畑の野菜を全て捨てた。
その代わりに《ウチケシの実》を育て始めた。幸い、ランポスの巣周辺に育っていたからそれなりに数はあった。だが毎日食べ続ける分には圧倒的に足りない。足りなすぎる。だから畑をこれを育てる為だけに作り替える必要があった。これが唯一の生命線。症状を抑え込める薬。そして特効薬。これを食べ続けている間はその症状を抑え込めるのだ。
まぁ、治療方法なんてないのだが。
―――狂竜症。
そう呼ばれる病がある。
血の色が紫に染まるのはその感染症状であり、手遅れだという事を証明するものでもあった。狂竜症の症状は地球でいう狂犬病に似たもので、とにかく凶暴性が上がる。そしてやがて、死に至る病でもある。これを治療する方法は今の所、自分の記憶にはない。唯一、ウチケシの実だけがその症状を和らげることができる……ということだけは覚えている。
これは感染したら最後、治療出来ないのだ。ハンターとかはあっさり克服するが。きっと何か、治療手段はあるのかもしれない。だけどこの環境、薬を手にする事が出来ない環境では、
治療する方法の無い病。それはゴア・マガラの鱗粉、或いは体組織―――ウィルス。そう呼べるものから生み出され、散布されたものである。こればかりは何頭もゲームで狩猟しているから良く覚えている。狂竜ウィルスと呼ばれているこれは、ゴア・マガラの生殖細胞だと言われている。雌雄という概念が存在しないゴア・マガラの繁殖は、この狂竜ウィルスを通して行われる。感染した生物は狂いながら死亡し、そして死亡した後で甦る。
だがその知性は本来のものではなく、ウィルスに奪われている。そして感染したウィルス―――ゴア・マガラの生殖細胞はそこから肉体改造を行う。生物を、死体をゴア・マガラへと改造する事でその数を増やすのだ。全ての生物がそうなる訳ではない。だが死んで、そして蘇らせる事は確かだった。
故に死病。病院も何もないこの環境ではどうしようもない事実だった。
その前兆はずっと前から存在していたのだ、気付いてないだけで。いきなりモンスターを殺しに行く事、ゴゴモアに対する異常な殺意、必要以上の鍛錬、そして時折自分自身の事が解らなくなるような考え。その全てが狂竜症から来る症状だった。簡単に言えば闘争心を昂らされている。本能を研ぎ澄まされている。死後、ゴア・マガラとして転生する為の下準備を肉体に施されている。
そしてその下準備が完了した。だから血液が紫色に変色し、腐敗した。一度症状が進めば、非力な地球人の体ではその死の誘因に抗うのは環境上、難しかった。吐血を始めた次の日には咳が止まらなくなった。数日後には胃が食べ物を受け付けず、食べたものを全て吐き出した。
時が過ぎれば過ぎる程、自分の体が衰弱するのを確かに感じ取った。早く―――早く、何とかしないと本当に死んでしまう。
だからウチケシの実を食べた。だけどそれはこの世のものではない味をしていた。端的に言えばクソ不味い。ただ良薬口に苦し、という言葉もある為、延命する為にそれを口の中に放り込み、飲み込んだ。少し前までは元気だったはずの体が、内側からぐずぐずに崩れて行くような気がしていた。いや、実際にそうなののかもしれない。ゴア・マガラを見れば、明らかにどの竜とも骨格が似つかない。となるとやはり、身体を内側から改造しているのだろう。
まるで生体兵器だ。
だけど死ねない。まだ死ねない。
死にたくない。
この狂気が狂竜症から来るものか、或いは自分の内側から溢れ出したものかどうかは判別はつかない。だけど何かをしなければ死ぬ。それだけは確かだった。
だからやる事は一つだけ。
「けほっ、こほっ」
「ぶもっ、ぶもっ……」
「大丈夫だから心配するな」
体力をなるべく温存する為にウリ坊の背に乗って移動する。咳き込むたびに心配するウリ坊が此方を見上げようとするが、その前に頭を軽く撫でて進む様に指示を出す。咳をするたびに胃の中の物を吐き出しそうになるのを堪えながら、口の中に溢れる血の感触と味を忘れる為にウチケシの実を放り込んだ。狂竜症の症状の細かい部分は覚えていなくても、急速に殺されているという事だけは理解できていた。この三年間、殺し、死から逃げるという事を繰り返して来ていたから理解出来ている。
自分は逃げられない死に掴まれている。
このままだと死ぬ。
ほぼ、確実に。それは自分の体だから、確実に理解している事だった。だけど死ねない。死にたくない。それが体を突き動かしていた。だが死にたくないならどうする? どこで治療が出来る? どこでなら解決が出来るのだ? 延命手段は?
