「ほぅ―――とうとう覚悟を決めたか」
覚悟した翌日には狩猟の為の準備を整えた。装備は六つの刀から三つへと減らし、ウェイトを軽くした。六つあるからと使い捨てられる余裕を自分の中に残していたら、それが隙になると判断したからだ。ここからは刀を破壊しない事を意識して戦う必要がある。まだ心眼程度で刀を破壊している様なら、かつての剣豪や剣聖と呼ばれた存在には程遠すぎる。彼らの領域を目指す為にも、武器を破壊しない様に必殺のみを叩き込めるようにならなくてはならない。だから武器はこの刀を三つだけ、装備した。
それ以外の武器は無しだ。この三つだけで一頭一頭、殺し尽くす。それを覚悟した。それぐらいの覚悟が必要だった。たった一つ、やりたい事を成し遂げる為に躊躇する事を完全に捨て去った。人間性も、その全てを今、投げ捨てる時が来た。
完全な修羅道に身を堕とす時が来た。それを煽る訳でもなく、クソトカゲは見た。リュートを背負い、赤い衣に包まれた男の姿をしたミラバルカンは、森林拠点で装備に着替えた此方を見て、口を開いた。
「良い話と悪い話がある。どちらから聞きたい?」
そうやって切り出すクソトカゲの言葉に少しだけ眉をひそめ、そして悪い方から、とリクエストする。それを受けたクソトカゲは頷いた。
「大陸絶滅率が四割を超えた。砂漠でお前が絶種と呼ぶ究極個体が一体完成した。それが理由でそれ以外の生物が砂漠では家畜となった。今の所、砂漠から出られない様に封鎖だけはしておいた」
「封鎖? お前がか?」
「お前が前に進む覚悟を見せたのなら多少は手伝ってもいいとは思っている。古の継承竜を狩ると決めたんだろう? だったら横槍が入らない程度には手伝ってやる。感謝は必要ない。対価として蜂蜜レモンを貰ったからな」
「ほんとクソトカゲ」
個人的にちょっと楽しみにしていたのにこいつ……と思いながらも溜息を吐く。だが砂漠の絶種が完成されてしまった、というのは最悪の一つだった。あの《斬虐》に匹敵する怪物が産み落とされてしまったのだから。一体何の種をベースに生み出されたのか……少々、気になる所でもあった。だがそれはそれとして、とクソトカゲは口にする。
「良い方の話をしよう」
「少し明るい話題である事を祈る」
「良い話というのはお前の境遇に同情した《黒麒麟》が協力してくれるという話だ。高地に陣取って絶種の誕生を抑制してくれるそうだ。喜べ、戦力になる味方だぞ」
「まるで戦力にならない味方がいるようだな」
その言葉にクソトカゲが目を反らした。あぁ、テオナナ夫婦の素材やオオナズチの素材が転がっていたのってそういう事なのか……と、妙にクソトカゲのリアクションから察してしまった。いや、まぁ、それでもしょうがないのだろうが……。ただ、黒麒麟、と聞くとあの氷を使う黒いキリン亜種の事だろうか? 戦力的には不安だが、誕生を抑制してくれるというのなら喜んでおく。
というかそもそも、
「古龍自体があまり、協力的ではないよな」
それが気になる話だった。マジカル☆ビームとか、マジカル☆パンチとかの魔法を使っているフロンティア産古龍であれば正直、あの《悪魔》をぶっ飛ばせるのではないか? とは思わなくもない。何せ、MHOではラスボス級として降臨していた《悪魔》メフィストフェレスではあるが、根本的にはMHFの超インフレ環境や設定では敗北している部分があるからだ。まぁ、完全にゲームと同じではない、と言うのは理解している所なのだが。
それでも古龍が集まれば普通に倒せるのでは? とは思っている。その言葉に対してクソトカゲはそうだな、と声を零す。
「俺達の間でも奴の扱いに関しては二分している」
「お前ら派閥とかあるのかよ」
親近感湧くわ。そう思いつつ、クソトカゲの話に耳を傾ける。
