※この作品はR-18です。

Monster Survivor   作:てんぞー

49 / 75
5年目 冬季 絶種討伐戦・《斬虐》

「結局、あのフォロクルルってなんだったんだ?」

 

「《墓守》だ。とはいえ、他の守護竜とは違って記録の継承に失敗している。だからなんだかよく解らないが守らなきゃいけない、そして心地の良い場所……程度にしか感じていないだろうな」

 

「ほーん……」

 

 クソトカゲのその返答は、自分の中に繋がっている情報のピース、それを繋げるには十分すぎるだけの情報だった。だからそうか、と声を零し、片手で軽く頭を掻きつつ、まぁいいか、先の話は生き残る事が出来たら考えればいい、と判断する。たっぷり一カ月かけて新しい幾何学模様の剣の習熟を行って、手と体に動きを馴染ませた。それが終わればもう、引き留める理由はないのだ。クソトカゲから話を聞きつつ、装備を装着した。

 

 ゴーグル、マスク、ブーツ、グローブ、そしてマント。今回はボウガンはなし。ベルトには道具や回復薬の類を複数装着し、左腰に刀を二本、そして片手剣を鞘と共に、刀一本と入れ替える様にセットした。

 

 閃光玉、爆薬、音爆弾、毒煙玉。それらも一応、持ち歩く。それで大体準備は終わる。ホットドリンクを切らさないように、その水筒を二つ用意しておいたのもチェックし、拠点を出る準備を終わらせた。全てが装着されているのを二度チェックしてから、子レウスを頭の上に乗せたウリ坊が近づくので、ウリ坊共々、撫でてあげた。

 

「お前ら、いい子にして待ってるんだぞ? ……よし、素直なのはいいことだ。じゃ、またな」

 

 頭を軽く撫でてからペット達から視線を外し、空を見上げて息を軽く吐き出した。この日の為にコンディションを整え、装備も新調した。これで自分が出来る準備の全てを行ったはずなのだ。

 

 それでも、コールタールの様なへばりついた不安が、胸の内から消えない。何をどう足掻いても、勝てるというビジョンが脳内に浮かばなかった。ここまで、前に踏み出すのを重く感じるのは初めてだった。自分の感じているこれは、決して恐怖ではない。それは既に乗り越えているものだ。だからもっと別の感覚だ。

 

「本能的に勝てないって悟ってるだけだろう、それは」

 

 背後、クソトカゲから言葉を向けられた。だがその言葉を向けられてもやはりそうか、と納得する部分しかない。生物として進化を重ねた存在と、進化を重ねられない、人間という世代交代が必要な種。生物として、どちらが強いのは解り切った構図だ。確かに殺せるか? と言えば殺すイメージはあるが、勝利のイメージが湧かない。

 

「……ま、やれるだけやるさ」

 

「お前にはそれ以外の道はないからな」

 

「お前さぁ……」

 

 煽っておいてその言葉はないだろう、と振り返りながら見る、クソトカゲの表情はどこか、楽しむような、しかし期待するようなものが見えていた。何を期待しているのだろうか? その目的は解っている。こいつが口にしなくても、察せている。そしてそれにある程度乗るしかない事も、解っている。後はその期待を、どれだけ、無理である事から乗り越えるか、だけだ。

 

「期待している。お前の結末を、選択肢を期待して待ってる」

 

「帰ってきたら顔面に一発いいの、ぶち込んでやるから覚悟してろよ」

 

「そうだな……帰ってきたらそれぐらいは許してやろう。お前が覚えていたらな」

 

 おう、

 

 そうか、

 

 それじゃ。

 

 クソトカゲと別れを告げて、拠点を去る為に歩き出す。その動きにラズロが付いて来た。この戦いには、もうついて来れないアイルーだったが、だからこそ教えるという立場に留まり、ハンターとしての技術を叩き込んでくれる狩猟中の相棒だった。横を見れば、ラズロが視線を向けずに、此方についてくる。

 

「現地までは一緒するニャ」

 

「じゃ、そういう事で」

 

