※この作品はR-18です。

Monster Survivor   作:てんぞー

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5年目 春季

 異世界漂流五年目。

 

 転生でもなく、原因不明なのでトリップ(旅行)とも言えず、迷い込んだのならそれは漂流と表現するのだろうという考えから異世界漂流。その五年目。ついに五年目か、とも、まだ五年目か、と思いたくなる事がある。もう既に此方で数十年は暮らしている様な濃い密度の人生を送っている気がする。だがそれとは別に、まるで加速する様に時間が過ぎ去って行くのを感じる。必死になっている内に、いつの間にか季節は過ぎ去り、そして新たな季節が一巡してやってくる。

 

 この世界に、星に慣れたのか? それは難しい質問である。根本的な地球人感覚が既に20年も続いたのだ、今更直ぐに切り替えろと言われても難しい。それでもあっさりと刃を振るえる辺り、人間の適応能力という奴は全く馬鹿に出来ない。そんなウルトラハードな環境で過ごしてきた人生、漂流して五年目になる。誕生日が何時だったか忘れたので、経過年数で数えて大体、25歳辺りになった。少し、大人になれたのだろうか? そう考え、無駄な思考だと切り上げるこの頃、

 

 五年目の春季は地獄となって幕を開けた。

 

 飢餓だ。

 

 冬の間に我慢していた事とは別に、春になってもランポス等の小型肉食竜が戻ってくる事はなかった―――どうやら、ついに完全な形で環境から絶滅してしまったらしい。その影響を受けて、一番食べやすい存在が消えた事で慢性的な肉不足の影響が竜種に現れるようになった。つまりは飢餓による狂暴化だった。春季、雪が降るのをやめた辺りから《斬虐》は山へと戻って行った。そして雪が溶け始めた頃には少しずつ丘の生態系が今までのそれに戻り始めていた。

 

 だがそこで目撃出来たのは、イャンクックがイャンクックを食らおうと12頭が乱戦を繰り広げる様子だった。

 

 それは異様すぎる光景だった。基本的に相当好戦的な種族でもない限り、モンスターは同種の間で争う様な事はしない。当たり前だがそれは種族の本能なのだから、争わず、種を繁栄させるために行動する筈なのだ。だからイャンクックは普通は争わない。特に鳥竜種はそこら辺、コミュニティを築く個体が多い。その為、積極的な争いをする姿は外敵以外には目撃しない。

 

 だがこれはどうだろうか? イャンクックが12頭、おそらくは同じコミュニティ。それに属するものたちが殺意をお互いに向け合い、食料として互いを見ている。それは気持ちの悪い光景だった。

 

 人間社会でカニバリズムは忌避される行いだ。やってはいけない事だと理解している。突然変異でそうする人間が万に一つの可能性として生まれて来る時があるかもしれない。先天性、後天性、どちらであれ、それはそういう存在として現れるだろう。だが根本的な部分として忌避すべきものである、という認識がある。そのおかげで人間が食人性に目覚める事はほぼない。ありえないとも表現できる。それはやってはいけない事だと遺伝子的に理解しているからだ。

 

 だがある日、国単位で住民がカニバリズムに目覚める。唐突に朝マックを食べに行くような気軽さで、料理するよりもそのまま、自分の家族を食べた方が早いじゃないか、と思うようになる。

 

 その異常性が今のイャンクックだった。存在的にありえないのだ、そういう風に習性が行きつくのは。生物としてまるで正しくないと表現も出来る。特異個体でも、辿異種でもない。ただの異常性だ。種全体で異常が発生しているのだ。生態として、或いは生物として発生してはならない事だった。本能や遺伝子、その全てに逆らう様な行いが種族単位で発生しているのだ。他の種を食らう事ならまだいい。

 

 だが当たり前の様に同族を食らい合う光景は、醜悪としか表現が出来なかった。吐き気しか感じられなかった。当然だ、生物的な行いを無視しているのだから。生物として間違っていると断言できる行いを通して成長しているのだから。

 

 殺して、止めなくてはならない。

 

