「もーあの人はどこいったんだ……!」
ツカツカと足音を立てて、モモンガはナザリック内を移動していた。目的の人物はメッセージにも応じず、巧妙に自分の痕跡を隠していて、こうして足で探すしかなかった。
モモンガの進む廊下には、至る所に白くベタつく何かがこびりついていた。シモベのメイド達はいそいそとそれを片付けているが到底追いつける数ではなく、モモンガがさらに激昂する。
窪んだ眼窩の焔は迸るように火の粉を散らし、ギョロギョロと辺りを見回す。
内に秘めた怒りは、凄まじいものだった。それは見知らぬ土地で一人置いていかれた事、モモンガが妙なゴタゴタに巻き込まれたにもかかわらず安全地帯で恐らく愛妻とズコバコしていた事。そしてもっとも許せないのは、童貞仲間だったラセツが相思相愛のヤリチンにジョブチェンジした事であった。
とても笑顔で祝福できるものではない。許せん。うやましい。爆発しろ。女の子紹介してください。
そんな思考で頭がいっぱいだった。
確かに、守護者の中にはモモンガに好意的な視線を送ってくれるものも多い。だが、モモンガは彼らの事を子供のようなものと考えていたし、何より男性器が消失していては永遠の童貞になるしかなかった。
「三十歳まで童貞だと、魔法使いになれるって本当だったなぁ……」
モモンガは幻の涙を流しながら、しみじみと思った。あと、ちょっと殺意が湧いた。
そこに、曲がり角から優雅な少女が現れた。高貴な身分を示すような膨らんだスカートを翻して、モモンガを目の前にすると恭しい動作でこうべを垂れる。
「モモンガ様、ご機嫌麗しゅうございます……♡」
「うん、じゃなくて……ああ、シャルティアか、ご苦労」
モモンガは慌てて支配者の表情を取り繕うと、とりあえずそれっぽい事を口にする。今のところ一番可能性があるのは彼女だが、男性器が消失した今では性欲をどうこうする事は不可能だ。
なんだかんだでちょっぴり女性を求める自分に嫌気がさし、ぶるぶると頭を振る。彼女達をそんな目で見ることは、自分のプライドと、仲間達の大切な思い出が許さなかった。
シャルティアは違和感に首を傾げるものの、至高の御方を疑うの不敬だと改めて頭を下げた。
「ご苦、労……? いえ、御身のためとあればいかようなご命令にも従いんす」
彼女達の大袈裟な忠誠心に未だ慣れず、シャルティアの態度に内心やり過ぎだろと思いながら、モモンガは大切な連絡を思い出す。
「こほん……シャルティア、私のことはこれからアインズと呼べ」
「アインズ様……?」
「ああ、この名を聞けば、かつての仲間達がこの世界に来ていた場合気がつくかもしれない」
懐かしむような声音のモモンガに、シャルティアは再度疑問を投げ捨て、その通りだと頷き返す。
「素晴らしい、お考えでありんす」
モモンガも深く頷く。そしてシャルティアに手を差し出す。
「あ、アインズ様……!?」
「立て、階層守護者が容易く膝をつくものではないぞ」
「は、はうんっ♡ なんて素敵な……うう、おまんこが……♡♡♡」
「ん? どうした?」
モモンガ渾身のイケメンフェイスで首をかしげると、シャルティアは顔を真っ赤にしてなんでもないですと首を振った。骨の手を取り、引っ張り上げられる。
シャルティアは、スカートにシミがつかないように細心の注意を払い、立ち上がった。
「そうだ、ラセツさんを見なかったか?」
「……あー、んー」
そこでシャルティアの反応が、うって変わって見たことのないようなものに変化した。
え、なんか変なこと言った? と焦るモモンガ。シャルティアは言うまいか言わまいかと悩んだ末に、居場所を明かす。
「キッチンに、いるでありんす……」
「ありがとう……?」
曲がり角の先を指差し、行けば分かるとシャルティアは頭を抑えながらモモンガに別れを告げる。
シャルティアの反応の答えは、すぐに判明した。
ーーーーーーー
アルベドの大虐殺から日を跨ぎ、翌日になると二人はキッチンにて仲良く隣り合って座っていた。
「あーん……♡♡♡」
「あーん……むぐむぐ」
