒しとなってくれたからだった。自分が死んだ後もここに縛られているのは忍びないから、そう言葉を残し、
一番甘いドライフルーツを口の中に放り込んだ。
準備は完了した。
ホルクの力も借りず、一人で滝の横のルートから下へと降りて行く。高地を下がって行き、何度も往復した事で少しずつ補強した滝横の下りルートのロープを伝う。そうやって下へと降りた所で、ランポスの巣へと通じる道を見た。何時でもランポスの相手が出来る様に、片手剣を事前に抜いておく。左手には投げナイフを掴んでおき、投擲出来る様に待機させる。
もはや隠れて進むという事は出来なかった。ここまで来た以上、初志を貫徹するしかないのだ。この時間帯、ランポスの狩猟チームが出払っている事は事前の調査で知っていた。とはいえ、それでも直接ランポスの巣に冬以外に乗り込むのは初めての事だった。流石に軽い緊張感を感じつつも、戦闘状態を維持したまま荒れ地の中へと踏み込んだ。両側を岩壁が挟み込む様に道が出来上がり、その狭さは大型飛竜を制限するものであるが故に、大型種に襲われる心配性を排除するものだ。
挟み込む岩壁自体も高く、低い所で20メートルはある。これは
まぁ、それを思い出した所でどうしろ、という話だが。
ハンターとか雲を突き抜けて落下しても無傷だし。
まぁ、前、実験でランポスを川に蹴り落としてみたら溺れたし、眠らせてから岩壁から叩き落してみたらスプラッタになったし、生物的な構造しているから落下して死亡するのは普通にある事だし、この上からランポスが出現して来る、というのはどうやら心配しなくて良さそうだった。
ただ、やはり、全てのランポスが出払っている訳ではなかった。奥へと、ランポスの巣へと踏み込んで行く中で、巡回中だったランポスが数匹当然の様に出現する。その姿が此方を目撃すると当然の様に鳴き声を響かせようと口を大きく開ける為に、素早く口へと向かってナイフを投擲した。回避よりも威嚇や呼び声を響かせようとしたランポスの鳴き声が出る前にナイフが口の中に入り込み、喉の内側に突き刺さり、咳き込んだ。
「……」
言葉もなく、そのまま一気に前に向かって踏み込んだ。一番手前に居たランポスの首を落としながら、切り落としたランポスの体を盾にする様に体当たりを行い、それを次のランポスへと押し付ける様に接近しながら片手剣を壁に使っているランポス諸共貫通させ、痛みで動きが硬直した瞬間にそれを上へと向かって、首へと向けて斬り上げて即死させる。
残されたランポスが首に痛みを感じてはいるものの、威嚇をしようとして―――背中を向けて走り出す。その姿を追う事なく、見送った。殺したランポスの死体を蹴り転がし、横に退けながら血に軽く染まった剣を振るって血を落とし、再び巣の奥へと向かって進んで行く。
もはや後退はない。前に進む以外の選択肢が失われた。ランポスのコミュニティは冬の前にだいぶ削った。そして繁殖期は今、この春だ。越冬のために数が減った事を考え、そしてこの春で再び数を増やす為に繁殖に専念する筈―――だからこのタイミングで襲えば、まだ育っていない、子供のランポスばかりを相手にする事が出来る。
まだ、育っていない個体。
つまり戦えない個体だ。
巣の奥へと通じる道を進んで行けば、少しずつ道が開けて行くのと同時に、待ち構えていたのか、八匹のランポスが威嚇する様にこちらに視線を向けながら道を塞ぐのが見える。やはり、子供を守る為に出てきた。
「……大丈夫だ」
威嚇する様に鳴き声を放ってくるランポス達に相対する様に片手剣を構え、そして投げナイフから持ち物をクラッカーへと切り替える。よく磨かれた片手剣は、そのまま背後の景色を反射して映してくれる。その中で、背後の道から上がってくる二匹のランポスの姿を目撃する。
「大丈夫、俺なら出来る。これぐらい出来なきゃ―――」
