「ぐぅっ―――!」
呟きながら素早く両手剣を振るった。片手剣はダメだった。軽すぎた結果、既に吹き飛ばされている。ホルクに運ばせてくる数分間の間、死線を潜った。だがこうやって生き残っている以上、悪運があったのだろう。両手剣を両の手で握りしめ、そしてコントロールする事に全神経を注いでいる。しかしそれが正面、鎧の様に纏われた甲殻を被っている姿の存在、その鎧爪の一撃を受けると、凄まじいまでの衝撃が突き抜けて来る。それでも古龍を殺す為に鍛え上げられた決戦兵器か、武器自体にはなんら異常を見せないというのが素晴らしい。もはや完全に錆は落とされていた。
問題は使い手がポンコツであるという事だった。
「七つ―――!」
7メートルに届く巨体は軽く体を前に丸める様にしながら爪を伸ばし、それを引っ掻く様に前方を薙ぎ払ってくる。それに対応する様に両手で握って剣を振るう。大剣よりははるかに軽く、片手剣よりは少し重い。だがそのおかげで相手に対応するだけの速度、そして重量を動きの開始に割り込ませる事が出来る。そう、見てからでは遅いのだ、人間とモンスターとの戦いは。相手が動き出す前に反応し、動かなければダメなのだ。そうでないと手遅れになる。それがモンスターに対する戦いだった。
故に踏み留まりながら戦うというのはある意味愚かしい選択肢だった。
それを選択し続けている自分は、自殺志願者とも表現できるかもしれない。
7メートルの巨体から叩き込まれてくる拳、それに対応する様に両手剣を振るい、斬り流すという事を繰り返している。これで八度目。やる度に手が痺れるが、少しずつ、少しずつそれを調整して行き、完全に自分の手に衝撃が来ないような握り、振り方を覚えて行く。何よりも実戦が一番学習するのに手っ取り早いという判断は、間違ってはいなかった。
ハンター式の学習手段だ。
ただし、ハンターとは違って受け損ねたら即死するのだが。
ただ、その恐怖は程よく身を引き締めてくれる。九度目、十度目と連続で繰り出される攻撃を斬り流せば、相手も―――甲殻がまるで鎧の様に異常発達したアオアシラも、此方の意図を理解してか、呼吸とペースを乱す様に狂わせてくる。こいつは戦い慣れているな、と判断する。異常発達しているモンスターは特異個体か、或いは歴戦の個体か、どちらにしろ、時間経過で知性と本能と肉体を磨いている個体だ。
だからこそ、鍛錬の相手ともなる。そもそもこの環境、弱い個体は全部片っ端から淘汰される。だから強い個体しか残されない。その中で生きて行くには弱い個体を淘汰される前に殺して経験と技術を磨くか、
或いはジャイアントキリングを行い、人として成長するか。
「是は、生きる為の戦いである……」
呟き、剣を振るう、加速し、タイミングをズラす事で芯へのヒットを鎧熊が―――アオアシラが崩してくる。その動きの前兆を体、肉の動きと呼吸、殺気の向け方で意識する。自然の中で暮らし、生き続ければ危険、死ぬ、その気配を感じ取れるようになる。モンスターは戦意を抱くと、その意識の向け方がシャープになってくる。そうしなければ生きて行けないというのは単純な話だ。殺気を感じ取る技術は、咄嗟に隠れたり逃げたり、そして攻撃を受ける上では重要な技術だった。
漫画かよ、と言いたくなる事だった。だがやらなきゃ、出来なきゃ生きて行けない。この世界はそれだけシンプルな事だった。故にある程度、常識と呼べるものを自分の中から削ぎ落とした。
こういう事は当然だ。これが普通だ。そういう意識を意識して自分の中から排除する。それが何かの技術、技能を習得する上で邪魔になるからだ。出来る筈がないという意識が存在している時点でそれを完遂する事が出来なくなる。故に、動きを作る時は常に完成されたイメージを持ち、そしてその程度可能であると意識し続ける。
俺なら出来る。これぐらい普通だと。ハンターであればもっと上手くやれる。
これは試練でもあり、そして生き残る為の成長チャンスでもあった。
「十三―――!」
