数日後、遺跡を探索する事にした。
理由はシンプルに、文明調度品が欲しかったからだ。かなり損耗し、そして壊れている物は多いだろう。だが遺跡の外観がまだ壊れずに残っている事を考えれば、中はまだまだ無事なのかもしれない、と希望が持てる。それにこの時代まで修復できる範囲の武具を残す文明なのだ、現代日本みたいに数百年先まで壊れない道具! とか発明していてもおかしくない。これでなんとか、道具を確保したいのだ。
出来ればナイフなどの類。鍋やランプも欲しい。一番欲しいのは技術書なのだが、存在していたとしても読める事はまず、ありえないだろう。そもそもこの世界と自分の世界では言語が違い過ぎる。ここで日本語が使えるなら寧ろ俺が驚く。いや、偶にコラボでデビルハンターとか紛れ込んでいるけどさ。
ともあれ、生活に使えそうな加工済みの道具、或いは加工に使う道具を獲得することが優先だった。その為、遺跡探索を決意する。その為にも即興ではあるが、木の皮を束ね、曲げ、そして繋げて作った木籠を作成したのだ。かなりボロく、強度もかなり怪しい。だがこれを背に背負う事で今まで以上に探索したものを持ち帰る事が出来る、文明の品だった。そしてそれと同時に持ち出すのは今まで使用する事の無かった道具、
スマートフォンだ。
此方に転移してから常に圏外状態をマークしていたスマートフォンはもしもの時に備え、電源を切ってバッテリーを外し、何時でも使えるようにしておいた。そして今回、このスマートフォンを懐中電灯代わりにする事にした。サイズ的に胸ポケットに差し込めば、両手を空けた状態で探索する事が出来るという事実がある為、非常に便利な道具でもあった。バッテリーという限界があるものの、今こそが使い時だと個人的には思っていた。
そういう訳で装備を新たに、ついでにランポスの巣以外のルートを開拓しようという思惑、特別に編んだツタロープを手に、滝の横の崖、高地近くにルートを作ろうと、移動を朝から開始した。
そして最近日課になりつつある死の予兆を感じ取った。
滝の上部付近はまだ、隠れる場所があるのはここが比較的に森林エリアに近い場所だからだ。ハンターならここから紐なしバンジーで普通に移動できるんだろうなぁ、と思いながら滝の上から、下の様子を覗き込み、
そこで怪獣決戦を目撃した。
片方は黒く変色したイビルジョー―――即ち、飢餓ジョーと呼ばれる個体だった。口元からは赤黒いオーラを吐き出しながら大地を疾走しつつ、正面に存在する巨体へと向かっていた。その相対する姿は頭の角が異常に発達した蛮竜、グレンゼブルだった。見覚えのあるその姿は、通常のグレンゼブルとはかけ離れた姿をしており、一目でそれがハードコアと呼ばれる特異個体である事を察した。その中でも30メートルに届きそうな巨体は、間違いなく金冠サイズはある。金冠のG級だろうか、環境的に考えて。
それがイビルジョーと衝突した。
「ひぇー……準備に時間をかけて正解だったな……」
呟きながら滝の上で隠れる様にその怪獣決戦を眺める。
突進するグレンゼブルに対して、イビルジョーは跳躍し、グレンゼブルの角による突き上げを踏んで回避する。そのままステップを取る様にグレンゼブルの横へと回り込み、首元へと食らいつこうとする。だがそれよりも早くグレンゼブルが体から水蒸気を発し、その衝撃でイビルジョーを怯ませながら尻尾を払った。それにイビルジョーが殴られ、後ろへと数歩下がった。
「アレ、一発で俺の体ならミンチだな……」
冷静に判断しつつ、まるでダメージを受けた様子の無いイビルジョーが恐ろしすぎた。グレンゼブルも大きく跳躍して川を挟む様にイビルジョーと相対し、数秒ほど睨み合ってからグレンゼブルが翼を広げた。飛び上がる! そう思った瞬間にはイビルジョーが滝へと向かって疾走した。その動きにグレンゼブルが視線を奪われ、イビルジョーを追いかけようとして、
「ふぁ!?」
直後、イビルジョーの取った行動に度肝を抜かれた。
「
文字通り、イビルジョーが飛んだ。正確にいえば跳ぶ、というのに近い。加速したイビルジョーは滝の横の岸壁を足場に、
竜の咆哮がグレンゼブル、イビルジョーから環境を満たす様に溢れ出す。鼓膜が吹っ飛ぶのではないかと思いかねない音量に両手で耳を塞ぐも、それでもまだ耳がじんじんと痛みを訴え、音が聞こえなくなったのではないか、と思いかねない程に視界がぐらぐらとする。だがそんな事を知る訳もなく、イビルジョーは完全にその強靭な顎の力でグレンゼブルをかみ砕きながら、
何度も、何度も大地や岩肌へとその姿を叩きつけて行く。
ぐきり、と砕けるような音と共にグレンゼブル特異個体の首が90度、ねじ曲がった。それで満足したイビルジョーは山の方へと視線を向けてから、グレンゼブルを引きずる様に奥へと去って行った。
「……」
しばし、無言でイビルジョーとグレンゼブルの決戦の場を眺めていた。まだ耳が痛みでじんじんしている。それを抑え、軽く指を突っ込んで掻きつつ、溜息を吐く。
「アレをマラソンしてるんだからやっぱハンター人類じゃねぇよな」
というかGHCグレンゼブル相手にあそこまでの強さを見せたイビルジョーはなんだ。あんな動き、まるで見た事がない。いや、それを言ってしまえばこの世界にある生物や植物なんてまるで何もわかっていないのだが。となるとそうか、
あのイビルジョーがこの世界のイビルジョーのデフォルトなのかもしれない。
それを定期的に間引いているハンターとかいう連中、やはり人間ではないのでは?
