何時も通り、大型狩猟を行う前には、存在しない神にではなく、自分の強さに対する祈りを捧げ、軽い儀式を終わらせた。装備は工房長猫によって最新式に更新されている。左に三、右に三。メカニカルバインダーによって刀の装着はもっとシステマチックになった。無駄に鞘が揺れなくなった上に、バインダーで連結されており、ワンタッチで鞘を分離する事が出来る代物だ。ベルトから鞘を抜くという手間をこれが解消してくれた。
それに閃光玉、爆薬、投げナイフ、ゴムワイヤー、そして古の秘薬。これの飲み過ぎはどうやら
解毒薬もエスピナス、それも辿異種が相手であればほとんど意味はない。持ち込むだけ無駄だ。
それ以外にも何を持ち込むのか、良く考えた。自分の中にある熟練のハンターであれば、まず間違いなくハメるだろう。睡眠爆破とかは良くやる手段だ。麻痺させるのも悪くはないだろう。だが現実的に考えて眠らせるのも麻痺らせるのも、短時間でそれを行うのは不可能だ。そもそもどうやってあの激しく動く生物を相手に大タル爆弾を設置するのだ? それに睡眠三倍ダメージなんてものは存在しない。第一そんな簡単に感染しない。
毒とか麻痺とかいきなり睡眠とか、しない。
疲れを癒やす為に戻って眠るなんて事もしない。
ゲームの様な都合の良いチャンスは存在しないのだ。だから結局のところ、どこかで妥協するしかない。そもそも、最終的な相手を考えると道具に頼る様な狩猟では最終的に、全てを封殺されて殺される未来にしか辿り着けないような、そんな気がする。何よりも強くならなきゃいけないのだ、俺自身が。道具で刃向かう、握る剣とそれを振るうだけの腕前で。それだけでなんでも殺せるレベルまで自分を鍛えなくてはならない。その為には必要以上の道具も無駄だ。
必要な道具は最低限のサポート道具と、薬と、武器だ。
これだけでいい。
これが、良い。
覚悟を決め、装備を完了し、祈りも全てを終わらせた。水没林の辿異エスピナスを殺しに行く。そう決めて歩き出そうとしたところで、マント姿のラズロが四足歩行で走って近寄り、溜息を吐いた。
「おいおい、俺を忘れてるニャ、相棒」
「なんだ、来るのか」
「俺抜きで戦うなんて贅沢な事をさせる訳に行かないニャ。辿異種なんて中々会えないからニャ。俺もまた、ニャンターとして一つ上の領域に至る為に相棒を利用させて貰うのニャ」
森林拠点から歩き出しながらそう言うラズロの姿を見て、小さく苦笑を零しながら、しょうがない奴だ、と呟く。それでいいんだニャ、とラズロは笑いながら横を歩く。ゴーグルを装着し、マスクを装着し、遠征する全てを整えて相棒のニャンターと一緒に、森林から樹海へと移動して行く。歩き慣れ、そしてこの五年間で踏み慣れた道を一人と一匹で進んで行く。お互いに、武器はそこまで特別な物ではない。これで辿異種を殺しに行こうという話だから、改めて凄いと思う。
特にゲーム時代での糞性能を知っているのなら。
アレが、リアルになるのだ。今まで殺した事のある相手で一番強い部類に入るだろう。
「正直な話をするニャ」
「おう」
「ちょっとついていけないニャ」
森林から樹海に入り、そこから水没林へと繋がり道を進んで行きながらラズロの話を聞く。その言葉にまぁ、そりゃそうだろうなぁ、と思わなくもない。
「俺はこう見えてもG級のオトモとして一緒にクエストに出たりしてた時期もあったニャ。ニャンターとしても上位でソロ狩猟とかもやってたのニャ。まぁ、ニャンターだと上位が限度なんだがニャ」
初めて聞く内容だったが……まぁ、確かに、とは思う。アイルーは摩訶不思議パワーをゲームの時は発揮していたが、これがリアルになると相当難しいだろう。まず、体格差の問題でほとんどの攻撃を大型飛竜に対して通す事が出来ないという問題があるのだ。それなのに上位に居た、というのは相当な腕前を持っていたという事だ。
「あぁ、だからサポートが的確なのか」
