彼女が、アタシの謝罪を受け入れず、かつての関係に戻ってしまったらどうしよう・・・呆然と彼女の前に佇んでいると、やっとエミリアは視線を私に向けた。その目からは涙が流れている。
「ねえ・・・マルガレータ・ハンナ・オクタヴィア・・・」
「なに?」
「私が両陛下に、好き好んで媚びを売っているとでも思っているの?」
「違うとでも?」
義妹は顔を真っ赤にして、私をにらみつけた。
「当たり前でしょ!」と私を怒鳴りつける。
「私が両陛下や廷臣たちに媚びを売るのは、ここで生き延び、あなたを守るためよ!それがどうしてわからないの!」
今度は、アタシが俯く番だ。だが彼女の怒りはおさまらない。
「小さい頃に可愛がってもらっていたからって、それがなに?、いい年こいて、いつまでもそのことでグチグチ言うのはやめて!私は、今はあなたの味方なの!あなたがこの国の玉座に座るためなら、私はどんなことだってやるわよ!」
そこまで一気に言うと、義妹はアタシを抱きしめた。
「大人になってよ、マルガレータ・ハンナ・オクタヴィア。あの一族が何かと問題を抱えてるのは、私だって重々承知よ。でもそれがなに?あなたがこれまでベッドを共にした男の中には、あの一族以上にあやしげなヤツだっていたじゃない!」
「う・・・」
そこまで言われると、アタシはなにも言えない。
はっきり言って、彼女も人に説教できるほど、男性関係では品行方正とはいえない。世間ではかなり乱脈な方だとみられているが、アタシも男関係ではそれ以上にメチャクチャなところがある。違いがあるとすれば、アタシが感情と欲望のまま男と関係するタイプだとしたら、彼女は狙いを持って、男に接近するタイプというべきか。
「あの一族と食事を共にするくらい何でもないでしょ?迫られたら、それを逆手にとればいいだけの話でしょ?『宮廷での男女関係は、強姦と妊娠と病気をうつされること以外は何でもあり』なんていっていたのに、今さらなに?」
「わかったよ。だからもう泣かないで」アタシはそう言いながら、涙でぐしゃぐしゃになった義妹の顔を、ハンカチで拭いてやる。
「あいつらとの食事会は参加することにするよ・・・それで、だ」
私はエミリアの顔を見つめた。
「あいつらの身元について、RSPAから何か有力な情報は掴んでいる?」
RSPAとは、帝室秘密平和情報局の略称だ。この国には複数の情報機関があるが、皇帝直轄の情報機関はここだけだ。表向きは皇室に反抗的な団体の監視が目的だが、その実態は市民団体やNGOなどと協力し、人種差別や反難民感情を煽る団体を監視する情報機関だ。クラウス=フォルクハルト3世が、宮廷内に内務省保安局、連邦情報局の人員を配置していたことは前にも話したが、RSPAはその時のメンバーが中心となって発足した機関である。
「うん、それはエグムントやフリーダたちが中心になって集めているんだけどさ」
コホン、と一回咳払いをしてから、エミリアは言葉を続ける。
「これだけ規模を大きい事業をしている会社の一族って、たいていはどこかでいがみ合っているもんなんだけどね・・・」
「一族の結束は固い、という認識でOKってこと?」
「それもあるんだけど、今の社長と二人の息子が社内にスパイ網を構築していて、そう簡単に造反者が出るような雰囲気はないらしい」むすっとした表情で、エミリアが応える。
「息子の経営能力については、何かわかる?」
「そこそこ能力はある。海外留学経験もあるしね。でも二人とも女癖は悪い。これまで何回も女性トラブルを起こしているけど、父の威光を借りて、スキャンダルをうやむやにしているみたい」
「まあいざとなれば、両陛下とその取り巻きがしゃしゃり出るんだろうしね」
「でも、この一族の交友関係はいろいろとまずい」
「マフィアと付き合っているとでも?」
「その噂は絶えない。確たる証拠がないから『噂』で止まっているけどね」
「社交界での評判は?」アタシが突っ込む。
「経済界もそうなんだけど・・・もう最悪。特に食事やパーティーのマナーがなっていないって・・・」
「叩けば叩くほどホコリが出そうな一族って認識でOK?」
「その認識で間違いないとおもう・・・」ため息をつきながら、エミリアが答える。
「わかった、こちらでもいろいろ探ってみるから、あなたもよろしくね」私が言うと
「オッケー。こちらも、他のチャンネルをあたってみるね」と、義妹が応じた。
その夜、自室でこの一族について調べてみたアタシは、エルヴィラに電話をかけた。彼女もRSPAの幹部だ。どの程度この一族の情報を掴んでいるのか、確認したかったのだ。
「ハァハァ・・・ハンナ・・・いったい何の用?」
どうやらアタシは、彼女の情事のまっ最中に電話をしたらしい。彼女が誰と寝ようと当人の勝手だが・・・相手は誰か気になるんだよな。