創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
「お前だけは潰させてもらう...!」
BLADETがBアームズを即座に変形、機体そのものもブレイダーモードに切り替える。左肩を覆うバインダーが左右に分かれ、翼を生やした騎士のような出で立ちへと変化した。本来この姿を選ぶ時は、ウェルス自身が心の底からぶつかり合いたいと感じる瞬間のみだが、今回は事情がかなり異なる。相手はあのJOKERだ。下手な隙を作る訳にも行かなかった上に、短期決戦に持ち込まない限りますます不利になるのは目に見えていた。BLADETがBアームズの切っ先を向け、全スラスターをフル稼働させて突進する。一方のJOKERは、ブレイヴエッジをガンモードに変形させて待ち構えていた。否、ただ何の気もなく立っていた。BLADETがBアームズを低く構え、グルリと勢い良く回転しながら振り上げる。JOKERはそれを予期していたかのように飛びあがり、ブレイヴエッジ ガンモードを撃ちながら後退した。だがウェルスもそれが読めていた。左のバインダーを前に向け、GNビームカノンとGNミサイルを同時発射した。しかし、JOKERは右へステップして避けるといきなりBLADETの眼前に迫り、その胴体に鋭い蹴りを差し込んだ。
「受け止めたとは...見えてんのか」
ジョーカーは妙な違和感の正体を探ろうとBLADETを凝視したが、すぐに納得した。JOKERの足先に、何かしらの半斥力を感じた。そして何やら粒子が漏れ出ている。
「これくらいはな!」
ウェルスは一気にレバーを前に倒した。BLADETが左腕ユニットから発しているGNフィールドでJOKERを押し退け、Bアームズを変形。ガトリング砲でJOKERの動きを封じながら猛烈な勢いで急接近した。JOKERは周囲にバリアフィールドを展開、ガトリング砲の雨嵐の様な弾丸を防ぎつつブレイヴエッジの銃口をBLADETの眉間に合わせる。ジョーカーは唇をニヤリと歪ませた。BLADETが大きく踏み込み、Bアームズを再変形させ振り下ろす、その次の瞬間。ウェルスは目を疑う光景に遭遇した。
「銃口が、分裂した...だと!?」
ブレイヴエッジの銃口の周囲に、全く同じ形のホログラムが表れ次々に火を噴いた。ウェルスは思わずレバーを引き、GNフィールドで防ぐ。しかし、それが仇となった。
「お前のやろうとしていることで、仕返しされるってのはどうだ?ν-Type」
JOKERがソードモードに変形させたブレイヴエッジで、BLADETの張るGNフィールドを突き破った。ビーム、実弾双方に対して有効な防御力を持つGNフィールドだが、弱点が存在する。それは、GNフィールドを纏った実体刃による刺突である。"ガンダム00"の劇中にてエクシアが実体剣メインの武装構成をしている事についても、前述の理由で説明されている。それはさておき、ブレイヴエッジにも同様の機能が備わっているとはウェルスは想定していなかった。
「なら... これだ!」
ウェルスはウェポンセレクタを操作した。BLADETのリアアーマーから円筒状のデバイスを、ラッチごと取り外した。そして、JOKERへ向けて投げつける。
(エス...お前の情報は使わせてもらう)
空中に放り投げられたデバイスが縦に割れ、全方位に向けてレーザーを放った。
「マジかよ...ったく、お前も知っていたのか!」
ジョーカーはまたもやバリアフィールドの弱体化対策をされ、舌打ちした。JOKERのバックパックから伸びる翼が分離、左右で一体化する様に配置されシールドの如くレーザーを防いだ。だがこの間にも、BLADETはJOKERの真横に回り込みBアームズ ブレイドモードで薙ぎ払った。運悪くシールド化した翼に阻まれるが、刃との接触点を支点にグルリと回転して背後を取る。
「潰させてもらう!」
「コイツ...ぐっ!?」
