バルツァー一族及びレーベンスミッテルゲシェフト・ゲゼルシャフト社(以下LGH社)が、極右勢力とつながりがあるかどうかは、現段階ではわからない。
しかしアタシの将来の夫が、極右勢力の言いなりであると判明したら、我が国の国際社会での信用は全てなくなるだろう。
しかも我が国に限らず、極右思想と男尊女卑の相性は、抜群にいいときている。
今の我が国には、公の場で「男尊女卑」だの「難民排斥」を主張する政治家文化人の言動は、「次期皇帝」として多文化共生社会を目指すアタシの主義主張とは、到底相容れないものだ。
アタシの前でガタガタ震えているこのオトコも、ひょっとしたらガチガチのな男尊女卑思想の持ち主なのではないか。そうでなければ、ここまで女性をぞんざいに扱わないだろう。
アタシは深呼吸をすると、改めてアントンに向き合った。
「アントン・リヒャルト・バルツァー、アナタに聞きたいことがある」
「なんだ」小声で答えるヤツの目つきは、アタシに対する恐怖の表情が残っている。
「アンタのこれまでの立ち振る舞い言動は、あちこちから耳にするんだが」
「あちこちってどこだ? 情報機関か?」
「あら、べつに情報機関とは限らないわよ。アタシと交流のある人たちからも、いろいろ聞いているから」
「女子の口コミってヤツですか?」
「そりゃ、アタシだってたくさん情報源を持っていますからね」
だからアタシに対しては、隠し事をしてもムダなんだよ。抵抗するだけ自分が損するだけだから、諦めて私の言うことに従いなさい。
だが、ヤツが次にはなった言葉は、彼の醜い本性を露わにしたものだった。
「男と寝て情報をとっているのか?」
「……は?」
その瞬間、私はアントンがなにを言っているのか理解できなかった。
彼のホンネを確かめたくて、ゆっくりと彼の顔を見る。
目は完全に据わり、口元にはわずかながら嘲笑の表情が浮かんでいる。いくら君が正論を言ってもムダだ、我々の力は、君が思っている以上に強いんだといいたげに。
「人を小馬鹿にした態度をとる割には、君も頭の回転が鈍いようだね? 俺は君の情報網は、数多のオトコと浮名を流した結果だろといいたいんだ」
その瞬間、私は自分のカラダが、制御できないほど熱くなっていくのを感じた。
百歩譲って、自分自身がふしだらなオンナだというのは認める。
だが、アタシは欲望のおもむくままに、男とベッドを共にしたことは一度もない。
少なくてもアタシは、その場のノリと勢いでベッドを共にするような女ではない。
だがいま私の目の前にいる人間は、アタシと違った「皇女像」を持っているのだろう。卑猥な笑みを浮かべながら、アタシに言葉をかける。
「皇女や貴族の令嬢というのはさ、パーティーなどで自分の気に入った男を見つけたら、自分から積極的に口説いて、その晩のうちに深い関係になるのがほとんどだろ?」
「ハァ?」
コイツはいったいなにが言いたいんだ?
この国の上流階級や貴族の令嬢は、好みの男を見つけると、自分から積極的にアタックをかける人たちばかりとでも?
「あのさ」アタシは、怒りをかみ殺した声でヤツに声をかける。
「アンタってさ、本当に歪んだ女性観の持ち主だよね」
そこまで言うと、アタシはグラスに残っているシャンパンを飲み干した。
「あんたの振るまい言動をみていると、貴族や上流階級の女性どころか、女性全般に深い恨みを持っているとしか思えないんだけど」
「ああ、あるとも。山ほどな」ヤツはそう答えると、一層きつい視線をアタシに向けた。
「なにかあったのね?」
「そうだ、っていったら?」彼の表情は、まだ強ばったままだ。
「いったい、なにがあったの」
しかし、彼はすぐに言葉を返さなかった。ただじっと、あたしの顔を見つめまま黙っている。
アタシは、彼の口から出る息が激しくなっていることに気がついた。
「答えたくないってこと? だったら、べつにいいけど」
「……女子のクラスメートにいじめられた」
「いつ?」
「小・中・高」仏頂面で、彼は返事をした。
「原因は?」アタシの質問に対し、ヤツは口を開くそぶりすら見せない。
しかし、彼の口から出る呼吸は先ほどより一層荒くなった。体もブルブル震えている。
どうやら、非は彼の方にありそうだ。
「そのきっかけを作ったのはアンタでしょ?」
アタシが言葉をかけると、ヤツは真っ赤な顔をした。
「ひょっとして、アンタはクラスでいつも僕のパパは大企業の社長なんだぞ、君たちとは住んでいる世界が違うんだぞ』とかなんとか言ってたんでしょ。そんなことを言ったら、クラスで孤立することくらいわからなかったの?」
「僕は、悪げがあっていっていたわけじゃない」