「俺が属する討伐派、そして《帝征龍》等が属する静観派だ」
これはまた、結構な大物の名前が出て来た。クソトカゲは言葉を続ける。
「そもそも《悪魔》の生まれはヒトと龍の間の憎しみ、そして戦争という概念から生み出された、争いに対する死の象徴だ。争いによって生み出される進化、竜大戦という時代そのものに対するアポトーシスとして生まれて来たのが奴だ。だから奴はほぼ全ての龍に対する有利なエネルギー完全吸収等というふざけた性質を保有している」
「生まれた以上には意味があるから、と言う事か」
「あぁ。生まれたからには意味があるのだろう。だから目覚めたからには手を出さず、静観し、その成り行きに任せる。それがあちらの主張だ」
「で、お前らの主張は?」
「もっと龍生エンジョイしたい」
草生え散らかすわ。理由が物凄い俗物的だった。というかただ単純に、死にたくないというだけのシンプルな理由だった。もっと、こう、大義とかあるんじゃないか? と一瞬考えたが、クソトカゲの日常的な姿を見て、文化を愛しているだけの姿を見て、趣味で日常を生きるだけの姿を見たら、まぁ、確かに、
「それだけで十分な理由かもしれないな……」
「だろう? アレに暴れられたら自由に作曲する事も出来んからな」
物凄い自分本位なクソトカゲの発言に、苦笑を零す事しか出来なかった。だけどその傲慢さ、自由さこそが最も彼らしい事でもあると感じられた。ただそれで異世界人数百人単位で使い捨てるのはやめろ。そこだけはマジでキレる。だけど倫理観:ドラゴン相手に何を言った所で無駄だ。大人しく諦めて、強くなったら殴り飛ばす事を考えればいいのだ。
お前全部終わったら絶対殴り飛ばすからな。
此方の考えを理解しているのか、楽しそうにクソトカゲが笑みを浮かべた。
「まぁ、その性質上、此方側につくのは若いのかそこまで力がないのか……それぐらいだ。だがそれでも多少の味方はいる。《黒麒麟》もその一人だ。良い知らせはその程度だ。俺と《黒麒麟》が抑え込んでいる間に、なるべく早く狩猟してくるんだな、狩人」
クソトカゲのその言葉に軽く頭を横に振って否定する。
「俺は……
クソトカゲを背に、歩き出す。そこにオトモの姿はない。当然だ。これは儀式だった。一人の男を、人間を、一つ上の次元へと押し上げる為の試練なのだから。これだけは、誰の助けもなく、一人で向き合わなければならない戦いだったからだ。だからラズロには連れて行けない、と事前に伝えてある。だから少し離れた場所で、準備を整え終わり、クソトカゲと会話していた此方の姿をラズロは心配そうに眺めていた。その姿を一瞥し、
紅龍ミラバルカンに告げる。
「―――俺はただの
言葉を告げて、装備を整え終わり―――最初の試練の為に、樹海へと向かった。
一歩、また一歩と前に踏み出す足は何時もよりも重く感じられた。果たして、これで良かったのだろうか。そう思う事は今でも止められない。悩み、悩み続け、そしてまだ悩んでいる。それでも進む事を選んでしまった以上、止まる事は出来なかった。自分の選んだ選択だけには、真摯であり続けたかった。自分の積み上げて来たものには目を背けたくはなかった。
逃げられない。
自分の心からは逃げられない。
だから、向き合うしかない。
踏みなれた筈の樹海への道は異世界への道路にも感じられた。喉元をせりあがってくる自分という存在への不快感を感じながら樹海へと向かい、
その入り口で、此方を待ち受ける様に立っていた、アオアシラ師匠を、
いや、
―――《武熊》アオアシラの姿を見つけた。