背後、ランポスが飛び掛かるのが剣に見えた。そのまま、横へと半歩ずれる様に体を素早く動かしながら前方へとトウガラシ入りのクラッカーを投擲し、破裂と共に正面にトウガラシの結界を張る。後ろのランポスの動きに合わせて口を開け、飛び掛かろうとしていたランポスの表情が歪み、咳き込む様に鳴き声を零すのを無視しながら背後から飛び掛かって来た一匹の真横に着地し、振り返るよりも早くその首を切り落とした。続いて伏せる様にしながら首のなくなったランポスの下へと逃げ込む様に潜れば、直後、背後から二匹目の奇襲が襲い掛かって来た、
「―――ここでは生きて行けない……!」
こいつは顎下が弱いな、と肉質を瞬時に見極め、下から剣を押し上げる様に首を断ちながら、自分の視界の範囲と、剣に映る反射で死角をカバーし、接近して来るランポスに斬り上げた首をそのまま落とさず、押し付ける様に斬り上げる時に投げつけ、ぶつけて動きを一瞬止める。その間に体を滑らせるように素早くステップを取る。
「アタリハンテイ力学が仕事しないなら注意すべき事は解ってる」
首を一刀で断つ。やる事はシンプルだ。それだけでランポスは死ぬ。驚異的な武器は爪と牙。だけどランポスは跳躍力が非常に高い。距離があるから、と安心していると予想外の跳躍力によって一気に接近されてしまう。その跳躍力は助走なしで3メートルを越える事が出来る。まさに怪物的だ。だけど距離、そして動きが解っていれば難しくはない。ゲームの時の様なアタリハンテイ力学が存在する場合、飛び掛かりによって近寄っただけで吹き飛ばされる場合もあるだろう。
「だけどお前らの爪はそこまで稼働範囲広くないんだよ。半歩でぎりぎり回避できる」
殺したランポスの死体、その腕を掴んで
だけどその肉体はファンタジーじゃない。
解体し、研究するギルドって組織が存在する。
つまりは
だから殺して、捕まえて、実験と調査をこの日の為に繰り返してきた。
より効率的に見極め、殺せるようになる為に。
そしてそれはここで、ちゃんと問題なく結果を生み出していた。常にランポスを正面に置く事を意識し、直線状に集め、相手の跳躍攻撃を誘う。それを半歩程体を横にずらし、ランポスの腕の稼働範囲を見極めて回避する。そうすると本能的に牙を使って噛みついて来ようとする。
そうやって伸びてくる首を叩き切る。そしてそのまま、殺したランポスを障害物に使い、他のランポスの動きを抑制する。自分の群れだったランポスの肉体、それを障害物として扱う事で畜生にも存在する、集団としての同族意識を利用して戸惑わせる。
畜生の仲間という認識を利用して、
徹底して狩り殺す。
ランポスが倒れる前に、死体の首を左手で抑え、壁にする様に引きずりながら右手で片手剣を握り、次のランポスを待ち構える。濃密な血の臭いが辺りだけではなく、自分からも香っている。返り血を大量に浴びている結果だろうか。にこり、とも一切笑う事もなく、不快感を殺し潰して、次のランポスを殺す為に構え、見極める。自分から踏み込むのではなく、常に迎撃の道を取る。
それが体力に上限のある、地球人の限界だ。
ハンターであれば一切疲れる事無く武器を振るい続けられるのだろうが―――転がれば頭が揺れるし、スタミナは簡単に回復しないし、武器を振るうのに体力を消耗する。だから動きは最小限で最速。相手を誘い出してカウンターで切り殺すのが一番早く、効率が良い。
故に迎撃態勢を整えてランポスを待ち構えれば、六匹目を殺した辺りから、統率が乱れ―――背を向けて逃亡する。ランポスの死体を解放しながら刃をポンチョの端で軽く拭う。それが反射する程の輝きを取り戻すのを見て、左手でクラッカーを握り直しながらランポスが逃亡した方へと足を進める。
そこから進めるが、ランポスが出て来る気配はない。
