※この作品はR-18です。

Naked Desire〜姫君たちの野望   作:右野向左衛門

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#38

「それは大丈夫。黙々と食べていたから」

「全部食べたのかな? 」

「そうだといいんだけどね……」

オルガは不安そうな面持ちで、こちらを見た。

「ねえ、オルガ……あなた、だいぶ変わったわね」

「え? どういうことかな? 」

「だってあなたたち、いつもしょうもないことでいがみ合っていたでしょう。そのたびに私が仲裁に入っても、お互い口汚く罵り合ってさ。おかげでこっちは胃が痛くなる、頭も痛くなる、果ては眠れなくなるで、こっちは体調を崩すし」

私はいいたいことを一気に吐き出すと、は──っと長くため息をため息をついた。

「マリナ、あなたはそう言うけどさ、私はこれでもあなたに感謝しているし、気を遣っているのよ。あなたも知っての通り、私は学校でも実家でも社交界でも、そのほかの場所でも自分の居場所を見つけられなかった。だからグレて不良少女に墜ち、不良仲間とつるんでブイブイいわせて粋がっていた。今振り返ってみれば、その頃の私は本当にみっともなかったわよね。そんな私を引き取って、立ち直る機会と居場所を切れたのはあなたなのよ。そのおかげで、私は本当にやりたいことを見つけられたしね」

でもね、とオルガは言葉を続ける。

「ルイーゼとキャサリン、そしてあの二人の『友人』という名の取り巻きから受けた屈辱的な言葉と嘲笑、そして陰口の数々は、私はどうしても許せない。これからもずっと、いいえ、死んでも私は許すことができない」

私とオルガが先のやりとりをしたのには、理由がある。

私たち姉妹とキャサリンは、「貴族令嬢」に相応しい身のこなしをするよう、幼い頃から厳しく躾けられた。だが「庶子」、つまり「愛人の子」として幼少時を過ごしたオルガは、上流階層の子として身につけておくべきマナーを習得する機会がなかった。

もちろん、全ての「妾腹の子」が、オルガと同じような生育環境で過ごしたわけではない。むしろそのような環境で育った我が子を不憫に思い、実子以上に愛情を注ぎ、必要な金銭援助を惜しまない父親も大勢いる。

しかし不幸なことに彼女の母親は、娘のしつけや教育に関心を持たなかった。10歳で父親に引き取られた彼女は、貴族令嬢として必要な知識やマナーを、何一つ習得していなかったからだ。

お互いが成人してから、私はオルガに実母とどんな生活をしていたのか尋ねたことがある。しかしそれは彼女にとっては触れられたくないどころか、なかったことにしてしまいたい過去らしい。顔を真っ赤にし、表情をゆがめた彼女は絞り出すように

「お願い、マリナ……そのことは二度と聞かないで」

といったきり押し黙った。私はその時の口調と表情から、この話題には触れるべきではないと悟った。おそらくオルガの幼少時を知っている貴族社会の人間は、ほとんどいないのではないだろうか。

私は実父であるネマニッチ大公にパーティーで出会った時、オルガを引き取った事情を婉曲な表現で尋ねた。だが大公は、ことの詳細を話すことを拒んだ。このことにはいろんな噂が飛び交っているが、当事者が口を閉ざしているため、今も真相は謎のままだ。

貴族令嬢に必要な知識が何一つなかったオルガは、継母や兄弟から事あるごとに虐待を受けていたらしい。おかずが一品しかないのは当たり前、時には冷たい料理を出されることがあったという。口答えをしようものなら、継母や兄たちから折檻された。心身共に傷ついたオルガは、総合アカデミー(以下「RBS」)中等部入学と前後して、不良達と遊ぶようになる。他の不良グループとケンカに明け暮れ、メディアでその不行跡をネタにされることもあった。

そして高等部1年である16歳の時、彼女は末代まで語られるだろう、とんでもない犯罪を犯してしまう。些細なことで対立する不良グループと喧嘩沙汰を起こしたオルガは、対立グループのリーダーに対し、執拗に殴る蹴るなどをし、半死半生の大けがを負わせたのだ。

父親であるラドスラブ大公は、事件解決のためにありとあらゆるコネを総動員し、示談を成立させた。被害者もオルガと同じくらいの不良であったので、大公は相手の素性を世間に大々的に知らしめ、自分たちに有利になるよう事態を収拾したのである。しかし父親である大公は、娘にも非があったとして、オルガに勘当を言い渡した。世間はこれを「ケンカ両成敗」と受け取り、この騒動はあっという間に世間の話題から消えた

日頃の不行跡の代償とはいえ、 大公がオルガに下した処分は、周囲が思っていた以上に厳しいものだった。オルガは不良グループのリーダー格を務めていたが、当時の彼女が持っている認識では、真っ当な世界で日常生活を営めるとは、誰にも思われていなかった。

オルガの面倒を誰が見るのか? それが当時の社交界の最大の話題だった。

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