 最初の絶望を乗り越える為に、歩き出した。

 

 

 

 

 五年目。この環境に、流れ着いてから凡そ五年の月日が流れた。短く、そして長い五年間だった。正直、これだけ長い時間をこんな環境で過ごしてきたのだ、というのが信じられないレベルだった。だって、誰が異世界でサバイバルをして、そこで自分よりも強いドラゴンを相手に戦ってきたのだ、というのを信じられるのだろうか。まぁ、それを誰かに説明するような事はないだろう。

 

 少なくとも、元の世界に対する未練はなかった。

 

 生まれたのは生きるという覚悟だった。

 

「まぁ、俺も正直ここまで長く生き残れるとは欠片も思わなかったんだけどね」

 

 神殿を越えた、雪山への登山道。そこで足を止めながら、ホットドリンクを飲む。ハンターたちが飲んでいる市販品のそれとは違い、味付けされた、スープの様なテイストのホットドリンクは、スパイスを効かせたトマトスープの様な味がしていて、飲むと体が温かくなるだけではなく、体内に活力が満ちて来るのを感じられる。

 

「正直、俺も相棒がここまで成長するとは思わなかったニャ。たった一年の事だニャ。だけどもう、相棒はG級ハンターの中でもぶっちぎりの怪物になりつつあるニャ」

 

「お、マジか。それは凄いなぁ」

 

「あっちに行けば相棒もスカウトが殺到するだろうニャ」

 

「まぁ……ハンターには欠片も興味ないから、適当に静かな暮らしでもさせて貰うさ」

 

「贅沢な話ニャ」

 

 そりゃそうさ、とラズロに言葉を返す。

 

「―――もう、一生分の命は殺してるさ」

 

「そうニャ?」

 

「そうなの」

 

「じゃーしゃーないニャ。適当に全部終わらせて、平和に暮らすのが一番ニャ」

 

 うん、まぁ、そういう事だ。もう、これ以上命を背負いたくない。これ以上殺す数を増やすのは嫌だ。だからこの楽園での殺戮を、人生最後の殺戮にしたい。後は適当に瀟洒な喫茶店か料理店でも経営して、静かに珈琲を飲みながら優雅に人生を過ごしたいものだ。

 

 まぁ、生き残れば、という話だが。

 

 雪が降っている。

 

 雪山ではなく、箱庭そのものが。生物が消えた中、静かに、邪魔される事無く雪が降り続ける。静かに、生命の痕跡を全て消し去るかのように。命が何も残っていないというのを証明する様に、ひたすら世界を白銀に染め上げて行く。これが地球だったら、金になる景色だったんだなぁ、と思う。

 

 だけど今では、この景色がなんの価値もない、というのが解る。

 

 これを共有できる、一緒に生きる生命が存在して、初めて価値のある光景なのだ。

 

 ―――だから、奪って殺して根絶やしにして生まれてくるその存在は、認められない。

 

「さぁて、行くか」

 

「幸運を祈るニャ」

 

「おう、じゃあな」

 

 ラズロに別れを告げ、雪山の登山道を登って行く。これで完全に一人になった。だけど道具や装備は、全部アイルー達が頑張って作ってくれたものだ。これを装着している限りは、心細くなるような事はない。皆が本気で俺を助けようとしている。その想いを道具から感じる事が出来る。

 

 だから挑む事に対する恐怖なんてない。

 

 本当に怖いのは、その想いに応えられない事だ。

 

「来たぜ」

 

 雪山に踏み込んだ瞬間、自分に突き刺さる視線と殺意を感じた。縄張りに入り込んだ、それだけで此方の存在を完全に知覚したらしい。ゲームで言えばマップ1に入り込んだ瞬間に、別のマップからこっちを探知した……という感じだろうか? しかも殺意が全方向から刺さってきている。全方位に囲まれている様な、そんな風に殺意を感じてしまい、それを辿ってどこに隠れているのか、というを探す事が出来ない。

 

