※この作品はR-18です。

Monster Survivor   作:てんぞー

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5年目 冬季 絶種討伐戦・《斬虐》 Ⅱ

「《悪魔》と貴様らが呼ぶ古龍―――メフィストフェレスだ」

 

 ミラバルカン・アバターは現身の口でそう語った。第二拠点の野外テーブル、その脇の椅子に腰かけ、リュートを弾きながら言葉を口から放った。それを先生、と呼ばれる学者のアイルーが眉をひそめながら視線を送り、そして応える。

 

「どうしたんだニャ、お爺ちゃん。ボケたかニャ?」

 

「まあ、話を聞け猫」

 

 扱いが雑であろうと、それをミラバルカン・アバターは気にしない。人の姿はアバターでしかない。本体ではない。本体の意識を割いた、人形遊びでしかない。故に人形に何かを言われて怒るか? 虫が何かを囀って、それを気にするか? 言葉がヒトの武器の一つであるのを理解するミラバルカンは、アバターの姿でその概念を楽しんでいた。故に、罵倒程度、笑って受け入れる。それで矜持も誇りも削れることがないと解っているからだ。

 

 故に聞け、と言葉を置く。

 

「メフィストフェレスの誕生は正確に遡れば此方の大陸に戦火が伸びる前の話だ。奴は龍と人の争いを終わらせる、悪意と進化を殺す為の龍として生まれて来た。その為に奴はあらゆる属性を吸収し、そして人の持つ感情や知恵に非常に敏感だった。生物は上位になればなるほどエネルギーを増大させる……」

 

「どんな龍であれ、上位の龍は魔法かと思う様な攻撃を行うニャ。それを吸収するような存在が出てくるなら、それはまさしく悪魔の名に相応しいのニャ」

 

 先生の言葉にミラバルカンがそうだ、と頷いた。まさに悪魔の名に相応しいと付け加える。メフィストフェレスは対エネルギー、対文明と表現できる龍だ。吸い上げたエネルギーを放ち、そのまま返す事が出来る。つまり己の文明によって人は滅びるのだ、メフィストフェレスと相対した場合は。そして龍もそうだ。メフィストフェレスと相対した場合、最大の武器である炎や自然現象が一切通じなくなる。

 

 究極の龍。

 

 龍達の悪夢。

 

 人類に対する悪魔。それがメフィストフェレスという龍になる。

 

「だが奴も始めから悪魔と呼ばれていた訳ではない」

 

「そうなのニャ?」

 

「あぁ……寧ろここでの生活に馴染んでいた」

 

 それをミラバルカンは語る。演奏に乗せて、かつての生活を歌う。人々が龍と、そして竜と一緒だった時代の話を。今では僅かな場所でライダーと呼ばれる存在だけが、その僅かな文化を引き継いでいる。それ以外は完全に絶滅した思想だ。ハンターが主流の世の中、竜との共存は難しい。だがそれが可能だった理想の時代が存在していた。そして戦火が伸びる前までは、まさしく理想郷と呼べる、箱庭の楽園がここには存在していた。それをミラバルカンは()()()()()()()()()()()()()()()のだ。故に彼の弾き語りは、実体験に基づく物だった。

 

 聞く誰もがその光景を思い浮かべ、追体験する様に感じられる。

 

 理想の時代の笑い声を、人々の温かみを、竜の力強さを、異種族の間に育まれた友情と愛を、その演奏に乗せて奏でる事が出来た。

 

「だが―――その全ては燃え去った」

 

 楽園は終わったのだ。

 

「人の生活を教えた師を《悪魔》は自ら殺す事になった。公園で一緒に遊んだ友人を殺す事にもなった。翼の使い方を教えてくれた父にも近い竜を食い千切る事になった。そして……道を教え、人と竜という存在を教えた、兄に近しい存在を自ら殺す事になった」

 

「待つニャ、それは―――」

 

 先生が言葉を止め、そしてミラバルカンがそうだ、と答える。今、この楽園で起きている出来事、

 

「あの異邦人が経験している事は()()()()()()()()()()()だ」

 