その体は本来のアオアシラとは大きく違い、大量の鎧の様な甲殻に覆われており、しかしそれが肉体の動きを阻害する事は無く、関節の部分をある程度意図して削ってあるようにも見える。爪は鋭く磨かれたように伸び、全身を鎧に覆われたアオアシラの姿は古の時代の騎士にも見える。正々堂々、覇気を纏わせたアオアシラの姿は両足で立ち、そして此方を待ち構える様にそこに居た。
その両目は此方を捉え、
「ヴォ」
短く来い、と言う風に声を零すと、背を向けて歩き出した。
無言のまま、それについて行く。無言のまま、何も言わずにその後ろ姿を辿って行く。既に覇気に満ちたその姿は、何時でも戦える事を証明するような力に溢れており、自分が何のためにここに来たのかを悟っている様な様子だった。故に挟み込める言葉もなく、黙ってついて行く。
そして何事もなく、何かを言われる事もなく、
何時も、アオアシラ師匠と修行するのに使っていた樹海の一角に到着した。そこで軽くアオアシラ師匠は振り返ると。
「ヴォ」
そこで待て、と言う風に声を零し、此方を立ち止まらせた。アオアシラ師匠は此方が立ち止まるのを見ると、修行に使っている広場の端へと移動し、そこから蜂の巣を拾ってくると軽くそれを齧って、
まるで最後の晩餐を楽しむ様に蜂蜜を食べた。
その姿を見て、顔を隠す様にゴーグルとマスクを装着した。その様子にとてもじゃないが心が耐えきれそうになかった。だから自分の中の人間性を更に削った。心を削って、何も感じない様に心を押し殺した。殺意で心の欠損を埋め尽くし、力で全身を満たした。アオアシラ師匠が正面、二メートル程の距離で立ち、此方を見て、そして半身を前に出す様に、片腕を素早く繰り出せる姿勢に動きを変えた。
何も、成長し続けていたのは此方だけではない。鍛錬を繰り返す度に、人間の武の概念を此方から見て、学び、それを己に使いやすい形にアオアシラ師匠も改造していた。つまり武芸を身に着けたモンスターなのだ、彼は。故に構えと言う概念が存在し、
「……ヴォ」
かかって来い、と気配を満たした。その姿を見て、ゴーグルの内側で流れそうなものを堪え、マントを脱ぎ捨てながら鞘を握り、柄に手を付けた。もう隠れる必要も、する事も出来ない。ここから後戻りはない。戦い続け、そして勝ち続ける事で怪物になる事しか残されていない。
俺自身がこの環境に適応した、生物進化の果てを目指すしかない。
だから深呼吸をした。絶対に勝てない相手だからこそ、心を落ち着かせて、可能性を0から1へ、1から100に引き上げる、生存の為の生命冒涜を行う。
肉体を三割浸食していた狂竜ウィルスを活性化させる。
その浸食率を一気に四割にまで引き上げた。肉体がビキビキと音を立てながら改造され、マガラ化して行く中で、黒い息を口の端から零しながら正面、不思議と一気に落ち着いた心のまま、アオアシラ師匠を見た。
「さようなら―――
マガラ化で一気に強化された肉体でアオアシラへと向かって加速した。居合抜きを最速、かつてない最高の状態で放った。浸食値四割。それは肉体のほぼ半分がゴア・マガラと、つまりは龍と同じ状態になるという事でもあった。内臓系は既に改造を終え、肉体を支える肉の改造が始まり、未だかつてない膂力が発揮される。だがそれを利用した攻撃は、相手の方が上手だと悟っている。
故に技巧で、筋力の全てを完全に支配して居合を放った。心眼を体得した斬撃はどんな強度であろうと、関係なく技量で切り裂く。故に防御した瞬間には斬り落とされる。その未来を、
アオアシラはその身の鎧で弾いた。
やったことは単純だった。居合に合わせて後出しで鎧で受け、鎧の丸みのかかった外円部で滑らせ、刃を立たせないようにそのまま流し、横に入った刃を弾き、完全に受け流した。
見事、と表現するしかないパリィだった。右腕を覆う鎧、それを盾の様に見立てて完全に受けて流したのだ。
―――モンスターのやる事じゃねぇ……!
