創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER 作:JNEXEL
怜は帰宅するとすぐに自室のドアの鍵を締めた。力無くどさりとベッドに座り、そのまま横に倒れた。未だに手から離れない悍ましい感触と、ケースワーカーを称する神宮寺 英梨と言う女性からかけられた言葉が、怜の頭の中をぐるぐると回っていた。彼女から貰った名刺の事をふと思い出し、財布から引き抜いた。
「神宮寺 英梨、か...確かに市の人っぽい...」
隅に可愛らしいテディベアのイラストが描かれた、温かみのあるデザインをした名刺だった。裏には直筆でこう書かれていた。
"怜ちゃんはきっと幸せになれる!だから今を抜け出せるように、一緒に頑張ろう!"
かなり達筆だと思ったが、それとは別の感情が怜を包んだ。祖母から感じ取るのと全く同じようで、違う何か。言葉にするには今の怜では難しい物だった。そして、怜を背中から後押しするような、そんな力も感じていた。
「....私は変われるの...?」
誰かに投げかける訳でも、自分に対してでもない問をふと呟く。怜はゆっくり身を起こすと、デスクトップマシンを起動させた。そしてスキャナー"GDS-02"も起動させ、その上にヘイルソーサレスを置いた。天面の液晶では青い光のリングが同心円状に広がっていた。怜は再びベッドに横になり、目を瞑った。
「GAデータ・セット...ゴー」
仮想空間交流広場第4区画。レイがダイブした先の名称である。区画内でもエリアと呼ばれる地域はまばらに存在しており、ここは中世ヨーロッパ風の町並みを再現していた。だが現実に戻ってくる直前は、専用のパイロットスーツ姿だった為このまま町のど真ん中に来てしまっていた。レイは大慌てで建物の影に隠れ、ウィンドウを操作した。忽ちレイの全身を光が覆い、普段着とも言える黒いレザージャケットに赤いミニスカート姿になった。事情があって専用のパイロットスーツを用意しているが、ボディラインがはっきり分かるほど薄手である。所々肌が露出している為に、周囲から変質者として見られるのは御免被りたい話だった。レイはマッチングを開かないまま、しばらくこの町を歩く事にした。どこかであの二人に会ってしまうのではないか、と言う不安を拭い去れないのか表情はどこか暗かった。
(アイツの前で見せたお前の姿は、俺だってハッキリ覚えている。それがお前自身ということもな)
ウェルスから投げ掛けられた言葉を反芻する。違う、あの時は無我夢中だった。私はそこまで強くなれない。そう言い訳しようにも、ウェルスから向けられた信頼を裏切るような気がした。あの場所から離れる少し前に、ようやく一人の仲間として信頼してくれた。だが自分は彼らと道を分かつと決めた時点で、その信頼関係すらもなくなったと思っていた。しかしウェルスは今でも仲間としてみてくれていた。
「何故...アンタはそこまで信じようと思うの...?」
レイは不意に空を見上げた。薄い雲が浮かぶ青空が広がっている。暖かい風がレイの肌を撫でる。再び歩みを進めようと視線を落とした矢先、見覚えのある少女が目に飛び込んできた。黒縁眼鏡をかけた、黒く長い髪。川の手前にある椅子に座って本を読んでいた。あの姿が一番似合うのは、レイの記憶では一人しかいなかった。
「史...佳...?」
レイが恐る恐る声を掛ける。すると、その少女は本から視線を移して少し驚いたような顔をした。
「あ...怜じゃない?...ああ、こっちだとレイなのね?」
やはり史佳だった。レイの目にもミニウィンドウが表示され、彼女のダイバーネームを確認する事ができた。
「フミカ・ブロンテって言うんだ...」
「ええ、そうよ。ブロンテは、ブロンテ姉妹から取っているわ」
ブロンテ姉妹とは、世界文学史にて名を残した作家3姉妹である。長女シャーロットの「ジェーン・エア」、次女エミリの「嵐が丘」、三女アンの「ワイルドフェル・ホールの住人」は特に有名な著作として知られている。読書家である史佳らしいチョイスなのは言うまでも無い。しかしレイは文学は不得意であったので、余りピンと来ていなかったが納得したフリをしながら、隣の椅子に腰掛けた。
「まさかフミカがダイバーズに来るなんて...」
「皆がやってるのに、何か仲間はずれされてる気がしたのよ...寂しがりなのかもね、私」