 師を殺し、友を殺し、父を殺し、兄を殺す。そして今度は愛さえも殺す。そうやって楽園を自らの手で破壊し、絶滅へと導く。それは《悪魔》の通った道だ、とミラバルカンは口にする。そうやってメフィストフェレスは《悪魔》と呼ばれる様になった。そうやって最凶最悪の龍が生まれた。

 

 絶望と大戦の怨念の中で生まれて育ったのがメフィストフェレスという龍だった。そしてミラバルカンの口から語られた言葉を、先生と呼ばれるアイルーは良く、理解した。ミラバルカンの狙い、その考え、その全てを説明によって理解するに至った。信じられないものを見る様な視線で、ミラバルカンから一歩離れた。

 

「狂ってるニャ! お前は頭がおかしいニャ! そんな事できる筈がないニャ!」

 

「それはどうかな? 古代の怨念、龍化の病。絶望、殺意、敵、そして楽園の破壊。その上に今回は素体が良い。この地獄を潜り抜けて来た人間だ―――その胆力と頑張りは敬意に値する」

 

 ミラバルカンの演奏が停止する。

 

「―――さぞや、絶望的で悪魔的な龍が生まれてくれるだろう」

 

 生まれなければミラバルカン自身がメフィストフェレスを殺す。

 

 生まれればそれをメフィストフェレスにぶつけて殺す。古龍生誕の法則が正しければ、対メフィストフェレスに特化した龍がこのプロセスで生まれて来る筈だ、というのをミラバルカンは良く理解していた。故に成功しても、失敗しても、どちらでもいい。最初からそのように動いている。ただ一つ、どうせなら、

 

「俺の予測を超える様な顛末を楽しみにしているがな―――」

 

 珍しく、ミラバルカンはそう言葉を零し、獰猛な笑みを浮かべた。

 

 間違いなく、もう戻れない、転落の道を選んだ人間の気配を感じて。

 

 

 

 

な、め、る、なぁ―――!

 

 普段は完全に抑え込んでいたリミッターを完全に解除した。剣がブレるのと、超人的な能力を使いたくないし、それに使えば使う程狂竜症に飲み込まれて行くから使いたくはなかった。だがそんな事はもう、言えない。矜持とか、好き嫌いとか、そういう事を言える状態ではなかった。雪崩に対して絶対に生存できる手段を取る必要があった。生き残る必要があった。あのクソみたいなティガレックスを絶対に殺す必要があった。

 

 殺せ

 

 喰らえ

 

 ぶち殺す。剣に宿った怨念、狂竜症に潜むマガラの意思、そして自分自身の殺意、それらが全て同じ方向を向いていた。あのクソティガレックスを殺せ、絶対に殺せ。殺してやる。その殺意だけで完全に今、統一されていた。身体を超える能力を一瞬で発揮させ、本来ありえない肉体の完全制御を可能とする。口から黒い煙が漏れ出し、そして視界の全てが紫色に染まる。

 

 霊峰まで……頂上まで、《俺》は持てばいい。《眠り姫》を殺す瞬間まで俺は持てばいい。それ以降の事はもう、知った事じゃない。

 

ぶち殺す

 

 大地を蹴り、壁を蹴った。距離が10メートルを超えていたが、八割方狂竜症による浸食を受けた肉体にそんな事は関係がなかった。身体能力は八割方、ゴア・マガラへと置換されていた。即ち爪で生物を引き裂く事が出来、その跳躍力で一気に空へと飛び上がって逃亡するような力強さ。この程度の距離、龍としてのスペックを引き出せば、一瞬で踏破出来る程度には容易い距離だった。

 

 そうやって壁を蹴って、更に高く跳躍する。体中がギチギチと音を立てながら変異して行くのを感じる。空に舞い上がりながら、更に雪山の斜面を、登るのが本来は不可能である壁とも表現できるそれを蹴って、更に蹴り、連続で蹴る様に跳躍し、

 

 雪崩よりも高く飛んだ。それを見ていたティガレックスが咆哮を轟かせ、雪崩を増やしながら風に斬撃を紛れ込ませて飛ばしてくる。

 

