ラ・ロ。
それは様々な骨格の竜の動きを取り入れ、戦う事で有名な竜だった。一番最初に覇種という領域を生み出し、そしてそれを超える至天の領域にまで上り詰めた。究極の破壊王、その一角だった。あらゆる攻撃を行うその動きはその知性を示し、正確に、そして容赦なくハンターを殺し尽くす特殊な竜。狩猟が進んでもなお、ラ・ロの正体を完全に理解する事は不可能に近い。故にその通り名はシンプルに、
《UNKNOWN》。正体不明。その言葉に尽きた。
多種多様の動きで相手を追い詰めながら、最終的に他の生物には真似出来ない独自の領域に到達し、それを通して完全に相手を喰らい殺す漆黒の不明種。それはリオレイアと同じ骨格をしているだけであって、リオレイアと同質の存在であることはあり得ない。飛竜種だとはそれに似ている姿をしているからそう分類されているだけであって、飛竜種ですらない。古龍でもない。
刻竜。これと並ぶ竜はもう一種のUNKNOWNと合わせて、二体だけになる。凶悪にして死しても不明。状態変化を多用しながら地獄を見せてくる、環境すら破壊していく漆黒の化け物。それが至天に登場するラ・ロという竜だ。
端的に言えば化け物。ゲームシステム的には回避できる攻撃を持っているからまだいい。だが無敵も、ガード可能という概念も崩されリアル化されているこの世界では、ラ・ロの攻撃に救いなんてものは存在しない。
オーラ爆破、大地粉砕、回転掃射、超滑空。その全てが無敵時間、というシステム的な概念を利用しなくては生き延びれないような破壊力を持つ動きばかりだ。これがラ・ロという存在が本気を出した時のデフォルトだと言っても良い。逃げ場のない、必殺攻撃の超連続攻撃。全方向へと向けて攻撃し続ける怒涛の爆撃。そうやって、無敵に頼った回避能力でもないと一瞬で体力を奪って行くのがこの竜だ。
その思想は《刻帝》にも間違いなく受け継がれていた。
肉体そのものを変異させるのは様々な骨格の竜を再現するラ・ロの可能性を拡大させた形だ。骨格そのものを変質させる事で全く違う姿や能力を見せる事でパターンハメを阻止する。常に新鮮な動きと概念で相手を殺す為だ。砂嵐は防御と攻撃を同時に行う結界であり、生物は踏み入った瞬間に千切れる。その上で再生能力によって疑似的に死から蘇る事さえする。環境を元に戻す力を持ち、総合的に人類という生物で戦うことは不可能と呼べるスペックをしているだろう。飛行船? 撃竜槍? G級ハンター? その全てが馬鹿々々しい。そんな小細工が通じないからこそ絶対凶者と呼ばれるのだ。人類による駆逐の可能性を乗り越えたからこその《絶》の名を抱くに相応しいだけの性能を見せるのだ。
だが、このラ・ロはミラバルカンの到来によって、自分の破滅を一瞬で悟った。
この絶望的な状況に、ラ・ロが取った選択肢は簡単だった。
本気を出し、限界を超えて覚醒する。今よりも強い自分に、更に強く、勝てる領域まで自分の命をチップに覚醒して強くなる。それだけがラ・ロに残された生存の道であり、そして同時にラ・ロの答えだった。
故に、一瞬で最終形態と呼ばれる、オーラを纏った状態にラ・ロは突入した。爪や棘を赤く染めた状態から―――それが一気に色素を失った。ラ・ロそのものの姿が色を失ったような白と黒、モノクロの色に染まり、煉獄の様な色をしていたオーラが無色、しかし空間を侵食し、歪める様な色をし始めた。
一瞬の変貌だった。周りの空間さえ呑み込んで侵食する変化。一秒さえもそこにはかからなかった。生存戦略。ラ・ロの行った事だった。
そこに―――グラジオラスの姿は刹那を切り裂いて既に飛び込んでいた。
「殺し損ねたかッ!」
目の前には
馬鹿に出来ない相手だ。
ミラバルカンを前にしたら
その視線はもはやミラバルカンではなく、此方を捉えていた。
「その目、俺の剣を警戒しているって目だな。俺がお前らの動きを警戒するのと同じような目をしてる。紙一重で見極めて、絶対に当たらない様にするって決めている時の目だ」