 いや、或いは霊峰へと繋がるこの雪山そのものに、《斬虐》の殺意が大地にしみこんでしまっているのかもしれない。普通の心であれば、ここに踏み込むだけで相当息苦しさを感じる筈だ。心の弱い生物ならショック死しかねない。そういう強い殺意がこの雪山から感じられる。

 

 だがその向こう側。

 

 雪山の頂上、雲の向こう側。

 

 そこには確かに、此方を待ち構える様な、待ち望んでいる様な気配を感じられる。解っている。彼女はずっと俺を見て来た。ずっと見ていてくれたのだ。だから恥ずかしい事は出来ない。無様な姿を見せたくはない。

 

「じゃ、生存競争を始めようか、《斬虐》のティガレックス」

 

 言葉に応えるように、雪山のどこからか、咆哮が響いて来た。反響に反響を重ねた咆哮は不自然に反響し、そのまま空気をピリ、と震わせながら頬に暖かい感触を生んだ。片手を持ち上げて頬に触れてみれば、そこに浅い斬撃の跡が残されていた。どうやら、咆哮を反響させ、姿を完全に隠したまま狙撃の様な咆哮攻撃を行えるらしい。

 

 つくづく、モンスターの戦い方じゃない。

 

「だが宣戦布告としては丁度いい。行くぜ」

 

 そのまま、雪山に踏み込んだ。途端に風が強くなり、暴風と呼べる勢いで襲い掛かってくる。ゴーグルなしでは視界確保が難しく、そしてマスクなしでは息をするのも難しいだろう。そういう事を考えると、やはり装備を整えて来るのは大事だと思う。ファンタジーではあるが、魔法は存在しないのだ。その事を考えると、環境対策の装備は非常に重要になる。

 

 俺は、仲間に生かされている。

 

 それを忘れてはならない。

 

「お前は……何に生かされたんだ?」

 

 呟きながら左手を剣の柄の上に乗せて、何時でも抜き放てる準備を整えながら雪山の中を進んで行く。暴風に体が流されそうになるも、積み重ねて来た体感覚の訓練は不安定な足場や強風があろうとも、しっかりと体を想定通り動かす事を可能としている。スパイクブーツのおかげで足が滑る事もない。

 

 風や雪が邪魔なのは事実だが、

 

 足の動きを鈍らせる程ではない。

 

 雪山の中へと、逃げ場を自分から封じ込める様に進んで行く。雪山の奥へと―――上へ、上へ進んで行く度に更に雪が深く降り積もって行く。風は加速する様にマントの裾を引っ張り、そして足場が悪路と呼べるものへと変質する。かつては人がこの道を通っていたのかもしれない。だが今では、その痕跡がここでは完全に失われていた。

 

 だが彼女の此方を待つ気配だけで、大体どちらへと進めばいいのかは、解る。

 

 そしてそれを掻き消すように、濃密な殺気を感じる。全方位から此方を見つめる様な、罠へと入り込むのを待ち受ける様な、そんな気配だった。間違いなく此方が逃げ切れない領域に入り込んでくるのを待っているな、というのを理解する。此方が逃げられない、防げない状況、環境を待っている。

 

 確実に殺せるタイミングを待っている。

 

「んー、そろそろ来るか」

 

 段々と酸素が薄くなってきたのを知覚する。少しずつ、上へと昇って行く度に空気が薄く、動きづらく、息し辛くなるのを感じる。だから幾何学模様が刻まれた片手剣を抜き放ち、右手で下げる様に握りつつも、ゆっくりと歩くペースを落とし始めた。常に警戒し続けるのは精神力を消耗する行いである為、警戒と休憩を半分半分で進める技術は地味に、サバイバル生活中に習得している。意識の半分を警戒に送りつつ、もう片方を休めるのだ。それを交代でスイッチさせる。そうする事で常に警戒を続けることができる。故に、そう簡単に隙を見せるつもりはない。

 

 そしてそれが相手にも伝わるのなら、

 

―――……。

 

「……」

 

