「言い方が悪かったのは認めるわ。でもそういう言い方をしないと、あなたはすぐにムリをする。ただでさえあなたは体が弱いのに、これ以上ムリして再起不能になったらと思うと、私たちは気が気ではないのよ」
やや厳しい口調で問い詰めるオルガの表情には「お願いだから、これ以上ムリしないで」という感情がこもっているのがわかった。
「失礼なこと言わないで。私だって剣道や護身術でいつも鍛えているから、体力だって人並み以上にあるんだからね」
「その割には、熱を出してよく寝込んでいるわよね、お姉様」
冷ややかな口調で、ルイーゼが言葉を続ける。
「お姉様がいくら『鍛えているから』と言い張っても、体質まではそう簡単に改善しないんですからね。これ以上、お姉様にムリしてほしくない」
ルイーゼの声が心なしか震えていると思った私は、視線を彼女に向けた。彼女は目尻に涙をためながら、私を見ている。
「へえ、あなたでもそんな表情になることがあるんだ」
「なるわよ。私はロボットじゃないんだからね」
らしくない表情をするわね、と私は心の中で思った。いろいろ突っ込んでやりたいけど、今は気分が優れない。
「なんか疲れちゃった……少し休みたい」
「寝た方がいいよ」オルガが、優しく諭すような口調で話しかけた。
「それじゃ、お言葉に甘えるね」
そういって私は目を閉じると、あっという間に夢の中に入ったのだった。
目が覚めると、壁に掛かっているデジタル時計は、もうすぐ19時になろうとしていた。 「起きたか。気持ちよさそうに眠っていたぞ」
声の方向に視線を向けると、オルガが穏やかな表情で、私の表情をのぞき込んだ。その傍らには、料理をのせていると思われる移動スタンドがある。私はベッドの中でう、うーんと背伸びをすると、ゆっくりと上半身を起こした。オルガは、自分の右掌を私の額にのせた。
「すこーし、熱が下がったようだね。よかった」
オルガはほっとした表情を私に見せると、移動スタンドを覆っていた、金属製の蓋を外した。その途端に、部屋の中に料理の匂いが漂う。
「いいにおいがする。美味しそうね」
スタンドの上には、オルガ特製の料理が並んでいる。
「お腹がすいた」
「食欲はありそうだな」
オルガの言葉を受けて私はこくんと、首を縦に一回振る。
「早くちょうだい」
まてまて、そう焦るなといいながら、オルガは私のために料理をサーブする。今日のメニューは、オルガ特製の鶏がらスープをベースにしたお粥、デザートはカボチャのアイスクリームだ。オルガはお粥をボールの中に入れ、それを私の前に差し出す。
私は「いただきます」といいながら食べ始めると、あっという間にそれを完食した。美味しい、もう一杯ちょうだいといいながら、私はからになったボールをオルガの前に差し出す。
「それだけ食欲があるのなら、明日にはだいぶよくなっているね」
「そうなっていることを祈るわ。というより、そうならなければ困るんだけどな」
と返すと、オルガがお粥のおかわりを、おずおずと差し出した。私も恭しくそれを受け取り、2杯目を口に入れはじめる。私の食べっぷりを見て安心したのだろう、ようやくオルガは自分の分のお粥をサーブして食べ始める。二人は黙々とスプーンを動かし、食べるのに夢中になった。
「ああ、美味しかった。やっぱりオルガの作る料理は美味しい」
「そう言ってくれるのなら、こちらも作りがいがあるよ」
「また一段と腕を上げたね」
こら、といいながらもオルガは嬉しそうな表情をしている。私は空になったボールをテーブルの上にのせ、デザートに口をつけながら、部屋の中を見渡した。
「ねえ、エリナの姿が見えないんだけどどうしたの?」
私はオルガに、ルイーゼのミドルネームで妹はどうたのか尋ねた。すると私の質問に、スプーンを持つオルガの動きが止まった。
「うん…彼女…また喘息の発作を起こしてな」
「なんですって! 」びっくりした私は、思わずアイスのスプーンを落としそうになった。
「薬を飲んだら症状は落ち着いた。だから大丈夫だとは思うが……」
何かと私に居丈高な態度をとることが多いルイーゼだが、実は彼女も喘息持ちだ。それも私よりもたちが悪く、一度発作が出ると、数日寝込むことも度々ある。それだけでも厄介なのにくわえて、妹は偏頭痛と腰痛を抱えている。季節の変わり目にはこれらの持病が悪化し、精神面も不安定になる。妹が私に上から目線で接するのことが多いのは、自分も体調面に不安があることの裏返しでもある。
「エリナは今どうしているの」
「自分の部屋で寝ているよ」
「彼女の部屋に食事を持って行ってあげた? 」
「ここに来る前に、エリナの部屋に行って様子を見るついでに届けてきた」
「ちゃんと食べてくれたのかな? 」