そもそもゴア・マガラ自体目撃していない。いや、設定でシャガルマガラが遠くから鱗粉を飛ばし、全域のゴア・マガラの成長を阻害する事を考えれば遠くから……それとも、本当に神殿は狂竜症によって滅んだのかもしれない。埃の中にウィルスが混ざっていたのかもしれない。だがそこが重要ではない。
重要なのはどうやって、生き延びるか、だ。
その希望を遺跡に見い出す。自分の記憶の限り、一番その手の知識や文献、記録、そして対処法が存在しそうなのがこの場所だからだ。だから希望の全てをつぎ込むしかなかった。ワンチャン、悪魔の方も考えたりもした。だが結局のところ、アレは
未だに地下に縛られる気配を探る事にした。
そこになにか、あるはずだと思った。隠し通路の中であればきっと、破壊されずに残っているものもある筈だ、と祈りながら。そうやってウリ坊に連れられ、神殿遺跡へと到着してきた。事前にイーオスなどの小型種は殺せるだけ殺し回っているから、静寂が守られていた。ウリ坊の背中を降りてから、正面に回り、軽く抱き着く様にその頬と頭を撫でてから離れる。
「じゃ、行ってくる。二日経過して帰ってこなかったら自由に生きろ」
「ぶも……」
「ホルクやエルペ達にもよろしくな」
果たして言葉は通じているのだろうか? いや……通じていると思っておこう。その方が心に優しい。そう思いながら冬用の探索ルック、毛皮のローブ姿で痛みを訴える体を無理やり意思の力でねじ伏せる様に動かす。動く。そして反応する。ならばまだ死んでいない。死生観がドライになってきたなぁ、俺も……そう思い、小さな笑い声を零しながら迷う事無く、神殿遺跡の地下へと向かって足を進めて行く。
息を吐き出す口からは
或いは呼んでいるのだろうか。
「俺を……求めてるのか? 竜機兵」
古龍を殺す為に生み出された人の為の兵器。
竜機兵、或いはイコール・ドラゴン・ウェポン。
竜機兵は人造的に生み出された竜型の生体兵器である。
「寒い……外より寒いな、ここは」
まだ肌の感覚が残っている、という事の証でもある。その事実に少しだけ安心する。とはいえ、手放しで喜べない。そう思いながらランプの中の光を使って、神殿の地下を進んで行く。前は隠し通路を探そうとして諦めた。隠し通路の場所が解らなかったからだ。
だけど今であれば、
「……こっち、なのか?」
俺が狂っているのか。或いは本当にファンタジーなのか。その判別が出来る程自分に正気が残っているかは解らない。いや……そもそも狂竜症に感染しているのだ、自分が正気なんて事はまず、ありえないのだろう。それでも自分が正気だと信じなくてはならない。その意思だけが自分を完全な発狂から抑え込んでいるのだという事実を自覚し、そして封殺する。
俺は―――正気だ。
こっちだ、と呼ぶ気配がする……。
それに誘われる様に、求める様に薄暗い地下の中を進んで行く。光が弱く、遠くまで見通せない闇の中、何故か目が冴える。少し遠くが見える。故に自分の妄想か幻想か、それに従って気配を辿り、地下を進んで行く。生物の気配はなく、地下を進んで行けば少しずつ更に寒さが酷くなってくる。徐々にだが、霜が壁や足元を覆うのが見えて来る。滑らない様に気を付けなきゃな……と思いながら地下室の中を進んで行けば、
やがて、いつぞやの行き止まりに到着した。
「道はここで途切れているけど……この先……だな……?」
壁を見る。軽く壁を叩くが、そこは硬質な感触が返ってくる。その向こう側に音が響くような事もない。だがこの向こう側に通路がある。そう確信させるなにかがあった。周囲へと視線を向け、そして視線を行き止まりの角へと向けた。持ち込んできた片手剣を引き抜き、
「はぁぁぁ―――!!」
それを勢い良く角へと突き立てた。強度で勝る片手剣が見事にそこに突き刺さり、存在しなかったはずの隙間を生み出した。そこに全身の力を込めながら一気にてこの原理を利用する様に、ギミックやルートを無視して、自分の体に存在する全ての生命力と筋力を集め出しながら横へと開いて行く。
「ぐっ、おっ、おっ、おっ、おぉっ……!」
両腕の筋線維がぶちぶちと音を立てて千切れるような気持ち悪さを感じるも、咆哮しながら一気に片手剣に力を込めて通路をこじ開けた。一度軽く開けてしまえば、後は機構が働いたのかスムーズに開き、開いた道から凄まじいまでの冷気を放出し、冷たく籠った空気を顔面に浴びる。
「っぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……」