 暴風に乗る様に、どこからともなく咆哮が聞こえて来た。牽制か、僅かに肌が切れる気配がした。それを無視し、ガードもせず、体で受けて、しかし流しながら頂上を目指し、ペースを落として歩く。

 

 二度、三度咆哮が風に乗って別方向からやってくる。牽制で、囮だと判断する。此方の位置、反応を確かめて出方を窺っている。咆哮を防ぐか。どれだけのダメージならガードに入るか。どれだけの脅威なら反応に入るのか。それを殺意をぶつけ、態と感知させる事で此方の出方を範囲外から窺っている。

 

 モンスターのやり口じゃねぇ。

 

 ハンターが獲物を狩る時のやり口だ。

 

「……」

 

 暴風に紛れる様に斬撃が()()()()()()()()()()()。それを片手剣を振るう事で斬り払って両断し、消滅させる。暴風―――或いは吹雪の中に混ぜ込まれた斬撃は、一見ただの風の様にしか見えない。警戒を怠っていれば、風だと思ってそのまま体を両断されかねない。とはいえ、それを斬り払った事はつまり、識別可能である、という情報を相手に与える事でもある。

 

 殺気が消えた。

 

「……」

 

 ……これは、来るな。

 

 足を止め、吹雪の中、片手剣を構える。脇の下を通す様に、右半身から左半身へと弓を引く様に後ろへと引いた。何時でもそれを射出出来る様に、最速で斬撃を放てるような構えで片手剣を構えた。

 

「さぁて……」

 

 未だに背筋には死の予感が張り付いている。生物的に勝てないと本能が直感している。何故だかそれが強く感じられた。ここまで来て、殺気が消え去ったのに逆に、死の予感は強まっていた。これは根本的にやべぇな、と思いつつも、構えを崩さない。吹雪の中で、雪が体に衝突し、少しずつホットドリンクの効力が薄れて行くのを感じながらも動く事無く、静かに《斬虐》の気配を待つ。

 

 来る、奴は絶対に来る。

 

 奴は賢い。だからこそ絶対に、一度は接近を選んで来る。試さずにはいられない、知性のある生物特有の好奇心を持っているからだ。

 

 そこを、殺す。遠距離、牽制、消耗戦を挑むようであれば無視して奥へと進む。近づいてこない限りはティガレックス種では必殺に至る攻撃を繰り出せないからだ。フロンティア魔法系列の攻撃を行えないなら、無視して頂上を目指せば釣り出せる……筈だ。

 

 だから奴は来る。

 

 もっと学ぶ為に、そして確実な死を確認する為に。

 

「―――」

 

 狩る側から狩られる側へ。自然と考えれば、戦いは狩る側の方が準備を行えるのだから、有利に決まっている。そう考えれば《斬虐》のティガレックスが狩猟という形態をとり込み、技術や知恵を磨くのは当然の結果なのかもしれない。何せ、今の地上を制覇しているのは人類だ。その形式を模倣するのは理に適っている。

 

 故に―――来た。

 

 背後、粉砕する音が聞こえた。地面が砕け、そして雪が吹き飛ぶような轟音だ。質量を感じさせるそれは間違いなく、何か質量のある存在が背後に着地した時に感じる音だ。つまり、重量のある存在が降りて来た証になるが、

 

「前だな―――!」

 

 背後を振り返らず、正面へと視線を向けたまま飛び込めば、背後を飛び越える様に前方10メートル距離に、此方へと向いた状態で、鋼銀の肉体を保有する、刃をその全身に生やした雪山の環境王者、

 

 ―――絶種、《斬虐》のティガレックスがその姿を見せた。

 

 頭を飛び越える様に正面に着地した《斬虐》は笑っていた。此方が見抜いて来た、という事実に楽しさを覚えている様子だった。全身に生える刃は前見た時よりも遥かに鋭く、そして凶悪にのこぎりの刃の様に変質しており、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()していた。

 

