アタシはこの会社について思っていることを、一気にまくし立てた。
一息置いてから、さらに言葉を続ける。
「直近のバングラデシュの事件におきましては、多数の貧困層が犠牲になりました。同国内では暴動が発生し、同国政府も我が国政府に抗議するなど、国際問題に発展しております。かような情勢で、彼らを叙勲することを国内外に発表したら、我が国の国益に重大な悪影響をもたらすことは必至と思われます」
しかし、両陛下はあたしの発言を聞くと、みるみる不機嫌な表情になっていった。特に皇后陛下は、私の意見に我慢がならないのだろう。顔を真っ赤にしてこう言い放った。
「お黙りなさい、皇太孫!皇帝陛下のご判断に逆らうつもりか?」
皇后の剣幕に、私は一瞬だけ黙り込んだ。だがこの問題を見逃せば、我が国は、国際社会から不信感を持たれることになる。
「恐れながら皇后陛下。本件を黙って見逃すことは、『あの国の企業は、自分たちの儲けのためには手段を選ばない』我が国のまともな企業も、他国からそのように見られるのですよ。これは我が国にとって屈辱以外の何者ではありません」
「黙れ!後ろめたいことをやっていない企業がこの世に存在すると思っているのか?世間知らずにもほどがある!」
皇后は、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。
「陛下、世間知らずなのは皇后陛下の方です。この件は、すでにネットで広まっているし、海外のメディアも、本件の詳細を報道していて、まだおさまる気配を見せていない。こんな情勢で叙勲を発表したらどうなるのか、両陛下もご存じのはずです。どうしてもというのなら、少し動静が落ち着いてからでもいいではありませんか!」
アタシも、負けずに言い返す。だが両陛下は、あたしがなにを言っても聞く耳を持たず、今叙勲することに意味があるといって譲らない。アタシと皇后の口論は、とうとう罵り合いにまで発展した。
「二人とも、いい加減にせんか。皇太孫、お前がなにを言おうと、本件でお前の意見を受け入れるつもりはないからそう思うがよい」
皇帝陛下はうんざりとした表情をしながらいった。
「皇帝陛下、今彼らを叙勲することに何の意味があるのです?」
アタシも、仏頂面でこれに応じる。
「マルガレータ、お前今いくつだ?」
「はい陛下、来月で25になりますが、それが何か?」
なんで今さら、そんなことを聞かれるのか?孫の年もわからなくなるほど、ボケが進んでいるのかこの爺さんは?と思いながら、アタシは皇帝陛下を凝視する。
しばしの沈黙の後、皇帝陛下はコホン、と軽く咳払いをした後
「お前、いい加減身を固めたらどうだ?取っかえ引っかえ男を変えて、そのたびにマスコミが騒ぐもんだから、ワシは頭が痛いやら恥ずかしいやら」
アタシは両陛下に聞こえないよう、小さい声で「チッ」と舌打ちした。アタシは、今まで政治的なことについては黙って両陛下に従ってきた。だが今回咎められた事項は、明らかに私的な行動の範疇だ。20歳過ぎの女性が、恋愛についてあれやこれや他人に突っ込まれたくない。それが皇女の身分であっても。恋愛は自由だ。そう思ったアタシは、両陛下に視線を向ける。向こうがファーストネームで呼びかけるのだから、こちらも陛下という敬称は使わないぞ、と。
「お祖父様が、私のことを心配してくださっているのはよーくわかりましたわ。しかし、この分野であれやこれやいわれたくありません。恋愛は自由です。誰を選ぼうと、ワタクシの勝手ですわ。18世紀ロシア帝国のエカチェリーナ2世は、実の孫から『玉座の上の娼婦』といわれたそうですね」
アタシは目を細めて皇后をにらみつけた。
「現に、今もそう噂されている人がいるそうですが」
みるみる皇后の顔が赤くなる。どうやら、今も愛人をとっかえひっかえしているようだ。完全に目が泳いだ彼女は、皇帝陛下に助けを求めて視線を送った。
「こ、これはしたない。やめんかマルガレータ」
皇帝は、顔面蒼白の体で答えた。その様子から察するに、お祖父様もこの噂を耳にしているらしい。
しかし、お祖父様はなんで今になって私の年齢を尋ねたのか?裏で何があるのだろうと思っていたら、案の定だった。
「いや・・・まあ・・・その・・・マルガレータよ」
お祖父様はもじもじとしたした様子で
「じつはな、愛しいわが孫よ。明日の夕食会に、バルツァー家の一族を招待していて、な」
「お見合いみたいなモノよ」
と、お祖母様も言葉を継いだ。
「お前を、びっくりさせてやろうと思ってな、今まで黙っていたんだが」
なにそれ?そんなことは一言も聞いていないぞ。ふざけんな!私は怒りがこみ上げてきた。この二人、いったいなにを考えているんだ?
私は怒りをこらえつつ尋ねた。
「お祖父様、その話はいつからあったんです?」
しかし祖父は、その答えを曖昧にごまかした。
「まあいいじゃないかその話題は」
祖母も、しらっとした表情をしている。