『折れたのはまた熔かして打ち直すな。今度はもうちょい長く使ってくれよ。根本的に打ち直す度に総量は減ってくからな』
「うっす、どうも工房長。こっちもなるべく長く使おうと頑張るんで」
『いや……お前が本気なのは解るけどさ……それでも、弓かボウガン、作ってもいいんだぜ? 今の材料でならそれなりにいい物も作れるしな』
「あー……まぁ、今は刀って事で」
『それ、最後まで使わない奴の返事だぜ』
工房長猫にそう言われながら愛想笑いを零す。溜息を吐かれながらも、まぁ、しゃーない、と工房長猫も納得してくれる。根本的に、難しいのだ弓やボウガンという武器は。使いこなすには長期の訓練が必要なうえ、弾数に制限があるから長期の利用が難しいのだ。使う本人がメンテナンス用の知識を必要とするし、それに射撃道具は竜を相手する時には必殺の武器にはならない。
何十発叩き込んで漸くダメージとなるレベルで竜の外皮は硬い。貫通弾もゲーム程、万能の貫通力を持っている訳ではないらしい。その為、必殺力では近接武器の方に軍配が上がる……というところで、近接に対する需要や使い手が減らない理由になるのだろう。また、別の話として近接武器に比べ、弓やボウガンは幾つかの機構が盛り込まれている問題として、継戦能力の低さもある。
戦闘を終わらせたらチェック&メンテナンス。これが武器として必須である。その為、研いで、磨いて、それで即座に戦闘に出られる近接武器と比べるとコストのかかり具合がかなり高くなっている。まぁ、複雑で誰にでも利用できるという点を保有しているのだから、しょうがないといえばしょうがないだろう。ただ、まぁ、この《箱庭》環境ではちょっと、それを運用するのは難しいと思う。
いや、まぁ、弓ぐらいはいいかもしれない。最終的に飛んでいる連中を地上に引き落とす必要もあるし、その為の手段を今のうちに用意しておくのも悪くはない。そうなると練習用の弓を用意して貰って、射的の練習をしておく必要があるかもしれない。そうなると、弓を引く筋力の問題が出て来る。
まぁ、昔よりはマシだ。
軽くマガラ化による筋力の向上があるのも事実だ。現在の浸食率は体感、25%程度。内臓系と筋肉が一部、マガラ化によって地球人のそれを超えるスペックを発揮できるようになっている。と言っても依然、筋力に関しては活性化状態に突入しない限りはハンターの下位互換でしかない。やはり、身体能力で戦うというアプローチは間違っている、というのを感じさせる。
どこまでも、技をこの死地で磨かなくてはならない。もっとだ、もっと技量を磨く。戦国時代の人間は日本という狭い環境で蟲毒の如く武を競って磨き上げていたのだ。それと同じ事をすればいい。勝って殺して成長して、自分で自分の流派を生み出す様に殺して殺して技を磨くしかない。
『まぁいい。それよりも次は沼地の奥地に向かう予定だったな? こいつを作ったから持っていきな』
工房長猫からゴーグルを受け取る。少し分厚い、メカニカルゴーグル系統のそれは、両目を保護する為の物であり、それと一緒に面頬の様なマスクを受け取る。どうやらこれをセットで装着するらしい。
『なんでも最近は沼地の奥の方は毒が空気に混じってるらしいからな。その先の環境が解らない以上、眼口鼻の保護は重要だ』
「悪い、助かる」
『いいんだよ。それにそれは毒や睡眠ブレスを防げない程度の代物だしな』
この猫共、アイルー語だとニャニャ言わないんだよなぁ、と思いつつ工房長からゴーグルマスクを受け取り、それを装着してみる。採寸に協力しているし、そのおかげでジャストフィット、という形でゴーグルとマスクを装着出来た。不快感も全く感じない、というか装着している感触が全くない。本当に良く出来ている、と評価できる出来栄えだった。そしてこういうのを作ってもらう度に、改めて本職の技術は侮れないなぁ、と思う。
もう自分で夏休みの工作クラスの物は作れねぇな、とも。
「しっかしこれじゃあまるで暗殺者だな、恰好が」
『自分より強いヤツの相手をするんだから暗殺するので正しいんだよ。俺ら職人はお前らハンターを生かす事が仕事だ。だから作ったもんをぶっ壊しても文句は言わねぇ。生きて帰ってくればそれでいい、忘れんなよ』
「うっす」
工房長に感謝しつつ、工房に設置してある鏡で自分の姿を確認する。メカニクルゴーグルで目の周りを隠し、マスクで鼻と口を覆っている。首元までの完全に隠すインナーはピッチリと体に張り付いて、日本に居た頃とは大違いの鍛えられた肉体に張り付いて強調し、凄まじく筋肉が付いたなぁ、と自覚させられる。ズボンは軽く、そして音を生み出さない素材として認識されているナルガクルガの物を利用した漆黒のものを採用し、両手には複合素材から作成した滑り止めのグローブ、ベルトにガララアジャラの物を利用しているのは、ベルトの素材としてこいつが一番適しているかららしい。