BLADETの左掌が輝きを放つ。JOKERのバックパックを鷲掴みにしたまま空中へ連れ去り、高々と掲げ打ち上げようとした。その刹那。先程までシールド化していたJOKERの翼が刃となってBLADETめがけ突き進んできた。
「厄介なッ...クソッ!!」
ウェルスはやむなくBLADETをJOKERから離し、飛んでくる大剣を回避した。それと同時にJOKERはソードモードに変形させたブレイヴエッジを空中へ高々と放り投げ、BLADETに向き直る。両手にはビームサーベルの柄のようなものが握られていた。それを見たウェルスは、当初ビットとサーベルで連撃をしてくるのだと思った。しかし、その考えはいともたやすく改められた。
「悪くない相手みたいだな...稀に見る大物って奴だ。そういう獲物は逃さない主義なもんで、光栄に思えよ?」
ジョーカーの顔に不敵な笑みが浮かぶ。刃となった翼は両手のサーベルの柄にそれぞれドッキング、一対の大剣を成した。紅の刃が更に輝きを強め、さながら魔剣の様相であった。デュランダルジョーカー。JOKERの持ち得る剣では、これを超える力は存在しない。JOKERがググッと身をかがめた瞬間、BLADETの背後に現れ右のデュランダルジョーカーで袈裟に斬りつけた。間一髪ウェルスの反応が間に合い、Bアームズの腹で受け止めバインダーのGNビームカノンで反撃した。JOKERはそれを流麗な動きで避け、左のデュランダルジョーカーを振り上げ昇竜斬りを見舞った。ビームカノンを撃ったバインダーの接続アームが切断され、宙を舞った。
「なッ...!?貴様!!」
ブレイダーモードのBLADETにしか扱えぬ切り札。それは同調稼働しているGNドライヴと全身に配されたGNコンデンサ、それぞれの内部で極限に圧縮されたGN粒子を解放する事で初めて使えるようになる。しかし、どれかが欠けてしまえば使う事ができない。この事を知ってか否か、JOKERはバインダーを切り落とした。
「....ッ!退いて、ウェルス!!」
BLADETに響き渡るレイの声。ウェルスはちらりとヘイルソーサレスの方を見た。GNハイメガランチャーⅡの砲口には青い粒子が集中しており、今にもJOKERに叩きつけようとしているのが伺えた。BLADETがJOKERを蹴押して一度離脱する。そのタイミングでヘイルソーサレスがGNハイメガランチャーⅡのトリガーを引いた。絶対零度の光の渦がJOKERに食らいつき、周囲をまたたく間に凍らせた。轟々と燃え盛る大都市とは正反対の雪が降る光景は、奇妙な美しささえ感じられる。
「横入りするなよ、故障品が...」
しかし、JOKERはそれでも五体満足だった。その上、無傷である。先程のレーザー攻撃で弱体化していたバリアフィールドが、GNハイメガランチャーⅡの着弾の寸前に回復していたのだ。しかし、ジョーカーはヘイルソーサレスに殺意を向けなかった。デュランダルジョーカーを分離、バックパックに接続させると落ちてきたブレイヴエッジをキャッチした。
「だが、これも仕事は仕事なんだ...大物を前に邪魔をされたんじゃ溜まったもんじゃない」
JOKERはゆっくりと地上に降り立ち、ブレイヴエッジの柄をヘイルソーサレスに向けた。レイはぎょっとしてただ柄の先端を凝視している。
「一体何なの...?」
「お前はアレをやるんだろ?俺はそいつに興味がないが、やるってんならな?」
JOKERが顎で示す先、今にも逃げ出そうとするヴェルデバスターがいた。レイはジョーカーの意図する事が分かり、視界が揺らいだ。
「お前がやるかやらないか。どう判断するかはお前の勝手だ。どっちにしろ、2つに1つしかない。後悔するなよ」
「私に人殺しをしろって言いたいの...!?冗談じゃない!」
「お前を壊した張本人の一人なんだろ?」
レイの心臓がバクンと拍動した。なぜジョーカーが、自分と真那らとの間に起きたことを知っているのか。心の奥底で、密かに殺意を抱いていたことまで見抜いていたかのように、止めを刺させようとするのか。
