「俺の演奏を聞いたな? 代金を貰おうか」
ミラバルカンとは黒龍ミラボレアスの亜種だと認識されている龍だ。一時はミラバルカンはミラボレアスが姿を変えた存在である、何て説も存在していたが、その説に関してはミラバルカン本人が否定した為、別の存在として証明された。なお、ミラバルカンの上位的派生存在、ミララースに関してはミラバルカンと同一存在らしく、憤怒が極限まで高まった場合にのみ発生させる変身の様な姿らしい。
そんなミラバルカンは普段は詩人の恰好をしている。ミラボレアスがシュレイド城に留まるのは
別にそれがミラバルカンの役割ではない。ミラバルカン自体は火災の顕現とでも表現すべき、無印から続くモンスターハンターシリーズのマジカルアタック担当だ。火災竜巻、メテオ召喚等理論不明の超攻撃を行ってくる古龍だ。しかもそれはラース化すると更に悪化する勢いで酷くなる。そんなミラバルカンはどちらかと言えば文明を破壊する存在だ。《マジカル☆ワープ☆パンチ》を繰り出してくるミラボレアスと比べるともうちょっとまとも感のある攻撃を繰り出すが、それでも分類としては天災の類だ。
誰かがモンスターハンターシリーズの上位古龍は、自然災害等の人類が立ち向かわなくてはならない災害を生物という形で表現している、と言った。その場合、ミラバルカンは間違いなく火災、そして破壊を象徴する存在となるだろう。そんなミラバルカンが何故、態々人間に対して警告するような行いをするのだろうか?
もしかして人間の事が好きなのだろうか? とミラバルカンに質問してみた。その質問に対して、ミラバルカンは滅茶苦茶顔を歪めた。
「俺が人類を好いているだと? まぁ、確かにその愚かさは見ていて愉快なのは事実だ。だが根本的にヒトという種に対する愛をこの俺が持っている訳がないだろう? まぁ、この俺に挑めるような戦士であれば敬意は抱いてやらんでもない」
それがミラバルカンの答えだった。
「俺が何故ヒトに警告したかって? それは簡単な話だ。俺はヒトという種は別にどうでもいいと思っているし、その文明も特に興味はない。だが彼らが生み出した文化は好きだ。見ろ、このアイルーに作らせた楽器を。これは俺達龍では絶対に作れないものだ。細かく、繊細で、そして実に芸術的だ。生まれた美しさではない。これは鍛え、そして生み出す美しさだ。これは俺達には存在しない概念だ」
ミラバルカンという龍は特異な龍だった。ミラバルカンは文明ではなく文化を愛する龍だった。ヒトではなく、その種が生み出したものを楽しむ龍だった。だからこそ詩人なんて恰好をしていた。演奏も、それに伴う技術も完全にミラバルカン本龍が趣味と暇な時間を見つけて練習に練習を重ねた事だった。
「ヒトも文明もクソの塊だ。だがそれが生み出す文化の色だけは侮れない。生み出し、積み上げ、そしてそれで奏でるという考え方は自然のままに生きる俺らにはない概念だ。恐らくヒトが生まれなければ俺がこうやって服を着て演奏する事もなかっただろう。今もただの賢い龍として生きるだけだっただろうな」
だからミラバルカンは思う。
ヒトの生み出すものに価値はある。
「だがそれはそれとして偶にメゼポルタとか焼き払いたくなる。メテオテロとか起こしてみたらどれだけ騒ぎになるか気にならないか?」
「ほんとクソトカゲこいつ」
この一言でミラバルカンの拠点内での呼び名がクソトカゲで統一された。第二候補はミラバルカンから言葉を抜いてバカ、第三候補がクソニートトカゲを略してKNT、つまりはノットだった。だがクソトカゲで通ったので皆でクソトカゲと呼んでいる。クソトカゲは本当に性根がドラゴンなので、根本的に考え方が人類と違っていた。だがその文化に対する愛だけは本物だった。
拠点に居るミラバルカンが口を開いて放った言葉は簡単だった。
「俺を迎えるのに華やかさが足りない」
そう言ってアイルーに無理矢理キャンバスを用意させ、どこからか調達した絵の具を使って絵を描き始めた。それだけではなく陶芸セットをどこからともなく持ち込んで、それで陶器などを作り始めた。そうやって生み出される品々はどれもマスターピースとでも呼べるような、上品さを感じさせるものだった。それでいて第一、第二拠点の外観にマッチするような作りをしており、描いた絵は室内等に飾った。芸術という面を見れば、まさにこれ以上ない腕前をしており、それで一瞬で拠点を飾り始めた。
クソトカゲはクソトカゲの癖に芸術家だった。
仕事の一つ一つに対するこだわり、慎重さ、そして楽しむ姿を見ていれば解る。
こいつは人の心をどうとも思わないクソトカゲだ。間違いなくクソだ。春季の間、此方が帰ってくるのを見て、ちょくちょく確認する様に見ては、
「なんだ……まだ殺してないのか? 早くしないと他の連中に獲物を奪われるぞ?」
なんて煽ったりもする。ちなみにクソトカゲ本人はこれを一切煽りと認識していない。心の底からそうすべきだ、と思って助言しているつもりだった。根本的にこのクソトカゲに人間の心を理解しているという事はなかった。心の底から人類学を一回勉強して来い、と言いたくなるような酷さがこいつにはあった。