そして左腰には使い捨てる事も考えた刀が合計三本、鞘と共に納められている。
この上から環境に合わせフード付きのマントを装着する。環境に合わせて、というのは装備するマントの色の種類だ。これで周りの風景と溶け込み、隠れるのだが……割とこのカモフラージュ効果が馬鹿に出来ないのだ。
工房を離れる前に、奥の方へと視線を向ける。
そこには大量の鉱石と竜の素材を前に、刀身を限界まで熱しているあの片手剣の姿が見える。工房長猫の言葉によれば、あの片手剣の本来のスペックはこんなもんじゃないらしい。まだまだ、もっと上の姿がある。そして剣自体がその姿を取り戻す事を求めているらしい。その為には大量の上質な鉱石と、竜の素材が必要となる。
普通ならそれを利用して形作って行くらしいが、工房長猫が言うには理想形は剣自体が知っているらしい。だから熱し、素材も熔かし、それを食わせる様に吸い上げさせていきながら無心で叩き続ければ、剣が望む形に仕上がるらしい。
職人の技量等を無視して完成されるのは、魔剣の特徴とも言えるらしい。恐ろしい程に完成まで時間がかかるらしく、材料も足りず、
現状の刀はその余りの部分を使っている、とも言える。贅沢な片手剣だった。
「ニャニャ……沼地に行く準備は出来たかニャ?」
工房を出た所で、待ち構えていた先生に捕まった。ばっちりだ、とサムズアップを向けるとニャニャニャ、と声を零した。
「偵察気球とニャ―の予測が正しければ、あの沼の向こう側は恐らく砂漠があるニャ。ただそこを遮る山脈はちょっと絶壁すぎるニャ……まるで仕切のようだニャ。たぶん、向こう側に通じる洞窟があると思うニャよ。そこは間違いなくフルフルの巣になっているだろうから、ホットドリンクとクーラードリンク、両方忘れるんじゃないニャよ?」
「俺も自殺志願者って訳じゃないから解ってるよ……しかし、砂漠か」
先生がそう言うのならそうなのだろう、と思う。そこらへんの知識や感覚が自分には薄い。この四年間のサバイバルで直感や先読み、隠密や察知に関する技術に関してはそれなりに自信がある。竜の意識の向ける方向、その死角みたいなのはなんとなくだが解る。自分が意識を向ける、というのを相手になって理解するような事だからだ。
ただ、まぁ、生き残る事に知識が特化しているというか、根本や基礎をぶっ飛ばして上級編にぶち込んでいるという状態らしいので、ちょくちょく先生の言語が解る様になった今、ハンターの基本知識に関する授業を行ってくれている。
例えば植物の見分け方とか。
痕跡の探し方、基本的なハンターの仕事とか、役割とか、報酬のレートとか。
後聞いていて楽しいのはドンドルマを中心とした政治の話だ。ギルドや周りの王国がどんな風に関わって発展しているのか、その力関係を聞いたりするのは割と楽しい。ただやはり、状況を考えて先生の教えてくれることは大半がハンターの基礎知識やスキルに関する事が多い。
「そんじゃ、出発の準備をするかな」
「んにゃ。何か面白い物を見つけたら教えてくれニャ。後無駄に喧嘩は売らないようにニャ」
「まるで俺がキチガイかの様に言う……」
「自覚のある馬鹿につける薬はないって奴ニャ」
酷いなぁ、と苦笑しながら第二拠点の家に入り、保管室に入る。ゲームに存在した様な万能アイテムボックスなんてものは存在しない。ちゃんとした保管室に直ぐに使えるアイテムなどは保管し、竜の素材等に関しては基本的にギルドが預かり、管理しているらしい。
まぁ、個人であんなものを管理、保有できるだけの土地はねぇよな、と納得する。
それはともあれ、先生の話を聞けば、フルフルの寝床を突破する必要があるとの事だった。となると洞窟対策にホットドリンク、砂漠対策にクーラードリンクをまずは持ったうえで、フルフル対策に《耳栓》を持ち込む必要があるだろう。正確には《最高級対咆哮耳栓》である。
ゲーム時代にはもうちょっと違う名称で《使い捨て高級耳栓》と呼ばれ、課金アイテムとして存在したものだ。
その効果はゲーム時代だと自動消費型のアイテムであり、これを保有していると咆哮、つまりはバインドボイス発生時にスキルである《高級耳栓》と同じ効果を発揮するというものである。モンスターハンターフロンティア的には耳栓系統のスキルは割と必須スキルだった。というか足を止めると即死する。
