創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
JOKERへの敗走を機にラプラスは意気消沈していた。ステルスを解かせた意外に何も手を出せずに、圧倒的な力の差まで見せつけられた。騎士団でも上位の階級である女王に任ぜられた責任の重さは、彼女の性格からして深く理解している所だった。初陣、そして2度目の出撃共に結果を残せなかったとなると、余計に先行きが見えなくなる。
(JOKERさえどうにか出来れば、怜の目だって覚ませられる...どうして私はそれが出来ないの...?)
交流区画に存在する公園のような場所で、ホットココアの缶を両手に握り空を見上げる。考えれば考えるほど、溜息しか出なかった。次の作戦でも、間違いなくレオンの部隊で動くことになる。経験だけでマウントを取ろうとするような彼を、ラプラスはどことなく気に入らなかった。ふと誰かの声が聞こえたので、目を遣ると二人の男が話ながら歩いているのが見えた。片方はザフトの白服を着た、やや冴えない感じの青年。もう片方はティターンズの軍服風の姿をしているが顔立ちは、前者の青年よりやや若い。とは言え彼らの振る舞いからするに年はほぼ同じなのだろう。ラプラスは気に留めずココアを一口飲んだ、その時。
「そうなのか...アイツに、会ったんだな。...それはあの場で言わなくて正解だと思う」
ティターンズ風の少年が言うと、白服の方は「え?」と聞き返す。
「ハイラックさんとあのレイって人...何か関係があったって奴か?」
「とにかく、俺はともかく...ハイラックには絶対に言うな。JOKERを倒す以前の話になってしまう」
白服の方が言った「レイ」の名前に、ラプラスは妙な引っ掛かりを感じた。横目でしばらく見ていると、ティターンズ風の少年はログアウトしたのか姿を消した。そのタイミングでラプラスはベンチから立ち上がった。
「ねぇ、今あなたが話してた"レイ"って人の事...聞かせてもらえないかしら?...あぁ、ごめんなさい。私はラプラス。ちょっとある人を探しているの」
白服の青年、エスはぎょっとして半歩後退りした。
「あ...えと、エス・ブラックベイです」
エスの目に映るラプラスは、科学者の様な白い儀礼用の軍服姿とも取れた。黒く長い髪に眼鏡と言う特徴もあって、かなりお堅い感じの印象があった。それ以上に彼女の顔は、生気がやや消えかかっている気もした。レイから感じる冷たさとは違うとも思った。
「あ、このままってのもアレよね...よかったら座って?」
ラプラスが笑顔を取り繕い、エスに隣に座るよう促した。エスはと言うと、警戒を解いていないことを悟られぬようにするので必死だった。このダイバーがどこかおかしい。第六感がそう告げていた。
「それで...どこでレイを見たのか教えて欲しいんだけど...」
早速ラプラスは手帳とペンを呼び出して膝の上においた。仮想空間ならそのような物を態々用意せずとも、メモを取るくらいなら音声記録も使える。エスは少し不思議がった。そして、どこまで話せばいいのか分からなかった。ラプラスという得体の知れないダイバーと、レイと言う人は何かしらの関係があるのだろうか。ウェルスが先に「ハイラックには絶対話すな」と言う警告が頭を過る。ハイラックは全世界で五本の指に入る程の実力があると聞いたことがあった。ならば自分の知らない人脈があってもおかしくは無い。彼を知る立場のエスとしては、間者を使って裏から情報を回収するとは考えられなかった。
「...戦艦の中でした。バトルの中で...俺が追い詰められた所を助けてもらって、その時です」
ラプラスは、今のエスの回答を漏らさず手帳に記していく。
「どんな感じの人だった?青い髪だった?」
「え...知り合いじゃなかったんですか?探しているなら知っているもんだと...!?」
「同じ名前のダイバーならいくらでもいるから、少しでも間違えないようにしたいのよ」
ラプラスが真顔で見てくる。だがエスはレイの時のような感覚とは全く逆の物を感じていた。
「なるほど...それはあるかも知れないですよね。確かに髪も目も青かったですね...ってあれ...ラプラスさん...?うぁあっ!?」
突然、エスの首筋に電撃が走るような痛みが遅い意識を一瞬にして失った。だがアバター体はログアウトしたのと同じ処理がなされて消失した。
「...安心して、現実に帰しただけだから。これでハッキリしたわ...怜は"
ラプラスは強い眼差しで空を見上げ、歩き出した。
青空の下、見渡す限りの大草原と大河。その中をかける2点の光。中世の騎士の意匠を強めたトールギスと、細長い銃身のライフルを携えた黒いガンダム。
「それがお前の新しい相棒か?レオン」
トールギスのコクピットには、頭が半分ほど隠れるメットを被った男、デュークが。以前とは姿が大きく異なり、ゼクス・マーキスその物となっている。