「手に負えないって覚えたのか……それとも回り込んでるのか」
どちらにしろ、警戒心を解除する事はない。それを狙っての行動かもしれない。AIではなく、生物としての知性でここに居る存在達は生きているのだ。ゲームのまま、無限に湧いたり戦ったりしているのだと思っていると、それに足を掬われるだろう。
野生と、自然を舐めちゃいけない。
「なぁ、そうだろ、ドスランポス」
「……」
ランポスの巣の奥へ、奥へと踏み込めばあの岩壁の上から見える巣へと到達した。入り組んだ迷路の様な道を抜けた先、木の屑等で作ったベッドの様な巣、その中には卵と、そこから生まれたばかりのランポスの幼体が見える他、それを守る様に複数のランポスの姿が見える。親が子を守る光景だった。そしてその前に陣取る様に、群れを守る様にドスランポスが立っていた。
金冠。
モンスターハンターの小型、中型のサイズ単位はセンチメートル単位である。その中でドスランポスの金冠種のサイズは限界サイズで1000を少し超える程度だと言われている。
つまり金冠ドスランポスのサイズは
凄まじいまでの大きさを見せている。
地球で目撃したトラックよりも大きいのだ、こいつは。高さ的にはバスの車高に匹敵するだろう。
そんなドスランポスが無言で、群れを守る様に前に出ながら此方を睨んでいた。群れを守る王者としての行動だった。此方を睨み、その視線が何を求めているのか、と訴えている様な気がする。言葉は伝わらない。だがこいつも、俺も、この環境で生きる捕食者だ。真っ直ぐ、片手剣をドスランポスへと向ける。
「グェァ! グェァッ!」
それを見たドスランポスが吠えた。振り返り、そしてドスランポスの声に反応したランポス達が更に後ろへと下がり、ドスランポスが一歩前へと踏み出した。凄まじい威圧感を纏いながら、此方を睨み、戦意と敵意を体に漲らせるのを見た。
「1:1で相手してくれるのか……いや、お前にも捕食者としてのプライドがあった、という事か」
剣を引き、クラッカーをベルトに戻し、そして片手剣を片手で握り直す。右半身を前に出す様にしつつ左半身の前を通す様に剣を握る手を交差させ、左手で拳を握り、首元をガードする様に構えた。
これは―――ゲームではない。
スキルはない。
数値はない。
特殊な能力はない。
特別な力もない。
突然の覚醒? そんな都合の良い夢はあり得ない。
これは、現実である。
故に是は、
「―――生きる為の戦いである。俺も、お前も」
生きようとしているのは俺だけではない。この場所、環境に生きる生物は生きるために本能と、そして知恵を駆使して生き残っている。殺したランポス達も、ゲームよりははるかに賢いのは生きるために知恵を磨く必要があったからだ。AIとルーチンによって動いているのではなく、野生の本能と学習した知性によって生きる生物である。
故に、ドスランポスは群れの長として判断したのだろう。ゲーム通りであれば数の暴力で襲い掛かってくるモンスター、しかし、そのままであれば無駄にランポスを損耗させ、群れ自体が勝利しても滅ぶかもしれない、と。
是非もなし、
「では始めようか、生存競争を―――!」
言葉を放つとともに、言葉から体全体に活力を一気に叩き込む。殺意、覇気、闘志、自分の中でそう呼べるものを一気に引き出しながら、全身に力を入れる。その瞬間、ドスランポスがその超巨体で一気に襲い掛かってくる。
ランポス種は鳥竜種、その翼は退化した。だがそれと引き換えに足腰は強靭に育ち―――特にドスランポスのそれは、通常のランポスよりも遥かに強靭に育っている。故にその跳躍は通常のランポスの数倍の速度と距離を一気に詰める事が出来る。爪と牙の一撃により絶命させられる相手であれば、ドスランポスのその飛び掛かり攻撃が一撃必殺だと表現してもいい。