見切りに入る為の目だ。此方の剣を見られて生き延びられたのは辛い。まぁ、呼吸と線、その結び方を変えればパターンは無限に変えられる。その為だけにひたすら基礎しかやってこなかったのだから、見切られるのはまずないと思う。
それよりも貴重だったのは敵の覚醒の瞬間だ。
しっかりと、それを見て確認させて貰った。その予兆、時間、意識の空白と変化の瞬間。その間に存在する確かな隙。
……次、
自分の中に仕損じた恥と、そして成長への一歩を感じながら、ゆらりと剣を下ろした。そのまま、此方を警戒するラ・ロへと向けて―――瞬間的に跳躍する様に加速した。踏み出す体は異常に軽く、軽やかに感じられる。まるで《白疾風》になったかのような体の軽やかさだった。精神世界で彼の背中に乗った瞬間を思い出す。まるで体が羽になったような軽さと、リオレウスを思い出す力強い加速で、一気に速度を最高速度へと乗せて、障害物、足場関係なく一気にラ・ロへと飛び込んだ。
その速度を見切られた。飛び込みに合わせてカウンターにサマーソルトとバックブレスに爆炎放射を同時に行い、サマーソルトの動きで砂を巻き込む様にそれをショットガンの礫として放たれた。複数の動作を同時に組み合わせた、隙の無いコンビネーションアタックは、此方を絶対に殺すという意思を兼ね備えた動きだった。
だがそれで死ぬわけにはいかない。
突き出される尻尾の先端を斬り、
斬り飛んだ尻尾を足場に跳躍、砂のショットガンが届くよりも早く体を飛ばし、最小限の面積で、砂を服で受けながら、爆炎放射とブレスを同時に割き、その隙間に一気に体をねじり込んだ。再びラ・ロの正面に体を叩き込みつつ、剣を振るう為に音を殺す速度でラ・ロへと刃を到達させる。
だがそれが届く前にラ・ロの体が空に舞い上がった。サマーソルトの動きで斬り落とされた尻尾は既に再生しており、回転する様に浮かび上がりながら極太の熱線ビームを上へと向かって放っており、回転しながら下から薙ぎ払おうとするのが見える。流石に熱線は斬り払えねぇわ、と回避の動きを作ろうとする瞬間、
轟くようなミラバルカンの声がラ・ロの飛翔という概念を焼き払った。浮かび上がった筈のラ・ロの姿を一瞬で砂の地面にまで陥没させ、サマーソルト途中だったその姿を顔面から砂の中へと叩き込んだ。飛び上がられたらかなり厄介な事になっていたので、ミラバルカンの援護は実際、助かった。
空中で剣を蹴って急転換しつつ着地し、ジンオウグローブの磁力で足場にして蹴った剣を引き寄せて手に取り、武器を即座に回収する様に立って、砂の中に叩き込まれたラ・ロを追う。
だが砂に叩きつけられた勢いのまま、ラ・ロの姿は一気に砂漠の下へと潜った。
「角竜の生態を喰らって覚えたのか」
砂の下で気配が膨れ上がり、大地が震動するのを感じる。空を見上げれば、ミラバルカンが見下ろしているのが解る。
「ガチンコ漁って知ってる?」
『いいだろう、派手に釣り出してやろう』
言葉と共に空から槍の様な石柱が落ちて来た―――いや、隕石だがその全てがマグマに覆われた、溶岩柱だった。溶岩の癖に岩の様に形を保って固まっている、という不思議な状況だった。
そこに、寸分の狂いもなく、杭をハンマーで叩き込む様に、同じものをミラバルカンが落として叩き込んだ。マグマの杭がそのまま砂漠の内側へと叩き込まれ、それが衝撃となって足の下で爆発を下の方向へと向けながら、大地を軽くウェーブさせるように揺らした。
そしてその衝撃によって
白、黒、そして白と黒の混ざり合ったラ・ロ。それが三方向から同時に出現した。全てに同じ様な気配、生命力、竜気、殺意、悪意を感じられる。
「分身とかバグ染みた技はちょっと卑怯じゃないかなぁ?」
言葉を口にするのと同時に空間から色素が奪われて行く。段々とホワイトアウトする様に全てが白く染まって行き、視界が全て、白く変調した。空を見上げればミラバルカンの姿も見えなくなり、