だけどやっぱり、生み出された文化に対する愛だけは本物だと理解できた。
気づけば拠点の広場で常に演奏している姿が目撃出来る。食事をする必要も排泄する必要もない体だからか、暇があれば絵を描くか作品を作るか、或いは何か、新しい曲に挑戦しているのがクソトカゲの日常だった。今の曲は何だったのか、と聞けば、
「これか? これは500年ほど前にシュレイド大陸の南部にあるグラマル族という部族のカシンって奴から学んだ音だ。中々良い音だろう? 普通に演奏しただけじゃこの音は出ない。良く聞いておけ」
クソトカゲには人間性が欠片もない。あったとしてもそれは全て創作と芸術性に注がれている。根本の部分で龍であるというのが解る事だ。だけどそれとは別に、クソトカゲ―――紅龍ミラバルカンは嘘をつかないし、偽る様な事を一切しない。それが龍という種には不要である事を理解するのと同時に、
一切の記憶を、忘れない様にしている。
「それが俺がヒトという種に対して向ける唯一の敬意と、報酬だ。生物が真に死に絶えるのはそれがもはや忘れられ、生きたという証を失ってからだ。故に俺は永劫忘れず、それを歌として残し続ける。それが俺に文化という彩を教えた愚かな種族に対する最大の賛辞だからだ」
ミラバルカンは誤魔化さないし、嘘をつかない。
その必要性を感じないからだ。
ミラバルカンは龍である。紅龍と呼ばれる天災にも数えられる存在である。ヒトにはヒトの矜持がある。だがそれと同じように、龍にも龍の矜持が存在するのだ。それは圧倒的な強さへの信仰、そして敬意。それに合わせ、自分より下等であり劣等である種族に対して、一切の偽りを行わない、という気高い龍としての誓いだった。故に、ミラバルカンは間違いなく人の心を考えないクソトカゲではあるが、
「別段、俺はお前を困らせる為に教えた訳ではない。強制する訳でもない。俺がこうやってお前に顔を見せ、話をしたのはこの劣悪な環境の中、運良く成功したお前の成長と、その強さに対する敬意を見せての行いだ。このまま引っ込んでいても別に良かったのだが、それでは余りにも不誠実ではないか? 最後まで隠れて眺めているだけ等俺の矜持が許さん。故に貴様には俺が助言を与えてやる。
それをミラバルカンは言う。
「だがこれは強制ではない。あくまでも俺や王が見立てた道筋だ。だが確実な道筋だ。貴様があの《悪魔》を殺すに至るまでの、だ。もしそれに反発を覚えるのなら、別にやらなくてもいい。逃げたければ逃げるのも良いだろう。俺は手伝わんが」
逃げてもいいんだよ、別に手伝わないけどな! と断言する辺り、実にクソトカゲだった。
だがそれでも、弱さを考慮して理解する辺り、こいつは人は解らないけど、誇り高い龍ではあったのだ。クソトカゲ、なんて呼ばれても普通に返事し、文句を一切言わないのは強者の矜持、或いは傲慢だった。ミラバルカンは自分が強いと自覚している。自分が超越者だと理解している。そして他の生物は大体弱いのだと知っている。
だから少しぐらい反抗的でも、それを許す。
それが強者の度量だった。
だからこそ、答えは出ない。
「……」
夏季。
まだ、迷っていた。森林拠点の端、切り株の椅子に座りながらずっと、春季から悩んでいた。ちょくちょく外に出ては上位、G級竜を殺しつつ経験を溜め込み、ステップアップを図っていた。だが明確な飛躍を感じない。だからこそ、クソトカゲの言葉が真実なのだろう、と悩んでいた。それをずっと春季から、夏季まで引きずる形で悩んでいた。最近、あのクソトカゲの言葉の意味を理解してきていた。
つまり、成長ルートなのだ。
どれを狩猟すれば必要な経験を稼げ、必要な成長を得られるか。それがクソトカゲには見えていた。それとは別に経験値稼ぎと装備作りを平行して行う。成長しつつ、最終装備に向けて一石二鳥の狩猟を行う。そのプランをクソトカゲは提示したのだ。確かに効率的だろう、それに降りかかる葛藤などを考えなければ。今、この環境で一番経験を蓄積している守護者の竜、そして環境を壊滅させる事で生み出される絶種。その両方と属性ではなく、龍の抗体すら意味をなさない《眠り姫》の壊毒。
これを揃える事で、確実に、効率的に《悪魔》を殺す事が出来るという狙いだった。ある意味、成長が保証されるルートでもあると言われるものだ。
保証という概念がラスベガスへと旅立ったこの世界で、その言葉の強さは恐ろしく強い。ダイスを振って3以上の結果を出さないといけない時、この方法であれば絶対に4がでるよ、と保証するような事だった。
それは、物凄い魅力的な言葉に感じられる。なぜなら、安全を確保すればその内、人がいる大陸へと向かう準備を整える事が出来るからだ。シャンティエン、或いはラヴィエンテ対策をする必要はあるかもしれない。だがそれを考慮しても、《悪魔》を討伐した後は、
殺し続ける義務から解放されるのだ。
もう、何かを苦心しながら殺す必要はなくなる。
だからその為に殺す。
何を?