食いしばりとかも割とメジャーというかガンガン乗せられる。
だけど運営は根性殺しと根性貫通と根性対策をしてきた。
ちなみに耳栓も貫通する。
お前の事だぞグァンゾルム。
インフレするバランスの方向性見失ってない……? と、運営に問いかけたくなるが、実際にそういう糞性能しているキチガイ龍は一部のみなので、そこまで深く心配する必要はない。というかメタを張ってくる運営とはいったい、と言いたくなる惨状は懐かしい……。
だからお前の事だぞグァンゾルム。
マジカル咆哮でクーラー解除するお前も許されないぞミラバルカン。
まぁ、それはともあれ、アイルー達がギルドから持ち込んだ物品の一部である、これは。割とバインドボイス対策というのはハンターの間でも死活問題であり、バインドボイスで耳が死んだ結果反応出来なくなった、とか割とざらに存在したケースらしい。ティガレックスの咆哮なんてものを間近で味わえば、そのまま脳がパーン、と弾けることさえもあるとか。
結構広い範囲で聴覚保護のスキルを付ける事の出来る防具は多いし、自分が遊んでいる頃では三界の護りは必須とも呼べる環境だった。だけど全てのハンターがそう言う風に揃えられる訳ではないので―――用意されたのがこの、耳栓だったらしい。
ゲームの様に使い捨てではなく、そこそこ長持ちするらしい。
耳にフックさせるような形で装着し、イヤホンの中に耳の中に差し込む部分がある。そうやってハンズフリーで使えるこの耳栓は、通常時は普通に音を通す様に設計されており、一定以上の音の周波数を感知した時、それを吸い込んで遮断する、という風に機構が組み込まれているらしい。小さいながら、ハンターズギルドが生み出した大規模なバインドボイスに対する対策だったらしい。
これがあれば高級耳栓スキルが存在しない自分でも、フルフル相手に戦える。
大型飛竜との戦いは基本的に隙を晒さない事が最も大事だ。バインドボイスという長時間動きを封じ込められる相手の拘束に対して、それを無効化できる耳栓の存在は強力だと言ってもいい。何せ、相手の一手を完全に潰す事が出来るのだから。
まぁ、超咆哮クラスには通じないのだが。
グァンゾルムは何時までも許さない。絶対にだ。悪しき前例を許すな。
「ま、こんなもんか」
アイルーのおかげで消耗品周りが一気に充実したのは嬉しいと、耳栓を事前に装着しておきながら思う。漢方薬や解毒剤も沼の環境を考えて一応持ち込み―――そして今、活性化する肉体を抑え込める唯一の薬、ウチケシの実を飲み薬にして貰ったそれも、ベルトに装着する。
先生の見立てでは三割ラインを超えた辺りから、狂竜ウィルスの治まりが悪くなってくるだろうから、鎮静の為にはウチケシの実を食べて強制的に押し込むのがベストだ、という判断だった。
そうやって必要な道具を全部揃え終わり、活動用のマントに刀を装着し、フードを被る。
保管室から、家から出てみれば、既に出かける準備を終えたウリ坊の背の上にラズロが乗っていた。
『沼地と洞窟を抜けて砂漠だってな、相棒』
流暢なアイルーの言葉でラズロに話しかけられる。格好つけている猫は、それなりに様になっている。まぁ、前線経験はたぶん俺よりも豊富なので、狩猟者として見るなら間違いなく先輩なのだが、その小さな体を見ているととてもそうは思えない。
「ももっ! ももっ!」
「お前もでっかく育ったよなぁ」
正面から飛び込んでくるウリ坊に轢かれそうになるのではっはっは、と笑いながら飛び込んでくる姿の顔面を掴み、笑顔のまま必死に姿を捕まえて押し込む。こいつ、この前の事なのだがヤオザミに突進したらそのままヤオザミをミンチにしたのを目撃してしまったのだ。ついに自動車並みの破壊力をそのボディに詰め込んでいる、というか状況が状況ならハンターに狩猟依頼を出されそうなぐらい。
たぶん、ドスファンゴぐらいなら正面衝突しつつ跳ね飛ばせるだろうと思う。
やっぱ竜の素材食べさせちゃ駄目だな。
そう思いながら頭に手を置き、そのまま体を持ち上げて背の上に乗った。上から影が差し込むのを見れば、ホルクが見送る様に空を旋回するのが見える。其方へと向かって軽く手を振る。
「あんまし、空も安全とは言えないから思いっきり飛ばしてあげられないのがなぁ……ま、しゃーないか。行くよ、ウリ坊」
「もっ!」
『いざ、未知の浪漫へ』
猫の癖に格好いい事言いやがる。そう思いながら沼地へと向かって歩みを進めた。
