※この作品はR-18です。

創造戦士ガンプラダイバーズ Side:JOKER   作:JNEXEL

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episode 21 御所会談

ある一台の車が芝生の上に停まる。空模様は雨上がりの直後で青空が次第に広がりつつあった。背広を着た運転手が降りて、後部座席のドアを開けた。すると、爽やかでありながら気品を漂わせた青年が中から出てきた。彼もまたスーツを着ているが、気品の高さをより一層際立たせている。運転手がSPにエスコートを依頼しようと携帯電話を取り出すが、青年はそれは不要だと制した。

「元より彼とは二人だけで会談するつもりだったのですから。終わるまでのんびりドライブでも?」

「は...。でしたら、終わり次第連絡をば」

「分かっています。それでは」

「いってらっしゃいませ、翼殿」

黒いスポーツカーが庭園を去っていくのを見送り、室町時代を思わせる邸宅の中へ足を踏み入れた。室町時代の文化といえば、大きく分けて二つの文化が栄えたことは知っての通りだろう。金閣に代表される、豪華絢爛な建物や調度品が有名な北山文化と、質素でありながら調和の取れた趣きある東山文化だ。この邸宅は後者に近い雰囲気を持っていた。そもそもこの建物自体、翼の一族が所有するとされる別荘であった。しかし、翼自身がそれを知ったのはおよそ1年前だった。

(ここ、か...)

一番西側の部屋。ここが会談の舞台となる一室である。翼は襖に指をかけて開けた。畳間と座布団に座卓。丸い障子窓とガラス窓は半分開けられており、美しい日本庭園がよく見えた。そして、窓の近くに翼と同い年くらいの青年が立っていた。染めているのだろうか、髪が明るい緑色を呈している。顔立ちからして日本人からやや離れているように見えた。

「久しぶりだね。百崎 翼君。こうして直接会うのは1年ぶりかな?」

緑髪の青年が翼に微笑みかけながら真向かいに座った。翼も同じタイミングで座り、ポケットから封筒を座卓の上に置いた。

「前に聞かされたけど、来たのは初めてだよ。にしても、いかにも京都って感じがしていい。気に入りそうだ。それと、これは君に頼まれた物だ。これで満足か?徹」

「まさか見つけてきてくれるとはね...いやはや、君ら"ZeuS"にとっても厄介ものでしかないのに」

緑髪の青年、徹は翼から受け取った封筒の中身を出した。2枚の紙と、1枚のSDカードが入っていた。紙は経歴書のような書式で、片方がダイバーズのプレイヤー、即ちガンプラダイバーの情報が記されている。そしてもう片方は現実でのデータとなっていた。しかし、双方と全くの別人だった。

「しかしここまでのデータをよくまとめられたものだよ?」

「私の権限でいくらでも探させることはできる。その程度は容易いけど、一歩間違えればどうなっていたことか」

翼がため息混じりに返し、庭園のほうに目を遣る。

「あの組織のことも意外に目障りだと思ったので、これは必要だったんだ。君の計画にも少しは響くだろうし」

徹の「計画」というワードに翼は眉をピクリと動かした。翼自身が密かに進めている計画の存在は、確かに徹にも少し話していた。しかし、かなり大雑把に要約して伝えたに過ぎず、核心には触れる事がないようにしていたはずだった。今しがた徹に渡した書類に記された人物も、翼としてもこの先監視が必要になると見ていた。徹は翼の表情の機微を感じ取ったのか、にっこりと笑った。

「アレと同格くらいに、ブルームーンは危険なのさ。何せ彼らもまた、JOKERを倒そうとしているんだからね」

「JOKERを...だって?おかしいな。あれは実装していなかったはずでは」

JOKERについては、翼もかつて聞いたことがあった。だがそれは正式な実装がなされぬまま立ち消えになったと認識していた。その証拠に、2年前からその存在を示す事象が発生しなかった。しかし、徹はあたかもJOKERが"実在する"と言う口ぶりで話している。

「規約違反したプレイヤーを、放って置く訳にも行かないだろう?だから僕が主導して、JOKERを実装したんだ。確か正式リリース直後だったかな、一度アップデートを入れたはずだよ」

襖の開く音がして、翼はちらりと横目で見た。ややくたびれた白衣を着た男が入って来るなりすぐ近くにどかりと座った。徹夜していたのか、目の下にはうっすらと隈が浮かび上がっている。