―――恩師を。
深く、考えれば、考える程ハマるドツボだった。あの守護竜達が生きている間は間違いなく、絶種出現までの時間が伸びる。だがそれを阻止できるわけではない。それでも貴重な時間を稼ぐ事が出来るのだ。その間に生産や鍛錬で自分を鍛えたり、準備を整える事だって出来るだろう。だがこの状況の決壊は、あの竜達が死ぬ事で終わる。
そう、絶種には勝てないのだ。
既に《偏食》イビルジョーが《斬虐》から逃亡しているのを見たのだ。
その内、生息数が減るに連れ、段々と危なくなって来て―――最終的に殺されるのだろう、生まれて来た絶種に。クソトカゲの案はその前に此方で収穫を刈り取るというものだ。効率的であり、勝利の為には最も、間違っていない手段でもある。
だけど、だけどそれは、
「……裏切るみたいで、出来ねぇよ」
ここに居る間の生活は、ずっとあの守護竜達に守られての生活だと言えた。近辺の凶暴な大型はイビルジョーが食ってくれた他、定期的にランポスを間引いてくれたおかげで非常に動き回りやすかった。おかげで安全にここら辺を動き回る事が最初の方にはできたのだ。あの草原の三頭、あの三兄弟だって実は争ってはいるが、ちょくちょく変化があるのだ。実はアレで結構、意地っ張りというか、見栄っ張りで、自分の気配を感じると、何時もよりも派手目の動きや技を繰り出そうとして、盛り上がっている時があるのだ。
それでダメージが結構深く入ると、戦闘を焦って止める姿もちょっと目撃した事があった。あの草原の三頭も、結構可愛い連中なのだ。
辿異リオレウスとリオレイアの夫婦は、毎年子供と一緒に空を飛ぶところを春になれば目撃出来るのだ。毎年通常種だったり、ゼルレウスだったり、希少種だったり、そんな風に子供を数匹後ろに連れて飛び回るのを目撃出来るのだ。その姿が去年、海を越えて子供を連れて戻ってこなかった姿に首を傾げたりもしたが、今想えば蟲毒に備えて逃がしたのだろう。地味に山を越えて処理を行っているのは辿異リオレウスがメインだったのだろうなぁ、って今更思う。
そしてアオアシラ師匠は何時も鍛錬の相手をしてくれている。最初は割と恐る恐るだったが、今を見ればアオアシラ師匠がどれだけ手加減してくれていたのかは良く解る。割と、というかかなり愛嬌があるし、蜂蜜を持ってない時でも挨拶をすれば頷きぐらいは返してくれる。一番、鍛錬の相手をしてくれている恩師でもあるのだ。
「皆、殺さなきゃならないのか」
だが最終的にはそこに到達しなくてはならないのは既に見えて来た事だった。どちらにしろ、絶種が暴れ出したら全滅するのだ。そうなれば殺すも殺さないも同じだ。だからその前に殺して、その死を独占する。
「……っ」
殺す、という考えに素直に至れなかった。いや、違うのだ。
殺そうと思えば今すぐにでも殺しに行ける。
とっくに理解しているのだ。自分の中で躊躇と呼べるようなリミッターが吹っ飛んでいるのは。善悪なんてどうでもいい。恩とかもどうでもいいのだ。それを無視してぶち殺しに行けるぐらい、自分の脳味噌がぶっ飛んでいる事は自覚していた。
だからこそ、動けない。
ここで悩む事を止めて動き出せば……まるであのクソトカゲの様ではないか。
「まぁ……倫理観、野生動物並みにがばがばになってるからなぁ」
意識して自分の中の記憶、記録、認識、そして倫理観、それを何とか、つぎはぎで形にしている感覚だった。まぁ、仕方がないと言ってしまえば仕方がないだろう。そうしなくては心が持たなかったのだから。だけどそれはそれとして、
空を子供と一緒に飛ぶレウス夫婦の姿を思い出した。
大地を遊び回る様に戦いはしゃぐ三頭の姿を思い出した。
此方を見てから大物を始末したイビルジョーの姿を思い出した。
蜂蜜を幸せそうに吸っていたアオアシラ師匠の姿を思い出した。
「……」
玉座に座っていた、《眠り姫》の姿を思い出した。
「可愛かったなあ、あの子」
あの子、というのは少々不敬なのかもしれないが。それでも可愛かったなぁ、と思う。ロリ巨乳ってああいうタイプを言うのだろうか? 地球には存在しないタイプだ。ドラゴンだってことを考えるとお空では有名なロリ巨乳種族についている様な頭のハンドル生えて来るのだろうか?