 気が付けば刀を手に、イャンクックの群れを虐殺していた。それ以上、それを見るに堪えられなかった。狂わされ、本能を凌駕するほどの悪意で同種を食らい合うその凄惨で凌辱的な光景を。その果てに待っているのは子を残す為の死姦だったのだろうか? それを考えると更におぞましい。おぞましさしか残らない。だがそうやって殺すことを繰り返せば、更に生息数、生物の数は減って行く。

 

 それでも、殺さなくてはならない。

 

 殺さないと、食い合って更に強い種が生まれる。悪意の泥の中からおぞましい怪物が産声を上げるのだ。それを防ぐ為には生まれる前にその種を根絶やしにして始末するしかないのだ。その為に更に、もっとたくさん、

 

 竜を殺さなくてはならない。

 

 五年目。

 

 生存競争の年が始まった。

 

 

 

 

「これがお前の新装備ニャ!」

 

 そう言って工房長猫が新しい装備を見せてくれた。完成されたのはグローブ、ブーツ、インナー、アウター、そしてマントのセットだった。つまり今まで使っていた装備を全て新しいものに更新する、という形だった。まだ使い始めて数か月しか経過していないので、個人的には物凄く不満、というか勿体なく感じるも、工房長猫はこの季節の猛攻を生き残る上では、最速で最新の技術と最高の素材を使った作成を行うのが一番だと力説していた。

 

 それを否定する言葉が存在しないので、素直にそれに従っている。

 

「インナーと手袋は素材を更新したニャ。この前持って来たばかりの星竜・エストレリアンの素材を使っているニャ。これは此方の大陸で独自の進化を得て生まれて来た竜種だニャ。シュレイドやフォンロンでも見かける事のない竜ニャ。たぶん環境の影響で生まれて来た竜ニャ。その性質も面白いもので装備してちょっと力を籠めるニャ」

 

 言われたまま、装着しているゲリョスのオープンフィンガーグローブからエストレリアンの手袋へと装備を変える。指に吸い付くようなフィット感を感じる。装着した箇所から皮膚に同化するようなピリっとした感触を感じ、軽く力を込めて拳を作れば、まるで手の一部の様に反応する。脱がそうとすれば別に普通に脱げるのに、それを装着し、力を込めればぴったりくっつく。

 

 不思議な素材だった。

 

「うーん、マーベラス」

 

「初めて見る素材だけど実に不思議な特性だニャ。確か星竜は合体する竜なんだニャ?」

 

「あぁ、そうなんだ。星竜エストレリアンは蝶の様な甲虫と共生関係にあって、怒りを覚えると合体するんだよなぁ……」

 

「たぶん素材として使った場合に出てきている影響はそれが原因ニャ。融合、合体、そこら辺の特性が素材としても滲み出ているニャ。だからそれを使うと指を完全に保護した状態のままで細かい作業が行える筈ニャ。手袋を作るには理想的な素材ニャ。耐火性と耐電性も高いニャ、インナー装備を作るならまずこれだと思ったニャ」

 

 その言葉の意味は良く伝わってくる。色合いはオレンジ色に近い色合いに白で文様が入っている。そしてそれに合わせ、コンバットブーツも更新されていた。此方はどうやら、履きやすさを向上させたうえで、足首から下の部分に軽い金属を仕込む様になったらしい。これで龍を踏んだりしても、足を焦がしたりする事はないとか。蹴りによる破壊力の向上を少しだけ、目指した。

 

 それが終わればアウター、つまりはインナーの上に着る服装。砂漠から回収してきた古龍の素材を活用しており、ハンターが装着するような鎧ではなく、シャツとジーンズに近い、動きやすい恰好を工房長猫が言うにはテオ・テスカトルの皮と毛を使って作っていた。恐ろしく軽く、そして黒曜石のナイフを通さない頑丈な素材だった。

 

 個人的には古龍の死体が転がっている砂漠というのが恐ろしかったが。

 

 そして最後に、

 

「これはオオナズチの素材からカメレオンローブだニャ。オオナズチの特性をふんだんに盛り込んだこのローブは周辺の環境に紛れ込む様にその色を軽く変える不思議なローブだニャ。これ一着あれば環境に合わせてマントを選び直す必要はもうないニャ!」

 

 前使っていたマントよりも重く感じるが、装着してみれば、確かに工房長猫の言う通り、軽く色が周辺に合わせて変わり、隠れやすい色に変化する不思議な物だった。スキルは付与出来ないと工房長猫は言っていたが、