「何がどうなっている...?」
いきなり戦闘を放棄され、ウェルスはジョーカーの意図を測りかねた。だが、ブレイヴエッジをヘイルソーサレスに持たせようとしている様子からして、危険な予感がする。その場から離れようとするヴェルデバスターを見るや、ウェルスは反射的に叫んだ。
「奴から剣を受け取るな!!そいつはただの...!!」
しかし、彼の警告とは裏腹にレイはブレイヴエッジを手にする選択をした。ヘイルソーサレスが柄を握り、ガンモードに変形させる。そのままゆっくりとヴェルデバスターの目の前まで歩き、銃口を向けた。未だレイ自身が動揺しているのか、照準が定まらない。
「ちょっと待って...!わ、私は智香に言われて...逆らえなかったの...!!それに、久遠さんには何もしてなかったじゃない...!」
マナの懇願するような声。レイの殺意が無意識に増していく。中学時代で受けた仕打ちは、今の状況に比べるとそれ以上に耐え難い苦痛そのものだった。仮にマナの言う事が事実であったとしても、傍観しているだけだったのならレイから見れば皆同じでしかない。
「やめて、殺さないで...お願いだから...!」
「私はその言葉をずっとアンタ達に言ってきた...だけど誰も何もしてくれなかった!言われただけ?私に何もしていない?...アンタが一番許せない....許せない...許せない...!!」
レイの脳内には最早引き金を引く以外の選択肢などなかった。ウェルスの制止さえ耳に入らなかった。そして―。
3人は対戦時間終了と同時に交流区画へ転移させられた。レイはブルームーン内の自室のベッド、その隅に縮こまるように座っていた。
(殺して...しまった...)
レイの手には何も握られていないが、今でもその感触だけがまとわりつくかのように残っていた。そもそもダイバーズで敗北したとしても実際に死に至ることは無い。それはレイにも分かっていた。しかし、この重く伸し掛かる感覚だけはどうにも拭い去れるものではない。レイは震えが止まらず、近くに落ちていた毛布を引っ掴み包まる。自分にこんな判断が出来てしまう。ただそれが怖かったのだ。
「レイさん...戻ってきたと言うのに姿見せないです」
アヤカが心配そうにブリッジの入り口を眺める。
「アイツの不安定さが加速していってるよな...こりゃ参ったぞ」
キャプテンも同様に、レイの精神状態を危惧していた。
「あのままだと一度セカンドチームと人員配置を入れ替えにゃならかも知れん」
「どういう事ですか?」
「お前さんはセカンドチームにいた時期がないから分からないか。あそこにいるグラハムって言う男とレイを交換するって算段だ。戦力なら釣り合いは取れるし、作戦進行の都合も悪くはない」
「なら、レイさんがまたここに戻ってくるんですよね?...あれ?でも向こうにはレイさんと仲が悪い人がいたような気がするです」
「問題はそのリリ嬢なんだよ...御曹司に頭痛の種を増やしちまうようで悪いが、ある意味実働隊の俺達がゴタゴタを抱えちまう訳にもいかないのでな」
キャプテンは天井を仰ぎ見ながら帽子をかぶり直した。レイとリタの仲の悪さは、ブルームーン内ではかなり有名だ。互いの性格の不一致なのだろうが、それにしては明らかに互いが敵意剥き出しにしている場面が多いらしく、過去にレイがセカンドチームに配された時ランフォードが鬱を患いそうになったと言う。アヤカはレイの負担を軽く出来ないかと考えを巡らすが、このブルームーン本隊にはJOKER、セカンドチームにはリタと言うストレッサーが存在する時点で詰みも同然であった。思わずため息が出てしまう。
「仕方ない、一度掛け合ってみるか」
キャプテンはシートの肘掛け先端についているタッチパネルを操作した。程なくしてセカンドチームの戦艦"エウクレイデスⅡ"と繋がり、ランフォードの顔が映し出された。
「何かご用で?」
「ああ、頼み事があってだな。レイをそちらに配置してやってくれないか?」
