※この作品はR-18です。

Naked Desire〜姫君たちの野望   作:右野向左衛門

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#30

「うん。自分の気が済むまで泣いた後、私に抱きつきながら化粧室に入り、ようやく上半身を起こしたのね。自分の醜態にショックを受けていたみたいでさ、彼女は自分を鏡で見た途端『今の私って、こんなに醜かったんだね…』っていったきりしばらく固まっていたの。

だから背中を叩いて『ほら、しっかりしなさいよキャサリン・シルヴィーヌ・ディートリント・フォン・ヘッセン=ヒュッテンブレナー、今の姿はとても人様には見せられないわよ。あなた、仮にも伝統ある公爵家のご令嬢なんでしょ。だったら凛として振る舞いなさいよ』と励ましたの。顔を洗ってお化粧を直しながら、こくんと頷いたんだけどね…」

「あの調子では、立ち直れるかどうかわからないわね」

「おかしな方向に行かないことを祈るしかないのかな…」

キャサリンの将来を想像した私は、憂鬱な気分になった。

「彼女は子どもじゃないんだよ。辛いことは、自分で乗り越えるしかないんだけどさ、今の彼女の状態から察するに、立ち直るにはまだまだ時間がかかりそうだな」

フリーダは独り言のように呟くと、長いため息を吐き出した。

あの騒動の後、一心不乱に学業に取り組んだキャサリンは、成績優秀者として学校当局から表彰された。公爵令嬢としての務めも立派に果たし、以前から興味を持っていたボランティア活動にも、熱心に取り組むようになる。その反面、異性との関係はふしだらな部分が目立つようになった。

騒動前のキャサリンは、やや厚手の生地に丸首の袖なしワンピースに薄めの化粧という、同年代の女性と比べると地味な格好でパーティーに参加していた。だがその騒動があってからの彼女は、濃い化粧をし、シースルーの生地で作られたワンピースという姿で、好みの男性に積極的にアプローチするようになった。彼女のあまりの変わりように、私を含めた知人・友人達は驚き、呆然とした。そして心の中で(今の彼女は、かつての彼女に非ず)であることを悟り、彼女から離れていった。

自分を口説いた女性が、知性と美貌を兼ね備え、なおかつ実家が国内有数の貴族の令嬢だった。男子だったら、これほど名誉なことはあるまい。もしこれを断る男性がいるとしたら、今そばにいる女性にぞっこんか、彼女と同じくらいあるいはそれ以上に面倒くさい性格、そしてゲイのいずれかだろう。

過去に彼女が関係を持った男性は、私が知っている限りでは20人近い。だが本人は、実際に寝た男は、あなたたちが思っているほど多くないと主張する。しかし私の友人達は、キャサリンがパーティーに参加するたびに、男をとっかえひっかえしていたと証言した。何人かの友人は、彼女はオルガよりもふしだらだねと、私にいっていた。あの、そんなことを私に言われても困るんですが…。

私はパーティーでキャサリンの顔を見かけるたびに、最近あなたに関することは、よからぬ噂ばかりしかないんだけど?と尋ねた。だが彼女の反応は、曖昧に笑ってごまかすか、強引に話題を変えるか、ぶすっとした表情を浮かべて、私から離れるのかのいずれかだった。時には目を細めて

「友だち?アンタと私が?いつから友だちになったっけ?」

と冷ややかな口調で私に言い放ち、そのまま数人の男性を連れていずこへと消えたこともある。後から聞いた話では、そのパーティーでの彼女は、私以外の友だちにも似たような態度をとっていたらしい。

実家では「いい子」を演じているので、両親に厳しく咎められることはなかったみたいだが、彼女の乱れた男性関係の噂を聞いた兄弟や親戚からは、その交友関係を厳しく咎められることもあったようだ。実際あなたはキャサリンの友だちなんでしょ?だったら彼女に厳しく言ってほしいと、私に訴え出た親戚もいた。だがこればっかりは、当人に直そうという意思がないとどうにもならないものである。

その一件以降、私とキャサリンは一緒に行動する機会は減った。だが私とキャサリンには共通の友人が多いから、自ずとお互い顔を見ることになる。だが以前のように仲良くというわけにはいかず、二人の間には気まずい空気が流れた。たまに交わす会話も、どこかぎこちなく表面的なものになり、以前のように仲良く一緒に行動する日はこないのではないか?とずっと思っていた。

時は過ぎ、私たちは宮廷行政学院卒業の季節を迎えた。高等士官学校を卒業したキャサリンが、近衛隊に配属になると聞いても、私は驚かなかった。皇族の身辺警護を担当する近衛隊に入るには、それに相応しい身分と知識が求められる。「才色兼備」を地でいく彼女ならば、近衛隊への入隊は上層部も歓迎するだろう。

だがそれ以上に驚いたのは、キャサリンが私付きの武官に決まったことである。たぶん幹部は「直系皇女の護衛にはそれなりの身分の者を」と考えたのだろう。よほどのことがない限り、当事者はこの決定に口を挟まないのが通例である。

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