 

「こういうのは作れるのか……」

 

「そこまで難しくないニャ。素材の持つ特性を引き出すだけならメゼポルタの職人なら大体誰だって出来るニャ。難しいのはここに、概念的な能力を付与する事にゃ。それには設備が必要ニャ」

 

「成程」

 

 地球人だったら卒倒しそうな話だが、スキルは恐らく自分には意味がないであろう以上、気にしたところでどうしようもない。工房長猫から受け取った装備品、防具の一つ一つを確認しながら装着して行くと、最後に一つの道具を工房長が渡してきた。なんというか……黒ずんだワイヤーと、吸盤? の様な道具だった。

 

「これは」

 

「ニャニャ。新大陸では蟲にワイヤーを打ち込む事で自由な移動を可能にしたらしいのニャ。これはその技術を組んで改良したものニャ。素材は伸縮性に富んだゲリョスの尻尾を使いつつ、フルフルの吸盤を使って作った道具ニャ。試しに上、ちょっと放ってみるニャ」

 

 工房長猫に促され、軽く回転させてから勢いをのせ、上へと向かって放ってみれば、まるでお餅の様に一気に伸びたゴムワイヤーが天井に吸い付き、そしてそのまま反動で縮小する勢いで掴んだ此方の体を引っ張り上げた。

 

「おぉ」

 

 五メートルほどの高さまで一気に引き上げられた所、最短状態に戻ったワイヤーは自動的に吸盤が力を失って外れる。そのまま、下に軽く受け身を取りながら着地する。中々便利な道具を工房長猫は作成してくれたらしい。

 

「それは縮小状態だと外れて、伸びた状態だと吸い付く様にしてあるニャ。高い所に登る時、或いは落ちる時、緊急脱出の時にたぶんニャーが走るよりも早く動けると思うニャ」

 

「ありがたい」

 

 工房長猫に軽く頭を下げて感謝しつつ、新しい装備を装着し、ちょっとしたむふふ状態だった。結局のところ、男の子として新しい装備、という概念に関しては常に笑みが浮かんでしまう性質を持っている。

 

 男だからしゃーない。ただこれで色々と装備や手段が充実してきたのも事実だった。そしてこれをフルに扱えるようになるのが必要なのも、また一つの事実だ。それを踏まえ、どうするか、と悩む所だった。装備を受け取り、着替え、そして出る準備を整えた所で少しだけ困っていた。この装備があれば、今までは行く事をしなかった高地へと様子見に出る事が出来るだろう。

 

 だけど、それとは別にそろそろ水没林の様子を見に行きたい、というのもあるのだ。あちらは辿異エスピナスが入り込んで、その影響で実質封鎖状態になっていた。だが今の環境、とてもだが辿異エスピナスだけが残っている様には思えないのだ。別の所から流れ込んだ種と争って、覇権が移り変わっていそうだ。

 

 だけど高地も高地で、三つ巴の状況がそろそろ終わっていそうな……或いは別所から流れて来た生物によってチャンピオンが別の奴に変わっていそうな気もするのだ。正直、どちらもあまり長い間見てなかっただけに、覗き込むのを恐ろしく感じるのだ。

 

 だが生き残る上で、どちらも最終的には向かって竜をぶち殺す必要がある。

 

「んー……迷う……」

 

 まぁ、ぶっちゃけ、どちらでもいいというのが本音だ。最終的にはどちらも回るのだから。だがその上で考えるのはどっちから回った方がまだ安全か、という話だ。とりあえず、向かう方によっては其方に構っている間に状況が進むかもしれないし、それが原因でもう片方の環境が変化してしまうかもしれない。だがどちらにしろ、最終的には両方回らなくてはならないのだから、

 

 フィーリングで選ぼう。

 

「んー、水没林、かな……?」

 

 高地は後回しにすると決める。というのも、今、ここであの辿異エスピナスが生きていようものなら自分の手で始末しよう、そうしようと決定したからだ。それが決して、楽ではない相手であるというのは誰よりも、自分が理解している。

 