フミカは力無く笑い、本をカバンにしまった。彼女の白いブラウスとスキニーのGパンは、怜が初めて休日に一緒に出かけたときの格好そのままだった。この格好だと同い年にもかかわらず、やけに大人びて見えた。
「言えば誘ったよ...でもフミカってそういうイメージないから、皆言わなかったんじゃない?」
「そうね...生真面目過ぎるのも考えものかしら。そう言えば、美彩とか奏さんは?一緒じゃないの?」
「真面目なのはいい事だと思うよ。...大体皆バラバラに来るから、会うことの方が珍しいよ...それに、私ここの所学校に来れてなかったし」
レイは拳をぎゅっと握りしめた。その上にそっと、フミカの手が乗せられる。
「無理しなくていいのよ?倒れた時だって気が気じゃなかったんだから...レイが元気な姿で来て欲しい。美彩も奏さんもそう思っているわ」
フミカがじっとレイの目を見つめる。気持ちは嬉しいが、レイとしては少し気まずさを感じた。何しろ同性同士でそこまで見つめられて、違和感を抱かないはずがないのだ。フミカもそれを感じ取ったのかごめんなさい、と苦笑して椅子から立ちこの場を去った。
「フミカも一緒にダイバーズする人が出来たんだ...はぁ、何か色んな事が起きすぎてもう滅茶苦茶ね...」
レイは息を吐きながら背もたれに身を預けた。人の善性と悪性を同時に見せつけられ続け、レイの心への負荷が相応にかかっていた。
フミカは全速力で建物の間を縫って走り、角を曲がったところで姿を変えた。やや白味がかかった髪と白いローブ。ダイバーネームもフミカ・ブロンテからラプラス・ライブラへと変わった。
「スキンデータ、意外と使えるわね...怜は間違いなく"青い月"のメンバーだった。JOKERごとあの連中を排除すれば、怜は私だけの物になる...ふふっ...」
ラプラスはローブのフードの中で恍惚気味な笑みを浮かべ、自らの物となった怜を想像して頬を赤らめた。
時を同じくして、ウェルスも交流広場第4区画を訪れた。噴水のある公園で自身のパートナーとも呼べる少女と待ち合わせていた。
「あ、ウェルス!こっち!」
演奏者を思わせるパンツスーツと、後ろ髪をポニーテールに結んだ少女が陽気な笑みを浮かべて手を振る。ウェルスもすぐに見つけ、スタスタと向かう。
「思ったより早かったね?」
「まぁ、な。エルニア、エスはまだ来ていないのか?」
エルニアは「あぁ」と呟きながら軽く周囲を見渡し、首を横に振った。
「もしかしたらと思ったけど、来てないよ。あれ?て言うかエスも来るの?」
「俺が呼んだからな。上手くまとめた上で俺がハイラックに話すことになっている」
JOKERに関する事はそのまま伝えても問題がないが、レイが絡んだ場合かなりデリケートな問題に豹変してしまう。エルニアにもそれは理解できていたが、それでは何の進展にもならないとは感じていた。無論、ウェルスも同じ考えではあった。
「そう言えばウェルス、ブルームーンって言うチーム?に接触するって本気なの?」
エルニアに問われ、ウェルスは頷いた。これはハイラックの判断だったが、いずれそうなる事は予見できていた。所謂"サツキ事件"の直後に発生したJOKERの出現。実際の所はハイラック達が調査に乗り出したのは事件が表面化してからだった。それよりも前に調査を進めていたブルームーンとは、大きく遅れを取ったことになる。事件の早期解決の為には、更に多くの力を集める必要があると見ていたハイラックは、ウェルスとエルニアとエスを使者として交渉する事にしていた。ハイラックが直接赴かないのは、やはりレイが絡んでいるからである。
時は僅かに遡る。JOKERとの遭遇から帰還したウェルスは、エスから聞いた内容と共にノートパッドと呼ばれるメモ機能を使い、纏めていた。
(あの機体...JOKERからは"アイツ"と同じような物を感じていた。だが"彼女"の様な気配はなく、ただ殺意だけが伝わってきた...か。あのバリアフィールドは、レーザー攻撃を浴びせれば一時的に弱体化させられる。背中のウイングバインダーは、ただの空力制御ユニットじゃない...巨大なソードビットにも、シールドビットにも大剣にもなる...そしてBLADETのGNフィールドを容易く打ち抜いた銃剣...しかも銃の方は銃口を分裂して撃てる。狂っているな...)