「ガンダムTR-1 ハイゼンスレイだ。イカしてるだろ?デュークは相変わらずトールギスか?」
レオンはモニタ越しにデュークに得意げな表情をした。TR-1と言えば、ヘイズルの名で有名な機体である。ジムクウェルに新規設計したパーツを盛り込み、ガンダム化させた物を礎として、他の武装等と換装する事でありとあらゆる形態に変化する。TR-1 ハイゼンスレイは、"TR-6 ハイゼンスレイ"用のパーツを組み込んだ形態である。だが上半身をTR-6からそのまま入れ替えているので、原型として残っているのは脚部だけなのだ。
「トールギスアイゼンリッターだ。そう何度も言わせる...来たか!行くぞ!」
デュークが苦笑交じりに返した矢先、対向方面から2つの反応が現れた。最初に視認したのは、ビルドストライクガンダムだった。しかし、両肩についた赤いクリアパーツや背中の白いフィンがついた星型のストライカーを装着している事から、デュークはその正体を看破した。
「ビルドストライクガンダムギャラクシーコスモスか...!レオン!もう片方は見えるか?」
デュークの機体は接近戦用である。有効に機能する視界範囲もレオンのTR-1ハイゼンスレイに比べると多少狭い。
「見えたけどよ!ガンダムダブルオーザンダイバー?これまたすげぇのが来たな...」
ダブルオーガンダムに見えたのは、カスタマイズ密度がビルドストライク程ではなかったからだ。ガンダムダブルオーダイバーに、追加武装ユニット"ザンユニット"を取り付けたオーライザーを装着している。要するに、ダブルオーザンライザーのダブルオーダイバー版ということになる。レオンは希少なキットを目の当たりにして舌を巻いた。
「ビルドストライクの方を後々残すわけには行かんな...!」
デュークのトールギスアイゼンリッターが先行した。それに合わせ、レオンのTR-1ハイゼンスレイもマルチプルコンポジットシールドブースターで、ビルドストライク
「甘いな!済まんが動きを封じさせてもらう!」
デュークは一度レバーを後ろに倒した。トールギスアイゼンリッターが一旦後退、シールドの裏から一対のアンカーが伸びビルドストライクGCの肩と胴体の間に食い込んだ。その瞬間、電撃が迸りビルドストライクGCは大地へ向けて自由落下を始めた。仇討ちをせんとダブルオーザンダイバーはGNソードⅡを抜き放ち、トールギスアイゼンリッター目掛け突き進む。だがそれを、TR-1ハイゼンスレイの狙撃が許さなかった。
「ちゃっちゃとぶっ飛ばしてやる!マルチプルコンポジットシールドブースターってのは...こういう物なんだよぉ!!」
ダブルオーザンダイバーが真横にバレルロールしながら、GNソードⅡ・ライフルモードを連射する。立て続けにもう一丁を手にし、ショットガンの如く拡散するビームを雨嵐の如く吹付けさせた。しかし、TR-1ハイゼンスレイは悠然と構えていた。右手を覆い尽くす大きさのマルチプルコンポジットシールドブースターが、ガシャンガシャンと機械音を立てながら目にも留まらぬ速さで変形する。そしてクローの形を取った頃にはハイゼンスレイの腕から飛び出し、ダブルオーザンダイバーの死角まで回り込んだ。ダブルオーザンダイバーは驚くあまり、狙いをハイゼンスレイから
「もう遅い、諦めんだな」
レオンが勝ち誇ったように宣言した。MCSBの中央部から赤い光が漏れ出した。爪がダブルオーザンダイバーの胴体に食い込み続け、腕が弾け飛ぶ。だが彼を待っていたのはそのような生易しいものではない。そう思ったがビルドストライクGCが再起し、バーニアを全開にしてMCSBを蹴り飛ばしダブルオーザンダイバーを救出した。
「おい!何で止めなかったんだデューク!」
今のビルドストライクGCを阻止できれば、確実に勝利できた。レオンはデュークが何を考えているのか、何となくだが分かっていたが敢えて問うた。
「愚問よな、レオン...ダブルオーの方はともかく、あのビルドストライク...力を残しているのやも知れん...!そうとなれば答えは分かっているだろう?」
デュークはあのビルドストライクGCから何かを見出したらしく、気持ちの昂ぶりを抑えずにはいられなかった。
「そういう事かよ、分かってたぜ。組織の中にいながら、お前は全く変わった奴だよ」
レオンはため息混じりにつぶやき、MCSBを呼び戻し再変形させた。銃身の下を沿うように伸びる刀身が赤熱化する。
「だったらもう片方が邪魔に入らないようにするだけってか、俺は!」
ハイゼンスレイが全速力でダブルオーザンダイバーへ直進する。それを阻止しようとビルドストライクGCはスタービームライフルを高出力モードに切り替えた。だがトールギスアイゼンリッターの蹴りを受け、僚機から大きく引き離されてしまった。