 何せ、エスピナスとは完全なるフロンティア産飛竜、つまりは魔境生まれの竜であり、昔は魔境の看板をしていた竜でもあったのだ。その中でも辿異種となったエスピナスは猛毒、超毒とか言われる解除不可能の糞性能毒を引っ提げてきている。超風圧も持ち込んでいるし、まさに辿異種と呼べるだけの暴力的な能力を保有している存在だ。

 

 だが将来的にはこの辿異種を鼻歌を口ずさみながら狩猟出来るだけの実力に到達しなくてはならない。何故かと言えば、まず間違いなく絶種がそう言うレベルにある存在だから、なのだ。

 

 アレは絶対に戦う日が来る。それは確信している。それも一体や二体では済まないだろう。だから事前に辿異種を殺す事で経験を取得する必要があると思っている。確かに正気を疑うリスキーな行いだが、それと同時に、やらなくてはならない事でもあると思っている。

 

 実際、上位の戦闘になれば成程、何よりも大事なのは経験だと思っている。何と戦ったのではなく、戦闘を通して何を経験したか、という事実がずっと、自分の力となって残ると思っている。最初は剣の振るい方が解らなくても、それを繰り返している内に使い方が解って来た。それと一緒だ。今はまだ経験した事のない事でも、経験する事を繰り返せば、咄嗟の判断でも経験から最適な決断を下す事が出来る様になる。

 

 その為にはまず、辿異の領域に入門しなくてはならないだろう。

 

「……」

 

 ……勝てるのか? 自分に。辿異種に。あのヒプノックはまだ若い個体だった。奇襲染みた攻撃で即死させただけだ。それに今回は刀という武器制限まで存在するのだ。そう簡単に殺せるとは思えない。第一、毒の警戒もしなきゃならないのだから、簡単には終われないだろう。

 

 だが、それでも、

 

 最終的に絶種に勝利する事を考えたらまず間違いなく、ここで勝利する必要はあるだろう。そしてここでの経験を足掛かりに更に上の段階へと進む必要がある。

 

 何時かはやらなくてはならない事でもある。戦いを繰り返す事で無理やり成長を促進させるのがこの《箱庭》……或いは《蟲毒》という環境ならば、戦いを繰り返せば繰り返す程、強くなって行く筈なのだ。実際にランポス相手に地獄を見ていた自分が今ではフルフルを群れ単位で虐殺するだけの力を手にしている。その経緯がどうであれ、

 

 戦いを繰り返す度に、成長を繰り返している。

 

 理想とする自分の姿へと。だからもっと、もっと戦わなければならないのだろう。もっと戦い、そして殺し続けなければあの領域には届かない。

 

「殺るしかないか」

 

 何時もの事だ、と目を閉じて覚悟を決める。

 

出来るか出来ないかじゃない。やる。やり遂げた。やってみせた。それだけが許される。そしてこの先も、それだけが認められる。だから自分は、少しでも長く生き続ける為に―――自分のエゴの為に、殺し続ける選択を選ばなくてはならない。

 

 誰かが困っている訳じゃない。

 

 生きるために必要だからじゃない。

 

 求めているから殺すのではない。

 

 殺す為に殺すのだ。

 

 この環境の、生物たちと何の変わりもなく―――殺す為に殺し、強くなる。

 

 その道を選ばなくてはならない。

 

 だから目を開け、春の空を見た。明るく、そして美しい、大気の汚染の無い綺麗な空が広がっている。空気が美味しい、なんて事を感じる余裕なんて今でもまだない。だけど聞こえてくるアイルー達の喧騒を聞いていれば、少しだけ笑い声が漏れてしまう。寂しかった心を埋める様に作った環境、

 

 それを守るためにも、殺さなくてはならない。

 

 殺さなくては、ならないのだ。

 

 故に狩る―――次の獲物はエスピナス辿異種だ。




 強くなる為に殺す、という究極のエゴイズム。それは果たして生まれようとする悪意の怪物たちと何が違うのか。五年目は楽しくなるぞー。いっぱい戦うぞー。

 それはそれとして、個人的に全シリーズを合わせて一番好きなのは星竜かもしれない。亜種の禍星竜や天星竜合わせてデザインほんと好き。

 次回、対辿異エスピナス戦。もうナスとは笑わせない。
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