片手剣が手の中から滑り落ちる。片手剣を握っていた右手を持ち上げれば、それがぷるぷると震えながら、紫色に変色しているのが見える。指先の感覚がない。その事に小さく笑い声を零しながら拳を作り、指が動くのを確認した。感覚はないが、動くのなら問題はない。視線を開かれた隠し通路の方へと向け、
歩き出す。
隠し通路の中へと踏み出すと、パチ、という音がするとともに、光が通路に満ちた。視線を頭上へと向ければ、半ドーム型のガラスの中に炎が燃えているのが見える。機構と燃料が生きている、という事実に驚きを隠せないが、逆に言えばこの隠し通路の中はどうやら、保存状態が極めて高い状態になっているらしい。埃がほぼ見えない。まるで昔の姿そのままを保存した様な姿をしている。だがどことなく、もの悲しい気配を感じる。壁も、どこか赤いシミを残している。ここでもどうやら、地上と同じような悲劇が発生していたのかもしれない。
歩き出し、炎によって明かりが確保されてくる中で、空きっぱなしになっている扉を見た。その中を目撃すれば、ナイフを肋骨に引っ掛け、両腕の崩れた白骨死体を見つける。保存状態はかなり良い。その前には木の机が存在し、そこに何か、彫り込まれている。文字と……絵だ。
文字は読めないが、絵の方は解る。
ゲーム中に目撃した事のある姿だからだ。
「ゴア・マガラの絵か……こほっ、こほっ」
何かの注意、或いは後に来る存在に対する警告だろうか? どちらにしろ、前冗談で零した狂竜症パンデミック説はどうやら、冗談では済まなかったらしい。フラグになるから口にするもんじゃねぇなぁ、と少しだけ後悔しつつも、室内を見渡し、薬になりそうな物を探して―――止めた。
「そんなもんがあるなら自殺なんかしねぇよな」
この部屋には何もない。それを理解し、背を向けて再びこの隠し通路の繋がった空間を調べる。通路は複雑に分岐しながらいくつもの扉を擁しており、その中がそれぞれ、何らかの資料をたくさん置いてあるのが見える。そこには武器や龍の姿が描かれており、どうやら龍を殺す為の研究が行われている様に見えた。
その中でも頻繁に出てくるのはゴア・マガラの姿だった。
そしてその
「まぁ、でも、死体を改造して生み出されるバイオハザードって、どう見ても自然に生まれて来るとは思えないよな……」
或いはゴア・マガラは、古代文明によって生み出されたのかもしれない。龍を殺す為の生態兵器として。竜機兵の一種として。それが野生化、進化した姿が今のゴア・マガラであるのかもしれない。だとしたら現代、そしてゲームの中でも十分に仕事をしてくれていると思う。そのノリで人類まで死にそうになっているのが馬鹿すぎるが。
「バイオハザードで自滅……良くあるパターンだなぁ……けほっけほっ、ペッ」
喉からせりあがって来た血の塊を唾交じりに吐き捨てた。一緒に吐き出された肉片は果たして、自分の内臓のどこだろうか。それを考えない様にしながら、内側から感じる痛みを意思で押し殺した。
特効薬、特効薬を探さなければならない。
研究してた……或いは生み出したのならある筈だ。あって欲しい。
こちとら、ハンターの様に剣をぶんぶん振り回してたら克服できるような超人じゃないのだから。そもそもあの克服の理論とはいったい何なのだろうか? とは思わなくもないが、ゲーム的なシステムの差……だろう。現実的に言えば敵をぶった切って病を克服できる筈がないし。
まぁ、参考にはならない。そして嫉妬していてもしょうがない。再び歩き出し、扉の中を一つ一つ確認しながら奥へと進んで行く。確認すればするほど、見た事のない機材や設備を見つける事が出来る。厳重に隠されていただけあって、その状態も良好だが……工房、或いは研究室の様な気配を感じる。
いや、でも資料や設計図の姿を見る限りはそういう事なのかもしれない。
ここで竜機兵を製造していたのかもしれない。だとしたら歴史的な価値は高いのかもしれない。ギルドの人間とか、ここを調べたそうにするだろう―――まぁ、おそらくはこの近くに、というか周辺地域にハンターなんて存在しないのだろうが。
「ない……薬がない……な」
鼻から垂れて来る紫色の血を片方の鼻の孔を抑え、勢いよく叩き出してから再び歩き出す。探れば探る程、龍を生み出す為の施設や、殺す為の施設を、資料を見つける事が出来る。それを読む事は出来ないが、凄まじいまでの怨念と殺意を感じる。絶対に何かを殺そうとする迫力すら残されている。
そして発見できる白骨死体の数々はどれも、自殺をしている姿で倒れていた。長い時の中でも風化しなかったナイフだけがその手に、体に突き刺さる様な位置に落ちていた。やはり、狂竜症で発狂する前に自殺を選んだのだろうか?
