やっと、休める。
長い、とても長い一日だった。絶種ティガレックスと戦い、マガラの意思に呑まれ、怪物になりながら精神世界を駆け抜けて、そして最終的に転生し、人となってドゥレムディラ=アルマと生きると決めて、そしてミラバルカンを説得した。本当に疲れる一日だった。まだ絶種討伐と、そしてメフィストフェレスの事にケリを付けなきゃいけないのは解っているが、それでも本当に疲れる一日だったのだ。
少し、ゆっくりさせて貰っても文句はないだろう。
頭の上に手ぬぐいを乗せながら、肩まで湯船に浸かってゆっくりと体の疲れを癒す。第二拠点には川から水を引いて作った、お風呂がある。アイルー達が頑張って作成してくれたものだ。何やらユクモ村の温泉を参考にしているらしく、ハンター用に疲れを取りやすい様にしてあるらしい。温泉の素みたいなものを先生が調合しているおかげで濁り湯になっており、露天になっている湯には花が浮かんでいる。
このまま、自然の景色を眺めながら浸かれる良い湯になっている。こういうのをサクサクと作成出来てしまうあたり、あのアイルー達が只者……いや、只猫ではないのは明白だ。本当にいてくれて助かった。そう思っている。こんな豪華な風呂、アイルー連中が居なきゃ一生味わう事も出来なかった。
「あ゛ー……だけど色々と現実的になって来たなぁ」
風呂のふちに背中を預け、両腕をその上に乗せる様に広げながら、ふぅ、と息を吐いて考える。新しい体はすこぶる好調であり快調、傷が一つも存在しない、ピッチピッチの新品だった。おかげで体に力がみなぎるのを感じられる―――人間の範囲で。ここにマジカルでファンタジーな力は
だから体を鍛えるのはいい。
技術を磨くのもいい。
だけどその結果、ハンターの様な特殊な能力に目覚めるような事は永遠にありえない。唯一の抜け道は特殊な武器や防具を装備する事で活用する……ぐらいだろうか。装備品自体が特殊であれば、その力を借りる事も出来る。
「そこらへん、どう思う?」
風呂の横の大地に突き刺した黒睡蓮の剣を見た。透き通るような黒い睡蓮を思わせる剣は大地に突き刺さった状態で、実際にその周囲に黒い睡蓮を咲かせていた。不思議なもんで、この剣は突き刺した周辺、或いは引き抜いた状態で握っていると周りに黒い睡蓮を咲かせ、刃を振るうと睡蓮の花びらが舞うのだ。
物凄いファンタジーな武器だった。
ちなみにそれ以上の特殊な能力はない。ただ恐ろしく頑丈で、良く斬れて、そして美しい。それだけの剣だった。もう、この中に古代の怨念も、ドラゴンメイカーたちの魂も残されていない。それらは全て、マガラの怪物と共にアルマが塵の一つすら残さず消し飛ばしたのだから。せめて、来世では楽しく、そして幸せな場所で生まれてきて欲しいと願う。来世の概念がこの世界にあるかは解らないが。
それでも異世界概念は存在するのだから、これぐらいはあり得るのだろうと思う。
ただ、まぁ、
「名前……か」
我は我である―――その我、を定義するのが名前というものだ。だから、まぁ、名前とはそれなりに大事なものだ。ミラバルカンの本当の名前を龍言語で聞かされ、それを教えられたという事は認められている事……だと自惚れたい。名をお互いに交換するのは、対等である事を示す為の言葉だったと思いたい。
だから自分も、あのツンデレマシュマロクソトカゲに名前を返さないと駄目だ。
「だけどなぁ、俺の名前ってなんだっけ……」
手拭いをずらして、それで両目を覆いながら空を見上げる様に顔を上へと向ける。名前は、大事な事だ。だけどそれを自分は忘れてしまっている。あの精神世界でもそれを思い出す事はなかった。自分が誰であるのか、どういう名前だったのか、どういう存在だったのかが、割と曖昧になっている。だからこそ
名前が個人を定義するのであれば、そう定義すれば生き延びれるかもしれないから。ただ、まぁ、これから先の事を考えるとナナシのサバイバーと名乗るのも問題はあると思う。街に行った時、何て名乗ればいいのかわからなくなってしまう。なので、ちゃんと名乗れる名前が欲しくなってくる。
ドゥレムディラ……彼女はアルマ、という名前になった。それは外国語の言葉で《魂》を意味する。だがその言葉では終わらない。アルマ・マータ、言葉を最後までつなげる事で《愛》とも《母性》とも意味を変える。それはそれで、素敵な名前だと思う。あの時勢いで投げた言葉が、ちゃんと彼女の名前になったのだから。