キャプテンの依頼を聞いたランフォードは、悪夢だと言わんばかりに顔を伏せた。
「本気で言っておられるのですか...?私があと一歩で危険な状態になる所だと話したばかりじゃないですか...!」
「だからといって既にやばくなったレイをここに置いとく訳にも行かんだろ?」
「やばくなった、とは?何があったんです?」
「ケイト・ブッシュが言うには、"殺してしまった"とか何とか言いながら部屋に引きこもっていくのを見たとか...JOKERの奴は相も変わらず、だったがな」
「あら、何をお話していますの?」
いきなりリタが割って入り、ランフォードは面食らった。
「リリ嬢、今は大事な話をしているのですから出てこないで頂きたい!」
「私もブルームーンの一員でしてよ?重要な事なら尚更ですわ!」
「いいから引っ込んでください!」
もはや茶番劇とも言うようなやり取りに、蚊帳の外に置かれていたキャプテンは呆れたような顔をし、通信を切断した。アヤカも苦笑いしながらオペレート作業に戻った。
ラプラスはデスサイズヘルコープスの眼前に立ち、ポケットからプラスチック製のケースを出した。中にはカプセル剤が詰められていた。ウィンドウを開き、コップに入った水を呼び出して数粒のカプセル剤と一緒に飲んだ。一瞬ラプラスの両目と左頰に電子的なラインが走り、苦しげな呻き声を上げるがすぐに治まった。
「こんな物に頼らなければ、私はまともにJOKERと戦えない....でもこうしていれば、いつかは怜を救えるんだから...」
デスサイズヘルコープスを見上げるラプラスの髪は、いつしか若干白みを帯びつつあった。今の薬の副作用なのかはラプラスにも分からないが、それを気にする必要も感じなかった。とにかく今はJOKERを葬りレイを救う。それしかないのだから。この薬にも頼らなくて良くなる頃には、デスサイズヘルコープスを完璧にコントロールできるようになる。そう信じて今は耐えていると考えるしかなかった。
「作戦の通達だ、ラプラスさんよ」
レオンが下から声を張り上げるので、ラプラスはデッキから飛び降りた。
「どんな作戦なんですか」
いきなり目の前に飛び降りてきたラプラスに、レオンは驚いて一歩下った。
「何もねぇって分かってても20mそこらから飛び降りるなよ、見る方がビビるだろうが...あぁそうだ、作戦なんだがな。王が言うにはブルームーンとか言う連中のもう一つの艦を狙うんだとさ。聞けばその中にゃJOKER討伐に必要不可欠な物があるらしい。その奪取って事だ」
「私はいつ出撃を?」
「いや、お前は今回はデュークと一緒に出てもらう。外部からの襲撃を防ぐのと、集団戦のお勉強てな」
レオンの言い方が気に食わず、ラプラスは眉をひそめる。確かに過去数度出撃したが、いずれも作戦を逸脱して単騎でJOKERに挑み敗走するなど散々な結果に終わっていた。それを受け、このままでは騎士団そのものの自壊も免れないと見たデュークは、レオンの作戦を俯瞰して集団戦を知る必要があると考えたのだ。
「それは私には必要なのですか?この機体、どう見ても連携を重視していないように見えますが」
「ワンマンでやるにしたって、他の連中が土台を用意してやんないと意味無いだろ?少しでもそれを早める為に、お前が戦況に合わせて、立ち回りをコントロールできなきゃ駄目だろうが!何で俺がこんな事までお前に教えにゃならんのか...ったく」
レオンの指摘は間違っていなかった。ラプラスは言い返せず押し黙った。コツコツ、と足音がする。デュークもこの場にやってきた。
「ラプラス・ライブラ。作戦のことは聞いているな?恐らくだが我々から手出しすることは無い。実戦投入される前に、セオリー程度は頭に叩き込んでおいてくれると助かる」
レオンの時とは打って変わり、ラプラスは素直に返事した。彼女からして、少なくともレオンよりは信頼を置けると思っていた。何しろ彼だけは、ラプラスを否定しない人物だったからだ。