十三回目、口に出して呼吸を整えながらも一切休むことなく、ステップを刻みながら剣でアオアシラの攻撃を切り払った。刃と爪をぶつけるのではない、と学習する。相手の動きに対して、まず武器を合致させ、絡ませる。それを力でいなすのではなく、流れを作って、方向性を変えるのだ。モンスターの筋力は並外れている。だから身体能力で相手をするのは最も愚かしい事だと意識し、100%の技巧のみで対応する様に動かなくてはならない。故に息を吐き、内臓を締め上げ、衝撃を全身から逃しながら体全体を使って、動きと共に矛先を斬り流す。そこに必要以上の筋力は入らず、
十八度目、衝撃を感じずに攻撃を斬り流す事に成功する。最初の感覚を掴んだ、と思いつつも体力の低下を感じる。十八合。それが今の体力で全力の斬撃を放てる回数か、と自分の中で記録しつつ、十九度目のは力を更に抜き、自分を後方へと衝撃で押し飛ばした。着地しつつ、口笛を吹く。
鳴き声を響かせながら、空に待機していたホルクが事前に用意していたものを投擲する。
金色に光るそれは少し粘り気のある液体を纏った―――蜂の巣だった。ロイヤルハニー、それがたっぷりと詰め込まれた蜂の巣がアオアシラの頭に衝突し、それからアオアシラの横に転がる。それを察知した瞬間、アオアシラの追撃しようとした動きが止まり、此方を見て、蜂の巣を見て、そして此方を見てから蜂の巣を見た。
「それは今回の授業料だから遠慮なく受け取ってくれ。じゃあな」
此方が下がるのを見ると、アオアシラが待っていました! と言わんばかりに蜂の巣へと向かってダイブし、それを抱える様に幸せそうに舐め始める。そういう姿だけなら可愛いんだけどなぁ、と思いながら弾き飛ばされた片手剣を回収し、樹海から撤退する。
秋季、少しだけ生態が変化する。
この季節は大体、冬に備えたモンスターや自分が忙しく収穫等を行い、或いは冬季を乗り越える為により温かい環境を求めて南下をする季節でもある。その中、新しく樹海に住み着いたのは全身が鎧の様な甲殻で覆われたアオアシラだった。まるでボクサーの様な戦いをするアオアシラは、自分から踏み込もうとすると両腕でガードし、確実に動きを止めた相手への爪の一撃で頭を吹き飛ばしに行くという恐ろしい熊だった。
それで樹海に入り込んできたババコンガの頭がミンチになったのを目撃した。
とはいえ、アオアシラはアオアシラ。どうやら蜂蜜には目がないのは変わりがないらしく、蜂蜜を見せれば目の色が変わる。だから最初に蜂蜜を与え、次に軽く当たってから蜂蜜を与え、それから蜂蜜を与えてから戦い、その次は戦ってから蜂蜜を与えた。こうやって相手をしていれば、アオアシラが戦えば蜂蜜を貰える、と学習してくれるかなぁ、という思惑があったのだ。7メートル級の金冠サイズに全身筋肉の様な強さ、飛竜を相手する前に経験を積めるだけ積みたいので、エルペとグレンゼブルの様な共生関係を築けないか、と思ったのだ。
結果、出来た。
蜂蜜で餌付けしたのが良かったのか、それともそもそも賢い個体だったのか、或いはあの二つ名三兄弟の様に何らかの役割を持ったような特殊な個体だったのかは判別できないが、目撃したババコンガをワンパンで昇天させたあのスーパーベアパンチを一切見せる事無く、此方に合わせて手合わせしてくれるようになったのだ。
命のリスクはそれでも残る。一発でも喰らえばミンチになるのは確かだった。だが冬、冬眠する前にアオアシラ師匠と出会えたのは僥倖だった。ある程度の死亡リスクを減らしながら戦闘経験を稼ぐ為の場所が出来上がったのだから。
何よりも、このアオアシラ師匠がクイーンランゴスタが居なくなった樹海の主の後釜として降臨したのも助かった。どうやら水没林からやってくる若い個体をワンパンで昇天させているらしく、樹海の中を探索すると、頭が綺麗に消し飛んでいる中型種を目撃する様になった。
中でもナルガクルガが頭を失って倒れている姿は、かなり衝撃的だった。
とはいえ、その死体はかなり素材として美味しい。脳天をホームランしたアオアシラ師匠の殺し残し素材はきっちり回収し、解体して拠点で保存する事にする。だが全体的に問題はそれだけではなく、この場所を中心とした環境全体がどこか、活性化しているという感じはあったのだ。