彼女は生み出された存在でも、確かに
その魂で愛を知って、そして誰かを愛せる母性を持って欲しい。きっと、生まれた時に愛されていた彼女であれば、誰かを愛し、命を慈しむという事が出来る筈だから。まぁ、現状、自分がその愛される対象なのだが。
ロリ巨乳無垢ドラゴン娘だぞ。フェチズムの塊だ。
「……いや、まぁ、嬉しいけど」
それ以上に責任感を感じる。解き放った者として、龍と一緒に生きる事を決めた者として、そして人に生み出された龍である彼女の事を考えて。彼女の未来の事を考え、少しだけ、後悔する。果たして自分の様な男で良かったのだろうか、という話だ。だが結局のところ、彼女は俺を愛している、と言ったのだ。だとしたらそれに応えるのが男というものだろう。
今更、見捨てる事なんて出来ない。最後まで面倒を見るしかないだろう。
「でも、まぁ、名前か……どう名乗ったもんか」
名前は親が子に与えるものだ。
それが二つ目の、そして尊いものだ。どうやって育って欲しいのか、どういう子に育って欲しいのか。それを願って与えるものだ。命の次に与えられたプレゼントだ。そういう意味ではアルマ、という名前を彼女に与えられたのは良かったのかもしれない。生み出されてもなお魂のある存在、と彼女はなれたのだから。だが問題は自分だ。
どう名乗ればいいのだろうか?
英名か? それとも日本名か? この世界風にすればいいのか? モンスターハンター世界でも名称はかなりごっちゃだ。その事を考えるとネーミングというのは結構、難しい話だ。これからずっと、他人に対して名乗り続ける名前でもあるのだ、何時までもサバイバーと自分を呼ぶ事も出来ない。だとしたら何か、他人に誇れる名を自分に欲しい。
……だけど他人に誇れる名、とは何だろうか? 歴史上の有名人の名を取ってもちょっと……なんというか自意識過剰だし、だからと言って響きがかっこいいからそういう名前にするのというのは、ちょっと子供っぽすぎないだろうか?
というか他の転生者君たちは恥ずかしさを覚えないのだろうか、自分で俺の名前は神なんとかと名乗るの。俺の場合、そうなったら一生偽名で生きて行く覚悟がある。忘れてはならない、名前は《祝福》なのだから。
名は体を表し、存在を定義し、そして命を祝福する。
だからかっこいいとかじゃなくて、名前は真面目に考えなければならない。自分という存在を定義する言葉―――
そう思いながら少しだけずれる手ぬぐいの隙間から、黒睡蓮の剣が見えた。
「睡蓮……リリーは女の名前だな」
ウォーター・リリーは英語、ニンフェアはイタリア語……此方も音は女の名前だ。ニュンペーもダメ。男らしくない。
「睡蓮がダメなんだな、男らしいイメージに届かない……となると男らしい花は……」
記憶を漁り、考える。
「あっ、思い出したわ」
Sword Lily、つまりは剣の睡蓮と呼ばれる花が存在した。尖った葉やつぼみが剣の様な花だ。
「グラジオラス。まぁ、悪くないんじゃないかな」
此方の世界に存在しているのかどうかは別として、グラディウスという武器から名前が流れを組む花だ。ソード・リリーという名前を持ち、そして剣をモチーフにした花、その名前は睡蓮の剣を持つ自分には相応しいものがある様に思える。グラジオラス、グラジオラス。
何度か、呟く様に繰り返し、馴染ませる。自分の新しい名前だ。花言葉の意味は《勝利》、そういう意味でも相応しい名前ではないだろうか? 勝ち続けなきゃ死んでる人生だし。というか一度人生卒業して龍生に突入したし。まぁ、いい感じの名前だ。
「今日から俺はグラジオラス―――うん、悪くない」
家名の方はまだ、考えなくてもいいだろう。ただこれでミラバルカンに返す自分の名前を思いついた。これでちゃんと、ミラバルカンに正面から覚える為の俺の名前を叩きつけられる。その時が地味に楽しみだ。一体どんな表情で迎えてくれるのだろうから。風呂からあがったら早速、叩きつけてやろう。そう計画した所で、
「そうか……お前の名前はグラジオラスというのか」
「ん? あ……アルマか」
「うむ」
聞こえて来たアルマの可愛い声に、どう反応したもんか、と一瞬だけ悩んだが、思えば彼女にはここでの生活をずっと見られているもんだから、今更ながら、焦る必要もないという事に気付き、息を吐きながら手ぬぐいをずらして頭の上に乗せ直した。そのまま風呂の中に肩まで沈めつつ、風呂に片足をちょんちょん、と差し込んでいる裸のアルマの姿を見た。