完全に白く染まった空間の中で、赤い瞳が二対、此方を睨みながら高速で移動していた。瞬きをする度にその姿が完全に消失し、姿が捉えられなくなる。これがフロンティア産暗黒滑空の進化系か、と思っていると地形すらどこか、足元で融けて行くような感じさえする。
空間を侵食しつつ不可視の超滑空攻撃を放つ、という感じか、と認識する。
「まぁ、生きてるなら斬れるか」
殺意、悪意、気配、その全てを消し去っても、存在そのものを消せる訳ではない。呼吸を、相手の動きと性格からその動きを先読み、その動きに合わせる様に踏み込み、前のめりに倒れ込む様に斬撃を左から右へと、一気に振り抜いた。
そこにありえない程の速度を乗せた体が飛び込んだ。
それを上下に斬り落として即死させながら、背後で衝突音を聞き、続けて出現する第二の滑空攻撃を横へと体を転がしながら剣を振るう。白い不可視の姿が襲い掛かってくるが、その姿を見極めて目から刃を通す様に、脳の上半分を斬り飛ばす様に死を意識させずに即死させた。
二体目のラ・ロを殺した。
だがその動きは不用心だと説明できる。必殺の、勢いが残った一撃とはいえ、それでいきなり接近してくるのは死を選ぶやり方だ。少なくとも近接で負ける気配はない相手に接近を選ぶことはまずありえない。
となると、
―――囮だな?
自覚するのと同時に、吸い込まれる様にホワイトアウトされた世界が一つの方向へと向かって食い尽くされた。視線を向ければ、膨張したラ・ロの口元に先ほどまでの不安定で全てが融けたような白い世界が食い尽くされ、それが炎と混じりながら吐き出される寸前にまで圧縮されていた。
回避は間に合わない。故に素早く、背に装着していた最後の武装を引き抜いた。
「吠えろ
絶種ライフルの照準を雑にラ・ロへと向けるのと同時に、ラ・ロの口から時の咆哮が放たれた。意識するよりも早く、体が引き金を引いた。
左腕が千切れそうな衝撃を感じた。
「がっ、ぐっ」
凄まじい衝撃と共に《斬虐》の咆哮が銃口から放たれ、聞こえた。不可知の風の斬弾は一瞬で時の咆哮と衝突し、その言葉の通り、衝突と同時に爆裂する様に一気に解放された。暴風斬撃と時の咆哮が衝突と同時に互いを喰らいあいながら殺し合って行く。これが普通の特殊な銃機構であればあっさりと此方が負けただろうが、
あの工房長猫、一発限定ではあるが
イカレてやがる。
納得の反動だった。左肩が軽く脱臼した様な感覚を得るが、それを無理やりはめ込みながら銃を背負い直した。咆哮と咆哮が喰らい合う様にぶつかり合った結果、中間点で大爆発を起こしながら、時の粒子が光の欠片の様に降り注ぎながら砂漠を黒と白に染めて行く。
ぐにゃり、と空間が歪みながら時間に亀裂が走る。
前へと踏み出すラ・ロが横へと10メートル程、ズレていた。じじじ、と音を立ててテレビで見た、あの白黒の砂嵐が視界を覆って行く。本物の砂嵐ではなく、脳に直接叩き込まれる様なノイズだ。これは無視できる。
だが瞬きをするたびにラ・ロの居場所がランダムに切り替わっている。
テレビのチャンネルを切り替える様に場面が変わっているのだ。瞳を開けていてもいきなり視界が切り替わる。動き出してもそれが変化する。その度にラ・ロとの距離が縮まり、距離感覚が狂って行く。第六感が完全に潰されるのを知覚し、距離感覚が蹂躙されるのを感じる。成程、是は厄介だ。
「じゃあ頼む」
ミラバルカンに支援要請を行えば、即座に楽しそうな声と共に炎が舞った。それが一瞬で空間に満たされていたノイズを焼き払いながら、目の前まで時の壁の中に隠れて進軍していたラ・ロの姿を炙り出した。距離感覚が狂っている間に殺す気だったのか、と即座に回避動作を生みながらラ・ロの翼撃を回避しながら足場にし、翼の爪を切り飛ばしながら斬り飛ばしたそれを二段階目の足場にして、地面への着地を回避する。
