※この作品はR-18です。

Naked Desire〜姫君たちの野望   作:右野向左衛門

16 / 76
#14

「エルヴィラ殿下。これが明日の枢密院における会議での議題の一つである、叙勲候補者であるレーベンスミッテルゲシェフト・ゲゼルシャフト・グループ総帥であるマックス・エルヴィン・バルツァー会長一族に関する資料です」

私の執務室の机に、恭しい物腰で分厚い資料を差し出した人物は、神聖ユーベル=プレアガーツ連邦帝国枢密院書記官長・マルティン・ルーサー・アダルベルトである。枢密院の最高権力者は宮内省大臣だが、実務面で大臣を支えるのは枢密院書記官長だ。そして彼は、帝室秘密平和情報局(RSPA)の局長でもある。

「ありがとうございます。早速拝見いたしますわ」

私は分厚い資料を手に机の椅子から立ち上がると、執務室内のソファに腰掛ける。

「長官もおかけになって。フリーダとエグムントもお疲れ様。坐って」

「はい殿下」アダルベルト長官、フリーダ・ポボルスキー、とエグムント・シュテファン・パトリック・フォン・クラルヴァインも、長官と同じタイミングで執務室のソファに座る。

「あなたも座ってね、キャサリン」私は執務室のドアの近くに立つ彼女に声をかけたが

「いえ、殿下に何かあったら困ります。私はここにいます」と、これを固辞する。

「この部屋の存在は、誰も知らないわ」私は返答するも

「殿下、この世界に『絶対』という概念は存在しませんから」といって応じない。彼女は基本的に言い出したら聞かない性格だ。

私は分厚い資料をのページをめくりながら

(今頃皇太孫殿下も、この資料を目にしているのだろうか)と心の中でつぶやく。

今私たちが集まっている執務室は、私専用の執務室ではない。RSPAの会合で使うための部屋だが、その場所を知っているメンバーはごく少数に限られる。私がRSPAの幹部である事は妹もオルガも承知しているが、この執務室の場所は教えていない。機密保持が最大の理由だが、この二人に危ない目に遭ってほしくないというのも理由の一つである。

フリーダとエグムントの二人は、RSPAの幹部である。平素は別に仕事を持っているため、周囲はこの二人がRSPAのメンバーである事は知らない。そして、私とこの二人の付き合いはそれなりに長い。フリーダとは、小学校時代からの付き合いであり、私の親友だ。

「殿下、この一族はいろいろとヤバイ知り合いが多いですね」

しかめっ面で私に話しかけたのはフリーダだ。

「そうだね・・・こんなヤツに爵位を授けたら、国内外から非難の声が殺到するだろうね。ああ怖ろしい・・・」ぶつくさ言いながら、エグムントも資料のページをめくる。

「皇帝陛下・・・本気でこんなヤツを叙爵するつもり?」

こめかみに手を当てながら、私も低い声でうなる。

しばらくの間、この部屋には息づかいと、ページをめくる音が響いた。

「ハーッ」ため息をつくフリーダの顔は、すでに真っ赤だ。

「とことん腐っているなあ・・・なんなんだこいつら。あの皇帝は、こんな連中を叙爵しようというのか」

私も資料を読み進むにつれて、理性がだんだん壊れていくのを感じた。

「いったいなんなのよ、この会社は・・・」

そう言いながら、私の視線はキャサリンが立つ方向に向いていた。

彼女は相変わらず無言のまま、ドアの近くに立って窓を見据えている。もちろん、何かがあった時の用心に備えてである。因みにこの資料は、彼女の分もとりあえず用意してある。後で目を通してもらうつもりで用意したのだが、本当の目的はそこではない。まあその話は、後でおいおい話すとしようか。

この会社の悪評は、私も以前から気になっていた。バングラデシュでの不祥事をろくに取り上げないメディアの姿勢には、私もかねてから憤りを感じていた。

しかし今目にしている報告書には、それ以上の悪事が記載されていたのである。

旧イエメンにある工場では、女性従業員に対する集団レイプ疑惑。

インド国内では、牛を神聖視するヒンズー教徒に牛肉を使った給食を、豚を不浄なものとするイスラム教徒に、豚肉を使った給食を提供した疑惑。

さらにアフリカ連邦にある工場では、地方政府を資金力で籠絡し、行政をほしいままにしていること、地域の有力者を接待攻めにし、彼らを通じて会社の意向を反映させていること、労使紛争を起こし、労組のリーダー(男性)を集団でレイプしたこと、さらには労組を御用組合化させ、労働基準法を無視して社員を酷使していることなど、我が国では怖ろしくてやれないようなことを平然と行っていることが記されていた。

しかし、この会社がこれだけの問題を起こしても平然としていられるのは、その経営形態にある。この会社は多数の関連会社を保有し、それらの頂点として君臨するのが、グループ会社の本社機能を持つ「持ち株会社」である。グループの経営方針は持ち株会社が決定し、各グループ会社はその方針を忠実に実行する。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。