アタシはそう言いながら、一口二口、シャンパンを飲み下す。アントンも、私の仕草にあわせてシャンパンを飲んだ。
「ああ、わかっているともさ。そのことは、今晩のきみとのやりとりでよくわかったよ」
ついさっきまでアタシを「殿下」と呼んでいたのに、今度は「きみ」と話しかけるヤツに対し、アタシはちょっかいを出したくなった。
「さっきまでアタシを『殿下』と呼んでいたのに、今は『キミ』というのね」
「い、いやそれはその……」
ヤツはまた、目をキョロキョロさせている。
「べつにいいけどさ~」
アタシはいささかからかい口調で、ヤツに話しかける。
「アントン、本気で私と一緒になりたいと思っている? だとしたら、今のままではやっていけないよ。だいたいあなたは、いろんな事を知らなさすぎる」
「そんなことわかってるよ」再び仏頂面で、アントンが言葉を返す。
「それで、さ」
アタシはそう言うと、ヤツの隣に移動した。バスタオルを上げ、太ももを露わにすると、それをヤツの足に押しつける。
「あんたさ……」
「な、な、なんだよ」アントンの顔は、心なしか赤くなっている。
「自分の結婚相手、アタシ以外でもいいと思っているでしょ?」
「べつに思っていないけどさ……」
「皇族なら、誰でもいいと思っているんじゃないの?」
「さすがにそれは……」
「アタシみたいな女性は、正直イヤだと思っているんじゃ……」
「そこまで言うのだったら、僕のことだって……」
それから2人は、ダラダラと意味のないおしゃべりを続けた。
アタシは、腕を回し、時にはソフトにヤツの身体にさわりながら、その反応を確かめる。
ヤツはアタシが身体を押しつけたり、彼のカラダに優しく触れるるたびに、困惑の表情をうかべた。
「ねえ、いつもしているみたいに、アタシを口説いてみなさいよ」
アタシは彼を挑発するが、彼は黙っている。
「あなたって、自分が主導権をとれないと何にもできないのね?」
「そんなことないよ」
憮然とした表情で、アントンは返事をした。
「僕になにをしろって言うんだ」
「あなた、狙った子は片っ端から口説き落として、ベッドに押し倒しているんでしょ? いつもやっていることを、私にもやってみてよ」
といいながら、アタシは二つの豊かな果実を、彼の背中に押しつける。
「おい、おい、何やってるんだ、やめてくれ」
ヤツも戸惑いながら、アタシのカラダをあちこちさわってくる。
コチョコチョ コチョコチョ
アタシはガウンの前から右手を挿入すると、アントンの身体をまさぐる。
彼もお返しとばかりに、自分の両手で太ももや背中を愛撫する。
だが彼の繰り出すリズムは、はっきり言って短調で、アタシの気分はなかなか盛り上がらなかった。
「あのさ」
彼は、私を射抜くような視線で見つめていった。
「なによ?」
「もうそろそろ、イイだろ? もう我慢できない」
あのさ、もうちょっとマシな言い回しができないかな。
とはいえ、彼がこの部屋に来てから結構時間がたつ。
誘うのだったら、もうそろそろ……という頃合いだな、とは思う。
アタシは右のてのひらを、ゆっくりとアントンの目の前に差し出す。
「じゃあ、さ。あなたが、私をベッドのある部屋に案内してよ」
といいながら、左手でバスタオルの胸元を押さえながら、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「わかったよ。僕のお姫様」
彼は気取った口調でそう返答すると、すっくと立ち上がり、自分の右手で私の手を優しく掴んだ。そして唇を、私の手に触れた。
アタシはそれを確認して、軽く頷いた。
これらの一連の行動は、男性から女性へ、そして女性から男性への、ベッドへのお誘いの合図である。
夜に部屋の主人、特に女性が異性を部屋に招き入れるということは、「今晩は大丈夫」という、男女間における暗黙の了解事項だ。この時点まで進んだら、よほどのことがない限り、相手を拒むということは、相手に対し失礼に当たるとみなされる。
アタシたちはベッドのある部屋に入ると、2人同時に、ゆっくりと静かにベッドに座る。
その姿勢で、アントンはアタシにキスをする。額に、頬に、そして唇に。
彼の唇が私の唇に重なった瞬間、私は両手を彼の首に回した。
そして目を閉じ、やや力をこめて自分の唇を彼のそれに押しつけた。
もうそろそろ、かな……
アタシがそう思った頃、彼の唇は、私のそれから離れた。
その間彼の手は、アタシの谷間を優しく弄っている。
やがて彼の手は、アタシが纏っているバスタオルの部分にたどり着いた。
彼はさっと、バスタオルをアタシのカラダから外すと同時に、アタシも彼が羽織るバスローブの紐をほどき、ゆっくりと脱がせた。