「これは、門松さん...今はあの学校の教授でしたね?」

徹が座卓の中心に置いてある皿を門松の前に差し出したが、彼は手を振って止めた。

「悪いけど俺は甘いもん苦手なんだよなぁ...あぁそうそう、翼君。就任も近いんだって?」

門松がわざとらしく拍手をした。翼は力なく笑い、「ありがとうございます」とだけ言った。翼に関わる人間はそのほとんどが、彼に対して目上と認識しているのだが門松は違っていた。まるで教師と生徒のような関係性に近い。

「そんで、俺を呼んだってのは何だって言うんだ?」

「教授が以前実験したって言う、あの機体。実はこちらでもう1機保存していましてね」

あの機体、と聞いた瞬間門松は徹を凝視した。まさか、悪用されないように隠匿していたはずのものを徹が知っていようとは。門松は衝動的に座卓を叩いた。

「どうしてそれを...いや、そんなことはどうでもいい。そいつをどうする気だ?」

「話は最後まで聞いてください、あなたがそんな事では上手く行く物も駄目になってしまう」

徹が笑みを崩さずにいる。傍から見ている翼は、彼が何をしようとしているのか何となく見当がついた。そして、徹は窓辺に置いていたアタッシュケースを座卓に置きロックを解除した。中にはペイルライダーに酷似したグレーのガンプラが収められていた。丁寧に緩衝材もつめられているお陰で目立つ傷もない。門松が奪い取ろうとしたのと同じくして、徹はアタッシュケースを引っ込めた。

「いったいどういう気を起こしているんだ...あの研究をどうしようってんだ...!?」

焦りにまみれる門松とは対照的に、徹の表情は涼しげだった。

「僕からお願いするのは一つだけです。これを"騎士団"に提供してやってください。もしこの場で拒んだり、背信するようなら...僕はあなたの事を娘さんに話さなければならなくなりますよ」

「本気で言っているのか!?」

しかし門松は言葉を続けられなかった。だがここで行動を起こせば何をされるか分かったものではない。

「俺はあの実験が本当に仮想世界における、人間の進化の実証になると思っていた...なのに人一人の人生を破滅させてしまったんだぞ!!あの後調べてみれば...どっかの馬鹿がE57のOSを外部から書き換えやがったなんてな...これもアンタの仕業なんだろ...!」

「そんな指示は、僕はしていないけどね。当時の僕の立場を思い出してみてください。そんな事できるとお思いですか?」

「翼君と知り合いならそんな事だって簡単にできてしまえる!」

「門松教授」

翼がその場を制し、刹那の静寂が訪れる。

「私は徹からそのような話を持ちかけられた記憶はありません。...それと、今は苦しくとも呑んでやってください。これもダイバーズに新しい時代を迎えさせるためです。どうか、今だけでもお力を」

「君まで俺に人生を奪えと言うのか?」

「多少の犠牲は止むを得ません」

門松は歯がゆさで舌打ちし、引っつかむようにアタッシュケースを持ち出した。翼も徹もそれをただ静かに見送った。

「"騎士団"と言うのが何なのか気にもなるが...あれは本当に意味がある代物なのか?」

「君の望む世界を作るために、欠かせないものだと僕は認識しているよ。でなければ、ここまで僕が動く事は無かったからね。それはそうと、僕からもプレゼントを渡しておかないとね」

徹は一度電話をかけ、誰かを呼び出した。間もなくしてやってきたのは、割烹着を着た若女将のような姿の女だった。差し詰めこの屋敷で働いている侍女なのだろう。もしくは徹の部下のいずれかだが、翼にとっては気にする必要はなかった。侍女がブリーフケースとジュラルミンケースを座卓の上に並べた。

「これは...?」

翼が怪訝そうな目でケースを眺めながら、緑茶を啜る。徹も同じく緑茶を口にすると、ケースの鍵を開錠した。ジュラルミンケースの中は黒い緩衝材が敷き詰められており、紙を一枚めくると1体のガンプラが姿を見せた。翼には操縦するためのガンプラ、と言うよりはマネキンのような扱いに見えた。

「P.E.Dユニット。 Psycho Enhancer Drive。教授はあのデータを持っているのは自分だけだと思っているみたいだけど、それは迂闊だったね」

徹はジュラルミンケースを回して翼から見て正位置にして差し出した。ガンダムの随所に散りばめられた増加装甲じみたパーツだが、マット加工されたシルバーの部材に青いクリアパーツを被せているだけに見える。だが翼は何かに気づいたのかじっと胸部パーツを凝視した。

「電子回路のディテール...純粋に凄いとは思うが、どう機能する?」

「そいつがパイロットの能力を極限まで増幅させる。その回路素子にはあの石も使っているんだ。石が増幅させた感応波を、回路が更に倍加させる。そうするとどうなると思う?」

徹がほほ笑むのを見た翼は、その意味をすぐに理解した。

 

(...1つ...2つ...次....次....)

