「ウグッ……ググゥ……殿下、気持ちいいです……」
アタシは「ハァ……ハァ……」と喘ぎながら、腰の位置を少しずつずらしていく。
確かに、ヤツのナニはこれまでに比べ、多少は硬くなってきた。
「ちったぁ硬くなったじゃないの? どうして最初からそうしなかったの?」
私は問いかけたが、ヤツは無言のまま私にされるままになっている。
呆れることに、アタシが腰を動かしている間、ヤツはマグロ状態になっていた。
アタシの腰の動きに合わせてヤツもお付き合いをするが、それだけだ。
「ねぇ……アンタも何かしてよ。さっきみたいに、アタシの胸を揉みしだくとかさ……」
「あ、ああ……うん、そうだね……」
ヤツは思い出したかのように、アタシの乳房を触った。
しかし彼の繰り出す愛撫のリズムは、この期に及んでも同じ動きの繰り返しだった。一瞬燃え上がったアタシの欲望は、あっという間に醒めた。
それでもこの状況を打破しようと、アタシは太ももでヤツのものをグイッ、グイッと締め付けてみた。だが、これが逆効果だった。
「アア……アハァ……」ヤツはなんとも情けない喘ぎ声を出すと
「で、殿下ぁ……ハア、僕はもうダメだぁ……」
というやいなや、自分の中に残っていた情熱を、ゴムの中にぶちまけた。そして両腕をアタシの乳房から離すと、グイッと伸ばしたままの状態でベッドに下ろした。そして
「殿下……僕は疲れました。重くて息ができないから、さっさと下りてください」
と、情けない声を出したのである。
数多くの男と浮名を流してきたという自覚はあるアタシだが、事後にこんな情けないことを口にした人間はいなかった。
私はヤツに気づかれないようにため息をつくと、さっさと彼の上から下りた。
ベッドから立ち上がると、素早くバスタオルを身に纏う。
アタシはドンドンと大きく足音を立てない気持ちをこらえてテーブルに向かうと、「アルマン・ド・ブリニャック」をグラスに注ぐ。勢いよく椅子に座ると、それを一気に飲み干した。
ここは普通のカップルだったら、性的に満足して男の胸に倒れ込む女の背中を優しく撫でながら
「よかったよ」
だの
「君は、僕がこれまでだいた女性の中でも最高の女性だったよ」
というべき場面だろう。それが相手から、社交辞令やお義理ととられようとも。
だがコイツは、そんなセリフを一言も言わなかった。
自分がキモチよければ、相手が不完全燃焼だろうが不満を抱いていようが知ったこっちゃない。
コイツの女性観は、おそらくヤツを躾けた一族のそれを反映しているのだろう。
アントンはしばらくの間ベッドの上で寝そべっていたが、やがて思い切り背伸びをすると、ゆっくりと上半身を起こした。
「殿下、私も喉が渇きました。シャンパンを一杯もらえませんか?」
頭をかきながらそうぬかす彼に、アタシは高飛車に
「は?」
と突っかかる。
「なにもそんなにツンケンしなくても……僕はただ、シャンパンが飲みたいと言っただけで」
「安酒でいいんだよね?」
「は、はあ……そっちでお願いします」
そういうヤツの表情は、まだどこか怯えている。
「なに怯えているの?アタシ、男性にそういう態度をとられるのが一番イヤなの。もっとしゃんとして!」
「殿下が、そんな高飛車な態度をとるからですよ」
アタシは頭を少し傾け、右手を額に手を添えると、嫌みったらしくため息をついた。
視線をアントンのいる方に向けると、ヤツは素っ裸のまま、テーブルの近くに立っている。
「いつまで素っ裸のままなの? バスローブ羽織りなさいよ。風邪ひきたいの?」
そ、それは失礼しましたと呟きながら、ヤツは慌ててバスローブを羽織った。
椅子に座り、改めてグラスにシャンパンを注ぐよう促した。
私はヤツのシャンパングラスに、安酒をなみなみと注ぐと、無言で彼の前に差し出す。
「い……いただきます」
戸惑いの表情を浮かべながら、ヤツはアタシに教わった通りの持ち方でグラスを口の前に運ぶと、それをゆっくりと飲み込む
「お……おいしいです。やっぱり僕には、こちらの方が口に合うようです」
安酒をグラス半分ほど飲むと、静かにグラスをテーブルに置いた。
「それでさ、これからのことを話し合いたいんだけど」
「あ、ハイ。なんでしょうか」
「それで、アタシたちの結婚の話なんだけどさ」
冷ややかな口調で、アタシはアントンに話しかける。
「この話、アンタは納得しているの?」
「納得もなにも、僕たちの階級になったら、結婚に関しては、自分達の意思が通るとは思っていませんよ。それは殿下だって最初から承知しているはずです」
ベッドの上で、アタシを満足させられなかったという失望感からか、ヤツの表情は陰りを帯びていた。