怜はこっそりと意識をサルベージして現実に戻ってきた。だが、その瞳に生気は皆無に等しかった。日付も変わっており、祖母は仕事の為に外出しているようだった。ドレッサーの上に書き置きがされているので、それはすぐに分かった。怜は携帯電話のメールアプリを起動し、祖母宛にメッセージを残しホテルを後にした。
「あ、やっと見つけた!久遠 怜さん...ですよね?」
ホテルのロビーを抜けた矢先、見知らぬ女性に呼び止められ怜は思わず立ち止まった。白か銀に染められた長い髪に、黒いハンティングキャップを被っている。服装や顔の雰囲気からして間違いなく大人だ。
「な、何ですか...?」
「ごめんなさい、自己紹介が遅れました。私、○○市役所から要請を受けた、ケースワーカーの神宮寺 英梨って言います。ようやく会えてよかった...!」
怜はしまった、とその場を立ち去ろうとしたが逆に英梨に手を引かれてしまった。服装そのものは落ち着いてはいたが、髪の色のせいでケースワーカーとは思いも寄らず挙げ句、ここまで行動的だとますます信じられなくなった。英梨に連れられた先は、小洒落たカフェだった。
丁度祖母が用意してくれた服を着ていたので、制服姿の高校生がこの時間から彷徨いていると通報される心配はなかった。そもそも怜の通う高校は、この辺りでは割と名の知れた学校でもあるだけに、そのような事が起こりかねなかった。近くの席に座り、英梨が適当に注文を済ませた。
「色々話は聞いてるから、怜ちゃんから何も言わなくていいからね?」
「え?...は、はい...?」
唐突にちゃん付けで呼ばれ戸惑うが、それ以上に今までとは違うパターンに驚いた。接触してきたケースワーカーはほとんど、寄せられた情報について改めて質問していた。怜としては思い出したくない事でしかないので、それだけでも苦しかった。だがこの神宮寺という女性は、その手段を使わなかった。適度にあしらう事すら不可能になったとも言える。
「そうね...一先ず」
英梨は徐に怜の髪を撫でた。怜は一体何がどうなっているのか分からず硬直した。普段なら払い除けるのだが、彼女の撫で方と優しげな笑みに次第に警戒心が消えていくのを感じた。
「ずっと、大変だったんだね...辛いし、怖かったでしょ?」
「え...!?」
英梨にかけられた言葉。怜はただ英梨を凝視するしかなかった。そのような言葉は、祖母からしか聞いたことがなかった。何も返す言葉が思いつかないほど、思考が止まりかける。泣きたくて仕方が無かった。他にも気づいてくれた人がいたんだ、と。だが、それすらも叶わなくなった自分に悲しさも感じていた。そう。現実の自分は、いつの間にか感情で涙をながす事も満足に出来なくなっていたのだ。仮初でありながら、人を殺した感覚はそれすらも許してくれなかった。ウェイターがココアとコーヒー、苺の乗ったショートケーキを2つ持ってきた。英梨は軽くウェイターに礼を言い、ココアとケーキを怜に勧める。
「怜ちゃん、ケーキ好き?」
「あ、ありがとうございます...いただきます」
何年ぶりかのケーキ。フォークで一口サイズに切り、口に運んだ。柔らかなスポンジケーキと、生クリームの優しい甘さが口いっぱいに広がる。ほんの少しだけ幸せを感じた気がした。
「ここ...割とよく行くお店でね。このショートケーキが一番美味しいって評判なの」
と言いつつ、英梨は鞄からカメラを出して怜を撮った。
「ちょっ...何で撮ったんですか...消してください...!!」
「いやぁ、何しろケーキ食べてる怜ちゃんが可愛くて!」
怜は恥ずかしさのあまり頬が紅潮し、顔を見せぬ様に気をつけながらケーキを食べ進めた。英梨が本当にケースワーカーなのか、心底疑わしくなってきた。
(いい顔してるのを見たら、迷わずシャッターを切れ!だっけ...君の言うとおりにしてみたけど、やっぱり難しいなぁ...)
英梨はカメラのライブラリに保存された怜の写真を見て、力無く笑った。