直ぐにでも笑えなくしてやる―――

 

 狂竜症によって溢れ出す殺意、凶暴性、殺してやりたいという殺戮衝動に血肉が食べたいという圧倒的飢餓感。それを一切押さえつけない。このクソの塊は人のままでは殺せない。だから龍の力が必要だった。だから更に、もっと、もっと狂竜症を活性化させる。

 

浸食値―――92%

 

 体が更に変異して行く。肌は完全に鱗で覆われ、黒い龍の色をする。背中にむずがゆさと痛みを感じ、そこに新しい器官が備わるのを感じながら、両手の手袋を少しだけ大きく、そして鋭くなって指が破って突き出た。片手剣の柄を更に鋭くなった牙で掴み、壁を蹴って雪崩の頂点を乗り越え、

 

 そのまま、蹴りと爪と口で咥えた剣で迎撃の攻撃を粉砕しながら超える。

 

 落下する体、人間の技術で雪崩の上を蹴り、体を飛ばす様に呑み込まれる前に跳躍し、無事な壁を三角跳びの要領で龍の身体能力を全て引き出しながら、殺意だけで体を支配して一気に飛び込んで行く。ティガレックスがそれに反応している。完全に再生された肉体で、此方と同じように壁から壁へと跳躍し、雪崩の上を駆け抜ける様に斬撃を連続で風に乗せて放ってくる。

 

 壁を蹴る瞬間を巧妙に狙ったそれは、此方が雪崩へと呑み込まれることを狙って放ったものだった。だから来るのが見えている。その斬撃を足場にブーツを破壊し、その下の変異した、爪の生えた足を露出する。スパイクブーツよりも此方の方が遥かに使いやすい。斬撃を蹴って、ブーツを壊し、跳躍し、

 

 雪崩の上を飛び越える様に雪山の斜面、突き出た崖や壁を足場に、ノンストップで追いかけながら殺し合う。

 

 常に動き続け、追いかけながらティガレックスを追跡して殺しに向かう。相手も此方の殺意を完全に感じ取り、真剣に殺す為に移動、足場の確保と同時に斬撃を風に乗せて放ってくる。もはや疑いようもない―――こいつはハルドメルグの水銀操作術を吸収し、それを風で生み出す事を覚えた。故にモーションなんて飾りでしかない。

 

 その気になれば、動きを見切った、と思わせた所で斬撃を発生させて殺しに来ていた。剣だらけの体もその為のブラフ―――徹底した合理の怪物だった。

 

 だが、

 

もっとだ、もっと、早く

 

 更に狂竜症を活性化させて、体を呑み込ませる。髪の毛が抜けて行き、鱗が頭を覆う。体を覆う。甲殻が生まれ、骨格が変わって行く。

 

浸食値―――100%

 

 到達点。完全浸食完了。身体能力が完全に龍の物へと置換される。矜持を投げ捨ててでも得た力、体の周りに狂竜症を生み出す、狂竜ウィルスの鱗粉が出現し始め、風に乗って空が黒く濁り始める。だがそれに気にする事もなく、殺意だけで意思を確保する。精神力だけが自慢なのだ。

 

 故に壁を、雪崩を蹴って、龍のまま、人間に近い形に抑え込み、肉体改造の狭間で人間の技術を駆使し、ティガレックスに肉薄する。

 

らぁぁぁぁ―――!!

 

「グルゥゥァァァッ!」

 

 ついに、追いついた。爪と腕が衝突し―――体格差で当然の様に此方が弾かれる。後ろへと押し出されながら足場を蹴って、再び吹雪の中、ティガレックスと戦闘を演じる為に接近する。化け物め、と吐き捨てる。人間じゃこいつには絶対に勝てない。人間の思考を利用する他、明らかに人間に殺せる範囲にまで自分の存在を下ろそうとしないからだ。

 

 だが竜なら殺せるか? それも難しい。人間という物を観察して得た知識、戦術、それで竜を嵌めて殺す。単純な身体能力の比べ合いなら竜の体で親しんだ技術で押し出す。それだけの知能と鍛錬をこいつは行っている。

 

 だから人でも、竜でも殺せない。

 