 その上で咆哮を超至近距離でティガレックスが放った。その居場所を中心に、雪山へと向けて斬撃の咆哮が全身の刃と共鳴する様に広がって行く。雪の中に裂傷が刻まれ、それが真空の刃となって全方向に反響しながら襲い掛かってくる。既に体はティガレックスの着地点を予測し、踏み込んでいる。

 

 先読みできたのは、経験の差だ。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という考えから導き出した先読みでしかない。逆に言えば相手はこれなら読める、という情報を得た事でもある。ここで殺さなくては、また更に学習される。

 

 故に、

 

「序―――」

 

 流れる様に斬撃を繰り出して音と風と斬撃を殺す。切り伏せながら一切動きを止める事無く、咆哮しつつ移動しようとするティガレックスに接近し、そのまま一切、動きの停止しない、斬撃から斬撃へと全てが構成された動きを作る。相手の方が身体能力は上だが、最初の動きは此方の方が遥かに早い。先読みに成功した分、

 

 殺しの初手は此方が貰った。

 

「破、急―――っ!」

 

 そのまま首に斬撃を通して、斬圧を伸ばす様に通し、首の反対側まで刃を通しながら、抜かないまま、斬撃をそのまま刺突へと切り替えて、首を両断する流れをそのまま、心臓にまで届けてから刃を引き抜き、質量のある肉体を横に転がって抜ける。雪の大地の上を一回転する様に転がり、空いている片手で雪を叩き、体を逆さまになる様に飛ばしながら、着地の為に視線を相手へと向ける。

 

 放ったのは、リズムに乗せたただの三連撃である。ただし、無拍子で極限まで隙を無くし、斬撃から斬撃、そして刺突へと動作の全てを攻撃にする、というこいつら相手に、踏み込んだ時に確殺出来る様に作った、最小限の動作で殺す為の動きだった。それが成功し、首、そして心臓の両方を破壊する事に成功した。

 

 吹雪の中、赤い色が一気に広がる。

 

「クソが、殺し切れてねぇ!」

 

 入れば確実に殺せる。首と心臓を破壊して生きていられる生物はいない。だが生物を超越した生物であれば、そのルールをある程度、歪められる。

 

 古龍ではない。

 

 だがその生命力は竜種を超越している。

 

 人間でさえ、首を斬り落としても数秒は反応する―――なら極限まで生命力の高まった竜なら?

 

「クソ、クソ、クソォ!」

 

 叫ぶしかなかった。雪の上に両足で着地しながら素早く通り過ぎたティガレックスの方へと向かって飛び込もうとするが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が此方を見て、大きく雪を蹴りながら跳躍し、此方が届かない高さで壁に片足を突き刺して、そのまま静かに首と頭を押さえていた。

 

 数秒後、じゅぅ、という音を鳴らしながら胸と首の傷が繋がり始める。

 

「インチキも大概にしろよ!」

 

 閃光玉を片手で投げればティガレックスが雪山の壁を蹴って跳躍し、光る瞬間を背を空中で向ける事で回避しながら雪を舞い上げる様に着地する。それが天然の防壁となり、雪が津波の様に襲い掛かってくる。素早くゴムワイヤーを壁に叩き込んで体を引き、その加速と勢いで跳躍しながら途中で手放し、雪の波を飛び越えながらティガレックスの正面、頭上を取る様に剣を振り下ろす。

 

 だがそれをティガレックスはバックステップで見極めながら回避すれば、そのまま着地の瞬間を狙って体を回転させるように振るい、真空の斬撃を無数に放ってくる。空中で蹴りを繰り出し、タイミングを重心移動でズラしながら斬撃に合わせ、剣を振るって相殺しながら着地する。その一瞬にティガレックスが雪を叩きつけて、津波を放ってくる。津波の向こう側にティガレックスの姿が消え、一面が雪の壁になって見えなくなる。

 

「しゃらくせぇ……!」

 

 その津波へ斬撃を斬り払う。斬り、殴り、叩く。その三動作を一つにまとめ上げて津波を縦に割って、道を破壊する様に開ける。その瞬間、正面に津波に隠れていた真空斬りが飛び込んでくる。それを開いている左手で刀の抜き打ちを放って粉砕し、絶望的な質量を破壊する。