直後、バックステップブレスによって地面が炎によって薙ぎ払われ、炎の道が着地するべき場所に出来ていた。
『手を貸すか?』
「冗談……丁度楽しくなってきた所だ」
足場から跳躍して無事な大地へと着地しつつ、ラ・ロが側面へと滑り込む様に大地を引き裂きながら飛び込むのが見える。一瞬とも見える速度は間違いなく、ありえない不自然な加速を伴った動きだった。此方が振り向くよりもその動きは速い。
先手を奪われた。
時間加速による神速の薙ぎ払いが放たれるのを、片足を立たせたまま、膝で体を曲げて、片足で支える様に体をほぼフラットに倒しつつ、体の上を攻撃が抜けて行く様に回避する。そしてその終わり部分に、
足を引っかけた。
振り抜かれた動きに体が引きずられ、そして振り抜いた動作に慣性が体に乗り、そのまま上へと向かって引き揚げられた。ラ・ロが対処するよりも早く、意識するよりも早く、翼に引っ掛けた体からそのまま一気に体を掴んで登り、
その背の上に乗った。
「お前らの攻撃はさ、
《斬虐》も《刻帝》も、攻撃を行う時は全て
どんな究極の武芸を習得しても、範囲を薙ぎ払う炎砲には勝てない。
今回はそれをミラバルカンで封じ込めたからこそどうにかなっているが、そうでなければ勝機さえ存在しなかっただろう。だからラ・ロの取った動きは実は正しい。だがそれは同時に、必殺し続けるという動きでもある。
全てが必殺であるという事は全てが即死攻撃。そこには無駄な要素はなく、綺麗に最適化された、最短で最速で殺す動きだ。
それが、恐ろしい程に読みやすい。だから近接戦に入り込んだ瞬間、
斬殺が確定する。
時と炎を纏おうとするがそれよりも早く首の裏を断って意識を遮断する。それによってモーションの全てをキャンセルし、次の流れで動く為の翼を斬り飛ばした。逆再生の始まるラ・ロが再び巻き戻りながら蘇るのを前に、
斬殺を続ける。
時間が巻き戻る中で足を斬り落としながら繋がる翼を両断して、取り戻す意識を遮断する様に脳味噌を切り抜いて飛ばす。そのまま下顎を斬り落としながら首を削ぎ落して翼を再び斬りながら再生していた足を纏めて斬り落とす。
再生する。
それよりも早く斬殺して、斬り飛ばす。
斬り飛ばした部位から睡蓮が生え、再生を阻害する。
「さぁ、死に続けるよりも早く蘇れるか? お前は」
ラ・ロの無限殺しと抵抗が始まる。
ブレスを吐くのを首を削いで停止する。此方の姿を捉えようとする目を抉り斬る。立ち上がろうとする足を斬り飛ばす。羽ばたいて逃げようとする翼を両断して封じる。砂を巻き上げて投げつけようとする尻尾を切断する。体を転がして潰そうとする動きを心臓を切り抜いて潰す。噛みつこうとする顔面を半分に斬り落とす。時間を巻き戻して自分を遠ざけようとする動きをミラバルカンが燃やして消し去る。
全ての動作を斬るか燃やす。
それを何十、何百と繰り返す。
ラ・ロが諦めない限り、それを繰り返し、繰り返し、繰り返して無限に殺し続ける。
やがて、その時を戻す力が限界点に到達し、二度と体の形を戻せなくなるその瞬間まで。そしてそうやって、ラ・ロの肉体が再生限界点へと到達した所で、
二体目の絶種の討伐が完了する。
溢れ出す返り血で真っ赤に世界を染め上げながら、空を見上げる。どれだけ赤く大地を染め上げても、それでも空は蒼く、それを支配するミラバルカンは仕事を果たした、とどこか楽しそうな気配を満たしていた。
これでまた、生物が―――一つ、楽園から消え去った。
死なない? なら死ぬまで殺せ。
大技のほとんどはミラバルカンが封印、おかげで残されたのは回避可能な即死技オンリー。これなら人類でも勝てるよ、やったね。なおマシュマロコボンノウトカゲがいなけりゃあ討伐不可能でした。なんだかんだで古龍最強格なんだよなぁ、アイツ。
覚醒するなら覚醒する瞬間を狙って殺すのだ。進化の瞬間でさえ殺せる間と認識する連中。
次回、春。残り2騎。