人間の技術を完全に習得してしまった、怪物の姿だった。そして刃を弾いた勢いを利用してそのまま、腕を体を回転させるように加速させながら、一気に薙ぐように爪を放ってくる。弾かれた感触から腕は一瞬の痺れを感じて停止していたが、それが肉体全体に伝播する前に呼吸で硬直を殺し、爪が届く前に体を後ろへと僅かにズラして爪先が僅かに胸を掠る様に回避する。
腕は弾かれて上がったままの状態、
それを攻撃を掠らせた後に振り下ろす。放つ兜割りを、アオアシラが此方がそうやったように、体を僅かにズラす事によって掠らせるだけで回避し、そのままの動きを、勢いを殺す事無く、回避するスウェイの動きを混ぜたコンビネーションパンチを叩き込んでくる。
その切先が、音を超えている気がする。
反応する前に先読みで爪が完全に振るわれる前に素早く刀を鞘から放ち、連続でその動きの起点を破壊する様に居合を連続で放つ。射出し、素早く鞘の中に戻すという作業を、視線を向ける事もなく連続で放ち、斬撃をアオアシラの動きに対して迎撃として放ち続ける。
その動きにアオアシラは体を一瞬たりとも止める事無く、自分の体を覆う鎧を少しずつ震わせながら受け止め、体をずらして滑らせ、常に突き刺さる筈の刃がまともに接触しないように動き、受け流しながらカウンターを放とうとして来る。
それはモンスターとしての筋力を詰め込んだ上に、人間では不可能な、モンスターの超肉体構造でしか行えない、稼働範囲の広い関節を利用した、フリックだった。最小限の動きで関節を半ば外すような形で肘、手首、指の関節を鞭のように放ち、瞬間的に爪先だけを超加速させながら迎撃を放って行く。
衝突する鋼と爪がぶつかる度にがりがり、と音を立てながら銀の粉が宙に舞う。此方が押し負けている。純粋な技量だけなら此方がアオアシラ相手に勝っているのは事実だ。だけどそれとは別に、
―――純粋な筋力と体格差で負けてる……!
モンスターと同じ土俵で戦ってはならないのは、確実に押し負けるからだ。故に同じ土俵で戦うのを避ける為、技量という人間にのみ許された領域で戦う事を決めていた。だが、このアオアシラに関してはバグとも表現できる此方の技量に匹敵するだけの鍛錬を積んであった。
結果、技量である程度肉薄して来る。
それによって差が潰されれば―――必然、それ以外の要素で押し返される。それに加え、純粋にこの魔境で生き抜いて来た年数に関してはアオアシラの方が圧倒的に上だった。連打を繰り出す度に少しずつ、起点を潰して迎撃する度に刀を抜く手が痺れていくのを感じる。
このまま続ければ不味い、と直感的に理解し、摺り足で一気に後ろへと体を一気に引き下げる。それに合わせアオアシラが強く大地を踏みしめる様に踏みつけ、その周囲を割りながら地面を揺らす。浅く息を吐き、力を一気に練り上げているのが見えた。
本能的に更にもう一歩、逃げる様に横に跳んだ。直後、何かが完全に視線の捉えきれない速度で放たれた。風が粉砕されるような音と共に、その衝撃が空間越しに伝わって、内臓を揺さぶるのを感じた。それを体から逃がす様に衝撃が流れる方へと向かって体を更に飛ばし、二転、三転して衝撃を通り抜けさせながら、片膝をつく様に体を止め、此方へと向き直ったアオアシラが肘を曲げ、半身を振りかぶる様に後ろへと引いた。
「五割、持ってけ……!」
狂竜ウィルスを活性化させる。刀を鞘に差し込んだまま、構え、片膝をついた状態で爪を放つ溜めを作ったアオアシラを見る。先ほどの様な一撃が来る。その自覚にウィルスを活性化させ、人間だった部分を更に食わせる。内臓、筋肉、神経に浸食が伝わってくる。神経の鋭敏化により五感が更にはっきりと伝わり、痛みがより強く理解出来る。不快感の全てを精神力で食いちぎって無視し、メリットの部分だけを掴み己のものにする。
ギチギチと肉体が音を立てて行く、変質が進む。それに構わず、呼吸を整えた。
「―――ッ!」
全力の一刀を放った、
知覚、先読み、認識、その全てを加速させての一撃がアオアシラの放った爪拳と衝突し合い、爪を三枚斬り落としながら刀が砕け散った。振り抜いた刀と失われた爪、両方が武器を一つ失った。
先に反応したのは、
武器を失い慣れている此方だった。
折れた刃をそのまま、アオアシラの目に突き刺した。だがそれに一切たじろぐ事もなく、アオアシラが爪のある腕で此方を引き裂こうとして来る。素早く柄を手放しながら逃れようとするが、その動きをアオアシラが爪を失った手で捉えた。
鞘を盾代わりに左腕を防御に使う。
嫌な音が体内に響いた。骨が砕ける音に声が漏れそうなのを抑え込み、殴られる方向へと合わせ、体を飛ばしながら転がって威力を何とか殺しつつ起き上がり、動けなくなった左腕を無理やり、マガラの筋力で動かす。骨が折れているのを無視して動かし、激痛に堪えながら鞘を掴んで右手で新しい刀の柄を掴む。
片眼に折れた刀が突き刺さっているアオアシラがそれを掴むと、引き抜いた。それに目玉が付属しているが、気にする事無くそれを投げ捨てた。痛み分け―――と呼ぶには此方のダメージが大きすぎる。刀を抜ける様に即座に構えつつ、痛みを忘却の彼方へと押しやり、濃密な死の予感に息を吐く。
……次は……避けられそうにない、か?