「まぁ、どうせ俺には永遠に真似出来ない領域だ。コツコツと、自分が出来る事を一つずつ積み重ねて
イビルジョーが完全に去るのを、しばらく待ってから行動を開始する。ランポスの巣とは別に下へと降りる為のルートの開発だった。このままでは滝の横の崖を降りても移動は出来ない。
ぶっちゃけ、高すぎるのだ。
まだ東の岩壁の方が低い。なので、森林南エリアの川、その端の滝の方から降りる場合は何段階かに分けて下へと降りる場所を探さなくてはならないのだ。幸い、上からだったら着地できる場所が所々見える。だからツタロープを木に巻き付けてルートを開拓、少しずつ下へと下がって行く道を作って行き、特に問題もなく完成。
もうちょっと早くこのルートを開拓できればよかったのだろうが、少なくともこの滝がどこへと繋がっているのか、というのを確認できなければ開拓する事も出来なかっただろう。
これでとりあえず、春や夏になっても使える……かもしれないルートができた。まぁ、そこら辺は実際来年にならないと解らない。まぁ、それまでにイビルジョーがここから出て行くか、辿異リオレウスが始末してくれることを切実に祈る。
助けてハンター、化け物だ。
そんな事を考えつつルート開拓を完了したので、突発的な怪獣決戦を目撃しながら、先日発見した遺跡へと向かった。どうやら今日は此方側を辿異リオレウスはうろついていないらしい。段々とだが気配を遮断する隠密技術も鍛えなければならなくなってきたなぁ、と感じつつ、遺跡の入り口を軽く触れる。
予想外にしっかりとした石の感触に驚く。かなりの年月を経ている筈なのだが、それにしてはかなり硬い感触が……というかしっかりしている感じだった。このまま、蹴りを叩き込んでもまるで堪える様子を見せない。コケやツタが絡んでいる姿を見れば古いとは解るが、崩壊していないのだ。
結構、不思議だった。
とはいえ、モンスターハンターシリーズの一部の遺跡も崩壊していない所あるしなぁ、と、思い出しながら胸のポケットに差し込んだスマートフォンのライトをつけ、それで遺跡の中へと乗り込んだ。常に警戒する様にドスランポスの爪を片手に握った状態で中へと進んで行く。
コツコツと足音が響く。意識して足音を殺そうとしない限り、ゆっくりと歩かない限りは足音が反響しそうだった。どうやら中の方は植物が育っているようで、床は無事でも壁の方はコケやツタに覆われているのが見える。窓の方は完全に植物に覆われており、それが暗さの原因にもなっている様だった。視界を確保する為にも、スマートフォンで暗闇を照らしながら窓の張り付く植物を爪で切り裂く。
切り裂くたびに少しずつ中に光が入り始め、それで視界が確保され始めて来る。とはいえ、奥の方はまだ暗い。それでもエントランス程度であれば、外から入ってくる光で見えてくるようになる。
「大理石……だけど黒いし、黒曜石、って奴か?」
たんたんたん、と足元を照らす事で見える黒く磨かれた石の床を蹴る。埃は……風によって吹き飛ばされているのか、余り被ってはおらず、その輝きは時間を経ても失われていない様に思える。ただ枯れ葉が邪魔だな、とは思う。
「二階……三階あるな。まだ上がありそうだな……って下もあるのか」
下へと通じる階段も見える。上も下も奥にも進む事が出来る、困りものだった。この遺跡、どうやらそれなりに深くこの山に食い込んでいるらしい。場合によっては内部を通って山の上の方へと移動する方法が見つかるかもしれない……まぁ、そんな事よりも今は資材になりそうな物を探す方が大事だろう。とりあえず一階から探索を進める事にする。定期的に窓に這う植物を爪で切り裂いて陽光を中に呼び込む様に視界を確保しつつ、エントランスと廊下の光を確保する。密閉空間ではなく、酸素の心配が必要ない分割と問題の無い探索だった。
先に一階の廊下やホールのクリアリングを行う。
此方を先に行ったのは奇襲対策だ。怖いのは探索に集中している間に奇襲を受ける事だ。なので先に角の向こう側などをチェックし、植物を軽く切り裂いて視界を確保し、自分が見えやすい様にクリアリングしておく。