何度も、観察を繰り返してきた。ドスランポスの動きを見て来た。その狩猟を目撃し、速度に目を事前に慣らしておいた。知っている。どういう動きをするのかを。故にドスランポスとの戦いは一瞬になる。
半歩、体をズラす。
跳躍するドスランポスの体、その落下地点を飛び出す前に感知する。その速度に後出しで反応する? ふざけるな、無理に決まっている。人間の体はそこまで強く出来ている訳じゃないのだから、後出しで反応出来る訳がない。出来るのは事前に予測し、呼吸を読んで、そして発生する前に回避を始める事で完全にその攻撃を無力化する、という事だけだ。
だけど、それだけでは駄目だ。
だから半歩、体をズラした。
半歩体をズラしながら、潜り込む様にドスランポスの着地点、そのぎりぎりの所へと踏み込む。少しでも自分の動きが狂えば、爪が突き刺さる様な、ぎりぎり掠らない場所へと、懐へと飛び込む。既にその肉質は目撃し、見極めた。
故に飛び込んでくるドスランポス。その10メートルに匹敵する肉体がトラックの様な衝突を行おうとして来る、必殺の攻撃の中で、噛みつく為に伸びる首の場所を見極めた。
そして飛び掛かってくるドスランポスの首を下から剣を上へと突き上げる様に、振るった。飛び込み噛みつき、引き裂こうとしたドスランポスの動きとそれが合致し、飛び込む様に首に刃が突き刺さった。その感触に剣が歓喜の気配を見せた……ような気がした。
「俺の勝ちだ。今日からここは俺の場所だ」
「ぐ……ぎゅ……ぇ」
ドスランポスの口から呻くような声が溢れ出し、その首をそのまま切断し、跳ね飛ばした。巨体から溢れ出す血液を首の切断面から浴びながら、重い感触と共にその首のない死体が横に倒れた。それを目撃したランポス達の行動は早かった。
鳴き声を響かせてから、生まれたばかりのランポスの幼体を口に咥え、飛び出す様に逃げ出した。仇討ちやそのまま襲い掛かってくるような事はせず、そのまま必死に逃亡するランポスの姿が目撃出来た。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
その姿が消えて行くのをしっかりと確認してから息を吐き出し、そして剣を大地に突き刺してから寄り掛かる。巣からは完全にランポスの気配が消え去り、残されたのは多数の卵とドスランポスの死体だけだった。それを一撃で始末出来た事に成長と、そして自分の逸脱を感じた。
果たして―――これが出来るようになるまで、自分は何を忘却したのだろうか。
「だけど、まぁ、生きる為だしな……」
仕方がない、の一言で済ませてしまう。一言で済ませるしかなかった。殺せないのなら殺される。それがこの環境のルールなのだから。だからそこには恨みも何もない。これが適者生存、生存競争であり、これが出来なきゃこの先も生きて行く事は出来ないというだけの話だった。
その時、ぴしり、と音が鳴るのが聞こえた。剣を握り直しながら巣の方へと視線を向ければ、卵の一つが割れて、その中からランポスの幼体が生まれる姿が見えた。新しい世界に産声を上げたランポスは母親を求めて鳴き声を響かせながら食べ物を強請る。その姿を眺め、あぁ、そうか、と呟く。
「子供も卵も全部始末しなきゃならねぇのか」
泣きわめくランポスの幼体の姿を眺め、これから行う事に勝利の高揚感が消えて行くのを感じながら、
生存競争で勝ち残るために―――生まれたばかりの子に足を振り下ろした。
なに? 一撃だから余裕だった? 違う、一撃でしか殺せないというだけの話なのじゃよ。
真面目に考えると10メートルもある金冠ドスランポスの首が降りて来るのは飛びつきで噛みついてくる瞬間だから、わざと首を伸びる様に位置を調整しつつ、回避してカウンターで首を斬り落とさないと1回で即死出来ないという事実。
やったね、ランポスを環境から追い出したよ!