二人の意見の一致に私が驚いていると、二人は顔を寄せ合いながら、ひそひそ話し合っていた。そしてそのまま、屋敷の中に入っていった。
へぇ、あんな二人でも意見が一致する時があるんだと思っていたのだが、あの二人が親しげに話し合っているのを見たのは、このときを含めて数回しか記憶にない。そのくらい、普段の二人は何かといがみ合っていた。
この二人とやり合うだけでも、私にとっては負担が大きい。腹黒な妹と元不良皇女がいるため、いつもギスギスした雰囲気が漂うこの屋敷に、彼女達以上に心の闇を抱えた人間が、「私付きの近衛武官」として、私の屋敷に常駐する。二人がやり合っている部屋で、私がなにもできずオロオロとしている姿をキャサリンが見たら、彼女は私にどんな印象を抱くだろうか? 彼女がこの屋敷に来た当初は、妹とオルガがやり合うたびに、そんなことばかり考えていた。
実際、キャサリンは私が二人が起こすいがみ合いに立ち会い、うまく善処できずその場でオロオロするたびに
「この屋敷の主人はエルヴィラなんでしょ? 」
と私を叱責し、私に代わって二人に注意をすることも多かった。
だが彼女達が、キャサリンの言うことを「ハイわかりました」と、黙って素直に聞き入れるわけがない。キャサリンから小言を言われるたびに、二人はキャサリンの私生活、特に男性関係をあげつらうのが常だった。もちろんキャサリンもそのことに触れられると激高し、彼女達と激しく罵り合う。私はこの光景を見るたびに、何もかも放り投げることができれば、どんなに気が楽になるだろうと思っていた。
キャサリンにとって、この屋敷に住む三人の中で、一番気心の知れているのが私だったので、自ずと彼女の愚痴は私に集中した。実家とはまったく異なる環境とで、彼女はいつもイライラを抱え、それを私にぶつけていた。
彼女の言い分は、私には到底受け入れられるものではない内容も多かったが、それで彼女の気が晴れるのならと、なるたけ私は我慢していた。
それに加えて私たちの健康問題も、キャサリンのストレスを増やす原因になった。3人のうちの誰かが寝込むたびに、彼女は
「どうしてこの屋敷の皇女たちは、揃いも揃ってこんな虚弱体質の持ち主なの! あのね、私は駐在武官であって、看護師じゃない! この屋敷に必要なのは、優秀な医療スタッフよ! 」
と大声で喚きながらも、私たちにつきっきりで看護してくれた。それはありがたいのだが、誰かが寝込むたびに、健康な人間に文句を言ってくるのには参った。
そのストレスが知らず知らずのうちにたまっていたのだろう。キャサリンが屋敷に来てからというもの、以前にも増して私は体調を崩すことが増えた。そのことでキャサリンがオルガやルイーゼに辛く当たり、二人もそれに反発するという悪循環。
前にも私が言ったとおり、彼女達も虚弱体質なので、私たちはキャサリンの赴任前に比べて、体調を崩して寝込むことが多くなった。いつしか屋敷内の侍従・女官たちは、陰で彼女を「疫病神」呼ばわりするようになり、以前からよくなかった雰囲気は、前にも増して雰囲気が悪くなった。
邸内の雰囲気にいたたまれなくなったのか、キャサリンは私の顔を見るたびに、あの二人をどうにかしてほしい、それができないなら私が近衛隊上官に異動願いを出すと、私の顔を見るたびに訴えた。ルイーゼとオルガも私に、私の持っている権限とコネを使って、キャサリンをこの屋敷から追い出してくれと、ことあるごとに執拗に要求した。
しかし私は、彼女達の要求を無視し続けた。
キャサリンは私の屋敷に隔週で常駐しているとはいえ、彼女の直接の上司は私ではなく、近衛隊の上官である。だから妹や同居人、侍従たちが彼女に不満を持っていても、私の一存で彼女を屋敷から追放することはできない。それに彼女は、駐在武官としては極めて優秀だった。彼女の代わりは、そう簡単に見つからないと私は思っていたのである。
だから私は、屋敷の者やルイーゼ、オルガから不満が出るたびに
「あなた方が、キャサリンを苦手に思っていることはよくわかった。でも彼女は性格はともかく、駐在武官としては極めて優秀なのよ。文句を言うのは勝手だけど、どうしても我慢できないというのなら、彼女と同等か、それ以上に優秀な代わりの人物を見つけてくださいな。あなた方に、彼女以上の優秀な近衛武官を見つけられるツテはあるのですか?」
と言い返すと、不満の声が出なくなった。
人格面では問題があっても、職務遂行面では極めて優秀である。ルイーゼ、オルガ、そして侍従・女官たちも、皇女としてどこか頼りない私のサポート役として、キャサリン以外には適役がいないことを、認めざるを得なかったのである。そして私も、何かとキャサリンを頼りにしていたのである。