戦術を編み出しやすいようにデータを纏めようとすればする程、JOKERの持つ力に馬鹿馬鹿しさを感じてしまう。何かしらの特殊システム等が仕込まれていれば、それを無効化する武装を用意すれば済む話だ。しかし、単純な機体性能とダイバーの腕だった場合有効な手段は、ただそれを超える以外に道が無い。一見後者の方がやりやすい様に感じられるが、実際はそうとは言い切れなかった。ウェルスがブレイダーモードを初めから使って戦っていても、JOKERは未だに余力を残してるように見えたからだ。そもそも、一度の戦闘で実力を把握し切れるという話でもない。
「やぁ、ウェルス。君が何かメモを取るなんて珍しいな?機体のアイデアかな?」
声をかけられ、振り向くとハイラックが立っていた。今しがたやって来たらしく、他の仲間はいないかときょろきょろとしていた。
「...丁度さっき、JOKERと戦った」
ウェルスが静かに告げると、ハイラックは真剣な面持ちに変わった。
「あぁ、それで所感を纏めていた...と。どうだった?」
「どうだったも何も、アイツが何であんな強さを持っているのかさっぱりだ。掠め手なんてない、ただ純粋に単純な武装で戦う。対策のしようのないレベルでな」
ウェルスはノートパッドに記述した内容をコピーして、ハイラックのもとに飛ばした。
「これは...確かに、武器そのものは至極単純だな...俺が最初に戦った時もそんな感じだったが...」
「お前ならどうやる?」
「...まずはあのバリアをどうにかしたいな」
「アレについてはエスが突破法とまでは行かないが、これが使える」
ウェルスはストライクNEXTの戦闘リプレイの特定のシーンだけを切り抜き、ハイラックの手元に送った。ストライクNEXTが左腕のラッチから円筒状のデバイスをJOKER目掛け投げつけ、全方位へ放たれるレーザーでバリアフィールドを一時的に機能不全にしている様子が流れる。ハイラックはよく見ていたな、とエスを内心褒めた。
「確かに、これは使えるね...あの時に見たんだろう」
「それを俺はあの戦いで実証した。エスはコイツをスパークレンスなんて名付けてた」
それはそうと、とウェルスはノートパッドを保存して消しハイラックに向き直った。
「ハイラック...いつまで逃げているつもりなんだ?」
ウェルスの言わんとしている事を、ハイラックは痛いほど理解していた。ずっと忘れていれば良かったことだが、いずれ向き合わなければならない時が来る。分かっていたはずの事だった。目を伏せるハイラックを、ウェルスは何も言わず眺める。ちゃんと彼女と向き合う。力を貸してくれ、という言葉を待っていた。しかし、ハイラックは自嘲気味に笑って天を仰ぎ見た。
「そうだね...そういう所があるから、まだ大人になれないな...」
「ごめん、遅れた...!」
エスが遅れてやって来た。どうやらやや遠い所に転移したらしく、走ってやって来たのか息が荒かった。
「大丈夫だけど...そんなに慌てなくてよかったんじゃない?ねぇ、ウェルス?」
エルニアがくすりと笑い、ウィンドウからハンカチを呼び出してエスに手渡した。
「間違いない。それでまともに思考できないなんて言われたらどうにも出来ないからな」
ウェルスの指摘は尤もだったので、エスは苦笑した。
「そりゃあ、そうだ...本当、ごめん」
「まぁ、とにかくだ...JOKERへの対策、考えるぞ」
「俺を倒す為の話し合いか?随分とお気楽な事で?」
エスとも違う声が聞こえ、三人はぎょっとして振り返った。明るいブラウンの髪に、黒いロングコート、赤いシャツ、黒いパンツ。全くの見覚えのない男だったが、彼の発言をハッキリ聞き取ったエスはその正体がすぐに分かった。
「...JOKER...ッ!」
「初めて対面のはずだけど分かんだな。なかなか面白いじゃないか」
JOKERは近場の石柱に座り、話し合いの続きを促した。ウェルスは怪訝そうな顔でその行為を凝視した。
「お前がJOKER...まさか本人のお出ましとはな」