しばらく行っていない花畑へと顔を出せば、そこではフォロクルルとヒプノックの縄張り争いが見えた。結果、フォロクルルがヒプノックを惨殺する姿を目撃出来てしまい、普段は大人しいけどやっぱり大型竜は大型竜なんだなぁ、と思わせられる事があった。
その他にも沼地へと顔を出してみれば、前は大量に存在していたブルファンゴがフルフルの群れによって食い尽くされ、ドスファンゴもフルフルの食料となって消えていた。相変わらずゲリョスの方は生き残っている様だったが、フルフルの方は頭が異常に発達した、辿異種を思わせるような不気味な個体が住み着いているのが印象的だった。しかし、フルフルが沼地に住み着いたということは自分がまだ探索できていない沼地の更に奥には恐らく、洞窟が存在しているのかもしれない。
そして山間部。目撃するのはドラギュロスと辿異リオレウスの空中戦だった。
ドッグファイトというのだろうか、空で高速で飛翔しながらドラギュロスと辿異リオレウスが争っていた。素早く空の中を飛翔しながら背後を奪ったドラギュロスが冥雷を全身から放ちながらビーム染みた破壊を口から放った。だがそれをどうやら待っていた辿異リオレウスはそれに一切焦る事無く、放たれた後から空中でサマーソルトをする様に回避し、ドラギュロスの背中に爪を突き刺し、自分の全身を燃やしながらドラギュロスを掴んだまま空中で回転しながら勢いよく落下していった。
数秒後、聞こえてくる炎の爆発と空に飛び立った辿異リオレウスがその縄張り争いの勝者を示していた。改めて思った、辿異種は伊達じゃない、と。
だがその後で目撃したのはイビルジョーがあの辿異フルフルを沼地で喰らう所だった。
噛みつかれたフルフルは全身から雷を目が痛くなる程に放ちつつイビルジョーから脱出しようと目論むが、それを受けながらもイビルジョーは一切動じることなく、フルフルの姿を何度も壁に叩きつけてから片足で首を掴み、そのまま噛みついた首を引き千切って食い殺していた。お前……辿異種も殺せるのか、と、気軽に殺すイビルジョーと、そしてそんなものがあっさりと出現するこの場所に、更なる疑惑と恐怖が沸き上がる。
間違いなく、環境は激化、或いは所謂不安定状態に突入していた。
その理由が全く解らなかった。それは本当に突然の事だったからだ。ゴゴモアの大量移動に関しても、そもそもこの数年間一切そんな動きはなかったのだ。環境自体が安定していたし、大型は徘徊していても、こんなに急激に数が増える事はなかった。それに対応する様にいきなり、ここらに生息している生物たちが活発になり、
まるでハンターの様だ、と思った。
あのリオレウスやイビルジョーが、この環境を守るために戦っているようだと思えた。草原の方へと向かえば、同じように環境維持のために戦っている二つ名三兄弟がいるのだろうか? だとしても、それを確かめる為だけにあそこへと向かう様なリスクは背負いたくはなかった。そして同時に、本当に環境が何らかの理由で不安定になった所で自分ではどうしようもないというのが事実だった。最低でもアオアシラ師匠に手加減をされずに勝てる様にならなければ意味がない。
しかし生態系の激化とその安定化を眺めていると、再び疑問が湧き出してくる。
ここは一体どこで、なんなのだろうか、というとてもシンプルな疑問だった。
良く考えれば、ここがどこであるのかを全く知らなかった。フォンロン地方だろうか? それともシュレイド地方か? もしくはMHWで追加された《新大陸》……いや、あそこに出現しないモンスターばかり出現しているので、どちらかと言うとシュレイドのある大陸だと思っている。だがそれにしては余りにも人の気配がない。
こんなモンスター天国、ギルドが真っ先にヒャッハーしそうなものなのだが。
だがそこまで考えた所で、妙にここの生活に馴染んでいる自分の事を客観的に見てしまった。
馴染み過ぎじゃね……?
