そのためちょっとでも誉められるとすぐに調子に乗り、他人に不愉快な思いをさせることも多い。一言で言えば「気分屋で軽い」のだ。
では考えなしに物事を判断したり行動するタイプかというと、そうでもない。猜疑心はかなり強く──だからいつも他人が自分の陰口を叩いているかどうか気にしているし、他人の陰口を叩くのを嫌う──哲学書を愛読しているため、論理的思考にも長けている。ただ普段の行動が行動だけに、何かと誤解を受けることも多い。
実はルイーゼとの関係がうまくいかないのも、オルガの性格によるところが大きい。私はルイーゼに会うたびに、オルガについての誤解を解こうと努力しているが、ルイーゼは聞く耳を持たないので困っている。
「私に対するルイーゼの態度は、本当に不遜だわ。私の顔を見るたびにつっかかかってきてさ、私が折れないと侍従女官にあることないこと吹き込んでさ……」
「そんなことないわよ」私は、なだめる口調でオルガに言った。
「あるからいってんだろうが! その証拠に、侍従・女官は私の顔を見ると、何事かコソコソと囁いているのを、何度も見ているんだからな! 」
「じゃあ、今度その光景を見たら私にいいなさいよ。その場できつく申し渡すから」
いきり立つオルガをなだめすかすように、私は答えた。
「本当だろうな? 」目を大きく見開いて、オルガが私に詰問する。
「ほらほら、その突っかかる態度。それ、本当に気分が悪いからやめてくれない」
私は、オルガの態度をたしなめた。
「オルガ・エリザベータ・リイナ・キャスリーン殿下、あなたの不満はそれだけですか? 」穏やかな口調で、副書記官長が口を挟んだ。
「はい。それが唯一にして最大の不満です」
いくぶん頬を膨らませながら、オルガが返事をした。
「かしこまりました。その件については、今後も気にとめておきましょう。私がルイーゼ殿下と顔を合わせる機会があったら、それとなく申し伝えておきます」
微笑を浮かべながら、副書記官長が答えた。
「いつも心配ばかりおかけして、申し訳ありませんわ、副書記官長」
ガラにもなく殊勝な態度で、オルガが言葉を返した。
「へえ、オルガでもそんな殊勝な態度を見せる時があるんだ」
半分冷やかした口調で、私は茶々を入れた。
その直後、オルガは私の脇腹に、軽く肘鉄を入れた。
「失礼な! 私だって、殊勝な態度をとるべき時と相手くらいわかっているわよ」
口をとんがらせて、オルガが私に突っかかる。その様子を見ていた副書記官長は、即座に破顔していった。
「オルガ殿下、あなたはこの屋敷でうまくやっているようですね。安心しました」
オルガは居住まいを正して「恐縮です」と即答し、アダルベルト副書記官長に軽く頭を下げた。
「あなたは、今も自分が周囲から嫌われていると思っているのですか? 」
副書記官長の質問に、オルガは即座に「ハイ」といった。
「あなたは、自分を知っている人から嫌われないようにと思っていませんか? 」
彼の質問に対し、オルガは無言で頷いた。
「オルガ・エリザベータ・リイナ・キャスリーン殿下、残念ながら、それはムリというものです。誰からも嫌われない人間というのは、この世には存在しないのです」
アダルベルト副書記官長は、静かに言った。
「メンデルスゾーン=バルトルディがいるじゃないですか。彼は多くの素晴らしい友人に恵まれ、音楽の世界でも大きな成功を収めたではありませんか」
私は、オルガの口からメンデルスゾーンという単語が出てきたことにびっくりした。
「へぇ、あなたの口から『メンデルスゾーン』なる単語が出てくるとは予想外でした」
冷やかし口調で私が突っ込むと
「うっさい、黙れ! こう見えても、私だって皇女だぞ! そのくらいの嗜みはあるわ! 」
「夜な夜な、取り巻きを連れてクラブで踊り狂っていた姫君様に、そんなこといわれても説得力がありませんな~」
「て、て、てめぇ~! 『不良少女』がクラシック音楽の作曲家の名前をしっていちゃおかしいのかよ! こう見えても、音楽史の成績はAだからな! 」
「へぇ、それは素晴らしいですね~。でもまさか、それってカンニングしたからじゃないですよね~」
私が笑いながら突っ込むと、オルガは顔を真っ赤にして反論してきた。
「ええぃ、うっさいバカ姫! 確かに私は素行は悪いけど、学校の成績まで悪いわけじゃないからな! 」
「ああ~そうですか~。確かに、あなたは『テストの成績』だけはそこそこいいもんね~。遅刻早退無断欠席の常習犯なのにね~」
「おいマリナ……てめぇいい加減にしないと、本当にぶっ飛ばすぞ……」
赤面しながらオルガがすごむので
「あらあら、それじゃあやれるものならやってご覧なさいよ~」
と私はいった。