龍として育ったせいか、裸を晒す事に何の抵抗もないので、胸や恥部が隠れる事無く晒されている。それを見ていると女である、というのは解る。だがその堂々とした姿は、見た目は女でも、中身が龍であるというのを感じさせる。
なんというか、そうである事が自然の様な振る舞いなのだ。
だけどお湯を確かめる湯に足先で確かめている姿は、やっぱり可愛い。湯を足先で触れるとそれに軽く震えて足を引っ込め、此方を見てから、もう一度足先を伸ばす。
「……どうしたんだ」
「いや、その……これが暖かいという感覚なのか。未知で長時間触れるのが少し……」
「可愛い過ぎかよ」
「……?」
「いや、俺が入っているのを見てるだろう?」
「う、うむ。お前がそうなら大丈夫だろう……うむ」
うんうん頷きながら足をちょんちょん、と付けてから意を決し、足を湯船の中に沈めた。目を閉じ、やや体を強張らせる様に震わせながら足先、かかと、足首、そして膝、と少しずつ湯船の中に体を沈めて行く。経験の無さゆえの無知と恐怖、そして未知への体験。恐らく何がどうであるのか、は知っているのだろう。だがそれを体感した事がないからこその恐怖なのだ。
トウガラシが辛いと解っていても、それを食べなきゃ本当にどういう風に辛いのかが解らない。舌が痛くなる、という辛さは経験しない限りは通じないものだ。つまり、今のアルマの状態はそういう状態だ。
ただ、すらりとした幼さを感じるアンバランスな体が湯船に沈んで行くところはどこか艶めかしさを感じる。
そんなアルマは両足を湯船に入れると、肩まで体を沈める。その髪は非常に長く、地面に引きずるような長さをしているのに、一切汚れる事はない、不思議なグラデーションをした色の髪だった。それが風呂の中に入るとふわり、と浮かび上がる。
「お、おぉ? おぉ……」
恐らくは人生で初めて、必要のない風呂という龍にとっての娯楽をアルマは味わった。その気になれば汚れる事すらない龍に、風呂はただの娯楽でしかない。それを初めて、体でアルマが理解しているのだろう。湯船に浸かる暖かさと、心地よさ。それに入って数秒してから、目を細める様に緩めるのが見えた。
「これは……良いものだな」
「だろう? ほら、髪が濡れるからこっちに来い」
「うん?」
解っていないようなので、半分ぼぉっとしているアルマを呼び寄せる。広い湯船を軽く泳いでくると、その胸の大きなものが嫌でも強調されてくるのが見える上に、隠さずにそれを寄せる様に正面から近づいて来た。でけぇ、挟むどころか隠れるぐらいあるんじゃないかこれ。
―――流石ロリ巨乳角種族……!
世界観が違う事を考えつつ、正面からやって来たアルマがその胸を、此方の胸板に押し付けて来た。これは大変宜しくない。色んな意味で。だけどいきなりがっつくのも男として正直、どうかと思う。だからぼーっとしているアルマを掴むと、そのまま反対側へと向けて、此方が開いた股の間に座らせながら、その長い髪を掴んだ。
普通、女は風呂に入る時髪を全部アップに結うらしい。
風呂に入っている間は別に良いらしいが、出た後水気を吸い込み過ぎた髪の毛が体に張り付き、それが気持ち悪いらしい。後、風呂に入っている間に上げてタオルを巻いておけば、その間に髪の毛から水気をだいぶ抜けるという事もあるらしい。
「何をしているんだ?」
「風呂から上がった時に髪が濡れてたら気持ち悪いだろう? だから濡れないように上げておくんだよ」
「その心配をする必要はないぞ。ほら」
そういうとアルマは髪に何かをしたのか、触れてみればそれが全く濡れていないのが解った。任意で汚れないし、そして水気も抜ける。体のコンディションは自由に整えられるのだろう。
……じゃあなんでマシュマロで死んだんだあのツンデレクソトカゲ。
もしかして古龍マジックに脳味噌回らない程爆笑してたのかアイツ。だとしたら相当大爆笑してたのか、或いは自分の想定を飛び越えられた事がそれだけ嬉しかったのか、そういうレベルで笑っていたんだろうなぁ……。
「本当に不思議な生態をしているなぁ、お前らは」
「そうか? 私としてはお前の方が不思議に満ちている」
此方に背を押し付ける様に寄り掛かって来ながら、少しだけ此方に振り向きながら、アルマが口を開く。その体温を直に感じる。なんというか……予想よりも、その体は冷たく感じられた。だけどその中には、じんわりとした熱も感じられる。その不思議な体温に、言葉にはしづらい心地よさを感じる。