固唾を飲んで見守るアルベド。ラセツはわざと焦らすようにして長めに咀嚼すると、アルベドは喜びと絶望の境い目のような顔を浮かべていた。
こうしてお預けをするだけでこうも愛らしく表情を変える妻に、ラセツは段々と自分が依存し始めている事を自覚していた。
だがここは――この世界はもはや現実とはほど遠い異世界であった。ならばこそラセツは、我慢など一切しない。己が望む全てを、愛する彼女と共に掴み取って行くつもりだ。
「……くくく、流石だアルベド、美味いぞ」
その言葉を聞いたアルベドが、ぱぁっと笑顔の花を咲かせた。子供のような純粋な笑顔は、しかして彼女という絶対的な美人がする事によってエロスが滲み出てしまう。
ラセツは口に残る柑橘類の香りを味わいながら、アルベドが持つフォークを優しく奪い取った。
「あっ……♡」
「ほら、お前も食え。俺だけだと寂しいぞ」
「いえ、そんな……」
「良いから」
ラセツは皿の上に乗ったオレンジ色のケーキをフォークで割ると、形を崩さないように刺してアルベドの口元まで運んでいく。
「あーん」
「は、はい……あーん……♡♡」
女性らしい小さな口が、遠慮がちに開かれる。音をたてず咀嚼する有り様は紛れもなく淑女の姿であり、ラセツは頬をだらしなく緩めた。
「美味いだろ? ……って言っても、アルベドが作った訳だし、自分じゃ何も言えないか」
「い、いえ、ラセツ様にこうして食べさせて貰うだけで、どのような物でも至上の味わいに……♡♡」
「ははは、言い過ぎだろ。まったく可愛いなお前は」
思わず艶やかな黒髪を撫でると、アルベドは頬を染めて微笑んだ。
その静かな喜びとは対照的に、彼女の背後で暴れまわっているのはハートマーク型の尻尾である。ブンブンと犬のように振り回して喜色をあらわにしている。
ラセツは笑いを堪えながら、自身の尻尾をそれに絡み付ける。
アルベドが頬を更に赤くした。
「あっ、こ、これは申し訳ありませんっ♡♡♡ はしたない尻尾で……♡♡♡♡」
「俺としては尻尾じゃなくて本体がこんな風に喜んでくれると嬉しいんだが?」
「く、くふふっ♡♡ よ、よろしいのでしょうか?♡♡」
ねっとりといやらしい表情で、アルベドはラセツの身体に絡みつくようや視線を送ってくる。ラセツの特性が淫夢を捉えた。
「朝っぱらから散々中に出したろ? まだ犯され足りないのか?」
「で、ではお口直しにわたくしの身体を♡♡」
アルベドはぴったりと椅子を真横に付けて、むぎゅうと乳房を押し付けてくる。簡素なドレス姿ながらその蠱惑的な動作にラセツは興奮した。
「いやいや、どう考えてもお前の方がデザートだろ……ちゅ、れろ」
「ああんっ♡♡」
ラセツは細い首筋にキスをすると、そのままチロチロと鎖骨の辺りを舌先で刺激する。
「れるれる、んちゅ……」
柔肌をしゃぶりつくように移動して、上乳ともいうべき乳肌に舌を走らせる。アルベドと体を重ねてから数えられないほど嗅いだ甘ったるい乳房の匂いを存分に堪能し、やがて乳山の山頂に到達する。
ラセツが人差し指ではらりとドレスを外すと、ぷっくりと膨らんださくらんぼが、ぴくぴくと震えていた。
「れろ、れろ、はぷっ……」
「んっっ……♡♡♡」
二度、三度とつつきまわし、続いて綺麗な乳輪ごと口に含む。甘い声を出したアルベドが、後頭部をそっと撫でてきた。
「ラセツ様、まるで赤子のようですわ……♡♡♡ 可愛らしい……♡♡♡♡」
「ちゅぷ、ちゅ、れる……」
「ふっ、ああんっ♡♡ お、おっぱい美味しいですか、ラセツ様?♡♡♡♡」
返答の代わりに思いっきり乳首に吸い付くと、ぷるぷると乳房を揺らしてアルベドが嬌声を上げた。
「ん、はぁぁぁっ♡♡♡♡♡」
「いや、んはぁぁぁっじゃなくてですね」
唐突に聞こえた第三者の声に、ラセツは思いっきり不機嫌そうな顔で睨みつける。
「あ?」
「いやいや、あ?じゃなくてですね……もう、頼みますよラセツさん……」
「……おお、モモンガさんか。どうよ、その後の調子は」
「……色々と言いたいことがあるので円卓に来てください」
ぷるぷると怒りを抑え込むように身体を震えさせるモモンガ。
