「ルイーゼ、私になにか用があって?」
「お姉様の具合が気になったもので」
彼女は、パジャマの上にガウンを羽織っていた。
「起きたばかり? 」私が尋ねると、妹は首を縦に振った。
私は「朝食は? 」と聞くと、彼女は即座に「まだ」と返答した。
「じゃあ、ここで一緒に食べない? 」と私は声をかける。そのとたん、妹の顔はこわばった。イヤな予感がして、今度は視線をオルガに向ける。案の定、彼女も露骨にイヤそうな表情をしていた。
そりゃそうだろうな、と私も内心では思う。ついさっきまでギャーギャー言っていた相手と、何事もなく食事するなんてことは、普通はできない。
だがなにを今さら? という思いも、ムクムクと頭をもたげてきた。赤の他人ならまだしも、この二人は血がつながっているのだ。仲が悪いなら悪いなりに、うまくやってもらわなくては困る。
私は女中に、冷めた料理を温め直し、私の部屋にルイーゼの料理を持ってくるよう命じた。
10分後、温め直した料理と共に、ルイーゼの朝食が私の部屋に運ばれてきた。
「さあ二人とも、いただきましょ」
私が言うと、二人は小声で「いただきます」と言い、黙々と料理を口に運んだ。
食べ終わると、妹は
「ごちそうさまでした。それではまた、後で参ります」
といい、私に黙礼して部屋を出て行った。それをみたオルガは
「じゃあマリナ、私はここで少し眠るね」
とつぶやき、薬を飲んでベッドに横たわった。
その様子を見た私も薬を飲むと横になり、そのまま寝入ってしまった。
この年の9月は、寒暖の差が激しく、そのおかげで私たちは体調がすっきりしなかった。
私とオルガは微熱に苦み、ルイーゼは喘息と腰痛で、ベッドで過ごすことが多かった。3人は自分たちの体調と相談しながら、キャサリンを迎える準備をすすめた。
そしてその年の10月1日、キャサリンが私付きの武官として、私の屋敷に着任した。
「エルヴィラ・ジャンヌ・マリナ・カーリン・フォン・ゾンネンアウフガング=ユーベル皇女殿下。本日付で皇女殿下付きの武官に着任いたしました、神聖ユーベル=プレアガーツ国軍近衛隊中尉、キャサリン・シルヴィーヌ・ディートリント・フォン・ヘッセン=ヒュッテンブレンナーであります。以後、よろしくお見知りおきを」
近衛隊の一員として私の前に出たキャサリンは、力強い口調で挨拶をすると、右手を挙げて敬礼をした。
「神聖ユーベル=プレアガーツ帝国近衛隊所属、キャサリン・シルヴィーヌ・ディートリント・フォン・ヘッセン=ヒュッテンブレンナー中尉。本日付で、私付きの武官に任命いたします。与えられた任務に、全力で励んでくださいますよう」
私もそう言って挨拶を返すと、キャサリンに返礼をした。
「皇女殿下、これからよろしくお願いします」
「頼りない皇女ではあるが、これからもよろしく頼む」
「かしこまりました。微力なら、精一杯務めさせていただきます」
キャサリンは力強い声で私に返答すると、素早く私付きの侍従・女官、ルイーゼ、オルガに視線を向け、私と同じような挨拶を交わした。
一通り挨拶が終わった後、私は時間が空いたら、応接室でお茶をしないかと誘った。だが彼女はその誘いを断った。
「皇女殿下、お誘いはありがたいのですが、私はこのお屋敷に職務として赴任しています。仕事とプライベートはきちんと分けておきたいので」
と素っ気ない口調で、私の誘いを断った。そして私に向けて頭を下げると
「すいません。それでは近衛隊本部への報告がありますので、今日はこれで失礼します」
というと、きびすを返して近衛隊本部に向かってしまった。
一連の様子を見ていたオルガは、キャサリンが私の屋敷の庭から出ていくのを見なが
「チッ」
と舌打ちをし、しかめっ面を私に向けた。
「なによあのオンナ……マリナ付きの武官になったからといって、エラそうな態度をとりやがって」
「オルガ、いくら何でもそれは失礼よ」
近くに侍従たちがいないのを確かめ、私はオルガをたしなめた。
「もっと真っ当な近衛隊武官はいなかったのかよ。よりによって、お前の担当武官があんなあばずれだなんてさ」
「あばずれ、ねえ」
私はしばらくの間、オルガをじっと見つめていた。
「なによ? アイツがあばずれなのは事実でしょ? 」
男関係がメチャクチャなのは、私だけではないでしょ? といいたいらしい。
「そうね、私もお姉様付きの武官が、キャサリンでなければよかったと思っているのだけどね」
私たちが話しているそばから、ルイーゼが割って入る。
「へえ。ルイーゼもそう思っているのか。意外だったな」
まさかこんなところで、ルイーゼとオルガの価値観が一致するとは思なかった。