幸い、一階にはランポスやランゴスタの様な生物の気配はなかった。地下と上はまだ分かったものではないが、少なくとも一階の探索は安心して行える事が解っただけでも成果だった。良し、と心の中で呟きつつ、一階の探索を行う。
エントランスホールから続く廊下に並ぶ扉、それを開けて中を確かめるのだ。
此方、扉の方はクモの巣が張り、そして埃を被っているのが見える。奥へと進めば進むほど、風が入らないからだろうか……窓を解放したから、奥を探索する時は多少マシになっていると思いたい。そう思いながらさび付いた扉に力を込めて、
「んぐぐぐぐ! ぐぎぎぎぎぎ、げぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃおおおうううおおおお―――!」
全力で引き開けた。
「ごっほ、ごっほ、ごっほぉ! 換気しろよ少しは……!」
ぶわ、っと襲い掛かってくる埃に咳き込みながらそれを振り払い、口元を隠したほうが良いな、と毛皮のマントを少しだけ上へと引っ張り、それで口元を隠した。これで多少はマシになるだろう、と思いながら光の無い部屋の中に入った。此方は完全に密封されていた訳ではないらしく、埃で溢れているのは見える物の、保存状態は良かった。植物には荒らされていない様子なのが幸いだったか。
黒曜石の床に、昔は輝きを放ったであろう装飾品の数々、木製の机に椅子、そしてシンボルの様なものやメダリオンが飾られているのが見える。軽く室内を観察し、この遺跡がなんであるかを理解する。
「神殿……かな?」
モンスターハンター世界にも一種の宗教や信仰が存在していた形跡はある。それが詳細に出てくるような事は一切なかったが。だけど古代の時代なのだから、何らかの信仰があったとしてもおかしくはない。山の中に工房、住居、城などの施設があってもおかしい。となると現実的に考えて神殿か寺院のどちらかだと思う。メダリオンやエンブレムを見る限り、おそらくは神殿の方だと思う。意図からは統一された宗教色を感じるからだ。
「売れるなら金になりそうだけど、そんなものに価値はねぇからなぁ、ここは……使えそうな道具はないのか?」
室内を探索する。埃っぽいのを我慢しながら探索すれば、それなりに劣化してない品を見つける事が出来た。
まず、本棚の本は全滅していた。見た感じは平気そうだが、手に取ってみるとぼろぼろに崩れて消えた。紙は記録媒体としてはかなり優秀だという話は聞いていたのだが、流石に古の時代から残る事は出来なかったらしい。中身が読めれば少しは面白かったかもしれないのになぁ、と思いながら更に部屋の中を探索して行き、
「お、曇ってるけどこれは使えそうだな……」
ガラス部分が曇って、金属部分がかなりさび付いている。それでも上部のハンドル部分を掴み、そして持ち上げる事が出来るのは、壊れたランプだった。軽く中を開けて確認すれば燃料が切れている、中の着火部分も壊れている様に見える。だがそれとは別に、中に雷光虫か蛍でも入れておけば、夜中でも明かりを確保する事が出来るだろう、これなら。それにハンドル部分をベルトに通せば片手が塞がる事もない。
これはさっそくスマートフォンが壊れた場合の代わりの明かりになってくれるだろう。地味に夜中は光源が星と月以外存在せず、外を歩き回るのが危険だったのだ。蛍とかの光がないと見えないし、松明を使おうにも森の中で夜中、炎を使うのは獣を引き寄せかねないからやりたくなかったのだ。
これなら夜にも活動し、夜の草食竜達の生態観察が出来るかもしれない。後は夜に筋トレの時間を作れる、だろうか。どっちにしろ、これは良い拾い物だった。
「んー、他に目立ったものはない……かな?」
金になりそうなものはあるが、生活に使えそうな物は少ない。執務室、という感じが強い部屋だったのだ。この分だと一階部分は寮に近い構造をしているのか? と軽く予測しつつ、扉を閉めてから次の部屋を探索する事にする。
少しずつ廊下の奥へと進んで行きながら発見するのはやはり、これが宗教関連の施設であるという事実だった。どの部屋からもメダリオンと似たような装飾が、そして同じ本を発見する事が出来た。一体何を信仰していたのかは解らないが、やはり世界観的に考えて古龍を信仰していたのだろうか?