 なら龍になるしかない。

 

ぶっ散れ

 

 限界を超えて更に浸食させる。既に完全改造してある肉体でも、更に狂竜症を活性化させて、勝てる肉体にする様に改造を進めさせる。それに喜ぶ様に怨念が、マガラの意思が喰らいついてくる。絶望を、怒りを、殺意を、経験を、そして技術を餌にする様に食らいつきながら、更に肉体の変異が進んで行く。

 

浸食値―――108%

 

 体に力が漲る。ティガレックスの視線が更にきつくなり、殺意がその体から溢れ出すのが見える。体に赤い線が走り、怒りを抱いたような、形態の変化を見せる。それと同時に近くの足場そのものを破壊する様に体で切り裂きつつ、それを弾丸として尻尾で加速させて投げつけて来る。

 

 ノンストップの動きに対して、マントや防具を破壊し、ベルトを千切りながら足場にした。飛んで来る岩石の塊の様なそれを足場に連続で跳躍し、既に人の輪郭を失った肉体で接近する。

 

 そのまま、ティガレックスの顔面に爪を突き込んだ。目玉に手を叩き込んで、貫通させ、その奥にある脳味噌を掴もうとする前に体を暴風と質量が衝突し、目玉を一つしか引き抜けずに吹き飛ばされる。

 

 追撃する様にティガレックスが片目だけの状態で斬撃を纏い落ちて来る。雪崩の過ぎ去った、漂白された雪原の上から飛び退き、何もなくなった舞台の上で、ティガレックスと相対する。その視線は蔑むようなものも、見下すものもなかった。

 

 その瞳は《敵》を映していた。

 

浸食値―――118%

 

殺す、殺す!

 

 咆哮を響かせながら本能に任せ、一気に飛び込んだ。迎撃する様に僅かに体をズラし、爪をティガレックスが放ってくるのを見る。だがそれに人の技術で対応する。僅かなズレを逆に利用し、迫ってくる爪に対して呼吸を切り替え、黒い息を吐き出しながら後ろへと、龍種特有の超発達した神経で体を動かし、衝突せずに歯で咥える剣で爪を受け止め、そのまま空いた両手で腕を掴み、

 

 指を引き千切る。

 

 反撃が来るのを察知して飛び退くが、体に痛みを感じ、紫色のドロドロの血液が体から流れるのを感じた。何故? いや、体が前よりも大きくなっている様な気がする。それで距離感覚が狂ったのだ。即座にその分を修正する。再び激突する為にも一気に飛び込んで行く。同じように飛び込んでくるティガレックスと爪を振るってくる。

 

 剣を口から回収し、振るう。

 

浸食値―――1■■%

 

 すれ違いざまに腕を斬り飛ばしてやった。ついでに斬撃から振り返りながら自分の背中から生えて来た翼を斬り落としてやった。体が軽く感じる。この方が動きやすい。だが剣を振るう時に無駄な力が入るせいでちょっと刃の通りが悪い。クソ竜が、と毒を吐き捨てながらティガレックスが斬撃を結界の様に、風の鎧の様に身に纏ったのが見える。動き出すティガレックスの周辺の空間が切り裂かれ、深い裂傷が雪の大地に刻まれる。

 

 それを見ても、ティガレックスに飛び込む。

 

 限界を超えて強靭となった肉体から血液を流しながら斬撃の鎧に耐えながらそのまま、刃をティガレックスの頭に振り下ろした。回避する様に動かした肩口に刃が突き刺さり、抉りながら肩の周辺の肉を削ぎ落とす。バランスを崩しながらもティガレックスがゼロ距離から咆哮を放つ。

 

 その衝撃に物理的に肉体が吹き飛ばされた。

 

 起き上がりながら、返す様に咆哮を放って迫ってくる刃の咆哮を相殺した。周りの雪が吹き飛びながら散って行く中で、互いの咆哮を相殺させながら再び接近して、拳と爪で殴り合い、そして片腕だけ、人間の様に振るって斬撃をティガレックスの体に刻んで行く。

 

 裂傷が生まれる度にお互いに、体が湯気を生む様に高速で再生していく。

 

 だがそれよりも早く、そして多く、相手の体に傷を刻む。

 

お前は、ここで……死ね!