ダメージが大きすぎて次のは回避する程体がパフォーマンスを発揮できなさそうだ。となると次の接近で確実に仕留める必要がある。
「ふぅー……もっと、もっと力を―――」
黒い息を吐き、侵食が更に少しだけ、進む。肉体がウィルスの侵食を受けて、少しずつ龍寄りの存在に変質して行く。人間では後遺症を残すようなダメージでも、治療できる範囲まで肉体の強度と異質さが備わってくる。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……はぁ……はぁ……」
心臓がバクバクしている。未だかつてない速度で音を鳴らしている。殺されそうで殺しそうなライン。そこを彷徨っている。死にそう……だが殺せる。削れるものを削って、削りつくして、それを戦意と殺意と、戦う為の全てで満たし、
―――空になる。
「……ヴォ」
来い、と手招きする様にアオアシラが構え、小さく声を零した。だから息を吐き、激痛と体の中が書き換えられてゆく恐怖心の中で、頭も心も、全部空っぽにして異界の師を見た。その瞳を覗き込み、
そこに映る自分自身の姿が見えた。
踏み込み、姿が消える。
対応する様に巨体が動く。
加速を乗せて爪の必殺を放つ。だが瞳の中からヒトの姿が消える。その感覚が、景色が見えた。故に踏み込み、鞘を傾け、刀を傾け、滑る様に鞘から抜き出し、
そして引き抜いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ―――はぁ―――はぁ―――」
赤い、赤い血が舞った。何時の間にか、刀は振り抜かれていた。師と呼んだ大熊の首に深く食い込み、気道を断ち、そのまま右から左へと、大量の赤を散らしながら抜けた。ほぼ、首を切断するのに等しい致命傷。刀を振り抜いた状態で、体の動きが停止していた。
歪みはなく、ブレはなく、新しく放たれた刀に、乱れは一つも存在しない。
完全に放たれた、美しい一閃だった。
その瞬間、アオアシラの目からその動きを見ていた。そしてそれ故に、どう動くか、どう反応するか、まるで鏡に映して理解するかのように見えた。何を今、したんだ、と一瞬、思考が理解に追いつかなかった。だが振り抜いた後で徐々に理解が追いつき、アオアシラの姿を見た。
「……」
どこか、満足そうな、そんな小さな笑みを浮かべていた。その表情に歯が砕けそうな程に歯を食いしばり、声を、漏らした。
「ありがとう……ございまし、たっ……!」
涙は流さない。流すのは血だけ。その言葉に応えはなく、姿は立ったまま絶命している。
もう、止まらない。
止められない。
失楽園、ここに開始。
浸食率55%達成にハーフライン突破トロフィーでも送ろう。
別に古龍も一枚岩じゃないよなぁ、とか思ってたら何時の間にか愉快な事になるクソトカゲ。お前本当にいい加減にせぇよ、とおもいつつまぁ、こいつ人間性ないし……ってかんじで。
最初はアシラ師匠。次はどいつだ。