スペースコロニー外壁周辺に、次々と炎の華が咲く。ビギナ・ギナやSガンダムの残骸は氷漬けにされていた。ガンダムエクシアが小惑星の間を縫いつつ、あるMSの背後を取った。GNソードを展開、袈裟斬りを見舞う。しかし、標的のMSは僅かに体を前に倒し宙返りしながら手にした大型のランチャーを放った。エクシアがそれをさせまいとGNソードを前に向け突進する。ランチャーから飛び出した青白い閃光がGNソードの切っ先と衝突、冷気が瞬く間に広がる。エクシアは驚くあまり後退するが、GNソードの刀身は凍りついたのか白い靄を発していた。一矢報いようと考えてか、GNビームサーベルをリアアーマーから引き抜き、今度は標的の真下を取って昇竜斬りを仕掛けた。ところがその場にはターゲットの姿は無く、ビームサーベルの刀身は空しく空を切った。その刹那、エクシアのGNドライヴのコーン型スラスターが機能不全に陥った。内部でGN粒子が一気に溜まり、臨界寸前になるまで1秒とかからなかった。そして気がついたときにはエクシアの胴体が蜂の巣となっていた。爆発の煙から姿を見せたMS―"ガデッサ・ヘイルソーサレス"は近くに獲物がいないかと、目を光らせる。

「これで全部終わりなはずない...全部倒し切るまではッ...!」

レイの目は絶えずメインモニターとレーダーを繰り返し見ている。全身が汗だくな上に両腕は過負荷の影響で震えていた。だがレイは気にも留めず戦いだけに集中し続ける。なぜ自分がここまで過酷な戦いをしているのかはっきりしない。戦っていれば分かるかもしれない。それ以上は考えても意味が無いとさえ思えてきた。レーダーからアラートが鳴る。レイはすぐさまレバーを動かし、ヘイルソーサレスを旋回させた。敵を真正面から見据えた瞬間、レイは凍りついた。赤と黒の翼を持つMSは、見紛うはずが無い。―JOKERだった。

「こんな時に出てきて...邪魔するな!」

ヘイルソーサレスは左腕のGNバルカンを撃ちながら距離を取っていくが、JOKERがそれよりも速く移動して接近戦の間合いに踏み込んだ。

「何がどうなってるが知らないが、ν-Typeってんなら潰す。残念だったな」

JOKERのブレイヴエッジが振り下ろされる。それをヘイルソーサレスがGNビームサーベルを発して弾き返し、GNハイメガランチャーを接射した。周囲を冷気を伴った白煙が覆い、視界が悪くなった。しかしJOKERには関係ないのか、正確にヘイルソーサレスの位置を把握して斬りつける。レイが上手く反応しても、ヘイルソーサレス左肩のGNリフレクタービットで防ぐのが精一杯だった。

「散々暴れ回っといてそれかよ...俺はもう決めた。お前を消すってな」

ジョーカーが死刑宣告をするかのように言い放つ。彼の目には何の迷いも躊躇いも無く、ただ敵だから倒す。その一点のみに集中する。JOKERが背中のウイングを片方だけ切り離し、左手に持った柄と接続し大剣"デュランダルジョーカー"を成した。そのままJOKERは黒い風となりヘイルソーサレスの左肩を切断した。

「しまっ...!?うぁああ!!」

間髪いれずJOKERの鋭い蹴りがヘイルソーサレスの胸部に突き刺さる。レイは衝撃に耐え切れず後頭部をシートにぶつけ、その反動でコンソールモニタで胸を強打した。口から僅かに血が流れる。もう少し強い衝撃が来ていれば、強制的に交流広場に戻されてしまうだろう。今こうして戦いを続行できるのは奇跡と思えた。だが、現実は常に非情だ。JOKERがブレイヴエッジを天高く放り投げ、残ったもう片方の翼も分離させ一対の大剣を手にした。