 

 限界を超えて、ティガレックスを圧倒する。逃げようとする姿を押さえつけ、剣を体に振り下ろして刻んで行く。走ろうとする足を掴んで引き千切る。伸ばす尻尾を掴んで体を引きずり寄せる。残された腕を掴んで引き千切る。

 

 逃げる事も考える事さえも出来ない状態にまで相手の体を少しずつ、少しずつ圧倒的な暴力で蹂躙して制圧する。

 

 是こそが龍の力。

 

 是こそが龍の暴力。

 

 是こそが―――理外の法則。

 

 圧倒的筋力、耐久力、体力、脚力。全てが人間を超越している。そして同時に竜さえも超越している。龍という領域に踏み入れた瞬間、生物という領域を超える。何よりも体に溢れ出す怨念が、殺意が、殺せと叫ぶ意思が、常識では測れない力を漲らせる。

 

 それが腕力でティガレックスの力を引き裂く事を許す。腕を千切り、足を千切り、尻尾を握りつぶし、そして体から生える剣山を一つ一つ叩き折って、背骨を折る。体の中に爪を突き刺し、そのまま骨を引きずり抜いて、オブジェの様にそれを槍代わりに体に突き刺して固定してやる。内臓を引き抜いてそれをデコレートしてやる。心臓を千切って捨て、

 

 それでも究極とも言える生物の生命力で、ティガレックスは死ねない。

 

 だから体を千切る。心臓を引き抜き、残った目玉も握って潰す。煩いから喉を引き裂いて潰し、頭に片手剣を突き刺して固定する。まだ死なない。心臓を丸ごと引っこ抜いて骨に突き刺してやる。

 

 本当の残虐さというものをその身で教えてやる。

 

 故に千切って引き抜いて体をバラバラに引き裂いた。再生し続ける体はまるでティガレックスの生への執着を見せる様だった。だが無駄だった。人である事を捨て去った、矜持もプライドも捨て去って、限界を超えた化け物には、

 

 竜では勝てない。

 

 絶叫と斬咆哮が雪山に響きそうになる。

 

 その度に首を潰して黙らせる。痛みに絶望する姿を嬲る様に少しずつ力を奪って行きながら、飢餓感を満たす様に直接、発達した牙で肉に噛みついて滴る血を飲みながら肉を噛み千切って咀嚼した。人の頃では感じられなかった飢餓感を、竜の血肉が腹を満たして行く感覚に、充足感を感じ、

 

 同時に、頭を殴られたかのような衝撃を受けた。

 

ちが……う……!

 

 飲み込んだ肉と血を胃の中から吐き出しながら、バラバラに、蘇生も再生も不可能な状態にまで殺されつくしたティガレックスの姿を見て、自分の首を今すぐにでも吊りたい気持ちになった。だがそれを抑え込み、二足で立ち上がり、変異し、更に進化を続けようとする肉体を引きずり、歩き出す。

 

 ティガレックスの死骸を背後に、霊峰へ、その頂上へ。

 

 自分を何年も前からずっと見つめ続けている視線。途切れないそれ。この世界での生活、戦い、ずっと見守って来てくれたそれ。その主が、霊峰で待っている。

 

 待っている。

 

 待っていてくれている。

 

ころさ、な、きゃ……

 

 朦朧とする意識を引きずる様に、龍の本能に引きずられそうな意識を引きずる様に、体を前へ、前へと向かって進んで行く。もはや寒さも、痛みもほとんど通じない肉体になった。そしてそれが心を蝕んでいる。本能を蝕んでいる。

 

 それでも前へ。

 

 俺が《俺》である間に、

 

 彼女を―――殺す為に。




 限界を超えて成し遂げた所で報われる訳でもない。

 花畑がそのままな理由はとてもシンプル。メッフィーもその頃を忘れられないから。故に手つかず、触れられないままに。それはそれとしてクソトカゲ本当にお前。

 という訳で次回、霊峰で眠り姫に。
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