ラセツはそれを見ないフリをして、アルベドの綺麗なおっぱいを愛おしそうに見つめる。
「ん、そうか。わかった、ちょっと待ってくれ……ほらアルベド、続きだ、はむ」
「ひぃぁんっ、や、やんっ、乳首ぺろぺろされてるぅっ♡♡ あんっ、も、ももんがさまのまえでぇ、おっぱい吸われてるゥっ♡♡♡♡ もっ、もうしわけありませんぅ♡♡♡ 守護者統括がぁ、っ、あひっ、え、えっちでなさけない顔見せちゃってぇ、ごめんなさいぃっ♡♡♡♡♡」
ぶちんと、何か大切なモノが切れた音がした。
「……ら、ラセツさん!! おらちょっとこっち来いやああああああっっっっ!!」
「うおおおおおおっ!?」
力ずくでアルベドから引っぺがされると、何処へと向かうのともしれない転移の扉にぶち込まれる。ラセツは「ああん♡」と寂しげな彼女の声を背後に、ゴロゴロと空間の裂け目に転がり落ちていった。
「ぐ、ち、ちくしょう……ん、ここは?」
「……円卓です。今後二人で話すときはここを使いましょう」
ふわりと虚空から姿を現したモモンガは、そのまま何事もなかったかのようにいつもの席についた。
ラセツも腰をさすりつつ、流石に無視は出来そうにないとそれに倣って自分の椅子に腰掛ける。
「……まったく、いつの間に帰ってたんですか、ラセツさん! こっちは夜通し走り回ってたのに!!」
「……いや、モモンガさんの目の前で堂々と帰ったよな?」
「ばっ、馬鹿なんですか!? あんなの、アルベドと話に行ったとか、或いは村の観察とか、そんな感じだと思いますよ!!? まさかナザリックに帰るなんて!!! しかもなんか美味しそうなの食べてるし!!」
「だってアルベドとエッチしたかったんだもん」
わざとらしくふくれっ面を作るラセツに、モモンガもこれまたわざとらしくため息を吐いた。
「だもん、じゃないですよ……お陰で戦士長とか言う人と知り合ったり、法国の人間と戦う羽目にですね……」
「ほーん、楽しそうでよかった。んじゃ、アルベドの所に戻って良いか?」
「よ! く! な! い!! ぜんっぜんっ、よくないですよぉっ!!!?」
円卓の机をバシバシと叩いて、ここぞとばかりに骸骨頭が激怒する。シュールな光景にラセツは吹き出すが、それがまたモモンガの機嫌を損ねた。
「ラセツさん! アルベドと会えて嬉しい気持ちも分かりますが、少しは協力してください!! ……もう、マトモに人間として話せるのはあなただけなんですから」
「これは間違いなくモモンガは苦労人のタグがつけられるな。そういえば一時期自分でもギルド板に苦労人ってコテ着けてたよな?」
言葉の途中で青く頭蓋が輝き、モモンガがシュンと大人しくなった。最後の絞り出すような言葉にラセツが茶化すような空気を出すと、モモンガはなんとも言えない声を出した。
「……すいません、今のは聞かなかったことに」
「ん? なんの話?」
「だから、マトモな人間は……ああ、いや、なるほど。ありがとうございます……ふふ、変わりませんね。ラセツさんは夢魔になっても、何も変わらない」
「……逆にモモンガさんは変わったのか?」
「ええ、まぁ、色々と……」
「ほーん、あんまりそうは見えないけどな」
白い骨格をカタカタと揺らして、おどけたように首をかしげる。「どこが?」と言いたげなモモンガにラセツはそうじゃないと首を横に振った。
「楽しそうだ。昔のギルドマスターみたいだ」
「そう呼んでくれたのは数少ないですけどね。ですが……そうですか、楽しそうですか」
「実際どうなんだ? 未知の世界にワクワク感とかないわけ?」
モモンガは考え込むように、顎のあたりを骨の指でもって撫でた。
「……たしかに、そういった部分が無いとは言い切れません。ラセツさんはあまり見てないと思いますが、例えばこの世界は自然が凄いですよ。夜空が綺麗でね」
「マジで? もはや失われたプロポーズの月が綺麗ですねが実現可能なの?」
「月が……? え、何です?」
「何百年も前の名著だ。文献は大半が腐り落ちてるから、現物は手に入りづらくてな……いや細かいことはいい」