「まぁニャ。G級での戦いはどれだけハンターの動きを自由にするかという所にオトモとしての重要性があるニャ。閃光玉、音爆弾、爆弾、ネット。一流のオトモ、ニャンターは様々な道具を使って常に相手の行動を潰し、或いはハンターの動きをサポートして攻撃のチャンスを作るものニャ」
ラズロと狩猟に出る時、ラズロは常に此方が動きだし、攻撃を仕掛ける時に合わせてサポートを入れている。それは此方が一手届かない時にブーメランで目潰ししたり、或いは戦いやすい様に環境を整える為に光源を生み出したり、或いは此方が閃光玉を抜く事が出来ない状態を察してそれを使用してくれる。
状況に必要な物を常に一歩後ろから観察しつつ、的確なサポートを入れる事で此方の行動を保証するという戦闘の巧さがラズロにはあった。正直、ブーメランとハンマーは物凄い頼りないが、それで殺傷する事を目的としていない事は理解した。
「まぁ、だから俺もハンターという連中は良く知ってるニャ。だから相棒はちょっとついていけないニャ」
ラズロは歩きながらそれを口にする。
「最初、相棒を見た時はまだまだ、下位から上位に上がった程度のハンターレベルだったニャ。正直、なんで生き残ってるんだこいつ? って疑問を覚えるレベルの弱さだったニャ。だけど生活して、一緒に狩猟する度に絶対に成長して戻ってきているニャ。普通、ハンターが何年もかけて得る筈の成長を圧縮したかのように相棒は成長しているニャ……」
ラズロはそこで一旦言葉を区切る。水没林へと行く道の途中、道路の端っこで蜂の巣を抱えながら転がってシエスタを過ごしているアオアシラ師匠を見つけた。此方が手を振ると、視線を軽く向けてから蜂の巣をちゅーちゅー吸うのに戻っている。物凄く表情が蕩けていて幸せそうな表情をしていた。本当に幸せそうだなぁ……とその姿を眺めてから移動を再開する。
「正直、今の相棒はG級入門ぐらいの実力はあるニャ」
「そこまで?」
「近距離片手武器で必殺出来る様な連中は上位にはいないニャ。いても将来的にG級昇段を受ける様な奴ニャ。そういう領域に相棒は来ているニャ。ありえない成長率と成長速度ニャ。まるで根本的なルールが違うみたいだニャ」
ラズロがそう言った。根本的にルールが違う―――それに関しては、少し思い至る点がある。そもそもこの環境に居る生物として、存在として、自分も少なからず影響を受けているのだから、当然と言えば当然なのだろう。
段々と、水没林に流れる水の音が聞こえて来た。
水没林の異様な景色が見えて来た。水没している木々と、そして足場を形成する木々の姿が見えて来る。水没林に到着しつつ、眼を閉じて耳を澄ませ、気配を探れば木々の上にある大きな気配を感じられる……おそらくは、これが辿異エスピナスなのだろう。ゆっくりと目を開けながら口笛を響かせる。
「だけどニャ。同時に俺はワクワクしてもいるんだニャ」
空を見上げれば、旋回しながらホルクが近づくのが見える。最近では古龍素材等を拾う事に成功しているおかげで、益々強靭に育っている姿がある。竜や龍の素材を食わせれば食わせる程強くなって行くペットの姿は、ちょっと楽しい。
「相棒は間違いなく希代のハンターになるニャ。間違いなく他のハンターには成し遂げられなかった景色を見せてくれるニャ。何だこいつ、成長がきもいって思っているのは本音ニャ。だけど相棒なら未だかつて、見た事のない景色を見せてくれる―――そこに期待している俺もいるんだニャ」
ラズロのその言葉に小さく笑い声を零し片手でラズロを掴み。引っ張り上げながら片手を上へと向けた。急降下してきたホルクのその足を掴み、一気に空へと舞い上がる様に引き上げられる。昔は滑空するだけで限界だったのに比べれば、大きな成長を遂げていた。それと同じように、俺もまだまだ、成長を続けている。そうやって空に舞い上がり、横から乗り込む様に葉と枝で作る足場の上に着地しつつ、ラズロを下ろし、去って行くホルクに手を振った。
「そっか」
「うむ、そうニャ」