「トールギスは決闘機でな...こうでもしなければ対等にやり合えん。悪く思うなッ!!」
トールギスアイゼンリッターがスーパーバーニアを起動させ、ジクザクに機動を描いて接近、ビームサーベルを逆袈裟に振るった。ビルドストライクGCもサイドアーマーからビームサーベルを振り抜き鍔迫り合いに持ち込んだ。スーパーバーニアによる圧倒的な推力を前に、ビルドストライクGCは押される。しかし、機体各部に配置されたクリアパーツが真紅の輝きを放ち始めた。デュークはそれを見るや更に嬉々とした。
「巻き返すならばそうしかあるまい!全力を見せるがいい、ビルドストライクのパイロット!」
デュークの言葉に応答するかのように、ビルドストライクGCのストライカー"ギャラクシーストライカー"が緩やかに動き出した。星を形作っていたフィンがそれぞれの方向に分かれ、白く可憐な花を咲かせた。だがその姿がデュークには雄々しく映った。ビルドストライクGCのフレームが青白く発光する。バーニアの噴射も比べ物にならないほど大きくなり、トールギスアイゼンリッターが押し返される。そして、ビルドストライクGCの全身から赤と青の輝きを放つ力場が発生し遂にトールギスアイゼンリッターを押し退けた。
「そう来るのを待っていた...落ちるがいい!!」
デュークはウェポンセレクタを操作、ドーバーガンを選択した。右肩のラッチにマウントされている折りたたみ式の銃砲"ドーバーガン"が開き銃口をビルドストライクGCに向けた。トールギスアイゼンリッターがそのグリップに手をかけ、狙いを固定した瞬間に引き金を引いた。ズドォオオ!!金色の光の渦がビルドストライクGCへ迫る。
「...気味が悪いぜ、全く...」
黒いコートの青年、ジョーカーはブルームーンの舳先に座って海を眺めていた。気味が悪いと言うのは、船酔いをしたという意味では無い。
「気味が悪いって、自分の事を言ってんの?ようやく自覚できたなら良かった」
レイが近くに立ち、ジョーカーを見下ろした。
「俺はパーフェクトガンプラダイバーだけど、何だ?多々逆ナンか?アンタも好きだなぁ...俺は幼児体形に興味は無いんだよ、言っただろ?」
ジョーカーは面倒そうに呟き、寝転んだ。レイから冷ややかな視線を送られているが気にしなかった。風が吹き、レイのスカートがはためく。
「黒とは、大胆な事で」
ジョーカーはそう独りごちると、すっと立ち上がった。
レイが怪訝な顔で見るが、ジョーカーは肩を竦めこの場を立ち去ろうとした。しかし、レイに首元を引かれ未遂に終わった。
「どこへ行く気?言っとくけど、私がここにいる内はあんたの逃げ場なんてないから」
「だったら来るかい?俺が気味が悪いって言ってた理由、知りたいだろ?」
「興味無い」
レイはジョーカーの誘いをバッサリと切り捨てた。元より険悪な仲だったリタと合流した挙げ句、ジョーカーの監視までしなければならない。レイの機嫌が最悪な状態になるのも無理はない。
「興味無いなら無いでいい、無理矢理は良くないっていうしな?だけどいいのかよ、あの中にν-Typeがいたりなんかしたら」
ジョーカーの言う意味が分からず、レイは眉を顰めた。
「何が言いたいの...」
「それはスリリング過ぎるから聞かなくていいってな!」
ジョーカーが指をパチンと鳴らした瞬間、彼の姿が電子的なエフェクトに包まれ消失した。レイは何が起きたのか分からず呆然と立ち尽くした。
「消えた...!?」
ログアウトも、別エリアへの転移も表示されなかった。文字通り"消えた"のだ。
「ここか...やってんなぁ...」
ジョーカーが立っているのは、大草原のど真ん中だ。視界のはるか先で光の点滅が見え隠れするのは、戦闘の最中であると想像できる。ジョーカーは手を天に掲げ、もう一度指を鳴らした。背後に光の点と線が集まり、翼を持つ黒と赤の機体を形成した。彼と同じ名前を冠する極限の破壊者"JOKER"だ。既にジョーカー本人はコクピットに入って、突入の機会を虎視眈々と狙っている。
(かなり微弱だが、あの中の一つはν-Typeだ...腕の立つ奴とは少しの差しか無いくらいのもんだが、仕事は仕事だ。一瞬で楽にしてやるから安心しろ)
10分後、ジョーカーはフットペダルを踏みレバーを前に倒した。JOKERがフワリと宙に浮いたかと思うと、瞬時に現場に到着した。その刹那、青白い粒子の奔流がJOKER目掛け突き進んできた。
「どこの誰かは知らんが、避けろ!!ただ事では済まん!」
回避を促す通信が入るが、ジョーカーはうるさいなと舌打ちした。JOKERが光の方へ手のひらを向けた。光の激流がJOKERの眼前で裂けて2方向に別れ、虚空へ吸い込まれた。
「なぁるほどな...こっちは性能任せ...んで、俺がやるべきなのはあっちか...大体分かった」
JOKERが振り向いたのはTR-1ハイゼンスレイと交戦中の、ダブルオーザンダイバーだった。