「伝わらないなら構わない」と頭を振り、顎をしゃくる。要件はなんなんだと表情で尋ねた。
モモンガはようやく落ち着いたのか、うむと大仰に頷いた。
「……まぁ色々と情報を仕入れましてですね。掻い摘んで考えてることを説明しますと、二人で冒険者というものにならないかと」
「却下」
「分かってくれますよね。そう、あの冒険者です。これがワクワクの正体です。二人で伝説の大地に赴いたり、古から大地に眠るラスヴォスとかと戦ったり、或いはもはやオモチャになりつつある滅茶苦茶棘飛ばしてくるだけの古龍とも呼べないモンスターとかをハンティングにって……ええっ!? 今なんと!!?」
「アルベドと離れ離れになっちゃう」
「ちょっ、えっ、えぇ……? どんだけ好きなんですか……っていうかその言い方だともうナザリックから出たくない、感じです……よね……?」
「もちろん」
がっくりと肩を落とすモモンガ。ラセツは追撃の手を緩めない。
「それにだ。モモンガさん、アンタ自分の力なら何でもぶっ殺せると思ってるみたいだが、俺たちは良いとこ中の上くらいだ。ユグドラシルのレベル百に匹敵する強さの奴がいたらどうする? 俺たち二人が死んだら? 誰がアルベドを守るんだ?」
「……いや、その、アルベドってか、ナザリックを守るって話だと思うんですけど……ひっ、に、睨まないで! わ、分かってます、概ねその通りだと思いますよ!! でも諦められないじゃないですか!!? ファンタジー世界を冒険ですよ!!!?」
どうやら冒険者にお熱なようで、生半可な説得では納得してくれそうになかった。
ラセツは戦法を変えた。
「仮に、仮にだ。冒険者になるとしても、どっちかはナザリックに残った方が良いな……それなら蘇生も可能だ」
「うーん、た、たしかに……ん、今これ体良く一人で外に行かそうとしてる……?」
モモンガは頷きかけて、途中で首を傾げた。
まくし立てるようにラセツは喋る。
「モモンガさん、だからだな、俺は、まぁ涙を飲んで、その冒険者役をお前に譲ろうと思う」
「間違いない……!? この人アルベドとイチャイチャしたいがために追い出そうとしてる!!?」
強引すぎたかと小さく舌打ちすると、そんなことないよと笑顔で首を振るラセツ。
「今、舌打ちしました……?」
「ちっ……してないぞ」
「ま、また舌打ちしたぁ!! こ、こうなったらこっちにも考えがありますからね!!!」
「あん?」
モモンガは両手を円卓に叩きつけて立ち上がると、ビシィッと人差し指を突きつけてくる。
「これからナザリック内でアルベドと、せ、セックスするのを禁止にします!! もう廊下とか玉座とか色んなとこに精子落っことしていくのやめてくださいよ!!! どこ歩いても生々しい状態でべっとり落ちてるんですから!!! ってか色んなとこでヤリ過ぎィッ!!?」
「な、何を言ってやがる、そんなことしたら俺死ぬぞ」
冗談抜きで、性を満たさないと自分は死ぬ。ラセツはそう考えていた。それがこの体のデメリットである。
だが、モモンガはそれをまじめに受け取らなかった。
「ここに来る途中も、ルプスレギナが舐めちゃったのなんだのってメイド達が大騒ぎしてましたっ!! もう勘弁なりませんっ!! ラセツさんには冒険者になって情報を集めてきてもらいますからねっ!!」
「流石駄犬」
「良いですね!!? き、聞いてますかっ!!?」
「聞いてるって……それで、勿論アルベドは連れてって良いんだよな?」
「んもう、駄目!! 彼女にはナザリックの管理があるので連れていくのは許しませんっ!! お供として許可するのはプレアデスくらいです!!!」
「いやー、キツイっす……てか、管理ってなんだよ、なんとかなるだろ。絶対嫌がらせしか意味ないだろそれ」
「ふんっ、だ! 自業自得ですからねっ!!」
モモンガはそれっきり口を閉ざすと、プリプリと怒って、円卓から飛び出ていった。
ラセツはやれやれと首を振った。
「何怒ってんだよ……とりあえずアルベドと話すか」
「ダメです、今すぐ出て行ってください」
「な!? 盗み聞きとは汚いぞモモンガァ!!」