「なに考えてんだか……」
でも、ああいう子が笑ってくれる方がきっと、良い世の中だよな、とは思う。
「……結局のところ、選択肢はない……のか」
生きる為。その事だけを考えると選択は他には存在しないのだ。他の手段は延命でしかなく、解決手段ではない。
殺す。それしかない。それが解っている。最終的には殺し尽くす事でしか生き残れないという事実を、誰よりも肌で感じて理解しているのだ。率先して俺が全部を殺して、食らって、その上で狂竜活性を利用して……まだ、可能性が産まれるそう言う領域だって、あの《悪魔》の気配を心臓で感じるから理解しているのだ。
だけどここまで必死になって、殺して回って、自分の関係性を始末する様に戦って。
それで、
―――何がしたいんだろうか、俺は。
「―――」
気づけばやりたい事が何も思い出せない。自分のなりたい未来が見えない。自分のやりたい事が解らない。殺した後で何を目指すのだ? 殺した後で何を求めるのだ? これが全て終わった後で本当に帰りたいのか? 俺は戻ってもいいのか? こんな血に塗れた殺戮者の様な男が戻れるのか?
日常に?
普通の人の生活に?
「……」
何もない。自分の中には。生きるために全てを捨て去ったのだから。だけどそうやって全て捨て去った中で残されたものがあるとしたら、そこで思い出せる、唯一価値のある物があるとすれば、
ベルトから、凍り付いた睡蓮を取り出す。太陽の光を受けて小さく煌くそのありえない存在を見て、そして眺める。ありえない存在なのかもしれない。夢ではなかったのかもしれない。でも夢であったかもしれない。深く考えると頭が狂いそうだ。
春季から此方、ずっと悩んでいた。
だが目を閉じて、思い出そうとする。
自分のみた景色、この場所で最も価値のあるもの。
それを一つだけ挙げるのであれば―――。
「……ここに来て、一つだけ善行を成し遂げていたな」
それだけには価値があったかもしれない。だとしたらその為に自分の命の全てを捧げるのも、悪くはないのかもしれない。たった一つ、たった一つだけ目的を作る。そしてその為に戦う。
その為にはそれ以外全てを殺す、殺せるようになる必要がある。
始まってしまえば最後―――終わるまで止まれなくなる。心も、体も、自分という存在そのものも。何もかも最後の破局へと向けて全力疾走が始まる。その足を止める事が出来なくなるから。
「覚悟は―――もう、出来ていたな」
睡蓮を顔に寄せ、それを抱きしめる様に寄せてからベルトに戻し、一季ぶりに悩みから解放されて、切り株から立ち上がった。
殺す事を決めた。もはやそれは決定事項だった。これから何が相手であろうと、決めた相手は殺して殺し続ける。そしてその果てにこの馬鹿騒ぎを終わらせる。その果てで自分が生き残るかどうかなんて解らない。
それでも一つだけ、成し遂げたい事が出来た。
だとしたら、もう止まる事は出来ない。
―――
楽園ジェノサイダー誕生の瞬間。
クソトカゲは根本的に生物的に上位なんで、羽虫が自分をどう呼ぼうがそこまで気にしないけど、逆に言えば認めた相手などからの態度に関しては気にするタイプ。それはそれとして、人の心は解らない。龍だからしょうがないね。
次回から守護竜狩猟ラッシュ開幕。思い出せば思い出すほど辛くなる。