視線を足場の端から中央へと向ければそこから此方へと向かって、ゆっくりと歩いてくるように接近するエスピナスの姿が見えた。その肥大化した角が特徴的な辿異種の姿をしている。金冠サイズという事もあり、異常なほどの威圧感を持つその個体は、まさしく見える死としても表現できるだろう。
足場は硬く、ここが木の上である事を忘れてしまいそうになる。
「さて……」
「ニャ」
「やるか」
「ニャニャ」
刀を二本、バインダーに装着された鞘から抜き放ち、二刀流の状態で両手を下ろしたまま、エスピナスの方へとゆっくり足を進めつつ、ラズロへと言葉を送る。
「なんつーか」
「ニャ?」
「ありがとうな」
「妙な奴ニャ。だが嫌いじゃないニャ」
小さく笑いながらさて、と声を零した。再びさて、と声を零した。
自分の運命を試す。
もし、俺がここで死ぬべきではない運命であれば―――また一歩、殺戮者に成長しながら乗り越える筈だ、と。このエスピナスという試練を狩猟して勝利するであろうという事に。
歩き、近づき、エスピナスまで100メートルまでの距離に近づいた。足場が所々、薄い所が見える。踏んだらそのまま突き抜けて下に落ちちゃいそうだ。その場合は死ぬだろうなぁ、と思いつつ、エスピナスを見て、足を止めた。同様に辿異種となったエスピナスは、此方を見た。その視線は此方を敵かどうか、判断するものだった。
「相棒、近接専門ハンターがG級領域で戦闘出来る時間は
「まぁ、身体能力が一般的なハンターに劣ってる自覚はあるよ」
「そうだニャ。相棒は身体能力だけを見るなら間違いなくハンターでも最弱クラスに入るニャ」
エスピナスの瞳が此方を見つめ、そして敵意に満たされた。どうやら、敵として相応しいレベルであると認定されたらしい。左半身を前に出す様に刀を二本とも構え、エスピナスの先制を待つ。後の先、後の先を取るのだ。相手の動きを誘い込み、そしてカウンターを取る。それだけが自分に使える戦術だ。
「だけどニャ」
エスピナスが木々の大地を強く踏んだ。この足場そのものが揺れる感覚と共に、エスピナスが息を吸い込んだ。それを見て、浅く呼吸を整え、心を殺意で満たした。体の奥からふつふつと憎悪と悪意が沸き上がってくるのを感じる。
殺す為に殺す。その機能を果たす為に歯車が回り始める。
「そのキチガイ染みた技量は間違いなく俺が知っている狩猟者の中では最強ニャ。それは断言するニャ」
エスピナスが口を開けた。来る、超咆哮が。凄まじい暴風と共に放たれる、生物として上位に立つ存在の咆哮、それだけで生物を殺すだけの破壊力がある。特にエスピナス種のそれは強く、大地を粉砕する程の勢いがある。そして辿異種となったエスピナスのそれは更に凶悪化され、音と風圧の暴力で二重に殺しに来る。それがラズロの言葉の直後に襲い掛かって来た。エスピナスが天を仰ぎながらその口から死の宣告を放った。
それを見て、腕を動かし、振るいながら―――踏み込んだ。
「じゃ、自信をもってやってやりますか」
踏み込みと共に放った切り払いでそのまま、音と風の壁を切断し、刃を捻りながら叩き上げる事で切り開けた空間の壁をそのまま叩きつける様に広げ、風と風、音と音を斬って叩きつけながら発生源同士で潰し、相殺する様に飛び込む。何百、何千と練習を繰り返してきたものだった。ただ、一度として成功する事もなかった。
だがこうやって、死の宣告を前に相対した瞬間、それは一回目で成功した。使用した両の刀は砕け散り、それを手放しながら左手を左腰のバインダーへ、鞘を掴みながら親指のワンタッチでそれをパージする様に引き抜き、右手を柄に沿える。
一度として、練習している間は成功しなかった。
つまりは
死の気配。死の舞踏。命の輝きを最も感じる
「カラータイマーが鳴る前に決着、つけようや」
咆哮を中断させるエスピナスより早く、瞬間的な加速の踏み込みで居合斬りを放った。弱肉質の顔面目掛けて放った一撃はエスピナスの角によって阻まれ、刀が僅かに角に食い込むも、そのまま食い込んだまま動きを停止する。その為それを手放し、放たれる毒液を回避しながら突き刺さった刀を蹴ってエスピナスを足場に一気に背中に飛び乗る。新しい刀を引き抜きながらそのまま背中の甲殻を剥がす様に斬撃を放ち、背中を蹴って跳ぶ。
