なるほど、NGOがこれらの企業をあまり悪くいわないのは、そういう事情があったからなのかと、私はため息をついた。
そりゃそうだろうな、関係者にとっては大事なスポンサー様なのだから、悪くいえるわけがない。でも幹部はともかく、一般会員はその事実を承知の上で会員になったり、活動を支援しているのだろうか。
「さすがに人権、メディア、教育の分野の団体は、彼らのことを嫌っています。会社サイドも、彼らのことを目障りに思っている。でも自然エネルギー業界って、会社設立の経緯から、環境団体と密接な関係を築いているので、環境系のNGOは、これらの業界の体質については、見て見ぬ振りをしているんですよ」
私は、すかさず質問する。
「私は『環境問題と人権問題は、密接な関わりがある』と思っていて、私のまわりには、そのように考えている人を沢山知っているんですけど、他の社員の方は『環境問題』についてどう思っているのでしょうか?」
相手は、苦々しい表情を浮かべて、沈んだ声で私の質問に答えた。
「ほとんど関心を持っていませんねえ。むしろNGOを支援するカネとエネルギーがあるのなら、我々の労働環境をなんとかしろよと思っている人がほとんどです」
「そうなんですか…」
「私個人は、NGO活動自体はとても重要だと思っていますよ。でも私の職場では、そのようなことをいえる雰囲気ではないですね。むしろこういう活動は『エリート達の道楽だ』と思っている人ばかりです」
「私は、NGO活動をとても重要なものだと思っています。『エリート達の道楽』という概念を変えたいと思っているのですよ」
と私は応じると、これをよしなにといいながら、ジャケットの内ポケットから名刺ケースを取り出した。そこから自分の名刺を1枚抜きだし、相手の目の前に差し出す。だか相手はせっかくですがといいながらも、私の名刺を受け取らなかったばかりか、自分の名前を名乗るのを頑なに拒んだ。
「殿下とお話しできたのは、素直に嬉しいです。個人的には、一生の思い出になるでしょう。ですがこのことは、社内で話せるような話題ではない。むしろ私にとってはマイナスになるだけです。『契約社員がエラそうに』と陰口を叩かれるのがオチかと」
彼はそう言って私の顔から目をそらして、視線を下に落とした。それではごきげんようと消え入りそうな声でつぶやくと、きびすを返してスタスタと私のそばから去って行った。
私はそれからも時間の許す限り、参加者から話を聞いてまわった。だがそこで初めて出会った参加者はNGOの関係者をのぞけば、ほとんどが「大企業の正社員」ばかり。彼ら彼女らは自社の社会光景活動を積極的にPRしても、自社の非正規社員を慮る姿勢をまったく見せなかったことに、私はいたく失望した。
会場には、知り合いのNGO関係者も多く顔を見せていた。私は彼らに、正社員達のそのような思考について、遠回しな言い方で探りを入れてみた。しかし彼らの大多数は曖昧な表現で、その話題について触れるのを避けた。口では「社会変革」を訴えながらも、その行動は大企業の正社員と同じ。これでは、いくらNGOが正しいことを言っても、市民が支持するわけがないと、私は暗澹たる気持ちになった。
そしてそのパーティーが開かれた会場には「パーティー主催者関係者」として参加していたキャサリンの姿もあった。自邸内で開かれたパーティーにも関わらず、彼女はムスッとした表情で、会場に佇んでいた。
面長に細長い瞳と高い鼻筋というキャサリンの気品溢れる容姿は、同じ皇女の私も思わず見惚れるほど美しい。腰の上まで伸びた濃土色の長い髪から放たれる輝き、柔らかく透き通るほど白い肌から漂う色気、上品で洗練された身のこなしは、国内外の社交界から注目を浴びている。高い知性に裏付けされた会話術は、貴公子達の心を掴んで離さない。
彼女はパーティー会場には、自分のスタイルを強調したシースルーの生地か、肌を乳房の上部まで思い切り露わにしたドレスを纏って登場する。乳首周辺こそ厚手の生地を使ったり、刺繍が施された衣装だが、カラダの美しい線はしっかり強調され、豊満な果実はしっかり目立つ。清楚な顔立ちと迫力満点の体つきを併せ持つ彼女が会場に現れると、その場にいる男性の視線は、この公爵令嬢に注目する。そして彼らは彼女のハートを射止めようと、手練手管の限りを尽くす。彼女の実家が持つ財産と権勢目当てだという人間も多いが、それは半分あたっている。
顔立ちが清楚で立ち振る舞いも言動も上品、そして近衛軍勤務の軍人というお堅いイメージを持たれているキャサリンだが、その正体はオルガやルイーゼ、そして皇太孫殿下姉妹顔負けの派手な男性遍歴を持つ「肉食系皇女」である。本人が認めただけでも、関係した男性は20人近いし、同じ時期に複数の男性と平然と関係を持ったこともある。