「俺だって人間だ。あんな中に閉じ込められたままじゃ窒息死しちまう。そっちのかわい子ちゃん含め3人とも獲物とは、ツイてるな俺。ま、殺るときゃ決めてるんでね。命拾いしたなお前ら。じゃあなー...」
JOKERは気怠げに立ち上がり、手をヒラヒラと振りながら立ち去った。エルニアはウェルスにこっそり耳打ちする。
「ねぇ、あの人がJOKER?...顔だけって感じね。何か嫌な感じ」
「容姿のことは知らん。だが...何故ここに...?場所を移そう、今はここにいる人数は少ないが増えてきたら後々面倒だ」
3人は大急ぎで別の交流区画へ転移した。
「取材の申し入れが入ったみたいですっ」
ブルームーン。アヤカが艦のステータスチェックをしている時に、いきなりメッセージを受信した。内容からするに、何処かの雑誌の記者のようだった。ブルームーンの存在を知っているという事は、ゲーム雑誌と見て間違いないだろう。アヤカはそれをキャプテンに報告し、当該メッセージをコピーして送った。
「あー...無視しておくか。関わるだけ面倒だからな」
「了解です!でも取材申し込まれるくらいだったなんて気づかなかったです」
「あ?殆どがレイの奴に宛てられてんだ。奴さん最速でランクAまで上り詰めて、あと一歩でSまで行こうとしてんだからなぁ」
アヤカがレイに憧れた理由と同じだった。改めてレイの凄さを知ったアヤカは、ますます彼女のために頑張りたいと意気込むが 、当人たるレイは間もなくエウクレイデスⅡへ配置される。折角の意気込みも無為になりそうな気がして、がっくりと肩を落とした。突然、ビデオチャットの申請メッセージがキャプテンに直接送られてきた。送り主は、先程のメッセージと同じだった。まさか、消された事を通知する何かを仕組んでいたのかと、キャプテンは度肝を抜かれる思いをした。だが、こちらに関わらないよう最終注意をするにはちょうどいい機会でもあった。応答のアイコンをタップすると、銀髪紅眼のハンティングキャップを被った女性がメインモニターに映し出された。
「あ、応答していただきありがとうございます。私はROMANESQUEの記者をしていますJ.E.と申します。」
ROMANESQUE"ロマネスク"とは、ゲームのみならず様々な情報を取り扱う雑誌である。それと同時に、J.E.が勤めていると言う編集社の名前でもある。
「やはりアンタか...移籍してからも粘着かい?」
キャプテンはJ.E.とは過去に面識があり、何度もレイに関して取材をしようと接触してきた事があった。行動力なのか否かは知る所ではないが、キャプテンはうんざりしていた。
「今回はそういう目的が主ではありません。JOKER事件についてなのですが...」
「あんたらまでアレを追ってるってのか」
「ええ。私達も記者なものですから、追うのは必然です。その過程でJOKERその者について分かったことがあるんです」
「JOKERその者って、何だそりゃ?」
「ぜひお話したいのですが、通信状態だと傍受されかねませんね?」
J.E.がニコリと笑みを浮かべる。キャプテンは溜息をつき、アヤカにカタパルトのハッチを開けさせた。
「4番ハッチオープンです。そこからどうぞです!」
「ありがとうね...タカイワ、行きましょ」
J.E.はレバーをゆっくり右に傾けた。アストレイアウトフレーム。ザフトが開発したMSを素体にとあるジャンク屋が作業用に仕様変更した機体だ。ザフト製である為にアストレイ系には属していないものの、戦闘用では無いからかそう銘打たれている。ビームライフル型のカメラ「ガンカメラ」が特徴で、戦場などでの撮影には非常に有効に機能する代物だ。それらを保持するサブアームユニットを挟むように、エールストライカーを装備していた。ガンカメラを右手の他に予備を3つ程サブアームで懸架しており、攻撃力を持つ武装は増設された頭部バルカンと自衛に使えるように強化されたビームサインのみで、まさに取材用としての側面が強く打ち出されている。その後からついてくるのが、タカイワと言う部下の乗るEx-Sガンダムだった。インコムを改造して遠隔操作可能なカメラとして機能する以外は、そのままにしてある。
「あら?これ以上乗れないみたいよ、タカイワ?」