あまり、沼地は踏み込むような場所ではない。最近ではキノコを食べられる様になったとはいえ、取れる食材は少なく、そして稲穂は取得してもそれを米にするまでが手間であり、同時に稲を拠点で育てる事が出来ないという理由で、長らく放置されていた場所でもある。また、ここはイビルジョーのメインの狩場となっていて、丘へと侵入しようとする大型竜を確実に仕留め殺すキリングフィールドでもある。入り口でウリ坊を拠点の方へと帰してから降り立つ沼地、さっそく入り口付近で《偏食》のイビルジョーを目撃する。
此方を軽く見てから視線を外し、何かを求める様に沼地の奥へと去って行く。その姿を見て、ラズロがやれやれ、とアイルー語で声を零した。
『相変わらず薄気味悪い奴だな』
「そうか? ジョーさんかっこいいと思うんだけど」
『正気か』
「食欲に打ち勝っている辺り、格好よくないか?」
『その感覚が解らないな……そこが不気味なんじゃないか』
「うーむ……」
イビルジョーと今までどういう接触をしたかという経験の違いから来る言葉だなぁ、とお互いに納得しつつ、イビルジョーの後を追う様に沼地の中へと入って行く。ある程度進んだ先で、いつの間にか黒く変色したショウグンギザミを真っ二つに食いちぎっている《偏食》を発見し、お仕事お疲れ様です、と心の中でだけ伝える事にしてそのまま、沼地の更に奥へと向かう。事前に注意されていた通り、沼地の奥は酷いもんだった。
紫色の泡がゆっくりと大地から浮かび上がり、破裂し、紫に空気を僅かに染めていた。見た目からしてもう既に毒! という感じで溢れていて。余り長くここには留まりたくはない場所だった。根本的に身体がアホみたいに強い竜はともかく、対策していてもこんなところに長時間居れば、弱ってしまう。
「さっさと抜けるか」
『だな』
ラズロもゴーグルとマスクを装着した状態で答えた。やっぱり可愛い。アイルーは基本、何を着せても可愛い。
そんなコメントを抱きながら毒が足元から浮かび上がる沼の奥へと進む。事前に用意したゴーグルとマスクが無ければ、これは問答無用に毒に犯されていたな、と思いつつも、自分の体内はマガラ化が進んでいる、それを考えたら竜の抵抗力で無視出来るんじゃないか? と思ってしまう所もある。
リスクのある行動はとらない。
危ない所はさっさと突破するのに限る。
サクサクと足を止める事もなく、紫色に染まった毒の沼地を進んで行く―――果たして、一体何が原因で沼地はこんな色に染まってしまったのだろうか? その事実は少々気になる所だった。だがそれを考える事を後回しにして先へと進めば、沼地の最奥で洞窟を発見する事が出来た。
「予測は当たってた……ってところかな」
『あぁ……まるでそれぞれの環境を小さく纏めて区切ったようだな。確かに《箱庭》という言葉は正しいな……』
ラズロの言葉に頷きつつ、洞窟の中を覗き込む。やはり、一切の光が存在していないのが見える。完全に暗闇に包まれた洞窟は、先へと進むのが大変そうだった。とはいえ、大型竜がこれを通して反対側へと抜けているらしいのだ……中の広さはそれなりだろう。
腰のランプに光を灯し、躊躇なく闇の中へと進んで行く。
少し進んだ所で沼地からの毒の気配が消え、洞窟特有の冷気が溢れ出す。一気に冷え出すその環境の中で、水の気配を感じ始める。川の様な流れる気配ではなく大きく、静かで、そして底の知れない穏やかさだった。この洞窟はどうやら、地底湖に通じているのかもしれない……そう思いつつ、洞窟の中を進んでゆく。
無論、マスクを軽く外してホットドリンクを口にするのを忘れない。
それで体が芯から温まって行くのを感じつつ、洞窟は少しずつ、広がりを見せて行く。
『どうやら中心部はそれなりに広いみたいだな』
「やっぱ人の手が入ったような構造をしているよな……」
『古代文明、か』
何を思ってこんな環境を連中は構築したのだろうか? その答えは古代文明が滅んでしまった以上、永遠に答えの出ない事なのだが、それはそれとして、気になってくる。
そう思いながら洞窟を進んで行く事一時間、
―――モンスターハウスに迷い込んだ。
このまま戦闘の方も書こうかなぁ、と思ったけど長引きそうだったので区切る。
という訳で次回はついに複数の中型、大型とバトル。モンスターハウスというかvsフルフルの巣というか……うん、がんばろう。
MHFは独自のアイテムが多くて使い捨て耳栓、根性札とか色々あるんだけど、それを出しておきながら環境必須スキルに対するメタ龍を実装するという自分で自分を殺してそれでPCのマゾ力を鍛えるという凄いゲーム。でも、使い捨て耳栓の存在は色んな意味で便利なんだ……。
スキルが使えないのならなおさら。