エスピナスが咆哮しながらサマーソルトを放ち、此方を風圧と咆哮で吹き飛ばそうとするのを斬って着地しながら対応する。サマーソルトで落ちて来るエスピナスの頭が下に向いた、毒を爆撃の様に放って自分を中心に広げて来る。
それを後ろへと跳躍しながら回避すれば、エスピナスが木上へと着地する。毒は防げない。その事を理解したエスピナスが毒を上へと吐き、自分の体に毒液を被せてきた。禍々しい猛毒を被りながら紫色にぬめぬめと輝きながらエスピナスは此方を見た。確かに、毒を被っている状態だと接近し辛いのは事実だ。こういう所を見ると遠距離武器で戦えるのは状態に関係なく攻撃を続けられるから便利だな、とは思わなくもない。
が、関係なく踏み込む。狂竜活性はしない。こんな所で足を止める予定はない。こんなところで無駄に浸食値を引き上げる必要はない。最低でもこいつを狂竜ウィルスの力なしで倒せないのなら、この先の強敵は倒せない。
だから引き出す、限界以上の技量を。
自分の限界を超えたその腕前を通常の物として振るう領域に。理想を常にイメージし、それに自分の存在を合わせる。故に四本目の刀を引き抜きながらそのままエスピナスへと向かって飛び込む。その動きは翼を広げ、衝突面積を毒と共に広げる様に見えた。ぶつかれば脅威だろうが、
その姿が接近する前に、小タル爆弾が投げ込まれた。接触範囲ぎりぎり、爆風が此方に届かないぎりぎりのラインで、同時にエスピナスが巨体故に急な停止を行えないと解った動き。
ラズロのサポートだった。人間の拳サイズの爆弾を連続で、広げる様に放ったそのサポートは横からエスピナスを殴り、その動きを揺るがす事は一切なかったが、その爆風が右から左へと、その身にまとった毒液を一気に吹き飛ばして蒸発させた。此方が戦う上で一番面倒な物がなんであるか、それを理解してくれている動きだった。
「今日は死ぬには良い日だ―――」
呟き、エスピナスの衝突を体を倒し、前傾姿勢でそのままエスピナスの下を通る様に回避しながら、刀を振るう。適切に弱い肉質を切り裂き、足の腱を裂く。血が舞うのを目撃しながら、浮かび上がったエスピナスの尻尾が眼前に迫ってくるのが見える為、刀を放棄しながら更に早い居合打ちで刀を粉砕しながら前転し、尻尾の切断と共にエスピナスの背後へと抜ける。捨てた刀をその動きの最中、足で引っ掛ける様にそのまま、
蹴り飛ばした。
蹴り飛ばした刀がそのまま、エスピナスの逆の足に突き刺さるのが見えた。
両手で足場を叩き、体を吹き飛ばしながら転がせば直後、空中にジャンプしたエスピナスが逆さまになりながら先ほどまでの場所に毒の爆弾を叩きつけていた。そしてそのまま、浮かび上がったエスピナスが降りる事無く、ホバリングしながら口を開き、毒を一気に口の中に溜めて行く。
走り出しながら刀を口で噛み、両手をバインダーへと動かし、タッチして連結してある空っぽの鞘を外した。走りながら溜め込まれ、空中でチャージされる届きようのない位置にあるエスピナスの姿を見た。発射まで直感、三秒。
「けど……!」
鞘を二本投げた。投擲と言っても自分の筋力ではそれでダメージが出る訳もなく、限度がある。だが投擲したのはエスピナスの口の前、チャージしている姿に向かって投擲し、投げつけられた二本の鞘が音を立てて衝突し、発射台である口の前にとんだ。これではまだ、邪魔には不十分だ。
だがそれを後押しする様に爆発が発生した。
ラズロの投擲した爆弾がヒットした鞘を押し込む様に口の中に叩き込み、爆発の勢いで加速して口内に突き刺さった。
「死ぬには、良すぎる日だ―――!」
エスピナスがえづいた。流石に直接口内に衝撃を受ける事は苦しかったのかもしれない。その発射タイミングと、角度が狂った。瞬間、一気に反転して体をエスピナスへと向かって加速させ、その後で毒のメテオがエスピナスから放たれる。それが爆発し、毒の霧となって広がるのを目撃せずに、放たれて未だにホバリングするエスピナスへと向けて一気に加速し、放った反動で僅かに硬直するその体、