アウトフレームをブルームーン内部に進ませた瞬間、Ex-Sガンダムの様な大規模なMSを格納できるほどの余裕が無いことに気づいた。
「えーっ!?そりゃ無いっすよ神宮寺さん!?」
頭にバンダナを巻いた黄色いシャツの男、タカイワが悲鳴を上げる。
「本名はご法度でしょ。取り敢えずSガンダムにしたら入れるんじゃない?」
「すいません...やって見ます」
Ex-Sガンダムの両肩についたプロペラントタンクと、バックパックが消える。その代わりに一回り小さなバックパックが取り付けられ、Ex-SはSガンダムとなった。この姿ならばギリギリブルームーンのデッキの中に収まり切れる。
「こうして直接お会いするのは初めてでしたよね?キャプテン」
J.E.とタカイワがブリッジに入り、キャプテンに軽く礼をした。キャプテンも同じく会釈した。
「会いたくなんて無かったよ...で、JOKERそのものがどうとかって何だ?」
「早速ですね...端的に言えば、JOKERというのは決して人間にはなれません。ああ、語弊がありました...つまり、NPCと言う事です」
余りにも想定外な事実に、キャプテンもアヤカも愕然とした。だとすればあそこまで傍若無人に動く彼がNPCと言うことになる。俄に信じられない話だった。J.E.はブリッジのメインモニタを借りて説明を続ける。
「そもそもJOKERとは何なのか。私達で調べた所、ダイバーズの規約違反を常習的に行うダイバーを機体ごとアカウントを始末する役割なのだそうです。と言うか、規約そのものもネチケット以外に関してはほぼ不透明ですから何とも言えませんが...規約違反をする相手という事は常識が通用しない。つまり、それに対抗して確実に倒せるだけの力が付与されている見て然るべきでしょう」
「JOKERが馬鹿みたいに強いと言うには、そう説明が付くのか...確かに納得はできるな」
「ですが、これを私達人間が操ろうとしてもその性能から来る負荷は相当なもののはず。だから人格の無いNPCが割り当てられている...のですが、今回は事情がかなり異なるようですね。タカイワ?」
J.E.は説明の続きをタカイワに任せた。
「ではその続きを私から。えー...ここ最近特定のダイバーを狙い攻撃をかけるのは、JOKERの規約違反判定基準とは全くの無関係の線が濃厚です。しかも、他に違反ダイバーがいるにも関わらず、それは放置している。NPCならばルーチンが存在しています。それから外れる事などあり得ないですが、これを可能にしているとすれば今回事件を引き起こしているJOKERは...間違いなく、人間のガンプラダイバーです」
タカイワの説明に合わせ、J.E.が画面を切り替える。正常処理と、今回のケースをそれぞれ対比した図が表示された。正常処理だと規約違反ダイバーのみ選別して攻撃するようになっており、一定のパターンがある事がわかる。しかし今回は無軌道な上に規約違反ですらないが、特定のダイバーを狙っている。例外処理はプログラム可能なものだが、常にそれがなされているのは異常としか言えなかった。
「機械ならルーチンは基本外れられないからな...だとすりゃ人間だと考えるのが妥当ってか」
「我々はそう考えています」
「今回の異常性と特殊性を考慮すれば、これらの情報は重大な物だとご理解いただけるはずです。...で、ここからが肝心なのですが」
J.E.の言わんとしている事がわかったキャプテンは、呆れ半分の面持ちだった。
「とは言ってもだな、それはアイツ次第だ。俺がどうこう言おうたって何にもならない」
「え?まぁ、レイさんへの取材も考えてましたが、今回の主たる目的はそちらでは...」
J.E.がきょとんとした顔をしたので、キャプテンは思わず、えぇ?と間の抜けた声で聞き返した。
「私達ROMANESQUEとしても、今回のJOKER事件を危険視しています。是非とも、情報面で我々も協力させて頂きたいのです」
「困ったなあ...いやはや、何てこった...」
キャプテンは帽子をかぶり直した。まさかこうなるとは、予想もしていない事だった。