「それじゃあ、さようならだ!」

迫りくるGNクローを突き刺し爆砕すると、5体もの分身体を作りヘイルソーサレスを取り囲んだ。レイの思考が止まる。どう足掻こうが敗北するのは目に見えていた。JOKERは容赦なくバーニアを噴かせ、一気に詰め寄りデュランダルジョーカーをあらゆる方向から振るった。その刹那。ヘイルソーサレスの装甲の隙間から青白い光が漏れ出、広範囲にわたって冷気を発した。JOKERの分身体が氷結して砕け散った。ジョーカーは一瞬だが理解が追い付かず、コンソールのパネルをタッチした。ヘイルソーサレスからはν-Typeの反応が消失している。その代わりに何かの文言が表示されたが、どう言う訳かノイズが走っており解読すらままならない。

「どうなってる...!?...アイツ、もう動かなくなったのか?...何なんだ、一体...」

デュランダルジョーカーの刃が凍り付き始め、急いでバックパックにマウントした。だがヘイルソーサレスは身動き一つせず力なく漂っていた。機体のあらゆる場所が氷漬けになり、外部から力を加えない限り対処ができない有様だった。ジョーカーは呆れ半分に溜息をつき、エウクレイデスⅡに通信を送った。普段なら一撃で仕留められるこのチャンスを逃すはずもないが、何故かこの時はそのような考えが浮かばなかった。

 

「ブルームーン?何ですかそれ?」

交流広場第3区画。軽い運動がてら対戦に出ていたエスは、偶然ハイラックと同じタイミングで帰還した。今後の行動がある程度定まったとハイラックが言うので聞いてみたところ、エスにとっては全く知らない名前のチームと合流するという話だった。

「ダイバーズの黎明期から存在するチームでね...彼らは俺達と同じで、JOKERを追っているようなんだ。しかも俺たちや他のダイバーが知るよりも前からね」

「へぇ...で、そのブルームーンってのと合流してどうするんです?」

「当然、JOKER討伐だ。そのついでで、何かしらのネットワークができればとは思っている」

ハイラックの顔はどこか暗く見えた。話だけ聞けば何の不安もないと思うところだが、今の彼を見るに何かあったのではと疑ってしまう。ここ最近、エスはハイラックをはじめメイポール・ダンスの面々と会う機会がめっきり減っているような気がした。少し前はウェルスと頻繁に出撃してランクアップ競争をする事もあった。蚊帳の外に置かれているのではと若干の不満もあるが、問うか否か決めあぐねていた。そんなエスだが、辛気臭いままと言うのも良くない気がしたのか背伸びをした。その折、二人の前に白いローブを着た少女が現れた。エスは彼女の顔と雰囲気に背筋が凍り付いた。

「久しぶりね。エス...でいいのよね?この間はごめんなさいね。急ぎだったものだから」

「ラプ...ラス...!?」

エスが無意識に一歩後ずさる。異様な雰囲気に包まれ、ハイラックも何とはなしに警戒し始めた。初めて会ったとは言え、彼女から生気を感じなかった。ラプラスは静かにハイラックとエスの間を通り抜けながら、ハイラックを一瞬だけ睨んだ。

「あなたが怜を傷つけた...絶対に許さないわ。怜を傷つける物は...私が消す」

明確な殺意を乗せた言葉は、ハイラックの精神に鋭く深く突き刺さる。ハイラックが振り向くときにはラプラスの姿は消えていた。拳を震わせ遠くを見つめるハイラック。エスはラプラスの発言から更なる疑問を持った。

(レイ...って言ってなかったか。確かあの青い髪の...ハイラックさんとあの人に何が...?)

 

「これで僕の計画が一段階進んだ。百崎 翼...やはり君にはとんでもない人間達を引き寄せる力があるようだね。これからも利用させてもらうよ」

会談が終わり、翼が屋敷を出てから、すぐに徹はSDカードのデータをノートマシンにコピーした。新しいシステムを構築するための関係図やシーケンス図、根幹となるプログラム用のソースコードの記述、システムの運用マニュアルなどほぼ全て揃った状態と言っても差し支えないものだった。翼の進める計画は、徹自身のそれを動かすために必要な舞台に過ぎない。

「とは言っても、それまでに用意すべきものは沢山ある。それに君の計画がどういう形であれ結果を残さなくては意味がない。時期にこの世界も新しい時代を迎えるだろう。いや、僕が開くんだ...その為の"騎士団"だからね」

ノートマシンのモニタには、"BUILD SYSTEM"と書かれていた。

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