「……」
だが、薬は見つからない。黒い息を口から僅かに吐き出しつつ、体が段々と重くなってくる感触に嫌気がさしつつも歩き続ける。一歩一歩がとんでもなく重く感じる。そして同時に、進めば進むほど空気が寒くなってくるのを感じられた。最初は霜がかかっているだけの状態が、明確に凍って入れない扉も見える様になってきた。そして段々と、呼び寄せる様な気配が強くなって行く。
近づいている。
俺を呼んでいる存在に。
あの火山の悪魔に対して今でもずっと殺意を抱き続けている存在の気配に。どことなくその感情が気配に見える。憤怒と殺意。それが感じる気配の内容だった。明らかに危険な気配だった。とはいえ、もはや薬も治療法も見えない病だ。
もはや不確定で、良く解らない、マジカルな何かに賭けるしかないのだ。
信じてもいない奇跡を信じるしかない。
だから意思の力で動きが止まりそうな体を何時も通りに動かす。今にも内臓の全てを吐き出しそうな感覚を歯を食いしばって堪えるが、その歯が強く噛みしめたらぼろぼろに抜けそうだった。それでも一切折れる事無く体を動かし続ければ、視界がどんどん紫色に染まってくる。
気のせいだ。
まだ、死ねない。
まだだ。
まだ、まだ死ねない。
自分にそう言い聞かせて体を動かす。もはや寄り道はしない。他の部屋を見ているだけの余裕はなかった。もはや冬の高山を思わせるような冷気が襲い掛かってきているのを自覚しつつも、紫色の視界の中で足を前へと動かし、口を閉ざして前へと進んで行く。複雑に分岐する通路を進むのに一瞬迷いそうになる。
その度に呼び声がする。
こっちだ、こっちだ、と呼び寄せる声が聞こえる……気がする。もはやこれに縋るしかない事を自覚している。まだ見立てでは余裕のあった狂竜症による病死も、ここへと到着してから一気に加速している。
まるで、これ以上奥へと進む前に殺そうとするかのように。
ファンタジーだ。
なんてファンタジーな考え方だ。情けない。見えもしない奇跡に、善意に祈っている。こんな環境でそんなものは存在しないのに。それでもそれに祈り、縋るしか今の自分には残されていない。何よりも、この不可思議で滅茶苦茶で、どうしようもない状況に自分は今、僅かな希望を見出している。真冬よりも寒いこの地下研究所の姿が、凍っている姿に、まだ何かが生きているという事に。体を犯す狂竜症が恐れる何かがここには眠っているという事実に。
僅かな、今にも消えそうな種火程の希望を見出しているのだ。
それが見えているのなら―――折れない。
「ここ……か……」
喋ると口の中から血が溢れ出してくる。それを飲み込み、鉄の様な嫌な味を喉に覚えながら、言葉をぐっと飲みこみ、壁に触れる。
奥へと通じる扉があった。その向こう側から早く、早くと待望する様に呼び寄せる気配を感じた。頭がおかしくなったのだろうか、いや、既におかしくなっているのだろう。その事を考える余裕もないのだ、きっとおかしくなっている。だから早く、その向こう側へと進もうとし、厳重に鍵のかかっている扉を見た。残された力ではもはや開く事も出来ない程度だった。
腰に手を回し、そこに片手剣がない事を思い出す。
そう言えば上で落としてきてしまったのだった。
「ぜぇ……ぜぇ……ふぅ、ふぅ……! 持てよ、持てよ、俺の体……地球人を舐めるなよファンタジー……!」
ベルトから持ち込んできた爆薬を壁にネンチャク草で張り付けた。荒く息を零しながら持ち込んできた道具の存在に弱々しい笑みを浮かべる。口にして笑う余裕はないので、心の中で笑うのに留めて、爆薬を鍵に合わせてセットし終わった。
少し離れ、投擲用のナルガクルガの刃から作ったナイフを取り出した。僅かにそこにニトロダケの胞子を塗り、
爆薬へと投擲した。衝突と共に爆発が発生し、それが一気に鍵を吹き飛ばし、扉を開け放った。暴風の様な風がそれと共に一気に放たれ、その衝撃に体が後ろへと吹き飛ばされ、転がる。何も吐き出さない様に口を閉ざしながら、吹き上がる白い煙の向こう側を目指し、体に残された力を振り絞りながらその向こう側を目指す。