あの超自然的な存在達は確かに神と表現できるだけの力をしている。
「……だとしたら俺を呼び寄せたのも古龍なのか? ありえなくはない、って言いたくなるのが古龍だしな」
ミラボレアスとかワープアタックとかまだ実装しているMHF環境を思い出すと、異世界召喚ぐらいならできるんじゃねあいつら? とか思ってしまう。まぁ、そんなマジックが使える様な古龍は自分の記憶の中にはないのだが。或いは中華産のMHOの方にはいたのかもしれないが、あっちは余り詳しくないし。まぁ、どちらにしろ、帰る事を考える前に生きる事を考えなくてはならないのだから、この考察に関してはまた後に回さなくてはならない。
ともあれ、そこそこの加工品を見つける事が出来たのが成果だった。謎の鍛冶技術の影響か、或いは原作のシステムの様な縛りがない影響か、鉱脈の中に潜んでいない影響か、壊れていたりさびていたりするが、それでもまだ使える、という感じに幾つか使えそうなものが残っているのが幸いだった。
その中でも嬉しかったのはランプと鍋だった。
ランプは活動時間が増える。そして鍋は料理の幅が一気に広がる。今までは食べられなかったものも、これで食べられる可能性が出て来たのだ。流石に食糧庫を見つけた時、中身が腐っていたのでそれに手を出す事は出来なかったが、それでも十分すぎる程の成果を獲得する事が出来た。
見つけられたものにほくほくと表情を緩めつつ、一階はまだ終わっておらず、奥へと、山の中を進んで行くような廊下を進んで行けば、その先の広い空間に出る事が出来た。
そこは丘の様な背の低い草が生えている草原だった。四方を山の岩壁に囲まれており、天井とも言える部分にはおそらくは金属か……それとも石だろうか? みたいなネット、或いはフェンスがかかっていた。それによって空からの侵入を抑え込んでいるのかもしれない。かなり広い空間であり、隅の方には木小屋が見える。
そして、その大地を伸び伸びと草を食べながらゆっくりとするもこもこふわふわとした、羊の様な、アルパカの様な生物がいた。
―――ムーファだ。
シリーズの携帯機、モンスターハンターXやXXで出現した草食種、家畜化にも成功している種であり、古くから家畜として慣れ親しまれている種だった。だが何よりも重要なのは、
「おぉぉ……!」
貴重な、羊毛だ。加工すれば糸にも詰め物にも服にもなる! 今、この冬を生きて乗り越えるために一番欲しかったものだった。しかもどうやら元家畜が自然繁殖しているのか、かなりの数がいるのが見える。此方を見て、ムーファが興味心を抱いて来たのだろうか? 此方へと近づいてくるのが見えた。
くんくん、と鼻を動かしながら匂いを嗅ぎ、確かめる様に近づく姿の頭を撫で、首の下を軽く掻く様に撫でる。その羊毛の色は野生の黄色が混じった色ではなく、家畜用の白い方だった。やっぱり、神殿の方で育てていた種だったんだろうな、と予測を付ける。
「あー、すっごいもふもふ、あー、もふもふ、心が癒される……ほんと癒されるわー……」
「……?」
ムーファは解らないよー、と言わんばかりに撫でられるがままにされているのだが、お前はそのままで居て欲しいと祈る。たっぷりしばらくムーファをもふもふして心を癒された所で、名残惜しみながらムーファから体を放しつつ、本日最後の探索に、小屋の方へと移動する。
此方は鍵がかかっていたが、其方の方が既にさび付いていて限界だった。木の方も腐っていて、蹴りを叩き込めば簡単に開ける事が出来た。
その中に揃っていたのは、糸車だった。そのすぐそばには、床と同じ黒曜石だろうか? それで作られたナイフがあった。どうやら持ち手の部分は皮だったらしいが、それが腐って千切れてしまった様だ。まぁ、経過した時間を考えればしょうがないだろう。ただ、このナイフでおそらくはムーファの毛を刈っていたのだろう、と思う。後で少しだけ拝借させて貰おう。
