また地方のRBSには個性的だが、いわゆる「都会のエリート校で落ちこぼれた生徒」の再生に秀でた教員が多い。地方のRBSは小規模校が多く、生徒・父兄と教員の関係も近い。地方のRBSには、大企業創業者や大貴族の落ちこぼれの子弟も多数在籍している。だからバルツァー会長も、その気になれば息子たちをそちらに進学させることもできたはずだ。それにRBS本校には、明らかにコネ入学と思われる生徒も多く、バルツァー会長の政治力を持ってすれば、簡単にできただろう。しかしバルツァー会長は、そうしなかった。
彼の2人の息子は、普通に学区内の普通高校に進学し、一般大学を卒業して父の会社に入った。海外の大学に、留学経験はあるらしいが詳細不明。父の会社の管理職は、ほとんどがグランゼコールを卒業しているが、この兄弟はそこにも行っていない。親のポリシーでそうなったのか、それともどうしようもなく出来が悪ったのか。
彼らの交流関係も、気になることばかりだ。大卒なのに、二人とも友だちらしい友だちはほとんどいないという。パーティーは好きだが、連れて行くのはほとんどが会社関係の人間。そして二人揃ってオンナ好き。タイプの女性には片っ端から口説く。相手が人妻だろうが彼氏持ちだろうがお構いなし。金遣いも荒い。食事のマナーも悪い、酔うと人格が変わる、等々。
「こいつら、人間のクズだな」エグムントが顔をしかめる。
「最低の男!」舌打ちしながらつぶやいたフリーダの表情は、目が据わっている。
「こういう人間が後継者なのだから、会長も大変でしょうなあ」ため息交じりに、長官がつぶやく。
「知り合いに、彼らと付き合いのある人間はいる?」
私の質問に、フリーダとエグムントは、即座にかぶりを振った。キャサリンに視線を向けると、私は彼女が何かいいたげな表情を浮かべていることに気がついた。キャサリンは、あの二人について我々が知らないことを知っている。だがそれは、ここでいうべき事じゃない。この会合が終わったら、二人きりでじっくり話し合うべきことなのだ。
「私の知り合いにも、彼らと付き合いのある者はおりません。お役に立てなくて申し訳ありません、殿下」長官はすまなさそうな表情を浮かべた。
「かまいませんわ。あの二人の交流関係については、今後も調べてみましょう」
私は、彼らに言葉をかけると、みんなは静かに頷いた。そして夕方近くまで、資料の検討を続けた。
一通り資料を閲覧し、意見交換や対策を練っているウチに、時計の針は17時をまわっていた。私以外の3人は、それぞれ他に仕事を抱えている。これ以上本件で彼らの手を煩わせるのは、私の本意ではない。
「みんな、今日はありがとう。とりあえず今日はここまでにしましょう。何か気がついたことがあったら、後で連絡してくださいね」
私がそう宣言すると、フリーダ、エグムント、そしてアダルベルト長官は、口々に「お疲れ様でした、殿下」といい、恭しくお辞儀して部屋を出て行った。
私は資料をカバンにしまい込むと、周囲に誰もいないのを確認し、キャサリンと一緒に部屋を出た。
「キャシー、今日の任務ご苦労様。あなたのおかげで助かったわ。あの時あなたが、私の口に薬を入れてくれなかったら、今日の秘密会合の一件は、あちこちに知られていたかも知れないね」
キャサリンに感謝の念をこめながら、私は彼女に話しかけた。キャサリンは周囲を見渡し、私たち以外に誰もいないことを確かめると、視線を私に向ける。
「マリナ、あまりムリをするな。何もかも自分で抱え込もうとしないで、少しは周囲の人間を信頼しろ」キャサリンは表情を変えず、私に話しかける。しかし、私は彼女の言葉には無言を貫く。
「お前さあ…」呆れたような表情を浮かべながら、キャシーが私に問い詰める。
「人がせっかく忠告しているのに、黙っているなんて失礼じゃないか?」
「……」
ふ──っ…と、キャシーは長いため息をついた。
「アンタと話していると、時々虚しくなることがあるよ。なにをいっても暖簾に腕押しでさ。表情だって変わらないことが多いし。人の話をちゃんと聞いているのか?って、いつも思ってるんだよ」
「うん…」
「人と会話するのって、そんなにイヤ?」キャシーが、私の顔をのぞき込む。
「それもあるけどさ…」ぼそぼそと、私は彼女に返答する。
「仕事だから心配しているの?それとも、先輩として、友人として?」
私がそう答えた瞬間、彼女は顔を真っ赤にして、目を細めてきた。
「それ、どういう意味?」キャシーの声は爆発寸前だ。
しまった。またやっちゃった…。でも、こればかりは性格だから理解してもらいたいと思っていたが、彼女はそうはとらなかったらしい。
「どうしてあなたは毎度毎度、人が心配しているそばから相手を傷つけるような態度をとるの!そんなに他人が信頼できない?」