#1
ジリジリジリジリーーーーー
私の枕元に置かれている目覚まし時計がけたたましく鳴る。
「う、う、うーーん」
もう起きる時間なのか。
私は目覚まし時計のアラームを切ると、半分寝ぼけた状態でデジタル時計の表示を見た。
時計の時刻は、6時45分を示している。
部屋の空気は、布団をかぶらないと我慢できないほど冷たい。
たまらず私は、部屋の空調スイッチをオンにする。
せめて部屋の空気が、温まってからベッドから出ようかな・・・
再び布団をかぶると、あっという間に私は再び寝入ってしまった。
暖かい布団って、気持ちいいなあ・・・
私がそうやって惰眠を貪っていると、何者かがバタバタと誰かが大きな足音を立てて、ノックもせずに私の部屋のドアを勢いよく開け、部屋の中に入ってきた。
「おきろおきろおきろーーー!!いつまでウダウダと布団の中でまどろんでるんだ!いい加減に布団の中から出てこいこのバカ皇女!!」
私の部屋に入ってきた女性はそう言うやいなや、私から無理矢理布団を引き離そうと、強引に引っ張る。私は布団を掴みながら
「やだよー!まだ部屋の中は寒いんだもん!部屋があったまったら起きるからさー」
と、私が布団の中でごそごそしていると、彼女は顔を真っ赤にして
「ふざけるな!」
と一喝した。
「いい年こいて甘ったれるなこのバカ皇女!なんのために目覚ましをかけているのかわからんだろうが!!」
と私の耳元で大声で怒鳴りつける。
それでも私が布団の中でグズグズしていると
「まぁぁりぃぃなぁぁぁぁ!おーきーろー」
と、眼を細めてすごんできた。
さっきから私をバカ皇女呼ばわりしているこのオンナの名前は、オルガ・エリザベータ・リイナ・キャスリーン・デア・ラドスラヴ=ネマニッチ、愛称はリジー。気性が荒くて口も悪いが、これでも一応は私と同じ皇女であり、父方の従姉妹だ。今はもろもろ事情があって、私の屋敷で一緒に暮らしている。
「わかったわよぉりいなぁ・・・だからあと5分・・・」
「おいマリナ!いつまでもダダをこねているとと本当にぶっ飛ばすぞ!!」
オルガはますます眼を細めて、右手を握りしめて私の目の前に突き出す。
「はいはいわかりましたよ。起きりゃいいんでしょ起きりゃ。リジーのいじわる・・・」」
ワタシはごそごそと布団の中から出ると、彼女は「だめだこりゃ」といわんばかりにため息をつき
「さっさと着替えてダイニングに来い!ただでさえアンタはトロいんだからね」
と命令口調で私に言うと、部屋から出て行った。幸い、部屋の中は暖かくなっている。
「ああ、また鬱陶しい1日がはじまるのか・・・」
ワタシはのそのそと布団の中から出ると、口内洗浄剤で口をすすいで顔を洗う。髪の毛を櫛でとかし、部屋着に着替えて食堂に向かった。
「殿下、おはようございます」
「お姉様、おはようございます」
私がダイニングのイスに座ると、先に来ていた2人の女性が挨拶してきた。
「殿下」と呼びかけたのが、私の護衛を担当する親衛隊武官であるキャサリン・シルヴィーヌ・ディートリント・フォン・ヘッセン=ヒュッテンブレンナー中尉。親衛隊は一週間交替で皇族の屋敷に常駐し、そのメンバーの中で一番位の高い人間が、朝晩主人に対して挨拶するのが慣例だ。彼女が挨拶しのは、今週私の屋敷に常駐している班の責任者だからだ。
そして私に「お姉様」と挨拶したのは、ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ・ビルギット・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル皇女。たった一人しかいない、私の実の妹だ。そして政治的な実権では、私よりも遙かに強い人物でもある。
「やっと来たわね、ねぼすけさん。スープが冷めるから、早く食べてね」
オルガが、さっき私の部屋で見せた顔とはまるで違う、穏やかな表情で私に話しかける。基本彼女が、さきほどのように荒っぽい口調で私に突っかかるのは、私か自分の部屋にいるとき。それも部屋に妹を含めて、第三者がいない場合だけだ。今みたいに第三者が大勢いる場所では、無表情か愛想笑いをしていることが多い。
いただきますといいながら、私はオルガお手製のスープに口をつける。今朝のメニューはとうもろこしのスープ、焼きたてのクロワッサン、ふっくらして柔らかいオムレツだ。
私たちは食事中、よほどのことがない限りおしゃべりをしない。両親は私たちには甘い態度で接することが多かったが、食事のマナーだけは厳しかった。食べ物を入れたままおしゃべりしようとすると、父母どちらかから厳しい叱責の声が飛んだ。同時に食べ物を大事にすること、これらの食べ物を作っている農民に感謝の念を持って接することを、私たちに徹底して教え込んだ。友人たちも、そのことは百も承知だ。食事時のダイニングは、スプーンとフォークを動かす音しか聞こえない。もちろん、ぺちゃくちゃと口を鳴らすのも御法度だ。