設備、住居、衣服、生活の基盤を堅実に整えた上で最近は侵入者対策に罠を作成し、仕掛ける様になった。ある程度の生産体制を整え、それでいてどの季節でも快適に生活できるように様々な所で工夫している。肉を食べる為の家畜、塩分摂取の為に塩の生成も最近成功している。そこに野菜も入れて栄養バランスはとれている。甘いものが欲しくなったらドライフルーツを食べ、ロイヤルハニーから作った蜂蜜酒も最近では飲めるようになった。
物凄い快適なライフを送れている様になっていた。
根本的にここから脱出する、という目的を忘れるレベルで。そう言えばここから脱出する為に体を鍛えていたんだよなぁ……と当初の目的を思い出す。最近では龍を殺す事や、環境生物相手に勝つ事ばかりを考えて技巧を磨いていたので、そう言えばそうだったよなぁ、と思い出させる事でもあった。
だが問題は、この激化した、不安定な環境で他の地域へと移動するというのが現状、難しいという結論だった。沼地の辿異フルフルは死んだが、それでもまだフルフルが大量に残っている。樹海にはアオアシラ師匠がいるし、水没林に関しては未だに調査が出来ていない。本能的に勝てない、と瞬時に理解させる相手が木の上に存在している上に、水没した水の中にはどこか、鮫に似たシルエットが泳いでいるのが見えたからだ。現状、そっち方面は手を付ける事が出来なかった。
それに予想外に中型種の数が増えており、イビルジョーがそれを放置している以上、丘の安全を確保する意味でも自分が定期的に始末に走らなきゃいけないというのが、遠くへと移動する事を止めていた。ランポスと入れ替わる様にイーオスが、そして群れの長であるドスイーオスがどうやら沼地の方から丘に入って来たのだ。
こいつはどうやらランポスとは違い、寒さにも暑さにも抵抗力を持った生物だったらしい。冬季の気配が近づき秋季の中でも、自分の巣を求めて徘徊する姿が丘に出現したのだ。放置しておけばランポス時代の様に、再び行動や移動を制限されるだろうから、見つけ次第片っ端から狩猟し、そのままドスイーオスの方も始末をつけた。
ドスランポスと比べれば爪や牙に毒を持ち、そして毒液を吐く事の出来る厄介な相手であるのは事実だ。その力強さもドスランポスと変わりはない。だが経験し、反復して忘れない様に鍛錬を重ねている以上、ランポス骨格の相手は動かせる肉体の範囲が制限され、決まっている。パターンは増えても同じ生物である以上、毒液を回避し、飛び掛かりに合わせたカウンターで首を持っていく事で狩猟を可能とさせた。
だがそうやって増えれば増える程、狩猟の忙しさと環境安定のための動きはもっと上のものを要求されてくる。まるでフィーバーの様に増え始める生物に辟易とする中で、この現象に、理由がない筈がない、と断定する。
或いは火山の悪魔か、神殿の眠り姫が原因なのかもしれない。
だとしたら
視線は未だに心臓を掴んで、離さない。そして常にみられているという感覚がある。
だがそれとは同時に、少しずつ、少しずつ微睡みの気配が月日が流れて行くごとに薄れて行くような、そんな気がしていた。或いはあのお辞儀龍の目覚めに呼応して、知性の低い、特別ではない個体が暴れ出しているのかもしれない。
そこまで考えた所で、あの草原を三兄弟に見つからずに渡り切るのは不可能である事を思い出し、自分の実力では軽く打ち合えたとしても、属性攻撃に対する根本的な対策が存在しない為、金雷公と相対した瞬間敗北と死が確定する事を思い出す。
そこまで考えれば自然と、やる事は見えて来る。
つまりは神殿探索の再開だ。前回は何かに誘導されている感じがあったのと、そして面倒さを感じたから引き上げたが、ここまで来るとこの土地自体に何かがあるのではないか、と疑いたくなるものがある。秋季が終わり、冬季に入れば収穫や蓄える事を考えなくて済む為、そしてアオアシラ師匠が冬眠に入る為に時間が出来る。
そうなったらあの神殿遺跡―――その深部へとリベンジの為に突入するしかない。
状況は完全に順調……とは言い難い。環境は不安定になって来たし、ゴゴモアの影響で設備を作り直す必要もあった。まだ生きている文明を探す準備が出来た訳ではない。それでも漸く、ここからスタートするのだ、脱出するのだという事を、とてもシンプルな事を思い出せた。そのおかげか、明確な目標に体に力は満ち溢れていた。
そんな秋季の終わり。
瞬く間に駆け抜けて行く一番忙しい季節。
冬季がその寒さを知らせ始める頃、
―――紫色の血を吐いた。
サバイバァ! 何故君が特殊な訓練を受けずにハンターの様に戦えるのか。何故時折思考や言動が支離滅裂となるのか。何故免疫もないのにこの三年間風邪をひく事がなかったのかぁ! その答えはただ一つ……君が地球人で初めて―――。
バイオテロでおなじみのアイツ。名称は一応避けておく。感染経路? 冗談は冗談で済まなかったんやなぁ、て。口開くところにフラグあり、とかぬかしつつ次回、冬はお馴染みの遺跡探検。