「公の場では、皇女らしくおしとやかに振る舞っているだろうが! 」
オルガの居丈高な物言いに、私はだんだん腹が立ってきた。
「私だって、好き好んでこんなこと言ってるんじゃないわよ。だいたいね、あなたは、ちょっと気を許せばすぐに調子に乗る。公の場における立ち振る舞いだってそう、口の利き方だってそう、ついでに言えば、大人になった今でも、あなたの異性関係は『ふしだら』というレベルを超えているわ。私はね、あなたがなにか問題を起こすたびに「お願いだから、それだけはやめて」って警告してきた。どうしてかわかる? あなたに関する苦情は、全部私に来るんだからね! 」
怒鳴るまい。
怒鳴るまい。
怒鳴るまい。
このオンナのせいで私は理性がなくなっていくのを感じながら、必死で彼女に訴えた。しかしその気持ちは、どうやら彼女には届かなかったみたいだ。
「だから、してんじゃねぇかっていってんだろう! 」
オルガは顔を真っ赤にして、不良時代の口調で私に言葉を返し、頬を膨らませた。
人がこれだけ真心をこめて忠告しているのに、コイツは人の話を聞く気があるのか?
「ほらほらほらほら、その口調と態度」
本当は(なに考えているんだバカ)と怒鳴り返したかったのを、私は辛うじて我慢した。このオンナ、今の私は病人だと言うことをすっかり忘れていないか?
ああもう!コイツのおかげで私は熱があがるわ、気分が悪くなるわで、最悪の気分だ。
薬を飲んでベッドに寝そべりたかった私は、最後の警告のつもりで、意図的に優しい声のトーンでオルガに話しかけた。
「あのさ、オルガ・エリザベータ・リイナ・キャスリーン。世間から見たら、あなたも「貴族ご令嬢」なんですからね。『どうせ私は妾腹の子』とふてくされるのは勝手だけど、公の場では、あなたの立ち振る舞いはいつも注目されているんですからね、それを忘れないでね」
だが私の最後の警告は、彼女にまったく届かなかった。
「はいはいはーいわかりました、エルヴィラ・ジャンヌ・マリナ・カーリン。ご忠告どうもありがとうございまーす」
というや否や、彼女は社交辞令用の笑顔を満面に浮かべ、すっとぼけた調子で私に返答してきた。そして同時に、私の目の前で、右手のひらをひらひらと動かした。
その瞬間、私の理性が「バキッ」という音を立てて崩れ落ちた。
こんな不真面目なオンナのために、私はエネルギーを注いできたのかと思うと、ただただ情けなく、そして悔しかった。
コイツのために注いできたエネルギーと時間を返してほしい。これまで彼女に対して抱いてきた恨みと悔しさ、悲しさといった感情が、私のカラダの中で渦巻いた。そしてその負の感情は、ついに私の中で爆発した。
私は残り少ない体力を振り絞ると、勢いよくベッドから立ち上がった。そして掌で、食器が載っているキャスターを思い切り叩いた。
部屋の中に、「ガシャン! 」 という、食器が鳴る大きな音が響いた。
「なにするのよ! 食器が割れたらどうするのよ! 」
オルガは目を大きく開くと、私を怒鳴った。
「……ねえオルガ……あなたは、いつまでたっても自分のことしか考えられないんだね。私の気持ちなんか……今私の状態がどうなのか……全然わからないよね……」
熱で頭がクラクラする。体に力が入らない。
気分も悪くなってきたし、吐き気もしてくる。
オルガに対する当てつけをこめて、ベッドに倒れ込んだらどんなに楽だろう。私は彼女の手を掴むと、私の額に触らせた。
「うわわわわっ!! 」
私の額に触ったオルガは、自分が思った以上にワタシの熱が高いのを知って驚き、悲鳴を上げながら、その手を引っ込めた。
「わたしね……今、熱……あるんだよ……アンタも……知っているよね……あなたの愚かな行為で……わたしが……・死んじゃったら……どう……責任をとるつもり……」
今は息をするのも苦しいし、しゃべるのもしんどい。 さっさと薬を飲んで横になりたい。でも今オルガの態度を許したら、彼女はどこまでもつけあがるだろう。
「ちょちょちょちょ!! マ、マ、マリナ!! 身体、熱いじゃん!! 」
狼狽したオルガは、私の熱で火照った身体を自分の側に抱き寄せ、ゆっくりと私をベッドに寝かせつけた。
「ほら、薬飲みな!! 」
オルガにいわれた私は、ゆっくりと上半身を起こして薬を飲むと、再びベッドの上に横になった。
「ごめん……マリナ……本当にごめん……」
とんでもないことをやらかしたと、やっと悟ったのだろう。オルガの声は、私の耳には震えているように聞こえた。
だが私には、オルガの表情をうかがう気力は残っていなかった。
「……オルガ、私は疲れた……」
やっとの思いでそう言うと、そのまままぶたを閉じた。