 

「クソ……首を断てば殺せると思った俺の落ち度か……」

 

 津波の向こう側に居た筈のティガレックスの姿がない。刀を戻し、片手剣を握る。息を吐き、乱れそうな呼吸を整え直す。その上でティガレックスの気配を探る。

 

 だが、その存在感そのものが強すぎる影響か、雪山全体にその気配が充満していて、探り当てる事が出来ない。最初に殺し切れなかったことが余りにも惜しい。アレは恐らく()()()()()()()()()()()というのも解る。そして自分では次からは受けきれないと学習したから、接近戦を回避する様に動きだした。

 

「首よりも再生対策に四肢を斬るべき、か……勝って生き残れたら覚えておこう」

 

 呟きながら警戒を上げた中で、ふと、ティガレックスの気配が集約されるのを感じた。いや、見せたのか。それにつられる様に視線を雪山の奥へ、頂上の方へと向けた。

 

 高い台地、突き出た岩場の上に立つティガレックスは見下す様に此方が絶対に届かない距離におり、此方を見下ろしながら笑うように声を零した。それと同時に、雪山全体が軽く、揺れた。揺れ、震動が発生し、そしてそれが轟音となって雪山中に響き始める。

 

「は、はは、はははは……」

 

 雪山の頂上から、何十。何百、何千年と積もって来た大質量の雪が、超えられない規模となって一気に頂上から降り始めて来た。雪の大津波はその高さが軽く30メートルを超えた、ビルの様な高さになって迫ってくる。地形そのものを削りながら削ぎ落とす光景は、どう足掻いても隠れてやり過ごすというのが不可能な領域の規模だった。

 

 その絶望を前に佇む此方を見て、《斬虐》のティガレックスが、歪に笑みを浮かべて、そのまま空へと異常発達した脚力で跳躍し、逃げ出した。

 

 その雪崩から。

 

 絶対的な自然の暴力、脅威。そして理解した。

 

 あの絶種と自分がネーミングした連中は()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。そもそも《悪魔》がその経歴から、人類と竜を殺す為に生まれて来た存在だったのだ。そしてその眷属、指先、触覚とも言えるのが絶種という生物。

 

 ()()()()()()()()()()()存在だった。そして同時に()()()()()()()()()なのだ。だからこそ悪意の果て、進化の先、絶望的に絶対的な殺意を孕んだ生物となったのだ。これはどう足掻いても勝てない。それを本能的に、そして超直感的に理解させられる相手だった。

 

 俺がこの世界の住人基準のスペックでも、ハンターであっても、勝てない。そういう存在であるのをこれを目撃して、理解させられる。

 

「ほんと……ふざけてる」

 

 迫ってくる轟音と暴風。絶対的な死が壁となって襲い掛かってくる。これを斬り払おうとすれば質量差で普通に呑み込まれる。飛び越えるには余りにも高すぎる。普通には絶対に攻略できない攻撃だった。いや、自然現象か。どちらにしろ、絶望的な状況だ。

 

 それでも、

 

「託された物があるんだ、まだ死ねないんだ―――死ねないんだよ……!」

 

 あと少しで、そこにたどり着けるのだ。だから……全てを賭ける。

 

 人でも勝てない。竜でも勝てない。

 

 なら答えは一つしかない。

 

 迫り来る暴力の嵐。その前に、黒い吐息を吐き出した。

 

「―――人でも竜でもなければいい

 

 浸食値―――82%、突入。




 死ぬほど頑張ったからと言って報われる訳じゃない。

 という訳で対斬ティガ君前編。即死状態からの条件蘇生、再生力、学習能力、メタ戦術構築能力、囮作成等と非常に賢い。牽制を見えない範囲から行い続けてストレスを与える事でパフォーマンスの低下を狙う事で強敵の弱体化を狙う事もする。殺す為なら考え、一番殺傷性の高い手段を選んでぶんなぐってくる怖い子。

 次回、後編。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。