アレクシア元皇女殿下は、皇女であらせられる時から、両陛下とは仲が悪かった。両陛下は皇子たちには甘く、皇女たちには大変厳しい態度で接してきた。小さい頃から才気煥発だった皇女殿下は両親と衝突を繰り返し、そのたびにメディアは好き勝手なことを書き立てた。それらの記事は皇女殿下に不利なものが多く、そのたびに元皇女殿下は深く傷ついた。将来の進路も結婚相手も、元皇女殿下はご自身で決められた。そのこともあり、両陛下は彼女を、勘当同然の形で宮殿から追い出した。
現在の元皇女殿下は両陛下とはほぼ没交渉だが、皇太孫や私たちとは、現在も人目を忍んで、私たちとお目にかかる機会を作っていただいている。そこで私たちは現在の宮廷の事情を事細かく報告し、元皇女殿下も、メディア界の動静を私たちに伝えてくださっている。「元皇女殿下と、連絡取れる?」フリーダが私に聞いた。
「うん、先日もメールが来ていたから、そのことについて相談してみるね」と私は答えた。
「元殿下は、本件のことは知っているのかな?」エグムントが尋ねる。
「私は、このことについてはまだ伝えていない。でも殿下は人脈が広いから、おおよそのことは知っていると思う」
「元皇女殿下とはいえ、今は降嫁された身です。あまりご実家のゴタゴタに巻き込むのは、個人的にどうかと思いますが」思案顔で、フリーダが口を挟む。
「そうね、とりあえずはパルツァー一族について、何か知っているかを尋ねる程度にしておこうかな。向こうが聞いてきたら、後日改めて相談するとしようか」と、私はいった。
会合はその後、パルツァー会長の一族、特に息子二人についての案件になった。
この会社を現在の規模に拡大したのは、現会長の父である。その人は中位中流階級に属していたが、自分の能力で上流階級にステップアップした。そして現会長も事業を発展させたのだから、その能力は先代に引けをとらない。だが問題は、彼らの2人の息子だ。
現会長が所属する階層の人たちは、ほぼ全員が子弟をグランゼコール、または国立総合アカデミー(以下RBS)に入れたがる。我が国は大学まで授業料が無料だが、一般大学卒では、条件のいい仕事に就けないのが現状だ。特に国家公務員のキャリア官僚や世界規模で事業を展開している企業は、グランゼコールを卒業していないと入社・入省もできない。奇跡的に入社・入省試験に合格しても、グランゼコール出身者からは屈辱的な扱いを受けるのは目に見えている。もちろん出世も望めないし、定年退職まで会社に在籍できる保証もない。
キャリア官僚でも宮内省とその関連部局を希望する人は、宮廷行政学院を経て、高等宮廷行政学院を卒業した学生でないと、受験資格すらもらえない。もちろん宮内省にも高卒で入省し、その後キャリアを積んで幹部クラスになる職員もいるが、彼らは働きながら宮廷行政学院や高等宮廷行政学院に通い、卒業した人たちだ。アダルベルト長官もその一人だ。
グランゼコールを受けるためには、高校を卒業した後、エリート養成機関学校である「グランゼコール準備級(以下「準備級」)」といわれる学校に、2年間通う必要がある。この学校は進級・卒業の条件が大変厳しく、学生は入学式翌日から過酷な量の課題と格闘する日々を送る。それでも1年生から2年生進級時に入学者の半分、さらに卒業試験でその半分が不合格になる。進級試験、卒業試験を受けられるのは2回までだから、どちらも失敗した学生は、その時点で一般大学に進むしかない。逆に卒業試験をパスした学生は、希望するグランゼコールにほぼ無条件で進学できるが、高等士官学校など個別試験を課す学校もある。
RBSは、「準備級」を経由しないでグランゼコールに進学できる、国内唯一の教育機関である。もっとも「準備級」に行かないですむだけで、その教育内容は、下手な「準備級」よりも厳しく、落第したり退学する生徒も多いのは事実だ。
RBSは国内に120校ほど設置されているが、合格すればある程度の立身栄達が確約される。そのため毎年入試は熾烈を極め、難易度も高い。特に首都プレアガーツに設置され、私たち皇族や大貴族、大企業の子弟が大勢通う「本校」は、入試倍率が30倍以上という超難関である。しかしそれ以外のRBSの入試倍率はさほど高くなく、学校によっては入りやすい課程もある。そしてそこは、こういっては悪いが地方のRBSは
「さほど頭はよくないけど、とりあえずグランゼコールに入りたい」と思っている生徒と、「うちの子どもは出来は悪いが、グランゼコールには行かせたい。RBSの地方校に入れれば将来は安泰だろう」と考えている親の巣窟になっている。だが地方校に通う生徒とその親はほとんど真面目な生徒であり、勉強にも一生懸命取り組んでいる。都会の進学校で落ちこぼれ、地方のRBSに転入したら成績がよくなった生徒も多い。