「ですから、ちゃんとワタシは大学を出たといっているではありませんか。嘘つきと言われる筋合いはありませんよ」
眉間にしわをよせて、アントンが反駁する。嘘つき呼ばわりされたのが、よほど癪に障ったようだ。
「僕、大学は国外に行ってたんですよ」
「弟さんも?」
「はい、一緒の大学でした」
「国外とは? 」
重ねて問い質すアタシのしつこさに辟易したのか、ヤツは自分の母校は北米連邦の大学だと答えた。大学名を尋ねると、アタシの知らない大学だった。察するに、国内では入れる大学がなかったから、外国の無名大学に行ったのだろう。
「それで、その大学は、ゼミが必修じゃなかった、っていうわけなんだ」
「僕の大学、規模が小さい割に科目数がたくさん開講されていて、一つ一つの科目が、まるでゼミみたいな雰囲気だったんだよ。それがゼミ代わりのようなものだな」
「ふーん」
早い話、学生があまりいない大学だったんだね、とアタシは心の中で独りごちる。
「小さな大学だったんだね? 」
「いや、僕が在学中は、学生数の割に大規模な施設が結構あってね。以前は学生が大勢いたらしいんだ。なにが原因か知らないけど、僕がいた頃は学生もそれほどいなかったんだよ」
気がつくと、ヤツの口調は丁寧調から砕けた口調になっている。まるで「僕も大卒なんだよ」といいたげに。
アンタみたいな無名大出身者と、グランゼコール出身者を同一視するのは、アタシとしては非常に不愉快なんだけどな。
「地元出身の学生はいたの? 」
「うーん……いわれてみれば、自分たちを含めて、外国人の学生が多かったような記憶が……」
「北米連邦の大学だから、授業はもちろん英語で行われるんだよね? 」
「いや、在学中はラティーノ(ラテン系の民族)の血をひく学生も結構いてね、ラティーノ語で実施される授業も数多く開講されていたよ」
「じゃあ、あなたもラティーノ語は少しできるんでしょ? 」
アタシはそう聞くと、カレは右手でポリポリ頭をかきながら
「残念ながら、僕はラティーノ語はからっきしでね。英語だけは必死で勉強していたからなんとかなったけどね」
ヤツの繰り言に、アタシは小声で「ああ、なるほどね」と呟く。ヤツの母校は、外国の留学生を大量に入学させなければ、経営が成り立たない状況だったのだなと、勝手に推測する。
「で、アンタの通った大学はその後どうなった? 今もあるの? 」
アントンは「フーッ」と深くため息をつくと、視線を落として
「僕の大学、弟が卒業すると同時に閉校になってね。法人も解散したらしいよ」
「それはご愁傷様」
そういえば我が国も、今から200年くらい前、学生の定員数が国内で満たせず、成績度外視で外国からの留学生で定員を埋めた大学があったらしい。
こういう大学は、国内の学生と留学生との間でのトラブルも多かった。もちろん、留学生と地域住民との関係も悪かった。
メディアが留学生の不祥事を大々的に報道したため、当時の政府もこれを問題視した。そして、我が国の大学に留学を希望する家以外の生徒は、各大学で実施する留学生認定試験に合格しないと、入学できない法律が制定された。法案を主導した議員がマックス・フリードリヒ上院議員だったので、この法律は世間では「マックス・フリードリヒ法」と呼ばれている。
この法律ができたことで、国内の各大学は、留学生に頼らない学校運営を目指したが、国内の学生が集まらないために、閉鎖に追い込まれた大学もあったそうである。
なので、我が国の大学の入試はかなり難しい。海外の大学を選ぶ我が国の高校生は、よほど頭がいいか、やんごとない事情で「大卒」の肩書が欲しいか、どちらかだ。
「どうして、あんたたち兄弟は国内ではなく外国、それも北米連邦の大学を選んだの? その気になれば、国内の大学には入れたでしょ。親の力を使ってさ」
私はそう言うと、グラスのシャンパンを口につけた。
「それは個人的な理由だ。そこまで殿下に言う必要はないと思うがね」
「ついさっきまで『君は僕のお嫁さんになってもらう』なんて偉そうなことをいっておきながら、自分の都合の悪いところには頬被りを決め込むつもり? それって卑怯じゃなくって? 」
「卑怯じゃない。たとえ夫婦でも、墓場まで持って行きたい秘密の一つや二つくらい、あってもおかしくないだろう」
表情を引きつらせて私に反論すると、ヤツもグラスに入っているシャンパンを口につけた。
「君にだって、親しい者に知られたくない秘密が一つや二つくらいあるだろう。特に異性関係についてはね」
「女心をたぶらかせて平然としているようなヤツが、人前でそんなことをいうかね?これでもアタシは皇太孫なんだけどな」