「その脆弱な肉体で、良くもここまで生き残れたものだ。私はそれが不思議でならない。私と比べれば本当に脆く、そして何もできない肉体なのに……こうやって触れると、すごく頼りになるように感じられる。それが……私は不思議ではならない」
更に身を寄せる様に密着してくる。小ぶりな尻が股間に密着するのを感じ、悪い刺激を感じる。だがそれを考慮する事もなく、両手を取ったアルマはそれを自分の手に、抱かせるように回す。
「こうやって抱かれると、何よりもの安心感を覚える」
「寧ろ俺としてはそこまでお前が気を許している事に驚きだけどな」
「私でも不思議だ。だが気付いたらずっとお前を追いかけていた。お前の姿をずっと視線で追いかけていた」
ストーカーかな? と茶化そうと思ったが、雰囲気的に止めた。茶化すような雰囲気でもないし、ちらりと横から見えるアルマの表情は、恋する乙女の様なものをしていたからだ。
……まぁ、数千年単位で人との交流がなかったのだ。
飢えていたのだろう、誰かとの繋がりに。そしてそれを生き残れたのが俺であり―――彼女に言葉を伝えられたのも俺だけだった。
だから、ある意味必然とも言える結果だった。
ドラゴンメイカーとの事もある、責任は取るべきだろう。
「ま、俺に惚れさせた責任は取るから心配するな」
「本当か?」
「おうよ」
「信じていいのだな?」
「勿論よ」
「そうか」
嬉しそうな声が聞こえた。大人ではあるが、少女だ。知識と記憶だけを与えられ、経験というものが存在しない。だからその言動や発想は大人びていて、だが仕草や反応が少女染みている。
その内面の歪さが、外見に影響しているのだろう。まだ幼い子供の背丈でありながら、アンバランスな発育をしている。その歪みが、こうやって密着していると肌の感触で伝わってくる。肌の冷たさと柔らかさ、その心地よさに姿から来る背徳感というエッセンスが乗り―――実に、そそらせる。
小ぶりな尻に圧迫、挟まれている様な形の逸物が力を持ち始めるのが解る。少しずつ硬度を増して行き、それが尻の下で持ち上がりながらアルマの肌に吸い付く。
「……」
「……」
それにお互い、無言になる。だが、それも数秒だけだった。少しだけもぞもぞと体を動かして来たアルマが、股の間に逸物を通す様に体を動かして来た。少しだけ体を持ち上げる様に密着し、
「交尾、したい……のだろう? うむ、雄はこうなると知っているぞ」
そう言いながら、逸物を掴んできた。そしてそれを自分の秘部へと導く様に腰を浮かばせて向けた。これから何をしようとするのかを即座に察し、その腰を押さえて動きを止める。
「待て待て待て! 待て!」
「ん? 番いの交尾はこうするのではないのか? 竜共がこうやって交尾していた筈だが」
「情緒もクソもない!!」
しまった、本質的に別生物であるという事を完全に忘れていた。見た目はそうだけど中身は別物だよね! そうだよね!
うん……。
少しだけ残念に思いながら腰を少しだけずらす様に下ろして、膝の上で抱える様に支える。体が軽いからか、或いは湯船の中だからか、体は簡単に支えられる。その状態のまま、ちょっと待て、と言葉をかける。
「俺も女性経験がある訳じゃないけど流石にこれはない」
「ないのか」
「うん」
「ないのかー……」
しょんぼり、とするアルマの表情を見て、苦笑する。だからという代わりに、彼女を抱く腕を伸ばし、それを彼女の豊満な胸に合わせ、掴んだ。掌に乳首の感触を感じ取り、指で掴む胸の感触に、指先が沈んで行く。ありえないぐらいの肌触りの良さと、心地よさに、これ、溺れそう……と思いつつも、男としてのプライドを保つ為にも、言葉を彼女に届ける。
「人には人の交尾の作法があるのさ」
「そうなのか?」
「そうなの」
「そうか」
じゃあ、とアルマが完全に体から力を抜いて、此方に身を預けて来る。
「……私に人の交尾の作法をお前が教えてくれ」
女性経験皆無、知識はネット経由で継ぎはぎ―――それでも女に恥をかかせる事は出来ない。
だから彼女の体に獣ではない、人の交尾という物を教える。
青空の色を知っている、だがそれは思ったよりも青かった。
無知無垢……良い……とても良い……。知識だけで知っているのは見た事のある、獣や竜の交尾だけ。つまり人間のセックス文化というものは全くご存知ではない。教えて染められる状況……良い、とても良い。
次回予告とかこの流れでいる???