※この作品はR-18です。

Naked Desire〜姫君たちの野望   作:右野向左衛門

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#19

アントンは不満げな表情でぼそっと呟くと、グラスの酒をゆっくりと飲み下した。

「そういうことは、誰にでもあるじゃないか?」

「誰にでも、ねえ……」冷ややかな口調で、アタシはヤツに言葉を返す。

「君のまわりには『さすがです、皇太孫様』とかいう人間がいないのかよ?」

「アタシはそういう人間は好きじゃない」

「他人から褒められるのは、いい気分だとは思うが? 」

「『褒められる』といっても、時と場合と相手にもよるでしょうが。先輩や上司だったら、その言葉は額面通りに受け取ってもいいかもしれない。でも友人や部下だったら考えちゃうな。なにか下心があるんじゃないかってね」

アタシがムッとした口調で言い返すと、ヤツは再び黙り込んだ。

どうやら、彼は上司や先輩から褒められた経験がないらしい。

「そのとおりだとは思うがね」

「あら、不服でも?」

「君の妹殿下だって、いつも取り巻きを沢山引き連れているだろう? 」

「だから? 」

「あちこちで聞くぜ。『エミリア殿下は、いつも大勢の取り巻きを引き連れてパーティーに参上し、他の参加者に尊大な態度をとっている』ってね」

「そりゃあさ、国民はエミリアのことをよく思っていないわよ。気は強いし口は悪いしね。でもね、それはメディアや彼女を嫌っている連中のせいもあるのよね」

テーブルをトントン叩きながら、アタシはいらだちの感情を、アントンに向けて吐き出した。ヤツは、そんな私をじっと見つめる。

確かにエミリアは、アタシと違って愛想がよく、その周囲には大勢の人が群がっているが、その反面自分の嫌いな人間に対しては、アタシから見ても

「お前、いくら何でもそれはないんじゃない? 」

とツッコまざるを得ないほど、尊大な振る舞いや、物言いのきつい言い方で、相手の気分を害することが多い。それも、皇室主催の公的行事やパーティーでだ。たまたま居合わせた他の参加者にとっては迷惑千万な話であり、たまたまその場面を目撃したばかりに、彼女のこと嫌う人間も多い。

だがアタシに言わせれば、エミリアほど私や彼女の友人と、世間の第一印象がギャップの大きい皇女はいない。

エミリアとメディア関係者の確執は、知らない人間はモグリといっていいくらい、社交界では有名である。彼女の自由奔放かつ思わぬ高飛車な物言い、派手な男性関係は、我が国メディアにとっては「メシの種」という名の、格好の標的なのだ。

エミリアはメディア関係者の顔を見るたびに

「言葉尻を捉えて、あることないこと書き飛ばしてるんじゃないわよ! 」

と、居丈高な口調で彼らを挑発することが多い。メディア側も彼女の挑発を無視すればいいのに、煽動的な見出しの記事を掲げた記事を掲載する。そのたびに事情を知るものは

「もういい加減にしてくれ」

「どっちもどっちだ」

と、苦々しく思っているのだが、真相をなにも事情を知らない国民は、それらの記事を見て

「エミリア殿下はタカビーであばずれなで性悪な皇女」

というイメージを抱いている。

よせばいいのに、彼女の取り巻きの中には、ゴシップ記事をわざわざ彼女に教える人間がいる。それが原因でエミリアは王室の定例会見出席を拒否し、そのことをメディアが

「エミリア殿下、また定例会見への出席を拒否」

と書き飛ばし、その記事を読んだ彼女はますます怒り狂う……ということが、ここ数年(特に、彼女が20歳を迎えて以降)続いていた。

アタシはエミリアがメディアといざこざを起こすたびに、時にはやんわりと、時には人目のつかないところで、ややきつく注意している。しかし勝ち気で意地っ張りなところがある彼女は、なかなか私の忠告に耳を貸さず、それがアタシにとって頭痛のタネである。

さらに困った存在が、下位中流階層と下流、貧困層に所属する国民の存在だ。

この階層に属する市民は、ほぼ全員とまではいわないまでも、ほとんどの市民はエリート層やある程度の知性と教養を持つ市民から「カストリ」「イエロージャーナリズム」と揶揄される、ゴシップ雑誌やタブロイド紙しか読まない。

これらの新聞・雑誌には、毎日・毎号のようにエミリアの不倫疑惑、熱愛騒動、派手な男性関係の過去を扱った、刺激的な記事が掲載されている。「他に取り上げるネタはあるだろう? 」と、アタシはそれらの見出しを見るたびに嘆息する。

もちろんそれらのネタ元は出所不明なものがほとんどで、中には明らかに「名誉毀損」で訴えられてもおかしくないレベルの記事が掲載されていることも多々ある。

これらの記事は、アタシが唾棄する「とある勢力」には都合がいい存在だが、エミリアの本来の性格を知っている人たちにとっては、迷惑千万なものでしかない。まあその厄介ごとを招いている一端は、エミリアにもあるのだが。

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