冬に余り毛を刈ると凍えて死んじゃうから、そこら辺は少し調整しつつで……。
「うーん、流石にダメか」
糸車はまだ使えるかなー? と思ったが、触らずとも、形が組み合わさっているだけで限界耐久に達しているというのは理解出来た。これを使おうとすればそのまま壊れてしまうだろう。これが使えればムーファの羊毛を糸に加工して、それでクモの巣を糸代わりにする生活からは脱却できたのだが。
「まぁ、形が残ってるだけでも幸いか。これを参考に似たような機構を作ればいいしな。1か月2か月かけてもいい時間はあるし」
加工用木材を調達するために木を切らなきゃいけないのだが、その木材の獲得が少し辛いって所だろう。マインクラフトじゃないから素手で木を砕くような事は出来ないし。今さっき手に入った黒曜石のナイフか、或いはドスランポスの爪を使って切るしかないだろうと思う。
いや、それにしたって些か非現実的なプランだろう。もうちょっとマシな方法を考えた方がいいかもしれない。まぁ、羊毛はそれがそのまま、毛皮で挟んで詰め物にしてしまえば、暖かい毛布にもなる。それだけでも十分すぎる進歩だから文句を言っちゃいけない。
「出来れば伐採用の斧でもあればいいけど、流石にそれは望み過ぎか」
グレンゼブルの死体とかまるで何も残らなかったし、部位破壊なしで即死アタックとかイビルジョー怖すぎるでしょう。リオレウスの生え変わった爪とか、間違いなく斧に出来る様なサイズだから調達出来ればいいんだけどなぁ、と思うが、辿異種の巣に近づくような自殺行為は間違いなく控えたい。
小屋の外に出て、原っぱの上に座る。ムーファが遠巻きに見つめていると思ったら、近づいてくるのを眺めつつ、考える。
「間違いなく快適に暮らすならこっちのが良いんだよな」
掃除をするという大前提が存在するが、雨風をしのぐ場所としては一番良い所だろうと思う。ランポスの巣回避ルートを構築したから、時間はかかるが此方と森林とを行き来する事も出来る。だけど問題は、森林はフォロクルルが出現するが、此方の方は辿異リオレウスとリオレイアの夫婦竜が、そして暴食の王者イビルジョーが徘徊しているという事だ。そしてたぶん、此方側に生息している竜はそれだけではないような気もする。
自作ツリーハウスはアレで隙間風とか雨漏りが酷いが、場所的に一番安全でもある。竜に見つからない様に葉っぱとか被せてるし、届かない距離とか、木が邪魔で体が通らない場所を選んでいるのだ。大きな竜であれば入り込めない森林の中で、そして入り込める奴相手だと届かない場所。それが自分のツリーハウスの位置だ。だから自信を持って安心できる場所なのだ。
それに比べここ、遺跡は入り口が開けっ放しだ。何時、ランポス等が入ってくるか解らないという恐怖がある。だがムーファが居て、近くにはエルペが、雨風の事を心配しなくても良い環境は魅力的だ……。
とはいえ、やっぱりイビルジョーやリオレウスが近くにいる場所って嫌だな、と思う。
やっぱないわ。
どれだけ快適でも、安全とストレス対策が一番だ。このまま、寝泊りはツリーハウスで続けるのが一番だな、と結論付ける。
「うぉ!?」
と、考えに集中している間に、ムーファが集まっていた。
「お前らエルペ並みに人懐っこいな、ははは、はははは……」
集まって来たムーファは鼻先で此方をつんつんとついて来たり、軽く舐めたりして来る。集まって来たその姿に囲まれ、モフモフした暖かさに囲まれながら珍しく、心から安らぐ時間を得られたような、そんな気がした。
ただ、この地平に存在する竜達からどうやって逃れ、生活するかを考えるとひたすら頭の痛くなる冬だった。
羊毛採取。
遺跡探索。
道具作成。
資材加工。
まだまだ、この冬の間にやるべき事はたくさんあった。
今回で冬季は終了。
次回から2年目春季。1年目の下積みが少しずつ結果と成果を見せ始める2年目の時期なんじゃよ。理不尽と狂気の中で鍛えられた花が蕾を見せる時じゃよ。