そして彼女の体を掴みながら言い放った。
「ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ・ビルギット・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル。あなたは今、自分がなにを言っているのかわかっていますか?」
「ええマリナお姉様、今私は『優秀な妹』といいましたわ。だって本当ですもの」
ルイーゼはどや顔で、私に返事をした。
私は、重ねてルイーゼに質問する。
「ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ・ビルギット・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル。じゃああなたは、今まで誰にも迷惑をかけずに今まで過ごしてきた、といいきれるのですね」
「もちろんですわ、マリナお姉様。今さらなにをおっしゃいますの?」
当たり前じゃないといいたげに、妹は応じる。
「ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ・ビルギット・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル。あなたの姉であるエルヴィラ・ジャンヌ・マリナ・カーリン・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベルの質問に誠実に答えてください。あなたは今まで、宮廷やこの屋敷の侍従や女官に、迷惑をかけたり不快な思いをさせたりしたことはないのですね? 」
「そこまでとは言いませんわ。多少は迷惑をかけたかも知れませんが」
怪訝な表情を浮かべながら、妹は言葉を返す。
「ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ・ビルギット・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル。自分のことを『優秀な妹』というのならば、自分の発言や立ち振る舞いが原因で、傷つく人がいるとわかっているはずですよね」
「それはそうですが、それはオルガのことを言っているのですか、お姉様? だとしたら、それは当人の自業自得ではないのですか? 」
「ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ。オルガに限らず、小さい頃から育った環境を考えたら、人は誰でもああいう性格や行動になるのもむべなるかな、と思ったことはないのですか? 」
「彼女より生活が苦しい子どもたちは大勢いますわ。それは甘えというヤツです」
私に言い返す妹は、明らかに不満げな表情を浮かべている。
「じゃあエレナに質問しますけど、あなたは先ほど自分のことを『優秀な妹』と言いましたね。ならばなぜ、あなたは私と一緒の屋敷に住み、この屋敷の当主が私である事を受け入れているのですか? 」
とたんに妹は「それは、そのう……」と言いよどみ、黙り込んだ。
「ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ。あなたは小さい頃から、何かにつけて自分より身分の低い人間に対し、尊大に振る舞うことが多かった。それが原因で、お父様やお母様、そして私がどれだけ苦労してきたか、あなたはわかっているのですか? 」
私は他者に怒る時は、絶対に声を荒らげないことにしている。大声で怒鳴っても、相手がその理由を理解しなかったら意味がないと思っているからである。怒りが大きければ大きいほど、私は口調が丁寧になる。だから私は友だちや侍従・女官から「口調が穏やかなマリナ(殿下)ほど怖ろしいものはない」と言われている。
ルイーゼもそのことを思い出したのだろう、体がブルブル震えているのがわかる。
「エルヴィラ・ジャンヌ・マリナ・カーリン・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル皇女殿下。先ほど不遜な言葉遣いをした私をどうかお許しください」
ルイーゼは恭しくお辞儀をしながら謝罪の言葉を発したが、私はその言葉を容易に受け入れるつもりはなかった。
「ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ・ビルギット・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル。あなたがオルガと一緒に住みたくないというのは勝手です。しかし彼女の現状を考えると、誰かが引き取らざるを得ない状況です。それはあなただってわかっていますよね」
ルイーゼは小声で「はい」と返事をした。
「オルガを引き取るかどうか、その決定権は私にあります」
だから、と私は一呼吸おいて、言葉を続けた。
「屋敷の当主として、私はオルガを引き取ることにします。ルイーゼ・ヴィクトリーヌ・エリナ、私の出した決断に異論はありませんね」
ルイーゼは、こくんと頷いた。
「もちろん、私としても無条件でオルガを住まわせるつもりはない。彼女にも、私の言いつけには従ってもらうつもりです。その上で、あなたにもお願いがあるの」
妹は「なんでしょうか? 」と、不安げな面持ちで返してきた。
「オルガにもよく言い含めるけど、今日みたいな騒ぎは絶対に起こしてはいけない。わかりましたか」
「……ハイ」
情けない声で、ルイーゼが返事をした。
「聞こえない! わかりましたか? 」
私が大声で怒鳴ると、妹は大声で
「はい、わかりましたお姉様! 」
と返事をした。
「結構」
と私は返事をし、妹に改めて言葉をかけた。 ここから先は、彼女の行動に全てがかかっている。