扉の向こう側へ、警戒する余裕もなく、ただただ、歩いて踏み込んだ。
その広い空間を表現するのであれば―――格納庫という言葉に相応しい。
壁も床も天井も凍り付いている。そして中央、磨かれた巨大な金属のコンテナの様な物は四方からアンカーの様な物を撃ち込まれており、コンテナと繋がって凍らされているように見える。
どうやら、この冷気の原因はコンテナ内部の存在によって生み出されていた。そしてコンテナ、及びにアンカーからは片手剣や両手剣、この遺跡から発掘した武器と同じような材質……つまり対龍属性、封龍力を詰め込まれた道具の様に感じられた。つまりは、あの中に龍が眠っているのだろう。
「かい、ほうしろ、と、言う、んだ、な……?」
眠い。辛い。吐きたい。痛い。苦しい。気持ち悪い。憎い。
憎い憎い憎い憎い。
憎い―――なぜ自分がこんなことをしなきゃいけないのだろうか。なぜ自分がこんな目に合っているのだろうか。憎い、自分以外の何もかもが。世界中の全てが憎く感じる。ドス黒い殺意が胸の内に湧き上がってくるのを飲み込んだ。うるせぇ、黙れ。日本人は慌てない。誰かを憎む前にSNSで愚痴ってストレスを軽減するから。
クッソくだらない事に頭を回せば、憎しみをそれで笑い飛ばし、何をしているのか、何故ここまで愚直に、信仰するように動こうとするのか全く分からない自分を見て、笑みを浮かべる事を止められなかった。
馬鹿みたいだ。
こんな非現実的な事を信じて。それに縋って。
だけど、まぁ、それも悪くはないかもしれない。
ただゴア・マガラは絶対に何時か、この地上から根絶やしにしてやることを心の中で深く深く誓う。この苦しみだけは絶対に忘れない。死んだとしても絶対に忘れないからな、お前。
心の中だけでも健康的にしつつ、アンカーの繋がる付近の壁に近づき、そこに爆薬を張り付けた。探せば解除する為の機構があるのかもしれないが、そこまで頭が回らない。だからそのまま、他のアンカーにも爆薬をセットして行き、
それを爆破させた。凍り付いていたアンカーは龍に対する力はあっても、それでも物理的な衝撃に対してはもはや、耐えきれる領域にはなかったのかもしれない。あっさりと爆破されたアンカーは連鎖的に吹っ飛びながらコンテナに対するロックを解除させられ、
瞬間、コンテナが内側から吹き飛んだ。
部屋を開けた時以上の暴風が氷の破片を巻き上げながら一瞬で視界を遮り、突発的な吹雪の様に室内が荒れ狂う。吹き飛んだコンテナの破片が一瞬で氷結しながら砕かれ、視界の全ての色が、薄い紫から濃い紫色に染まった。
体から、今度こそ力が完全に抜け、膝から崩れ落ちる。
穴という穴から血を流しながら前のめりに倒れ込む。
そして吹雪の中、その龍を見た。
猛る四足、翼を広げる龍の姿を。咆哮と共に氷柱を生み出し、あらゆる拘束を破壊しつつ地上までの道を凍らせて破壊する事で生み出す古代の兵器、番人として生み出された龍の姿を。
薄れて行く意識、染まる景色の中で、部屋を破壊する程の咆哮を放つ姿が壁も天井も破壊して行く中で、体が凍り付いて行く。だが、ついに解放されたその龍の姿を見て、思った。
あぁ―――なんて、美しいのだろうか。
これがきっと……滅びの美しさなのだろう。そう確信できる荒々しい美がそこにはあった。その姿を倒れたまま見上げて、そして荒れ狂うその龍の姿と視線が合った。
そして、その声を聴き―――体も意識も、完全に極氷に閉ざされた。
ゴア・マガラは古龍と呼ぶには余りにも龍らしくない。ゴア・マガラは生物と呼ぶには余りにも生物らしくはない。どの飛竜にも似つかない骨格、明らかに生物らしくはない誕生と生態。寧ろ人造的に生み出されたと言われた方が納得できるのではないだろうか?
ただ上位の龍には狂竜症通じないってところが最高に草。
という訳で眠り姫の目覚め。チュートリアルの終わり。
生存のための狩猟の始まり始まり。