―――足に刺さった刀へと向けてゴムワイヤーを放った。
本来であれば届かない距離、跳躍では無理だ。だが工房長猫が作ってくれたそれであれば、一気に距離を埋める事が出来る。フルフルの吸盤で作られた吸いつきが刀に張り付いてロックされる。そのまま、伸びた反動で握った此方の体を引き寄せる様に一気に加速した。
引っ張り寄せられる反動で加速する体は毒メテオで拡散される毒霧よりも早く離脱と接近を許し、ホバリングから緊急着地を行う事で迎撃しようとするエスピナスへと一気に接近する。
勢いを殺さないまま、体が引っ張られる、強化された跳躍、アクションゲームの主人公の様な気分で、手を放して、空中に放り出されながら軽く回転し、勢いを乗せながら居合抜きに構えた。
落下するエスピナスの顔が見える。大口を開け、此方へと噛みついて来ようとする姿だ。そのまま接近すれば食い殺される。故に構えながら空中の勢いのまま、判断する。
肉質関係なくぶった切れるようになればいいのだ、と。
故にそのまま、過剰な連続運動で肉体が疲弊する前に決着をここでつける事にした。エスピナスの噛みつきよりも早く、意識を加速させ、鞘から刀を射出させるように放ち、
口を開けたエスピナスの歯に接触し、
それを切断し、
歯茎に接触し、
それを切断し、
上顎に食い込み、
それを切断し、
―――肉質を無視して、そのまま口の中から上の頭を斬り飛ばした。
勢いで刀が折れて、空中で前転する様にエスピナスの頭の上を抜けて行き、その背後へと転がる様に着地する。頬に擦り傷を作り、そこから流れる血を拭いながら、背後で音を立てて落下し、即死するエスピナスの気配を感じた。
振り返れば顎からその裏の頭を切断する様に、鼻から目の裏にかけての頭を、まるでプラモデルのパーツの様に分離させられたエスピナスの死体が転がっている。その切断面からシャワーの様に血を噴出させつつ、喉の奥から溜め込まれた毒が吐き出され続け、歯の合間から下の水の中へと流れ込んで行く。
完全に、辿異種エスピナスは死亡していた。
「ふぅー……心眼、って呼ぶにはまだまだ、未熟か」
戦闘が終わった直後、戦闘中に後回しにしていたストレスと疲労が一斉に襲い掛かる様に全身から汗が溢れ出す。それと共に息を荒らげながら、死亡したエスピナスの姿を再び確認し、自分がまた一つ、殺戮者としての道を歩んだ事を確認する。
そしてその姿を確認してから、樹海とは反対の方角、
水没林の更に奥へと視線を向けた。
水没林には、奥がある。木々が絡み合う事で足場を形成するこの環境、その奥へと進んで行けば木々が少ない、水辺と岩場によって隔離されたような環境に到達する。そしてその隔離された場所には、あるものがある。
そしてそれは、ここからも見えるものだった。
エスピナスの死体の向こう側、まるで門番の様だったその姿の向こう側には、ここからでも見える一つの建造物があった。
―――それは塔だった。
天上が暗雲に覆われ、見えなくなっている塔。それがそこに見えていた。
「まだまだ、未熟―――」
「だけど勝利だニャ、相棒」
「おう」
ラズロが戦闘が終わった所で近づき、飛び上がりながら肉球を出してくるのでハイタッチを決める。また一つ、自分の理想の姿へと近づいた事を確認しつつ、ラズロと共に塔を見上げた。
恐らくここが拠点を中心に、行ける最後の場所だろう。
確かな成長を感じつつも、環境の激化とこれからの敵の強さに果てしない物を感じた。
心眼(自前)。
死地に潜っただけで成長するというのは実はおかしなことで、本来の成長とは基礎と鍛錬の積み重ねによって発生するもの。なのでこの環境での敵を殺し、死地を経験すればするほど加速する様に強くなるというルールは異常とも表現できる環境である。それが原因で絶種とかいうものが生まれるけど。
それはそれとして、次回は塔探索。今年度は季節終了毎に絶滅チェック入るよ。